「…何これ。」
「何って、知らねぇのかよ。春画だよ春画。」
「……ふぅん。」

政宗の部屋で掃除をしていたは、一枚の紙を手にして止まっていた。

「政宗さん、こういうの見るんだぁ…」
「当たり前だろが、この歳で枯れててどうすんだよ。」
「ふうん…」

政宗は政務を進めていた。
もう少しで文が書き終わる。
…が、途中で筆を置いた。

小十郎!!なんかが怖く感じるのは何でだ!?
政宗様!!それは、あ、やばい、見つかっちゃった…という心境です!!政宗様は女っ気が無い上、身分が高いのでこんな状況初めてですな!!!学習しましたな!!
「そ、そうなのか…どうすればいい!?」
「とりあえず謝って下さい!!」
「奥州筆頭が春画ごときで謝罪すんのか!?」
「政宗さんはこういう…巨乳が好きなの?」
!sorry!!!」

低音のの声に驚き、反射的に謝ってしまった奥州筆頭だった。







「っつーか春画っても…こいつは芸術じゃねえか…結構な値段だったんだぜ?」
「町では人気の絵師のようで。何も捨てなくても、に理解を得ようというのも一つの手ですが。」
「…そうだなぁ…。」

は小太郎と散歩に行ってしまい、小十郎と二人で春画をどうしようか考えていた。
広げて、じっと見つめ、そして折り畳む。

「…これいつ買ったやつだった?」
と会う前ですよ。」

小十郎が笑みを浮かべた。
が来てから、こういったものは買わなくなっていた。

「先程が棚の奥から引っ張り出してましたから。」
「そうかよ…。」

間違えた為、机の端に重ねたいらない紙の上にぽいと投げた。

「良いのですか。」
「存在を忘れてたくらいだ。」
「子孫を残す事も大事なお務めですよ。」
「判ってるよ。興味ねぇわけじゃねぇから安心しろよ。」

小十郎がそれを手に取り、処分しようと立ち上がる。

「…やっぱ、もったいねぇな…。」
「はい?」

政宗の表情は、にやりと笑っていた。

「こういうのが必要な奴がいるじゃねぇか。」






散歩から帰ってきたは、真っ先に政宗の部屋を訪れて、しゅんとしていた。

「政宗さん、ごめんなさい。あんな絵くらいで怒るなんて、私ダメだよね…男性と女性は違うのに、自分の気持ち押し付けて…」

頭を冷やして来たらしい。

「いいって。頭上げろ。」
「でも…」
「考えてもみろ。棚の奥底にあったんだ。必要ならんなとこ置かねえだろ。元々いらねぇやつだったんだし。言い訳に聞こえるか?」
「ううん。そんなことないよ。その言い方だともう処分しちゃったんだ…なんか、ごめんね。」
「どう処分したか知りたいか?」
「え?」










小太郎に背負われて上田城に辿り着く。

「こんにちは!!」

大きな声で挨拶すると、笑顔の佐助が現われた。

「こんにちは〜〜。どうしたの?」
「幸村さんはいらっしゃる?」
「あれ?奥州行かなかった?決闘するって張り切ってたけど。」
「追い抜いちゃったか!!」
「旦那が何かした?俺様用事あって同行出来なくてさ、ごめんね。」
「そうじゃないの、政宗さんが…」
「竜の旦那が?」

慌てていたは一度目をつぶり、深呼吸して息を整え、真面目な顔で佐助に向き直る。

「押しかけてきた幸村さんに、絵画を愛でる趣味はあるか?と…」
「あれば見るけど、自分から見ようとする趣味は無いね。」
「浅はかだな真田幸村!!てめぇこの水墨画に何を感じる!!と…」
「う…美しさ!!とかテキトーに答えるでしょ。」
「美意識を磨きな、真田幸村…。これをてめぇにやるよ。…と、絵画の入った木箱を渡し…」
、今竜の旦那のモノマネ、ノリノリだったね。残念なことに似て無かったよ。」
「そ…その中に、見せてはいけないものが…」

似て無いと言われ、真面目な顔をしていた自分が無性に恥ずかしくなり、これから伝えようとした『春画』という言葉を言う勢いが無くなってしまった。
どんな春画?と聞かれたらどうしようという想いが先行する。

「………。」
「あれ!?」

小太郎が黙って消え、が困惑した。

しかし佐助が、ウチの旦那連れて来てくれるみたいよ、と言うので、それを信じて待つことに。

「城の中へドーゾ。お茶くらい出すよ。」
「ありがとう。」
「見せてはいけない絵か…何だろうな?」
「え…えと…あの…」
「だめだよ、。そういうの取り戻したい時は、何も知らないふりして遊びにきて、こっそり盗んで気付かれないように帰らないと。」
「え…?佐助なら取り戻すの手伝ってくれると思って…。」
「そりゃ好印象だね〜ありがとうね〜。」

