「さーて、お仕事お仕事…っても何か気分上がんないなー」
佐助は木々を伝いながら移動し、青葉城を目指していた。

信玄からの書状を小十郎に渡すためであった。

「大将も律儀なんだから…」

先日、政宗が幸村と決闘するために甲斐領内に突然現れた。
結局は決着つかずだったのだが、その後小十郎が軽い謝罪文と野菜を送ってきたのでそれに対する返事だ。

政宗よりは小十郎のほうが話ができるだろうと思うのだが

「…あの人、忍嫌いなんだよね…」

それは相手が信玄か幸村の話だ。


「…お」

青葉城が見えてきた。

渡してさっさと帰ろうと思ったが

「…あ、を先に見つけて一緒に行ってもらおうかな」

そっちのほうが嫌な気分で帰らなくて済みそうだ。

こういうとき、のような存在が居る事がすごくありがたい。



塀に降りての部屋を見ると、人の気配がする。
2人分。

1つは独特の、ぼんやりと感じるの気配。


もう一人は……小太郎じゃないな…竜の旦那かな…

じゃあまず小太郎を探してを呼んでもらって…って、なんかまどろっこしくなってる…

「…人に頼むなんて俺様らしくないか…?仕方ない…いいや、俺様一人で…」

ひゅっ

「!!」

突然、矢が佐助の頬を掠めた。

小十郎を探そうと、の部屋に背を向けた瞬間、後ろから。


「俺は弓もいけるよ」
「…用件も聞かずに、失礼じゃない?」
「用件も言わずに、人の城うろうろすんのは礼儀か?」
「さ、佐助、大丈夫…?」

障子を僅かに開け、廊下に成実が弓を構え立っていた。

が心配そうに部屋から顔を覗かせている。


「お二人さんが一緒に居るとは思わなかったな」
「…ああ、邪魔しないでくれる?」
「し、成実さん、佐助、用あるみたいだし、聞いてから…」
「…そうだね。騒ぎにするのもあれだしねえ…」
「…」

やはりが居ると助かるな〜…ここ、皆さん血の気が多いから…

に感謝しながら、庭に降り立った。

「これ、右目の旦那に」
懐から文を取り出し、ひらひらと振ってみせた。

「小十郎さんなら政宗さんと一緒だよ」
「あー、やっぱり?、案内してもらってもいい?」
「うん、いいよ!!」
「…俺も行くよ。一応ね」
「…はは、どうも…」

何を警戒してんだ…
大体、うちの旦那はに惹かれてんだ…俺が手を出すわけ…

…あ、だから甲斐にお持ち帰りするかもって?
それならありうるかもねー…

苦笑いしながら、こっちだよと案内してくれるの後ろについて行った。





「政宗さん、小十郎さん、開けていいですか?」
「ああ、入れ」
「うん!!」
すっとが障子を開けると

ー…手伝ってくれー…」
「情けないですよ政宗様…!!」
書類に囲まれ、机に突っ伏している政宗とそれを叱る小十郎。

「……」
ありゃー…完全に客が来てるとか考えてないねこれ…

佐助を見た政宗は驚いたように目を見開き、がばっと起き上がった。

「…、先に言え」
「あ、ごめん」

にとってさっきのやる気のなさそうな政宗は日常茶飯事のようだ。

「何の用だ?」
「右目の旦那にはいどうぞ」

佐助は小十郎に文を渡した。

「…ああ、ご苦労さん」
「……」
背後でがにこにこしている気配を感じる。

おかげで俺が接しているというのに、右目の旦那は特に睨みつけることもなく普通に対応してくれている。

なんだか…

なんだか……



「……調子狂う…」
「……」

佐助はすぐには帰らず、の部屋でぼーっとしていた小太郎と一緒に居た。

「小太郎はここにいて違和感ないのかよ?」
「…?」
「慣れてんのか…」

佐助はごろりと横になり、胡坐をかく小太郎を眺めていた。

「…前はもっと緊張感あって、あっちはすぐキレたりしてよ…」
「……」
「ま、楽になっちゃったけどね」

なんだか物足りないなあと思う自分の感覚がおかしいのか。

「だったらちゃんと一緒に行こうなんて思うなよ」
「あー…成実サン…」

呆れながら、廊下に立っていた。

ちゃんがいたら平和になっちゃうに決まってんじゃン。そういうのがお好みなら、今度は一人でどうぞー」

「あー…時と場合によるってことねー…」

これほどまでの効果…すげえ…


確かに穏便にいきたいからに頼んだが、ここまで平和だとは思わなかった。


「佐助ー佐助ーお茶持って来たよー」

ぱたぱたと軽い足音とともにの声がした。

「おーっと、来たね、癒し娘」
「卑しい娘!?す、すいません、自分の分までお茶持ってきて…!!」
「違う違う、は癒し系だねって話」
「癒し系ー?」

は不思議そうな顔をしたまま、3人分のお茶を置いた。

「成実さん、どうぞ」
「俺さっき来たんだよ?それちゃんの分だろ?ちゃん飲みなって!!俺大丈夫!」
「いいんですか?」

「……」
やーっぱこの身分に縛られない微妙な位置はいいなあ…

なんつーか、仕事じゃなくて、自分の役目だからってんじゃなくて、自然に気配りしてるところとか…

旦那の嫁さんはがいいなあ…

…おっと、思考が脱線した


「癒し系といえば幸村さんじゃない?熱血だけどかっこいいし可愛いし!!」
「…俺、あんまり癒されてないんだけど…」
「世話しなきゃなんねえ奴は大変そうだよな」
「そうかなー?幸村さんのそばに居る佐助は生き生きしてるよ?」
「…まあ…旦那は、俺様の生き甲斐みたいなもんだし…」

