は白い寝間着で政宗を待っていた。
スッと襖が開いた。
「政宗さん…待ちくたびれたんですけど…」
政宗は無言で、布団の上に居るの隣に座った。
「政宗さん、用ってなんですか?私に出来る事ですか?」
「あぁ、期待してるぜ」
「本当?嬉しいな!!一体何…」
突然政宗が動いた。
は気がつくと政宗の肩越しに天井を見上げていた。
「え…?」
押し倒されたと気がつくのに時間がかかった。
「…喰わせろよ」
「っ!!」
耳元で囁かれて、は体を震わせた。
押さえ付けられていて動けない。
「やめてくださいっ…」
「あ?違うだろ?今お前がすべきは俺を止める事じゃない…覚悟決める事だぜ…?」
「そ、そんなのやだ…!!」
「ha!!往生際の悪い奴だな…力じゃかなわねぇって知ってんだろ?」
「や、やだよ…政宗さん…怖いよ…」
徐々に政宗の息が荒くなってきた。
本気なのかと、は信じられない気持ちだった。
「!!」
頬を思い切り舐められた。
「〜〜〜!!」
次は鼻筋。
「うっ…」
唇も何度も舐められた。
キスじゃないのはショックだった。
「…政宗さん…!!」
体だけ…?
せめて
せめて好きって言ってくれたら
好きだから欲しいって言ってくれたら
ちょっとは楽になるのに…
「あ…」
首筋にも舌が這わせられた。
耳には荒々しい息遣いが途絶える事無く聞こえて、は顔が真っ青になった。
を気遣うこともなく、政宗はただを舐め回した。
「やだよ…!!」
の目からは涙が流れていた。
「こんなのやだ…」
の頭には嫌悪感しか無かった。
政宗の事が嫌いになりたくなかった。
「離して!!どいて!!」
必死に抵抗をした。
「……!!」
小十郎の声が聞こえた。
「助けて…助けて小十郎さん…!!」
は必死で手を伸ばした。
体がいきなり揺さぶられた。
目の前がいきなり明るくなった。
「すまない、!!」
「……」
ハッハッハッハッハッハッハッハッ
小十郎が申し訳ない顔でを覗き込んでいた。
「はまだ寝てたが、換気がしたくて…障子を開けたら犬が入ってしまったらしく…」
「…え―…」
はゆっくり起き上がった。
目の前には、柴犬を抱えた小十郎がいた。
「全く…どこから入ったんだか…。あぁ、凄い舐められてたぞ?大丈夫か?べたべただ…」
「……」
「風呂に入ると良い。準備させるからな。…どうした??」
「………」
は顔が真っ赤になった。
「欲求不満か私はちくしょ―!!!!!」
「!?」
は恥ずかしくてとりあえず風呂場へ駆け込んだ。
は顔と髪をひたすら洗った。
「うぅぅ…馬鹿だよ私馬鹿だよもうやだ…」
何であんな夢を見たんだ…
政宗さんに申し訳ない…
「修行したほうがいいかも…滝に打たれるとか…あうう…」
夢なのにはっきり覚えてしまってるのがこれまた嫌だ。
「おい!!!!」
「!!」
脱衣所から政宗の声がした。
「な、何!?」
「全裸か―?俺入ってもいいか―?」
「っっ…!!!」
全裸じゃないけどさ…ちゃんと隠してるけどさっ…
「待ってください今私出ますから…!!」
「なんでだよ?まだ入ったばかりだろ?」
ガラララと戸が開いた。
「どっ…どうしました…?」
「朝から散々だったなぁ。たまには俺が髪洗ってやるよ」
「えぇ…マジですか?」
「んだよその嫌そうな顔は」
政宗がタオル一枚でペタペタ近付いてきた。
はあれはただの夢だと自分に言い聞かせた。
「いや、あの、自分でもう洗ったんで…」
「何言ってんだ、足りねぇぞ。ほらここ」
政宗がの濡れた髪に触れた。
「っ…!!」
「犬の毛、まだ付いてるじゃねえか」
「あ、すいません…!!」
……私意識しすぎだから…!!
