奥州青葉城。

本日は来客がいらっしゃってます。

「どーだどーだ!?この反物!!」
「へぇ―…いいもん揃えてんじゃねえか」
「こっちの茶器だって一級品だぜ―!!」
「あぁ、さっきから気になってた…そうだなぁ―」
「……政宗様」

室内で物を広げまくる二人に、小十郎はため息をついた。

「片倉さんよ、あんたもどうだい?」
「…元親よ、あんた殿をやめて商人になったのか?」
「言ってやるなよ小十郎ォ!!こいつの国は大赤字なんだからよ!!」
「…お前も言うなよ独眼竜…」



元親は奥州に遊びに来るついでに、政宗に商談をもちかけていた。

珍しいものが好きな、気の合う互いだから、元親は見事に政宗の欲しがる様な物ばかり選んで来た。


「小十郎!!お前この扇とかどうよ?」
「片倉さんが扇…ぷっ…」
「…喧嘩売ってんのか?」

怒りながらも小十郎は大人しく座り込んだ。

政宗に、無駄遣いはせぬようにと釘をさしていると、ぱたぱたぱたと軽い足音。

「あーにーき―」

元親の事を呼ぶ声。

「こっちだ!!」
「人の城ん中うろうろしないで頂きたい…」
「悪いな!!あいつ、やんちゃでなぁ」

「「……?」」

元親の顔がにやついている。

…女の声だったから…もしや…嫁…?


「あにき―!!」


小柄な銀髪の女が元親を見つけると、いきなり元親にしがみついた。

目立つのは首に巻いた、元親の眼帯と同色のバンダナ。

「…ぺ、ペアルック…まじかよ…!!キモい!!」
「(…ぺあ…?)誰だ?」

元親がデレデレしながら答えた。

「妹だ」
「あにき、陸釣りやらねぇと暇でなぁ。皆早く海に出たがってらぁ」

口調、どことなく似てるし。

「独眼竜に挨拶しな」
「あぁ、失敬。お初にお目にかかります、長曽我部元親の妹で、と言います。以後よろしく」

兄妹揃ってにこにこにこにこ。

「お前妹いたのか」
「ああ。船で待ってろよって言ったのによぉ」
「すまねぇ、あにき」

政宗はをじっと見た。

「……」
「政宗様」
「………」
「何を考えてますか?」
「…やるな元親。ストライクだぜ」
「…ん?なにがだ?」
「それもくれ」

政宗はを指差した。

「…は!?」
「政宗様!?」

いきなりにも程がある!!

「うん?」

はきょとんとした。

「気に入っちまったよ。くれ」
「ふ、ふざけんな!!こいつはこんな軽い性格だが、文武に優れてんだ!!手放すわけないだろが!!」
「全くですぞ政宗様!!もっとしっかり考えてください!!お家に関わる事ですぞ!?」

政宗が小十郎の肩にぽんと手を置いた。

「小十郎、落ち着けよ。こいつは元親の妹。こいつの意見を聞こうじゃねぇか。」

くいっと、を親指で差した。


「私?あ―…そうだなぁ…」
「悩むな!!嫌ならばしっと断るんだよ!!兄ちゃんは断る事を薦める!!」
「あにき…何でそんなに必死なんでい…。独眼竜が可哀相じゃあねぇか…。」

がぷーっと頬を膨らませた。

「わぁったよ独眼竜!!仕方ねえからやるよ!!なぁに、替えはあるからよ!!」

元親があんぐり口を開けた。

何を言い出すんだこの子は…

お兄ちゃんにはお前の替えなんてないぞ…!?
お兄ちゃんはお前がいなくなったら…


「はい」


は政宗に

首のバンダナを解いて渡した。


「おう、thank you」
「さんく…?感謝の言葉?」
「ありがとう、だ」

それを聞くとは嬉しそうに笑顔になった。

「あはははは!!いやその、ってか私が巻いてたので悪いなっ…!!あぁ、それとも新しいの用意したら送るか?」
「いや、これがいいんだ」
「そ、そうか―?使うなら洗ってからにしろよ?」


え―…バンダナの事だったのかよ―…


元親は脱力した。

しかし小十郎はまだふるふる震えていた。

「俺らの勘違いだ、片倉さんよ…力抜けよ」
「な、なんたること…」
「え?」


あの女…俺ですら見抜けなかった政宗様の意向を瞬時に的確に理解し、さらにそれに応えただとぉぉぉぉぉ!!!?


「…ちっ…負けたぜ…嫁にでもなんでも来な…げふ…!!」
「かかかか片倉さ―ん!!!!!」

小十郎撃破。


「政宗!!片倉さん倒れちまったぞ……っは!?」


政宗に振り返った時、元親は見た。

にやりと笑う政宗の顔を……


元親は冷や汗をかいた。


は、謀ったな―!!!?



政宗はと会話しながら少しうつむいて、に気付かれぬ様、元親に余裕の笑みを向けた。



―…あぁ、そうさ。
 この場で一番厄介なのは小十郎…
 俺を一番理解してくれているし、俺の事を一番に考えるし、過保護だ…
 よって俺の独断でこいつを娶りたいと言っても最初は必ず反対するだろう…
 だがもしそれが小十郎の勘違いであったなら…?
 俺の真意を見抜けなかったとして、最低でも落ち込んでこの場から出て行く…
 まんまと嫁になる許可を出したのは予想以上だったがな…
 しかもこの女…勘違いすることなく、俺がピンポイントでバンダナを指差している事に気付いた…
 元親の妹だからって甘く見ていたが…なかなかの奴だ…
 この女の事も試す事が出来て一石二鳥だぜ…
 頭の良い女は嫌いじゃねぇ…
 しかも顔も良いからな…元親の妹なら気も合うだろうし…
 ……この女…俺が貰った…!!!



