旦那が変だ。



「とりゃあああ!!!うらああああ!!!」

いつもの訓練風景。

佐助は少し離れた木にぶら下がり、その光景を見ていた。

しかし


「…ふう…」
「……………?」

いつも元気な旦那が、素振りの合間にたまにため息をつく。

糖分が足りないのかなと団子を持って行けば

「某、が食べたい。」

と言う。


「……………。」

………発情期?








というわけで、

を上田城に連れてきました。

「でね、そのお茶がすごく美味しかったの。程よい苦みで、でも甘さもあって、口の中ですごく香るの。信玄様にお教えしたいって思ったの。」
「そうか〜、でも今大将は忙しいから…落ち着いたら伝えておくよ。」

は座布団に座り、のんびりと世間話をしている。
警戒心なさすぎだ。


「違うの、佐助。続きがあるの。それをね、政宗さんに言ったの。そしたら、バーカそれ俺が淹れた茶だよ、そんなにうめぇか光栄だ!もっと褒めやがれ!!って言ったの!!」
「騙されちゃった?」
「みたいなの―!!普通に言えばいいのに!!何でそういうことするのかな〜…どう思う?政宗さん照れてるのかな?」
「その場にいない俺様には判断つかないけど〜、あの旦那のことだしねぇ…」

幸村があの状態ではが危険かなとは思ったが、自分の初な上司がそういうことに興味持つのは嬉しいことだ。
が相手なら尚嬉しい。

(ごめんね〜…でも旦那のこと嫌いじゃないだろうし…)
むしろ謝るべきは伊達の旦那へか、と佐助は苦笑いした。

「照れではなかろうか?」

襖が空き、着物姿の幸村が現れる。
顔には、穏やかな笑みを浮かべて、堂々としている。

「そう思う?」
「うむ、は可愛らしいのでからかいたくなってしまうのだ。」
そう言うと、今度は無邪気にへらっと笑う。

「え、や、やだよそんなの…からかわれてばっかりは嫌で…私だって真面目なお話ししたいときだってあるし…」

可愛いという言葉に照れて俯きながら、不満を述べる。

幸村はの目の前に座り、顔を覗き込む。

「!!」
(あちゃ〜…)
は案の定、すぐに目をそらす。

(ダメだよ〜…それ逆効果だから…)
佐助は言いたい言葉をひたすら飲み込む。

「ほら、からかいたくなるでござるよ。」
くすりと綺麗に笑う幸村に、佐助は寒気を覚える。

(なんか旦那本当におかしい…!!)


恋を自覚し、口説きにかかることにしたのだろうか。

いや、一昨日、旦那が夜眠れないと言っていた際、を抱っこしたら寝れるんじゃない?連れてくる?と聞いたら、破廉恥な!、と顔を真っ赤にしていた。
あの時はいつもの旦那だった。

昨日は?

昨日…

そういえば旦那に、届け物が来ていた。


幸村とが談笑しているのを確認し、お茶でも持ってくるような雰囲気を醸し出しながら部屋を後にした。
そして幸村の部屋に入り、押し入れを開ける。

「これか。」

風呂敷に包まれた木箱を開けると、手紙が一枚。

『あんたの悩み、これで解決!! 前田慶次』

佐助は、うーわー…、と呟き、少し考えた後、誰にも何も言わずに姿を消した。









「判ってる判ってる!!あんたの用件は判ってるからはい!そのクナイ下ろす!ね?」

佐助が訪ねたのはもちろん前田慶次だ。

「で、旦那に何したの?」
「いや〜想いを伝えたい人がいるって言うからね〜、ザビー教で貰った愛のお薬を!!」
「なんてものくれたんだ!!あんたが飲めばよかっただろ!!」
「それはあの…丁度困ってたから譲っちゃって…え〜っと…で、効果はどう?どんな効き目だったか報告したら、ザビー人形くれるって話で…今から様子伺おうと…」
「ちょっとあんたそれおかしいだろ!!つまりあの薬は試作品てことだろ!!」
「あ…そっか…」
「もうなんでこう馬鹿ばっかり!!あんたねぇ!旦那の想い人はだよ!いいのか!?」
「えっ…そりゃ良くないね…俺もが好きだし…」
「だろ!!?早く戻らないと…!!」

幸村が判断しての言動なら佐助は文句を言わないが、不本意なものなら止める。
それに幸村は本気でに惚れているのだから、気持ちを伝えるならどんなに不器用でかっこ悪くてもいいから、有りのままの幸村でして欲しいという親心もあった。









佐助がいなくなってからも二人は部屋でお茶を飲みながら一緒に過ごしていた。
…今日は香がいつもと違うでござるな。」
「え?判るの?ちょっとね〜、教えてもらって、自分で調合したんだ〜。」
「甘い香り…。」
幸村はさりげなくに近付いた。

「初めてだから、無難に…梅の香りをメインにしてね…」
「良い香り…好みだ」
「へ?この……きゃっ!!」
ある程度近付くと幸村は身を乗りだし、の耳元をぺろりと舐めた。
咄嗟に耳を手で塞ぎ、は後退りした。

