今日の青葉城はいつもと空気が違っていた。

「…」
小太郎が、部屋の隅にうずくまって後悔していた。

の元に急な来客が来ていた。

「それで、な、何事かあったのだろうかと思ったら、け、けけけけけ謙信様が私にば、ばばば薔薇の花束を…」
「う、うんうんうん!!!それでそれで!?」
かすがだ。
と恋バナで盛り上がっていた。
「嬉しくて理由も聞けずに受け取ってしまい…ぼーっとしながら廊下を歩いていたらいつの間にか国境に来てしまって…」
「もーかすがったらー!!」
きゃあきゃあする二人に突っ込みを入れる人はいなかった。

「そしたら何かぽりぽり食べてる小太郎に会って…"ばれんたいん"という事を知って…」
「さすが謙信様!!ご存知だったんだね!」
「ああ…で、でも普通は女から渡すべきだったんだろう…」
「そんなの関係ないよー!!」
「う、うむ…それで、さらに小太郎から"ほわいとでい"というものも聞いて…あの、謙信様に何かお返しがしたくて…」
「明日だ明日!!今から準備しようよ!!小太郎ちゃんに教えておいて良かったー!!」

小太郎は拳で畳を叩いた。
今日は早い者勝ち一番にを攫って、城下でプレゼント選びを兼ねたデートをしようと考えていた。
朝起きた気配を察知し、の部屋に滑り込んだら、かすがが居て、小太郎は古風にずっこけた。
政宗と小十郎しか警戒していなかったので、予想外だった。

「あ、あの、それで、は、皆に手料理を振舞ったのだろう…?すごく女の子らしくて、いいなと思い…私も謙信様に…あの、お、教えてくれないだろうか…?」
はにっこり笑った。
小太郎は戦慄した。

「私でよければ教えるよ!!何がいいかな?」
「ー!!!!!」
小太郎がにしがみついた。
「なあに、小太郎ちゃん。大丈夫、かすがは嘘ついてないわ」
「――――――――!!!!!!!!!!」
小太郎がもぎれんばかりに首を振った。
「政宗さんにも今からちゃんと許可取るわ」
「――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」
小太郎が涙ぐんだ。

「…小太郎、すまない、今日はを貸してくれ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
かすがにまで自分の気持ちを判ってもらえない。

小太郎は、城から飛び出した。


「…んあ?」
「おはようございます、政宗様」
「Good morning…What happened?」
「はい?」
「小太郎が、泣きながら外に飛び出してった」
「…関係でしょう」
「…呼んで来い」


政宗に呼ばれたが、も用があったので、スキップしながらは政宗の部屋に向かった。

「グッモーニン!!政宗さん!!」
「おう、ご機嫌だな。何かあったか?」
「政宗さん、キッチンを貸してくださいな」
「…why?」
はかすがのことを全て話した。
政宗はなるほど今向けられてる天井裏からの殺気はあの忍かと納得したが、小太郎が出て行った理由が判らない。

「(大方、抜け駆けしようとか考えてたのが邪魔されて泣いたか…?)White day…そりゃ知らなかった。まあ、いいだろう。その代わり、監視はするぞ」
「うん、いいよねー?かすが!!」
「…うむ」
すたっと、かすがが降りてきた。

「政宗さん、料理上手いんだよ!!」
「…!!」
「政宗さんからも教えてもらいながら…」
「…い、いやだ…他の奴に監視を頼め…独眼竜以外なら誰でもいい…」
と政宗は、かすがは料理が下手なんだなと思った。
政宗はクク、と笑った。
「なら小十郎だ。あいつは口が堅い・・・・
「な…」
「ふふ、いいじゃない、かすが。さ、やり方教えるから、戻って一人で出来るようになるまで特訓だ!謙信様にかすがのお料理姿見せてあげな!!」
「ああ、頼む…その、出来れば簡単で美味しいもの…」
「はいはい」
政宗はに耳打ちをし、謙信の好きそうな料理の名前を言った。
はこっくり頷いた。

の背が見えなくなると、政宗は背伸びした。
「さあて、俺も何か用意すっか。」
バレンタインであげたが、からも貰った。
さらにそのお返しだ。



小太郎は、甲斐に来た。
「――――――!!!!!」
目にも止まらぬ速さで、走り抜ける。

「…うお!?小太郎?」
「―!!!!!!!!!」
小太郎は佐助の横腹に飛びついた。
佐助は肋骨が折れたと思った。

「げ、げはっ…ど、どうした小太郎…?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「え…」
佐助の顔が真っ青になった。