そう言うと、はにこーっと笑った。

「佐助カッコいい」
「なんでそう言うかな…」

そんな素直に笑顔向けられると、俺様まで笑うから…

のそういうところがなぁ…」
「何よー」
「竜の旦那に大切にされるよなあ、こりゃ」
「…は!?」
「ん?」

の声も顔も、本当に驚いたものになった。

「さ、佐助にはそう見えるの!?」
「気のせいだった?」
「た、大切にしてくれてるなら…」

罵倒したり蹴ったりほっぺたつねったり私乗せたまま馬でマジ本気疾走とかしなくね!!!?

「……!!」
小太郎にとってはそれは日常茶飯事だったので、守る対象外の事だった。
、気にしてたのか!?と少し驚いていた。
そして少し落ち込んでしまった。
「あ、小太郎ちゃんごめん…あの、気にしないで…」
「え、ちゃん、そんなことされてたの…?」
「…、大変だねぇ…ウチに来る?歓迎するよ?」
「あれ…」

なんだか真剣に皆さん受け止めて…

「俺、殿に言っとくよ!!そういうのやめなって!!」
「し、成実さん…」
「旦那は女の子には破廉恥破廉恥言うけどそういうところはちゃんとしてるよ?」
「え、えと…」

…どーしよ…これ、明らか政宗さんの印象悪くしてるよね…

「だめだよちゃん!!甲斐には遊び以外で行っちゃいけません!!殿連れてくるよ!!そんで謝らせるから!!」
「い、いいですいいです!!!」
「よくないよ、。私はあんたのおもちゃじゃないってね、ちゃんと言いなって。」
「あ…の…えと…あの…」

どうしようどうしようどうしよう…

「だ…大丈夫だよー私、Mだし…」

……………

何言ってんのーって

……言葉が来ない…

「…ちゃんってそうだったんだ…」
「ゥえ!?」
「あー…うーん…ウチにはドSは…勘助あたりいけるかなー…戻ったら聞いてみるよ」
「ななななな何合点してんの!?」
「ちょっとびっくりしたけど、あの、うん、そういう子もいいと思うよ、俺」
「ししし成実さんー!!!!ちゃんたらまたそんな事言ってー、殿のフォローしなくていいんだよー?とか言わないの!?」
「そう考えると、そういう性癖の子は逞しいね!!いやあ、には敵わねえや!!」
「佐助まで!!」

違うんだ違うんだ本気でそう言ったんじゃないんだといっても二人は聞く耳持たずで





「竜の旦那」
「猿飛…まだ帰ってなかったのか」

佐助は政宗の部屋に突如現れ

「旦那もいい子見つけたよねぇ…これあげる。ま、ほどほどに楽しんで」
そう言って差し出したのは
「…んだこりゃ…鞭…?」
ぎいやああああああああああああああ!!!!!佐助見つけたー!!!!!!政宗さんに何あげてるのよー!!!!!!」
が政宗の部屋の障子を蹴り倒して現れた。

「…障子張り替えたばかりなんだが」
「政宗さんはこんなもの持っちゃダメです!!私がこれ捨ててきます!!!!」
「お前直せよ、障子」
「きゃあ!!!」
政宗はを鞭でぺしりと軽く叩いた。

「あれ、鞭は初めて?大丈夫だよ、そういうのは、慣れ!!!」
「佐助ええええええええええ!!!!!!」
「…何の騒ぎだ?」

小十郎が顔を顰めながら茶をもって現れた。
「右目の旦那はそういう方面達者そうだからこれ」
「…猿ぐつわ…?」
「やだあああ!!止めんか佐助ええええ!!!!ってかなんでそんなもん持ってんのー!!!?」
「あ、これも未経験?んじゃまずは俺が教えてあげようか?俺上手いよ?」

そういいながら、佐助は大きく跳躍し、と小十郎から距離をとった。

「いらねええええええええ!!!!!!!小太郎ちゃん!!佐助を捕らえて!!」
「……」

佐助の後方に小太郎が現れた。

「ね、小太郎もさ、が喜ぶ事してあげたくない?」

ピタ!!

「小太郎ちゃんー!!!!!佐助ー!!小太郎ちゃんは汚すなー!!!!!」


「…小十郎」
「はい」
「一足お先に見せてやりな」
「よろしいのですか?では…」

穿月!!!!!!
「「ぎゃあああああああああ!!!!!!」」

廊下一直線上にいた三人にヒット。

は辛うじて佐助と小太郎に守られ無事です。


「こ、小十郎さん…技カッコいいね…」
「ありがとうな、。もっと見たいか?」
「い、いいです、すいません、静かにします…」
「猿飛まで一緒に騒ぐんじゃねぇ」
「す、すいませんねえ…」
「……」

佐助ははこの環境じゃMになる事は無いなと思った。

なぜならは本気で怯えているし

目の前の人間は

Sじゃなく鬼だった。


…これに悶えていたら

病的だよ…


「佐助、…判ってくれたようでありがとう…」
「いえいえ…」