「ねえねえ、それ俺に?」
「違う。お殿様の御依頼品なの。」
「なあんだあ。すっげ真剣だから俺のために作ってんのかと思ったー。」
「お殿様に献上するんだから真剣なのは当たり前でしょう!!」
ぷくーっと頬を膨らませ、は天井を見上げた。
天井板が一枚無くなっており、そこから佐助がぶら下がっていた。
「久しぶりィ。」
「ちょっと成長した?」
「うん。あんたの情報入手できるくらいねえ。」
すた、と床に降り立って、へらりと笑う。
「ねえ、遊ぼうよー。」
「あのう、話聞いてた?」
かたん、と持っていた工具を置き、佐助の頭に手を置いた。
「お姉ちゃんはねえ、忙しいの。」
「へえ、そんなに忙しいなら、恋人作る暇もないよねえ?」
「………。」
今の仕事の話を持ってきたのは小十郎だった。
以前小十郎に試作品として送った小刀を殿様に見せたようで、それをまだ未熟ながらも品があると大層気に入ったらしく、もっと作って持って来いと言い出したのだ。
さすがに緊張して、無理だと言ってしまったのだが、これはお前にとって大きな試練かもしれないぞ?と優しい口調で言ってくれたのを覚えている。
もしかしたら
もしかしたら、お殿様に気に入られたらお城に行けて、もっと小十郎と一緒に居られるのかな…?と、ガラにもなくどきどきしてしまった。
(なのに小十郎の奴…)
次に発せられた言葉で、全身の力が抜けていったのだ。
『実は最近な、俺、畑仕事に目覚めちまって…。俺は野菜の栽培を頑張る。お前は武器作りを頑張る。…なんかいいよな…こういうの…』
何が良いんじゃアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
「あ、おい、…それ削りすぎじゃない?装飾通り越して抉ってるよ?」
「…いいの。これすでに失敗作だから。」
互いに打ち込めるものがあって、応援し合えるのは良いだろう。
だが、会えないのだ。
文の交換はしているが、忙しくて会う時間が作れない。
(小十郎は、これでいいのかな…)
俯いて、目線が冷たい床にいく。
ぎゅっと、着物を握った。
いつから自分はこんなに何かに固執するようになったのか。
「…。」
「ん、ああ、何?」
うっかり佐助がいるのを忘れていた。
腕をつかまれ、引かれる。
「遊んで。外行こうよ。」
「だから…」
じっと、大きな目に見つめられて、言葉を詰まらせた。
強い力で腕を握られ、これは彼のお願いなのではないのだと理解する。
私に気分転換させようという、気配り。
「……。」
最初に会ったときも、なかなか大人びた子だと思っていたが、今は
「…ありがと。」
中身が伴ってきていて、素直に格好良いと思えた。
手を繋がれ、ぐいぐい引っ張られる。
よく茶屋の前で止まるから、甘いものが食べたいのかな?と思い買ってあげようかと問うが、俺は要らないと言う。
「折角遠出したんだし、主にお土産でもと思ってね。」
「…お土産ね…」
お勧めのお店を紹介するというと、嬉しいとへらりと幼く笑った。
可愛い。
「………。」
「どうしたの?」
「あ、いや…」
立ち止まってしまい、佐助がきょとんと振り返る。
「やだよ。帰るとか言わないでね?」
「う、うん…」
握られる手に力がこもる。
羨ましい。
「ねえ、あっち行きたい。まだ帰さないからね。俺様満足させてよねー。来客なんだからねー。」
「はいはい。」
私もこんな風に素直になりたい。
(けど…)
これは佐助だから可愛いのであって、自分がやったら気持ち悪いんじゃないかと、頭が冷静だ。
「なりゃいいじゃん。」
「へ?」
「は、可愛いよ。」
何のことか悟るのに時間がかかった。
「俺様で練習してみたっていいし」
「さす…」
「俺様が素直にさせてやったっていいし?」
振り返って、にやりと笑う。
「ど、どういうこと…!!!!」
多分、顔が赤い。
読まれてた。
「そういうの、どこで覚えてくるの…」
「修行の一環、てか?」
「や、やめてくれないかな…!!!」
「いーやーだー」
気がつくと、裏道を歩いている。
こんな年下に翻弄されてどうする。
「気になる女の人が沈んでる時に放って置けるほどまだ冷徹じゃなくてさ、」
「…え…」