この時佐助は、その箱の中に戦の布陣、城内の見取図、経済状況など、他国に見られたくない情報を書いた紙が紛れ込み、それを慌てて取り戻しにをここに送ったのだろうと考えていた。
は、もう春画であることは告げなくてもいいだろう、さっさとそれだけ処分して帰ろう…と考えていた。

「お団子食べる?」
「わぁ!!みたらし団子大好き!!」

に背を向け、お茶を淹れながら、竜の旦那も人選を誤ったな…!!は素直すぎるんだよ!!と、ニヤリと悪どい顔で笑った。
そして笑顔で振り返ると、は正座をして手をグーにして太腿に置いて、嬉しそうに団子を見つめていた。

「…食べて、いいよ?」
「幸村さんと小太郎ちゃんと一緒に食べたいんだぁ!!待ってる!!」

佐助は口を手で覆った。

おいおい…ウチの旦那が戻ったら、箱の争奪戦の始まりだろ…!!なんでそんなことに気付かないかなぁ…!!と、を可哀相な子を見る目で見つめてしまった。

「…そっか、でもお茶は先飲んでよ。、慌てて来たんだろ?汗かいてたし。水分補給、な。」
「ありがとう。」

やっかいなのは小太郎だが、伊達軍に味方しているわけではない。
一番はの安全のはずだから、その書類のことなどどうでもいいはずだ。
が幸村に会いに来たらいなかったから、単純にここに連れて来るだけのはずだ。
もし既に幸村から箱を奪っても、に渡しに来るだろうと考える。
そのまま任務として行なうならば、も一緒に連れていき、奪ってそのまま帰るはずだ。

そんなことを考えていたとき、近くの庭先から、かたじけない!!という大声が聞こえた。
幸村が戻ってきた。

「あ、帰ってきたね!!」
「そうだね。」

はそちらに目を向けるだけ。
佐助も動かずの近くに座るだけ。
しかしの行動から注意は逸らさない。

「………。」
先に部屋に来たのは小太郎だった。

その後ろから、笑顔の幸村が顔を出した。

「おお!!!!遊びにいらっしゃったことを知らなかったとはいえ、出迎えせずに申し訳ない…!!」
「お邪魔してます。いいんですよ、幸村さん。」
「はいはい、旦那、ゆっくり4人でお茶しましょうか。」

元気に返事をして座布団の上に座る幸村は政宗から受け取った箱を大事そうに両手で抱えていた。

佐助は、よくやった旦那!!それじゃ小太郎も迂闊に奪い取れないだろうよ!!と思っていた。

は、あーあ…あんなに大事そうに…政宗さんのいたずらとも知らずに…本当に政宗さんが親切でくれたと思ってるんだろうな…政宗さん一発ぶん殴りたい…と思っていた。

そして、団子を頬張りながら、佐助に笑みを向ける。

「佐助、政宗殿が某に絵画を下さった。」

いきなりその話題になり、はドキリとする。

「良かったねぇ、旦那。」

佐助はがどう出るのか冷静に窺う。

「あの、幸村さん。その中に幸村さんに見せたくないものが入ってるの。それは私が回収していい?」

言葉を誤魔化さずに直接言うに少し驚いたが、佐助は、言い方が上手いじゃないかと心の中で賞賛する。

がそう言うと、自分達に不都合があるから、だと感じられない。
心から幸村を心配しての申し出に聞こえる。

実際にそういった意味での言葉だから当然のことだったが、今の佐助にそれを知る術は無かった。

「某に、見せたくないものとは…?」
「あの…ほら、ちょっと…いやらしいものが…」

は言いずらくて困った顔をする。
佐助の目には、嘘をついて申し訳ない顔に見える。


「あ、佐助、何?」
「そこまでにしようか。」

佐助が不敵な笑みを浮かべる。
小太郎は、何気取ってるんだこいつ、思いながら団子を食べていた。

「な、何を?あ、私失礼なこと言っちゃったかな?」

佐助を高く評価しているは、もしかして会話を聞いて春画が入っているのだと佐助が気付いたのかもしれないと考えた。
今の発言は、幸村さんにはまだ早い、と言ったようなものだ。
佐助に不快感を与えるに十分なものだったのかもしれない。