「ゆっ、幸村さん…?」
「あっ…す、すまぬ…つい美味しそうな甘い香りで…申し訳ござらぬ!!」
慌てて頭を下げ、必死に謝る幸村は叱れない。

「大丈夫!怒ってないよ!!」
「誠でござるか…?」
「うん、だから頭上げて!」
「某が嫌いになりませぬか…?」
「ならないよ!」
「ならば…」

幸村はの腕をがしりと掴み、先程まで叱られた犬のように怯えていた顔を無表情にして鋭い眼光でこちらを見た。

「嫌いになっていないという証しを」
「あ…あかし…?」
「抱擁でも接吻でも…それ以上でも…」

ちょっと変だなとは感じていたが
ここでやっと

今日の幸村はおかしいとは確信した。




!!大丈夫!?」
!!」
「あっ、佐助と慶次…」

には救いの神に見えた二人だが、幸村を目の前に助けてと言うのは抵抗があった。

「慶次殿?佐助もどうしたのだ?」
幸村は本気なのか芝居なのか判らない対応を見せる。

とりあえず薬を使ってに告白しようとしたなどという事態をに知られてはいけない。

「えっと〜、旦那…何か今日…変なもの食べなかった?」
「佐助…お主には某がそのように食い意地のはった男に見えるのか…?」

佐助は、うわ〜これ質が悪いな〜と思った。

「なっ!幸村!!俺さぁ昨日お前に丸薬あげただろ?あれ必要になっちゃったんだけど、もう使っちゃったかなぁ?」

慶次の無邪気な笑顔と口調のストレートな物言いに、佐助は感心した。
これは答えやすい。

「丸薬?慶次、どこか悪いの?」
お願い今はちょっと黙っててと思う慶次だった。
心配してくれて、熱?腹痛?頭痛?と聞いてくれるのは嬉しいのだが、今は佐助の殺気を絶えることなく浴びていてあまり余裕が無い。
うんちょっとね〜と笑って誤魔化す。

「…丸薬…そういえば今朝茶を飲もうとした時に…着物の袖から…」
「「!!」」
飲みたくて飲んだわけではないことに酷く安心する。

「飲んだんだな幸村…!よし!!確認完了!!次の段階!!」
「次の段階?」
「小太郎!!ちょこちょこ間に入るを回収!!」
「ひ、ヒロインを回収ですって!?」
「……………。」

信じられない!というを、小太郎は連れて外へ出て行った。
「さあ前田の風来坊!どうすれば効き目がきれる!?」
「大切な人と接吻だって〜」
「小太郎ーを戻して戻して!!!!!」
「何なのよさっきから!!」
「……………。」

さすがに小太郎も不機嫌になってきた。
仕方ないので、性格が薬により変わってしまい、一番心を許している人の接吻で元に戻るんだと説明した。

「ええ!!き、キス!?私と、幸村さんが!?」
お願い…うちの旦那とさ…」
「ええええやだやだやだやだ!!!!!!以外に居ないのかい!?真田幸村…好きなお姫さんとか…」
「前田の風来坊!!こんな時にそんなこと言ってるんじゃない!!」
「先ほどから、皆、何をしているのだ?」

幸村はきょとんとしている。

「人前で接吻など恥ずかしいでござる…某、離れに行かねば…」
「今の旦那には許せないなあああああああああああ!!離れ!?二人きりで離れでどこまでやっちゃうつもり!?」
「そんな…某は…接吻だけで…腰砕けにさせてみせるでござる」
「ぎゃあああああ何言ってるのこの人!!!!!!!!」

「「「………。」」」

と慶次と小太郎は、そんな言い争いをする二人を見て同じ事を考えた。
三人目を合わせると、こくりと頷く。

「も…もう!!判ったから!!触れるだけでも良いんでしょ?口唇と口唇の接触刺激が要るんでしょ?」
「いや!!そこのヒロイン!!難しく考えなくて良いよ!?」
「照れてるの!!判ってよ佐助…」
…いいの?」
「……。」

は一度深呼吸をして、幸村に近づいた。

…」
「幸村さん、目を閉じて…。あ、佐助も目を閉じてよね!!」
「う、うん…」

幸村が目を閉じたのを確認してから、ありがとうありがとうと感謝しながら、佐助は目を閉じた。

「一番、心を許している人のキスかあ…」

がボソリと呟く。
…幸村の気持ちに、気づいてくれたのだろうか?

「…ということはさ…」

そう言った瞬間、襟元を何かに掴まれた。

これもアリですよねー!!!!!!!!!!!!!!
「うわああああああああああああああ!?」

そして思い切り投げられ、幸村に激突する。
はひらりと身をかわして避けていた。

そして幸村の側で待機していた慶次に髪を掴まれ、そのまま振り下ろされ、

「ごっめーん」

無理やり、幸村の頬に唇を掠めることとなった。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

佐助は口を押さえ、必死に後ずさりをした。

「おっけーおっけー、これで解決!!」
〜〜〜〜!!!ひ、ヒロインだろお前が…!!!!」
「おーい、真田幸村〜大丈夫〜?」
「…な、何事?」

ぱちぱち瞬きする幸村が、元に戻ったのか判断がつかない。

「幸村さん〜お団子食べる〜?」
「食べるでござるっっ!!!」

甘いものに反応して、笑顔輝かせ、の手から団子を貰う際に食べさせて欲しいでござる〜とか、手が触れて、あ、すまぬ…などというやり取りせず、団子をおいしそうに頬張るのみ。

「戻った!!」
「よかったね〜」
「…あの、ちょ…」
「………。」


幸村の大切な人というのは嬉しい。

嬉しいが…


「何で戻っちゃうのさ!!!!!!!!折角の機会じゃないか!!!!」
「ど、どうした佐助…!?」


親心としては、健全にラブイベントであって欲しかったようだ。















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いつもと違った黒い幸村、ということでリク頂きました!!

こんな黒幸村ですいませ…!!
そしてヒロインが少しツンデレ風味に…!!!

リクありがとうございました!!