「だ、旦那あ!!大変だ!!」
「どうした佐助!?敵襲か!?」
「竜の旦那が…が死んじゃう!!!!!!」
「何!?」
幸村も真っ青になった。

佐助は幸村を抱えて、小太郎とともに青葉城に向かった。



青葉城から煙が上がっていた。
炎上しているわけではないが、煙の量がハンパない。
「ああ!!この程度か!!」
「この程度か、じゃねえ!!!!!!!!!」
城を見上げながらほっとする佐助に、ススだらけの政宗が跳び蹴りをくらわせた。

「ぎゃああああ!!お、俺の城!!は!?はどこだ!?小十郎は!?」
「な、なんと…まだ中に!?っ…すごい煙だ…」
「!!!!!!!!」
小太郎が中に飛び込もうとすると

「無事です…」
同じくススだらけの小十郎が、を抱えて出てきた。

「小十郎!!!!」
「少し、煙を吸ったようで…信じられん…なぜ、ほうれん草をゆでていて…爆発する…!?」
それは信じられん。

「あの女はー!?」
「ここだ」
「ぎゃあ!!」
かすががなんでもなかったように、皆の背後に現れた。

「お前!!これ、どうしてくれんだ!?」
「何を言っている。すでに業者を呼んだ。半刻後には元通りだ」
「早!!」
「ほうれん草は難しい…他に何か…」
「おにぎりでも作ってろ!!」

小十郎がをござの上に寝かせた。
!!!」
政宗がの頬を叩く。

「う…ん?政宗さん…?あはは…真っ黒…だよ?」
「良かった…ha…いいんだよ、俺は…お前が、無事なら…」
互いに手を握り合った。
「政宗さん…」
…」

背後で幸村が政宗の似顔絵を書いた紙を貼った藁人形を懸命に壁に釘で打ちつけた。

…すまない…大丈夫か?」
「かすが…」
「…私は…ただ謙信様にと…本当に、すまなかった…」
はゆっくり立ち上がった。

「小太郎ちゃん…例のあれを…」
こくり

小太郎はに長いリボンを渡した。

「…え?いつの間にそんな仕込を…」
小十郎の言葉に返事を返す人はいなかった。

ふわりとかすがにリボンを巻きつけ、可愛く結んだ。
…?これは…?」
「…謙信様はかすがが大好き…かすが、謙信様へのプレゼントは、自分自身よ」
「なっ…!!」
かすがの白い頬が赤く染まる。

「…がんばれ」
は男らしく親指を立てた。
かすがも親指を立てた。

かすがが、リボンが解けないように慎重に消えていった。

は安堵の息をついた。



かすがの言うとおり、城はすぐに元通りになった。
幸村と佐助はどこかへ消え、と政宗は部屋でくたばっていた。

「Shit…人の城をなんだと思ってやがる…」
「あはは…かすがを、甘く見ていた…」
「…

政宗がに寄りかかった。

「明日の…Presentなんだが…」
「え?」
「…俺で良いか?」

が慌てて政宗から離れようとした。

「…なんだよ、嫌か?」
「だ、だって、そしたら、私も用意してないし…でも、バレンタインに政宗さんに貰って…」
がいきなり小声になった。
しかし政宗にはしっかり聞こえた。

「わ、私も…私がプレゼント、とか…言わなきゃならなくなるじゃん」

政宗はにやりと笑った。

「いいじゃねえの。明日一日、俺はお前のもので、お前は俺のもんだ」
「…!!」

また離れようとしたを、政宗はしっかり抱きしめた。
「俺だけのもんだ…」
「政宗さ「殿おおおおおお!!!!!!!!

奴らは甲斐に帰ってなかった。

「某がっ…某がくっきぃのお返し…!!受け取ってくだされ!!」
幸村が真っ赤なリボンを腰に巻きつけて走ってきた。

「俺ももらったから、俺も〜」
「〜!!」
「こ、小太郎やめろ!!引っ張るな!!そりゃ、もらったが…政宗様の前にこんな姿で…」
佐助と小太郎も腕にリボンを巻きつけて走ってきた。
小太郎に引きずられる小十郎は、両手をリボンで捕虜のように縛られていた。

「わあ…」
は喜び、政宗は口元を引きつらせた。

「弟がいっぱい出来たみたい」
「「「「弟!?」」」」

後日、かすがからうまくいったとの文が届いた。

どううまくいったのかはあえて聞かないことにした。








■■■■■■■■
かすがが幸せな夢…
様、も、申し訳ない…
こんなんでもホワイトデー夢と言い張ってみる。