BASARA幼稚園の園児たちは皆個性が強く、先生は毎日大忙しだ。

就職したばかりのも、日々子供達に振り回されている。

「せんせいせんせい!!かれしいるのー!?」
「慶次くん!!もー何回聞くのー先生からかわないの!いません!!」
「なんでー?」
「…慶次くん先生とファミレスへ飲みに行こうか悲しい現実を聴かせるよ?」
「や、やだあああ怖いいいいい!!!」
「せんせい!元就がジャングルのてっぺんで焼けコゲよーやってる!」
「元親くんご報告ありがとう!!もおおおおお前に落ちそうになって危なかったのに懲りないね!?いい事かもしれないけど!」
せんせいー政宗どのがクレヨン6本もってひとりじめする…」
「幸村くん…!先生ちょっと政宗くんがその状態で何を描くのか興味あるから幸村くんにはこの新品のクレヨンを授けるよ!!」
先生ー明日デートしよ!」
「猿飛先生暇そうですね!?」
先生牛蒡いるか?」
「片倉先生どうして今その話題を!?ありがとうございます!!」

振り回すのは園児たちばかりではなかったが。














「つ、疲れた…。」
休憩中に椅子に座り、机におでこを付けていた。

「まーまー、慣れだよ。つか結構みんなに好かれてるみたいで良かった良かった。」

向かいに座る猿飛佐助は2つ上の先輩だ。
最初は親切に指導してくれたが、最近は放置が多い。
経験しろということだろうと前向きに受け止めていたが、これが本性だと分かってきた。

今は片倉小十郎先生の農作業体験の時間だ。

片倉先生は趣味が農業であり、それは子供達に教えたら面白いだろうと園長である武田信玄が幼稚園裏にそれほど大きくはない農園を作ったらしい。

旬、という言葉を覚え、今はこれがおいしんだよ!と得意げに教えてくれる園児たちは正直に可愛い。

「そんで先生?次の時間は何読む?」
「えっと…」

絵本の朗読の時間が迫っていた。
まだなのはこれかな、と、差し出してくれたのは、佐助は白雪姫とブレーメンの音楽隊だった。

「白雪姫にします。」
「はいじゃあお願いします〜。」
「はい!」
先生もそういうのに憧れるの?」
「いえ、ブレーメンの音楽隊が詳しくないので…。」
「あとで調べておいてね。」
「はい!!」

佐助から絵本を受け取り、目を通す。
昼休みなどにも何回か読んだことはあるので、大まかに確認するだけだ。

「…うん、大丈夫そうです。そろそろ行きますね。」
「お願いねー」

本を抱えて園児たちが戻ってくる部屋へ向かう。
椅子を円形に並べ、準備をして迎えるのだ。
子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくると、戸を開ける。

「あー!!せんせい!!」
それに一番早く気付いたのは幸村だった。

「おかえりなさーい!!」

そう声を掛けると、政宗が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ただいまー!!せんせー!みろよオレのトマト!大きい!!」
「政宗くんすごーい!!美味しそうだねー!!」
「政宗ずるいぞ!!もどったらまずは手洗いだっていわれたろー!!」

元親が叫び、政宗は口をへの字に曲げる。

「ちえ…」
「綺麗に洗ったら、また見せて?」
「うん!!まってろ!!」

にっこり笑って、元気に皆のところに戻っていく。
子供の相手はたまに疲れるが、あのように慕ってくれるのは嬉しい。

「よし。」
そして座って、子供たちを待った。

が、すぐにぱたぱたと可愛い足音が聞こえてくる。

「せんせー今日の本はなんだ?」

そう一番に聞いてきたのは、金色の髪が綺麗なかすがだ。
前回読んだシンデレラを気に入ったらしい。
どうやら彼女は近所に住む年齢どころか性別も不詳の人に惚れてるらしく、自分も頑張れば振り向いてもらえるかもしれないと勇気をもらったそうだ。
今日の本も気に入ってもらえるだろうか。

「今日は、白雪姫です。」
「またおひめさまかよ!!もっとヒーローが活躍するのないのか?」
政宗は不服そうだ。

「なんでだよー!いいじゃないかよ!おひめさま!!王子さまとハッピーエンドなんだろ?」
慶次は恋の話が好きなようで、どちらかといえば女の子と話が合うのがちょっと将来に不安を感じさせる。

「ごめんね政宗くん。来週はかっこいいお話にするね?」
「う…うん。」
慶次やかすがの視線を受け、少々機嫌の悪くなる政宗にそう声を掛けると素直に頷いた。
そして隣にいる幸村にも話しかける。

「幸村くんも、そういうのが好きだよね?かっこいいの。今日は我慢してね?」
「そ、某は、けんぶんを広めたいゆえ、なんでも聞きます!」

名を呼ばれると、しゃきっと背を伸ばし大人びたというかどこで知ったのかという言葉を話すから面白い。

「じゃあ、みんな揃ったかな…?」
ぐるりと周りを見渡したあと、は本を開いた。

「むかしむかし、冬のさなかのことでした…」

ゆっくりと、聞き取りやすいように、でも感情を込めるように、読み始めた。
















おしまい、と締めくくり、本を閉じる。
かすがは自身の手を胸で組んで天井を見上げて空想しているので自分に置き換えているのだろう。

「キスでめざめるなど…つごうのよいことだ…」
現実的な意見を述べたのは元就だった。

「侮っちゃだめよ?実際、キスで病気が治ったって人もいるのよ?」
「な、なに…!?」
「うん、ニュースで見たもの。あと元就くんは本当のグリム童話のほうが合ってるかもね。」
「偽物なのか、それは?」
「これはディズニーのお話で、本当はもっと怖いお話なの。悪い王女さまに仕返しするのよ。」
「!!??」
「真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて…」
せんせー!!元親くんがびびってます!!」
「ごめん!!」