―…畜生政宗…!!全て計算だったというのか…!?
 味方だと思った片倉さんはやられた…
 ここは俺がを守るしかねぇ…
 はまだ嫁には早い!!!
 しかし困ったぜ…まさかこんな事になるとは思わなかったから、にはよく政宗の話をしている…!!
 度胸のある良い奴で、船の良さを知ってると…
 あいつも船が好きだ…
 あいつの中で、政宗の評価は高いだろう…
 の嫌なところを政宗に見せて幻滅させるという手もあるが…正直言っての嫌なところなんか思い付かねぇ…!!
 シスコン?なんとでも言え!!
 ここは政宗に醜態を晒して貰い、に嫌いになってもらうしかねぇ…!!!



「…ま、政宗ぇ〜…うちのやつを惑わせないでくれるか〜?この前言ってた遊郭の子はどうしたよ?飽きたのか?」


―女遊び激しいってのは、幻滅するだろ…!!

―元親、甘ェよ…!!


「ah?あいつは好きな男が故郷に居るんだ。それを奪おうなんて気は起きねえよ…とっくに振られてんだよ、俺は」
「え?そんなことが…?政宗、優しいのね」

―ぎゃあああ!!
 てめぇぇぇある事ない事言いやがってえ!!!


政宗はに向けて、にこりと笑ってみせた。

「優しいのは俺じゃねぇよ…元親お前…あの女の事、ずっと気にかけてたのか…。心配すんなよ」


ちょっとおぉぉぉぉ!!
 それじゃまるで俺も一緒に行ったみてぇじゃんかよぉぉ!!!
 …いや行ったけど…
 そそそうじゃなくて、遊郭って…肉親が遊んでたって事のがやばくない!?


「あにき、遊郭行ったんか。なんでぇ、前はさ、俺にはんなの必要ねぇとか言ってたのに」


―ははは!!ざまぁねえ…!!マイナスイメージだな元親ぁ!!
 この調子でお兄ちゃんなんか嫌い!!私奥州に居たい!!って言わせてやるぜ!!



―ち、畜生―!!
 なんだか幻覚見えてきた!!
 政宗の背後に林檎食ってる黒い死神が見える!!
 惑うな俺…!!
 ってゆーか政宗!!なんでうちの妹なのお!?
 いつ惚れたんだよ!!
 訳わかんねえよ!!



―娶れば四国との繋がりが強くなる。



―くそ…!!
 は政には関わらせねぇ!!



―よって船にいっぱい乗れる。



―ええぇもっと認めないよそんな理由!!
 普通に言えば良いじゃん!?乗れば良いじゃん!?
 お兄ちゃん認めないよ!?



―それにそいつ可愛い。
 好み。



―そっち先言いなよ!!



にらみ合う二人をよそに、はまだ倒れている小十郎の頬をぺしぺし叩いていた。

「片倉さん?気分悪いのか?風に当たった方が良いだろう?外に出ようぜ?」
「…は!!い、いや…」
気がついた小十郎は、気遣い無用だ、政宗様と仲良くやれと言おうとしたが

「…そうだな、出るか」
思い切り敵対している二人を見て、これは関わらないほうがいいかなあと思った。




「おいおい、元親。俺との会話聞いてたか?あいつ凄い俺にはまりそうになってんじゃん?」
「あいつは誰にでも優しく接すんだよ!!勘違い甚だしいぜ!!元就にすら優しいんだぜ!?」


と小十郎が出て行ったことに、二人は気がつかなかった。




「大丈夫か?片倉さん」
「ああ…」

優しい娘だ…活発そうだし…政宗様に合うかもしれんな…

政宗がもうすぐ婚約するのかと思うと、小十郎の目尻に涙が…

「…政宗様はお優しい方だ…。お前のこと、幸せにしてくれるだろう…」
「なー。今後、兄共々よろしくねー。いいお友達になれそう」
「……」

おっと、そういえば正式に決まったことじゃなかった…
先走ったぜ…


「奥州を経ったら、次は中国向かうんだ」
「そうなのか…」

ん?
なんだか嬉しそう?



「…元就様、元気にしてるかなあ…」
「……」

あれ?

「長曾我部と毛利は、敵対してると聞くが?」
「う、うん。仲悪ィよ…。でも、たまに会うんだ。毛利様は、冷酷って言われるけど…それが毛利様の全てじゃないんだ」
「えーと」
「あ、あの、さ、寂しがりやなところもあるの!!一緒にいると、た、たまに、だけど、お優しい言葉かけてくださる事も…!!」


顔真っ赤にして…

……恋じゃん。


小十郎の目から、寂しさではない涙が滲んだ。


政宗様…!!失恋…!!
告白もしてないのに…!!


「お土産どうしようかな…。ねえ片倉さん…男の人って、何もらったら喜ぶかな?」
「…そ、そうだなあ…」

政宗の部屋から、取っ組み合いを始める、ばたばたという音が聞こえてきた。




ののろけ話を聞きながら、小十郎は、政宗様になんて言おうかなあと考えていた。

「…私が、元就様支えてあげられたらなぁって…」
「…」

とりあえず、そんな事関係ねえ!!奪う!!と言い出したら、諌めようと、本当に幸せそうに話すを見ながら思っていた。