佐助は幸村の部屋の前にある大木の太い枝の根元に座り、のんびり過ごしていた。
視線を落とせば、幸村が俵相手に槍を振るう。

日常がゆっくりと過ぎていたが、耳に小さな足音が聞こえてきて、佐助は身を乗り出した。

「幸村様」
!!どうなさった?」
「そろそろお休みになられてはと…山本様が甘味をお土産に下さいました!!」
「おお!!ありがたい!!」

まるで妻のように幸村を常に気遣うに目を細める。

「俺様が拾ったのになあ…」
ぼそりと独り言をつぶやいた瞬間、幸村が佐助の方を向くので聞こえたのかと内心ドキリとした。

「佐助ェ!!お前もどうだ!?」
「佐助様がいらっしゃるんですか?」
「はいはーい、そうだねえ…」

すぐに降り立って、2人に笑顔を向ける。
まだ慣れていないはビクリと体を震わせた。

「俺様も頂こうかな。」
「はい、ご用意いたします。」

すぐに身を翻して去るを目で追う。

も随分武田軍に馴染んできたな!!」
「そうだねえー最初はどうなるかと思ったけど。」
「元が優しく真面目な方なのであろう!!お館様も気に入っておられたし…」



佐助も、出会いがもっとマシならあのような態度は取られなかったと思う。

雨の日、戦場の近くを流れる川の近くで、見たこともない衣装で佇んでいた。
荷物を胸に抱えて、怯えた目で佐助を見たから敵だと思った。
だから背後に回り込んでクナイを首に当て、何者なのか問い詰めた。
ごめんなさい、ごめんなさい、とひたすら涙を流して震えていた。

『本当に、本当に消えちゃいたいなんて…思ってなかったんです…』
『何言ってるの?』
『しゅ、就職活動…辛くて…でも、でも…川に落ちたのは…足を滑らせただけで…』
『…?』

軽くパニックを起こす彼女にため息をつき、薬を嗅がせて気絶させて屋敷に運んできた。






「未来から来た…ねえ…」
「佐助はまだ疑っておるのか?」
「いや…良い子だと思うよ…。」






が馴染むまでにはあまり時間がかからなかった。
自分の状況説明に疲れてしまったを気遣い、幸村が散歩に連れ出した。
途端にの表情が変わった。

『すごい…こんなに…自然が…』
『む…?』
『私…私、農学部なんです!!』
『の…のう…?』

城下に連れてくと、民に積極的に話しかけていた。
質問だけでなく、悩み事を聞くとアドバイスをして終始笑顔で振るまっていた。

の言っていることは本当だと確信した幸村は、武田信玄に直接を自分の傍で保護することを申し立て、現在に至る。






「俺様もちゃんと信じてるよ。」
だからあんなに俺様を警戒しないでほしいなあと頭を掻く。

「旦那にはしっかり懐いたねえ…」
「そ、その様に見えるのか?ま、まあ、俺も助かっているぞ。は非常に気が利く故…」
女性に免疫のない幸村が照れた様子でそういうので、まさか恋心でも抱いているのではないだろうかと考えてしまう。

「…旦那は良いなあ。」
「?」

が盆にお茶と菓子を持ってきたので、会話を止めて幸村の部屋に入る。

「羊羹でした。」
「うむ、美味そう!!」
「はい!!お手拭です、どうぞ。佐助様も…」
「どうもー」

簡単に手を拭くと、幸村は早速羊羹を頬張る。

「旦那、落ち着いて食べなよ。誰も取らないよ。」
「うむ…しかし…むぐ…」
一気に飲み込んで、幸村は咳き込んだ。
は慌てて幸村の背を撫でる。

「あーもー、言わんこっちゃない。お茶飲みな、ほら。」
佐助は自分との分の湯飲みを幸村の傍に置いて立ち上がった。

、ちょっと旦那を頼むね?」
「は、はい。佐助様…」

佐助が消えるのを見送るとすぐに幸村に視線を移す。

「大丈夫ですか、幸村様…もっと小さく切ってくれば…」
「ごほ…だ、大丈夫。俺の非である…」
「幸村様…」
一気に茶を飲み、一呼吸すると幸村が落ち着く。

「ふう…驚かせたな。すまない。」
「いえ…幸村様が無事なら…」
「………。」

幸村がじっとを見つめる。
何か?と首を傾げると、幸村は口を開いた。

「確かに…は俺と佐助との対応が違うな…」
「え…?」
「佐助は少々気にしていたぞ?」

は心当たりがあるようで、目を泳がせた。
「佐助様が…」
「佐助もを武田軍の一員と認めている。怖がることはないぞ?」
「怖がっているわけでは…!!あの…佐助様はなんと…?」
「俺を羨ましがっていた。佐助ももっとと接したいのであろう。」
「そ、そうなんですか…?」

羨ましがっていたと言ったとたん、は俯き顔を真っ赤にして、挙動不審になる。

「さ、最初は怖いと思ってたんです…」
「うむ…」
「で、でも佐助様、謝ってくださって…状況が状況だったので仕方のないことでしたのに…その後もたくさん気にかけて下さって…」
「う、うむ…?」

佐助を毛嫌いしているようではなく、ならばなぜ佐助には一歩離れた態度を取るのか分からなくなってくる。

「わた…私も…幸村様が羨ましいです…佐助様と信頼し合っていて…」
…?もしや…?」
幸村がの肩に手を置く。
「俺で宜しければ、協力いたす。教えて下され。」

面白半分でなく本気の言葉だと、穏やかな声と表情で伝わってくる。
は意を決して口を開いた。

「私では、私なんかでは相応しくないと分かっているのに、好きになってしまって…!!」
「旦那大丈夫?茶のおかわり…」
タイミングが悪いことに幸村に縋るように言葉を発したところで佐助が戻ってくる。
状況を見て、佐助は口を開けて硬直した。