振り返ると元親を慰めつつ慶次がに向かって手を上げて訴えていた。
これ以上は余計なことも言ってしまいそうなので、皆に椅子を元に戻してお休みの時間にしようと声をかけた。
ただでさえ畑での実習後は皆眠そうなのだ。
なのに熱心に聞いてくれて、でももう限界だろう。

「お布団、猿飛先生が敷いてくれてるはずだからねー!移動しよう!!」
「はーい!!」
「えっ敷いてないけど?」
「なんでですか!!!!!!」
通りがかった佐助はに睨まれつつ、忘れてたと頭を掻いた。

「もおおおお!!敷いてくるから、みんなちょっと待っててね!!!」

は小走りで部屋から出て行った。
園児たちはそれを見送ったあと、座り込んで雑談をする。

せんせい、苦労性だよなー」
政宗にそのように思われていると知ったらは落ち込むに違いない。
あくまで頼りになる先生を目指して頑張っていたからだ。

「やさしいから俺すき!!」
そういうのは慶次だが、元親に、お前は女の人なら何でもいいんだろうと突っ込まれてしまう。

「そんなことねーし!せんせいの、王子さまになりてえもん!!」
「よくいうねえ…」
「博識であることに、われは感心する。」
「元就もそーいうこというのかー。王子さまねー…」
「きさまらが王子の器か!王子さまというのは、けんしんさまのような方がふさわしいのだ!!」
「なんだとかすが!!」

幸村は一歩引いて、皆の話を聞いていた。
「某…」

ぽそりと呟くと、視線が集まった。
だがすぐに笑われてしまった。













部屋に顔を出し、布団敷き終わったよ集合!と、ぜえはあと息を荒げながらも笑顔を向けた。
エプロンはしわくちゃになり髪もボサボサになっているがスピードが大事と考えて気にしていないあたりが園児に苦労性というイメージを付けるが本人は気づいていない。

「ねむい!!ねる!!」
「おれ今日くまさんの布団でねたいー!!」

だがそんなことには本人の前では触れずに布団のある部屋へと向かい始める。
園児たちに気を使われているなどは知る由もない。

「ふう…」
せんせい…」
「幸村くん、どうしたの?」

幸村は仲間と一緒には行かず、の足元で悲しげな顔をしていた。

「某…笑われてしまったのだ…」
「どうして?何があったの?」

しゃがみこんで目線を合わせると、どうやら泣きたいわけでは無いようだ。
ただ眉をハの字にするだけだった。

「さきほどの、しらゆきひめ…みな、王子さまになりたいと言っていたので…でも某はこびとになりたいといったら、わき役だと笑われた…」
「そっかあ…こびとさんも物語をつくる大事な役目だよ!伝わらなかったのは先生の読み方が悪かったのかもしれないね。」
「そんなことはない!せんせいはいつもちゃんと、おはなしを楽しく読んでくれる!」
「ありがと。幸村くんはなんでこびとになりたいの?」

そう問うと、今度は恥ずかしそうに下を向き、指いじりを始める。

「王子さまが、最後にしらゆきひめを助ける役なのは、わかるが…」
「うんうん。」
「でも、しらゆきひめが危ないとき、近くでずっと助けていたのはこびとだ…」
「うん…。」
「某は、大切な人を守りたいのだ…」

思ってもみなかった真剣な言葉に、は目を丸くする。
この年齢からこんなことを思えるなんて、一体どのような感性なのだろうか。

「幸村くん…男前だね…!!」
「お、おとこまえ…?でも、みんなに笑われて…」
「笑われて悲しいのは分かるけど、幸村くんがそう思う気持ちって凄く素敵な事なんだよ!!」
「すてき…?」
「うん、王子様って身分よりかっこよさより、ただ大切な人を守りたいって、その気持ち!」
「…せんせい…」
「先生、好きだよ。そういうの!!」
「!!」

幸村の顔が真っ赤になる。
この反応の後はいつも友達のところへ逃げていってしまうが、今日は違った。

せんせい…」
「なに?」
「某…」

ぎゅううううと服の裾を握り、肩に力が入る。

せんせいの、こびとになりたいのだ!!」
「え?」
せんせい、守りたいのだ!!」

そう叫ぶので限界を迎え、幸村は走り出した。

可愛い可愛い告白に、はその背を見送ることしかできない。

「幸村くん…」

きっと大人になったら忘れてしまう小さな気持ちだろう。
だけどはとても嬉しかった。
の初恋の人も、幼稚園の優しい先生だった。
あの時の、憧れた先生のような頼もしさを自分は持っているのだろうか。

「へへ…」

はにかんで、皆がいる部屋に向かう。
きっと騒がしくしているから、子守唄を流さねば。

「お昼寝が終わったら、先生は、幸村くんにそう思われて幸せだよ、って言わなきゃ!」






は知らなかった。
幸村の信念を貫こうとする意志は誰にも壊せぬ強さをもつことも。

13年後、再び彼の口から守りたいという言葉が聞けるということも。





























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幸村お相手で、ヒロイン先生の幼稚園パロで白雪姫というお題頂きました!!
頂いた当初は演劇しか思いつかず先生が白雪姫…?とうーんうーんしてましたが
え、演劇にこだわる必要ないわ!!と思ったらさらさらと書けたというあれ!なんだかあとがきっぽーい!
えっそうでもない?
リクありがとうございました!!!
補足は幸村5歳くらいかなーってとこでしょうか!