「ごめんなさい、良かれと思って…」
「穏便に話を進めたかったんだろ?それは判るよ。謝らなくていいよ。でもね…」

佐助はやんわりと幸村の手から箱を取った。

「せっかくそちらが間違ってくれたもの。まんまと返すには惜しいかな。使えるものは使いたい。」
「えっ!?使えるってそんな佐助!?」

いきなりのことでは驚く。
まさかのピンクな発言にここは年齢制限のあるページかしら?と要らぬ心配をする。

さ、佐助は、ひ、必要ないんじゃない?だってモテそうだし夜のお相手なんて選び放題なような、あっ最近多忙でご無沙汰かしらって私何考えてるのよ!!と一人で混乱する。

佐助はのその様子を、裏切りのショックと受け取った。
そんなに俺様のこと信用してたのかな?ごめんね、俺様罪な男…と自惚れていた。

「で、でもダメ…!私のせいで政宗さんがしちゃったことだから…私はそれを回収する義務があります!!ごめんね佐助!」
「ぅお!」

が佐助に掴みかかるが、佐助は一歩飛び退いてと距離をとる。

「佐助、、某はいまいち状況が…」

は口を結ぶ。
佐助が、春画を夜のおかずにしようとしてるなんて言えない!

佐助は口を開く。

「この中にはね、伊達軍の機密文書が混じっている。」
「なんと!!」
「えっ!?」

は初耳だと驚いてしまった。

「しかし佐助、はそれを引き取りに…」
「渡してあげたいなんて甘い考えなの、旦那は?」
「あっ?えっとあの…」

しかし、佐助は勘違いしてるんじゃないかとは気づき始めた。

「佐助。」
「何?」
「確かに、今回のことは私たちのミス。」
「認めて、それで?」
「見て良いってこと。大丈夫、それぐらいのことで伊達軍に影響はないから。」
「言うねぇ、じゃあ遠慮なく…」
「あっ!!」

にとって予想外だったのは、佐助が幸村を連れて消えたこと。

「一緒に見る気だ!」

そう言った瞬間

きゃあー!!

すぐ隣の部屋から絶叫が聞こえた。

襖を開けて覗く。

「どうした佐助!?」
「旦那は見ちゃだめぇぇぇ!良いことないよ本当にない!!」

「…で、それを使いたいのね?佐助」
はちょっと黙ろうね!!!!」










お互いの勘違いというということが判った瞬間、佐助は気が抜けたらしく肩を落とした。
そして他はきちんとした絵画なのを確認すると、無言でに春画を返した。







「……人が悪いよ…」
「途中まで本当に判らなかったんだもん、しょうがないでしょう。」

幸村は自室で絵画に夢中になっていた。
小太郎はきれいな空に小鳥が飛んでいる絵を見つけ、気に入ったらしく、幸村の部屋でそれを眺めていた。

佐助とは縁側に場所を移し、団子とお茶を頂いていた。

「佐助も持ってるの?」
そう自然に聞いてみると、佐助はブッとお茶を吹いた。

「何聞いてるのさ!!」
「あ、いや、ご、ごめん…」

聞いちゃいけないことかとここで初めて気付き、動揺して謝罪する。
その姿に佐助は困った顔をした。

「俺様は…ええと…買ったことあるけど…どこに置いたか…。でも最近はそんなことにかまってられなくなってるかな…」
「あれ…政宗さんと同じ事を…」
「………。」

これは、の中でこれが男の言い分なのかしらという疑いが出ている。
本当のことなのに竜の旦那のせいで…!!と理不尽とは思いながら怒りがこみ上げる。


「…そりゃ、同じかもねェ…」
「あ、戦で忙しいからか…」
「…っつーか…」

をじいいいいと凝視する。

「妄想すると…相手が自然とになっちゃったりしていらなくなった…とか…」

我ながら

フォローではなく最悪の下ネタになったと思い、言いながら体が冷えていった。
お茶をぶっかけられるかもしれないと身構えた。

「…へ…。…え!?な、そんな…私なんか…」
「…。」

普通に自分なんか恐れ多いと感じているに、驚きを通り越して尊敬の気持ちを抱き始める。

「…そうか、も子供じゃないもんな…」
「な、なに?」
「俺様としてるとこ想像したりしてるから、そういうのに免疫があると…」


これは流石にお茶が飛んで…

来ると思ったら団子が飛んできて、佐助の髪にべとりとくっついた。















■■■■■■■■
麻生卯恭様よりリク頂きました!!
まさかの政宗様スタートですいません!!
そして最後に甘さが…甘いというか下ネタじゃねーか!!とつっこみがくる!!
リク本当にありがとうございました!!