「よし、俺が気持ち良くしてやるよ」
「いいですいいです雑でいいですから!!!!」
「な、何慌ててんだよ?」
が政宗から離れた。
「…?」
「あっ…ご、ごめんなさい…」
「いや…どうした?」
「いえ…その…何でもなくて…」
「嘘つくんじゃねぇよ…」
言えないよ…
勝手な夢みて、勝手にこんな態度…
「ごめんなさい…なんでもないんです…!!」
政宗がを真っ直ぐ見つめたが、は下を向いてしまった。
「……言えねえ事かよ?」
「そうじゃなくて…」
「ああそうかよ」
「え…」
政宗がすたすたと戸に向かってしまった。
「政宗さ…」
戸を開けると、何も言わずに出て行ってしまった。
「うそ〜…」
は頭を抱えた。
急いで風呂から上がり、政宗の部屋に向かった。
政宗は居なかった。
「え…?どこ…?」
は城の中を探し回った。
とにかく手当たり次第襖を開けていると、小十郎の部屋に来た。
「、どうした?さっぱりしたか?」
「小十郎さん…政宗さんは…?」
「散歩に出かけたぞ」
「外…?」
は走って外に出た。
門の近くまで来ると、木陰に人の姿が見えた。
長い足を伸ばして座り込んでいる。
はゆっくり近付いた。
じゃり…
「…あ」
「………」
政宗は反応しなかったが
「ワン!!」
「え」
「あ、おい!!stop…!!」
政宗がいるところから、朝の犬がに向かって走ってきた。
一緒に居たようだった。
「え―ちょ、これ…」
「ワウ!!」
「ぎゃあああ!!」
犬はに飛び付いた。
思いの外勢いが良くて、は倒れた。
さらに顔を舐められた。
「うわわわわ!!!」
「だ、大丈夫か!?」
政宗が駆け寄り、犬を押さえてくれた。
「おい、あっちへ行け、もう城に来ちゃだめだ」
「ワン」
政宗が門を指差し、犬のお尻を叩いた。
「…いつまで倒れてんだ?」
「……」
倒れたまま動かなかった。
「…朝もあの犬に舐められた」
「らしいな」
「けど私は夢の中でした」
「図太い性格だな」
全くだ…
「どんな夢見たと思う…?」
「知るかよ。お前の思考回路なんざ」
「…政宗さんに舐められる夢なんて見たよもう私馬鹿…」
政宗の顔を見たくなくて、顔を手で覆った。
政宗がの横に座り込んだ。
もうどうにでもなってくれ…
「へぇ〜そりゃ初耳」
「うっさい…」
「そんであの態度か」
「…そうだよ」
「ふざけんなよ」
「…ごめんなさい…」
政宗がに覆いかぶさった。
手を退けられて
「ばーか」
犬に舐められなかった額を、少しだけ政宗が舐めた。
「犬なんかと一緒にされちゃ困るんだが?」
「…ちょっと」
「俺のが何倍も上手いぜ?」
「…あのねぇ…」
はみるみる顔が赤くなった。
「…犬に嫉妬するくらいの馬鹿を俺がすればfairになるか?」
「え…?」
「何だその、まさか…!って顔は。俺がんなことするわけねえだろが」
「う、うあああ!!なんだよ虐めかよ!!もう十分傷ついてるんだからやめてよー!!」
「俺の方が傷ついてるぜ…犬なんかと重ねられて…」
「ごめんなさいって言ってるじゃんか!!」
「許すか、阿呆。」
政宗がまたゆっくり
に顔を近づけた。
「〜〜〜〜〜!!」
目をぎゅっと閉じると、政宗が目元を舐めた。
「ちょっ…!!」
「あぁ?顔は嫌か?…ま、近寄ると犬臭ェから俺もあんまりやりたくねえが…」
「いいい犬臭いて…じゃあ退きなさいよ!!意味わかんない…!!」
「でも俺は、てめえに教えとかなきゃなあ?」
「何を…」
「俺を」
「っっ!!!!!」
政宗がの手を取り、甲に軽くキスをした。
「政宗さんー!?」
「黙れ。門番に見つかってもいいのか?」
「でも…だって…だって…」
政宗がをじっと見つめながら、の人差し指をゆっくり舐めた。
「ちょっと…!!」
先から基までゆっくり舌を滑らせ、指の間まで舐め上げた。
「〜〜な、なんですか…何プレイだこらー!!!!!!」
「何だと思うよ?言ってみろよ」
「ひ、ひどっ…もうやだもうやだ…!!」
中指、薬指と、丁寧に舐められる。
嫌悪ではなかった。
不思議な感覚が襲ってきて、は逃げたくて仕方なかった。
「政宗さん…!!もう許してくださいよ!判ったから!!」
「アァ?」
「!!」
政宗はの小指を口に含むと、ちゅ、と音を立てて優しく吸い上げた。
「まさむねさんーーーー!!!!!!!」
「…お前…マジ声に色気がねえなあ…」
やれやれといった感じで、政宗はやっとの手を離した。
「ううう…」
涙目で見つめるの頭に、政宗がぽんと手を置いた。
「顔洗ってこい」
「う…うん…」
「綺麗になったら、顔、舐め回してやるよ」
「…うわあああああああ!!もうやだああああああ!!!」
は叫んで逃げ出すかと思ったが、座り込んだままだった。
「?」
「…腰…」
「……腰…」
まさかあの程度で
「腰ぬけた…」
政宗は笑いを通り越して呆れた。
「…お前はよ…最後までヤったらどうなっちまうんだよ…」
「知らないよっっ…!!今日はもう最悪な一日だ…!!」
「仕方ねえな…サービスだ」
政宗はをお姫様抱っこして城に向かった。
「…政宗さんのせいなのでお礼は言いません」
「上等だ。身体で貰うから結構だ」
「政宗さん、ありがとうございます」
「…てめえ…」
城に着き、顔を洗った後
は小十郎から離れようとはしなかった。
「小十郎さん!!どこ行くの!?私も行く…!!」
「ーーー!!厠だ!!何で!?厠だから!!来るな!!」
「やだー!!1人にしないで!!」
「厠だって!!だめだー!!」
そんな光景を、政宗は笑いながら眺めていた。