「佐助…!!」

硬直したのはも一緒だった。
どこから佐助の耳に入っていたのか分からない。

「…大将なら許してくれるんじゃない?頑張ってねお二人さん。」

そして、湯飲みを置いて、邪魔者は退散しますよ〜と言い残し消えてしまう。

「………。」
は佐助の方が見れなかった。
だから佐助の悲しそうな顔に気づいていない。

「佐助が、好きなのだな?」
「………はい…だから…意識してしまって…」
「追いかけてみるといい。俺は応援する。」

頭を撫でられ、はゆっくりと頷く。
立ち上がって、脇目も振らずに走って行った。

「場所も聞かずに行ってしまうとは…もなかなか佐助の事が分かっているではないか…。」









佐助は木を拳で殴り、晴れない気持ちを発散していた。

「お、俺様ちゃんと笑えてたか?くっそー…油断した…」

もしかしたら…という気持ちはどこかにあったのかもしれない。
ああやっぱり、と脳内ですぐに納得できた。

「はあ…やんなっちゃう…」
その場でしゃがみ込み、項垂れる。
しばらくすると、草履で土を踏む音がした。
どんどん近づいてきて、佐助は後方を振り向く。

…」
「佐助様!!」
はあはあと息を荒げ、は佐助の腕に触れた。

「佐助様…あの…」
「どうしたの?旦那と一緒に居なよ。俺は邪魔しない…」
「あ、あの…」

佐助の言葉が耳に入ってるのか怪しくなる。
鼓動が早すぎるのは走ってきたからだけではないようだ。

「佐助様には、私、感謝していて…!!」
「え?ああ…どうも…?」
「佐助様…は…」

目を潤ませ、手が震えていることに驚き、佐助はの横に立って背に腕を回した。

「どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫です、あの、私いつも、佐助様の優しさに甘えて…でも…」

佐助も困惑したが、の方がもっと困惑しているようだった。
細く柔らかな体の心地よい感触に、先程の光景を思い出してこれから旦那のものになるのかと思うと多少心が痛むが、今のを突き放すことは出来ず、大人しく言葉を待った。

「佐助様は…私のことを…どう思ってらっしゃいますか…?」
「へ?」

まさか自分の気持ちを聞かれるとは思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。

「俺様?」
こくこくと必死に頷き、回答を待たれる。

の事…?」

好きだよと言ってしまっては、を困惑させるのではなかろうか。
しかし何か話が合わない。
ここでやっと、自分は勘違いをしているのではないだろうかと考え始める。

「頑張ってる子だと思うよ。たまに危なっかしいけどね。」
「そ、そうなんですか…」
「…嫌いじゃないよ。」
「!!!!!」

目を見開いて喜ぶに今度は佐助がびくりと体を震わせて驚いた。

「何…」
「あ、ありがとうございます!!!」

ぎゅっと手を握られ、ぺこりとお辞儀をされ、そして顔を真っ赤にして、では…と佐助に背を見せる。

「ちょ、ちょっと…?」
「申し訳ありません!!今の私にはこれが限界と言いますか…!!!」

そして勢いよく走り出した。

「………なんか、やっぱ勘違いしてたみたい?俺様…」
少々動揺しつつも、呆れたようなため息とともに頭を掻く。

「旦那に問い詰めてみよ…」

移動は消えずにの足跡を辿る。
わずかに残るの香りに笑顔になってしまう程、彼女を気に入っているとは自分も思わなかった。

「俺みたいな嘘吐きに恋しない方がいいと思うけどなあ〜」

嫌いじゃない、ではなく、かなり好き、なんだよねとぼそりと呟いて走り出す。

を見つけたら、今度は後ろから抱きしめてやろうと考える。

自然と歩幅が広がってしまう自分に笑ってしまった。

!!」
「ひえ!?佐助様…!?」

あっという間に追いつくと、腕を回して包み込む。

「さすけさま…」

想像以上に顔を真っ赤にして挙動不審になるが可愛らしい。

「そのの反応…俺様もうお腹いっぱいだわ」

くすくすと、耳元で笑うと回した腕にがしがみつく。

「いじわるやめてください…」
「これ普通なんだけど…」
「…心臓もちません…」
「俺様、戦忍だから。の心臓止まっちゃったらそれまでだなあ…」
「なんですかそれ…」
「俺になにされても死なないように気を付けて。これからどんどん可愛がっていくから。」

どうやら力が抜けてしまったらしく、がその場でへたり込む。
佐助は手を添えて、大丈夫?と問いかけた。

「…限界超えました」
「そういうときは助けてあげるよ。」
「ええ!?」

ひょいと簡単にお姫様抱っこされてしまい、は叫んだ。
初日でこのような状態で、この先どのように可愛がるつもりだろうとは心臓が本当に破裂するんじゃないかと思うくらい鼓動が激しい。
そうが考えていることなど見透かしている佐助は、ニコリと、意味深な笑みを浮かべてをさらにパニックに陥れた。

















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昂さまより、ちょっと気弱なヒロインが佐助と恋愛というリク頂きました!!
私佐助書くの下手ですねうおおおおんごめんなさい!!!!!!
素敵なリク、ありがとうございました!!!!