「そこに付け込んで自分のモノにしちゃうほど大人でもない。」
立ち止まり、くるりと振り返り、目線が合う。
小さいと思ってたが、同じ高さ。
もうすぐ私の背なんて追い越してしまうだろう。
「どうしたらいいかな。」
首を傾げ、困った顔。
両手を握られる。
「、俺のこと、好き?」
「好きって…」
「には他に好きな人居るんでしょ?でもは暗い顔。」
「それは…」
「俺様、忍だし、を幸せにしてあげるなんて言えない。けど安心させてあげる自信はあるよ?」
まさかこんな形で口説かれるなんて思わなかった。
「ねえ、俺に甘えてみてよ。」
「…ッッ…!!」
これも、忍術なのだろうか。
手から、目から、裏切らないからと、絶対受け止めるからと、伝わってくる。
…小十郎に、
小十郎に会いたいのに、
小十郎は、最近ずっと忙しそうで…
「………」
忙しいのに
文を送ればすぐ返事が返ってくるんだ
「あのね…」
素直になれないのは
会いたいなんて書いたら、会いに来てしまうから
「私、随分馬鹿で…」
クソ真面目な小十郎が大好きで
「不安になったらその分だけ…会えたとき嬉しくて…」
同じ気持ちでいてくれると、信用しきっていて
「一緒にいる時間も、離れてるときも、大事なんだ…」
言葉にしてみると、恥ずかしい。
「…素直になれたねー」
「え!?」
そう言われて、驚いてしまった。
佐助の言う『素直』は、小十郎が冷たいのー!!!私は会いたいのにー!!、と泣きつくようなものかと思っていた。
「まあ、フられたとかは思ってないけどー」
「佐助…」
「嬉しいよ。が純情な人で。俺様が恋人だったら、同じように一所懸命好きになってくれるでしょ?」
「あ…の…」
「だからこそ奪い甲斐があるよ。簡単だったらつまんない。」
「…も、もし私が、佐助に愚痴こぼしたりしたら、どうするつもりだったのよ…」
「んん?どうするって…別に考えて無かったよ?だって、俺の期待裏切らないもん。」
どうしてそこまで言えるのだろう。
「…違うか。裏切らないって言うか…」
空を見上げ、頬を軽く指で掻いた。
「の言う事ってなんか…予想外のこともあって、でも納得できて、…芯が通ってる感じ?だからねー、大好きで、もっと聞きたいなー、とか…そういう、裏切らない。」
また手を引かれる。
大通りに向かって。
「今のままで、十分素直だと思うなあ。」
のお勧めの店はどこ?と案内を促される。
「俺の方が子供だな。ちょっとだけ、優しくしたら俺を気にかけてくれるかなとか思ったのも本当。」
「佐助に優しくされて、嬉しかったのも本当。」
あっちだよ、と指で示すと、今度は隣に立って、ゆっくり一緒に歩き始める。
「…ね、いつか、俺の方が好きになったら、ちゃんとそう言ってくれる?」
「……。」
「変に意地はったりしないで…」
真剣な顔の佐助に、目を丸くしてしまう。
けれど、ちゃんと受け止めようと思って
弟に向けるような笑顔を浮かべ、
その後、からかうような、意地の悪い笑いに変えて、
「も少し大人にならなきゃねぇ〜…」
「意地悪だ!!」
酷い、とわざとらしく騒ぐ佐助に、は大袈裟なくらいよしよしと言ってなぐさめ始める。
頭をなでながら、
それは、もうすぐかもね
そう言葉を頭の中で考えれば、佐助の顔が赤くなる。
「この程度で赤くなるんじゃ子供かな?」
「ちが…!!が相手だから赤くなるんだ!!」
「嬉しい。」
また顔が赤くなり、佐助が後方に一歩後ずさる。
そして、消えてしまった。
「……お仕事の続きしなきゃなぁ〜」
ついでに佐助に文を出してやろう。
お勧めのお菓子を添えて。
「…あー、参ったなあ…」
あの調子じゃすぐに佐助はいい男になってしまうなと思い、未来に期待と不安が入り乱れる。
小十郎にも文を出す。
もっと私に愛情注いでくれと書いて。
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REIさんから頂きました、幼い佐助と年上ヒロインのお話でした!!
もう今回企画進むの遅くて申し訳ないー!!!
こ、こんな感じで大丈夫でしたか…!?
なんだかんだで小十郎オチだし…!!!
でも幼い佐助書くこと滅多にないので楽しかったです!!
リク、本当にありがとうございました!!!