元就は一人、自室にこもって政務を行っていた。

誰か一人でも彼の集中を妨げようとすれば、問答無用で切り殺すくらいの

それほどの気を放ちながら。

そんな場を目指す、一人分の軽い足音。

「元就!!元就!!お花生けたんだけどどうこれ!!」
「寄るな。三里くらい寄るな。」
「うわああああああひどいよ―!!!!」

バチィィィ!!!!!







「…大丈夫か元就」
「大丈夫じゃない」

元親が元就を訪ねると、元就は焦げていた。
焦げながらも政務を行っていた。

「また姉ちゃん?」
「…それ以外に何がある」
「まだ自制できないのかよ…ちなみに姉ちゃんは?」
「幽閉した」
「元就ぃぃぃぃぃ!!!!」





元親が地下へ赴くと、一つの牢の鉄格子が破壊されていた。

姉」
「あ、元親、来てくれたの―…?」

すぐに外に出れるのに、は牢の隅で小さく丸まっていた。

体からはパチパチと音がする。

「一段と強くなってねぇか?」
「きっともうすぐ冬なの…静電気が溜まる季節なの…」
「…冬はまだまだだぜ、姉…」

は元就の実の双子の姉であったが、どちらかといえば元親と仲が良かった。

元就の事は大好きなのだが、いろいろ問題があった。


姉、ちょっと落ち着け。俺も近寄れねえ」
「ご、ごめんね、もう少し…だと…」


雷の属性を持ったというか持ちすぎているは、コントロールも上手く出来なかった。
元就に迷惑ばかりかけているので、嫌われても仕方ないと自身で 感じているようだが、やはり露骨に嫌われると感情が乱れて余計放電する。

そうすればさらに嫌われて、嫌な連鎖が続くのだ。

姉、とりあえず行こうぜ」
「元就…もう怒ってない?私、本当に駄目だね…自分の力、自分で上手く扱えない…」
姉…」

は元就とは正反対だ。
気が弱すぎて、放っておけない。

…しかし、容姿がそっくりな為、元親はどうも調子が狂う。

姉、こんなところに居るからウジウジしちまうんだよ!!外行かねえか?なんなら海見に行こう!!」
「元親…」

は、元親を見上げ、目を潤ませて

「元親ー!!!!」
「ぎゃああああああああビリビリするー!!!!!!!!」

優しい元親に感動して、は気が高ぶって放電しながら元親に抱きついた。







元就には許可とってあるから、と嘘をついて、元親は落ち着いたを外に連れ出した。


「元親、どこいくの?」
「もう少し」

に目隠しをして、手を引く。

元親を信頼しきっているは、疑う事無く楽しそうに歩いていた。


ギッ ギッ

「何の音?」
「橋の上を歩いてるんだ」
「そっかぁ!!危なくないよね?」
「落ちることはねぇさ」
「うん!!」

元就ももう少しの様に人を信用すればいいのになあと思う。

姉は信じすぎて危ないが。

実際、元親は橋など歩いていなかった。

二人が立っていたのは

姉、目隠し今外すからな」
「うん!!どこについたの?」

外すと、はゆっくり瞼を開けた。

目の前には眩しい位の青空と、地平線。

「あ、あ、あれ?」
「ようこそ、俺の船へ」

船はすでに出航していた。

「な、な、なに…」
「怒らないでくれ、姉。」

はきょとんとしたままで、怒る気配など全く無かったが一応言ってみた。

「俺の知り合いに、姉と同じ雷属性の奴がいるんだ。そいつなら姉のその異常な放電、何か知ってるかも」
「元親…」

パチ…

あー…姉…感動してくれてる…

感動して気が高ぶってパチパチパチ…

「元親ありがとうー!!!!」
「またかああああああ!!!ぎゃあああビリビリするなーおい!!!!」








何日もかけて船旅し辿り着いたのは、四国よりもずっと寒い北の土地。

元親とを出迎えたのは、ガラの悪い男たち。

「ちイッス!!!俺らが筆頭の元に案内しやすんで!!」
「おう」
「ももも元親…」

はビビッてパチパチしていた。

「大丈夫だ、姉。…こ、怖いのは判るがちょっと今は俺に触れないでくれ…」
「うわあああん!!私やっぱりこの体どうにかしたいよー!!!」


案内されて、奥州青葉城に着くころにはの放電は収まっていた。

「おう!!元親!!!」
「政宗!!」
「え、え、え」

城に入る前に、門の前で眼帯をした男が立っていた。

「ま、政宗、って…元親…この方が…」
「ああ、伊達政宗だ。姉も、名前くらい知ってるだろ?」
「で、でも…」
「その女が、毛利元就の姉ちゃんか。双子だってな?毛利元就もこんな顔なのか?別嬪じゃねえか」

政宗は堂々と近づいてくる。

「ん?どうしたんだ?」
「ああ、姉はお嬢様だからなあ…こんな風に外で会話なんてめったにしねえから、驚いて……お…驚いて?」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!」

元親が感電した。

「oh〜…聞いた話よりスゲエな…」

政宗は平気な顔で、をじっと見つめた。

「Hey、。俺は伊達政宗だ。」

元親が感電してしまって慌てるに、政宗は手を差し出した。

「あ、あ、ええと…」

は慌てて深呼吸し、パチパチと手からの放電を止めようとしたが、なかなか止まらない。

政宗は目を細めて笑い、の手を強引に取った。

「あ…」
「俺も同じ属性だ。なんだこれくらい平気だぜ!!」

ぎゅううと握る政宗の手に驚いたが、それと同時に嬉しさがこみ上げた。

「政宗様…!!」
「おいおい、それじゃ俺もあんたを様ってよばなきゃなんねえのか?堅苦しいぜ。政宗でいい」
「は、はい…政宗…な、なんとも無いの…?」
「ああ」
「…!!!」
「…げ」

は政宗を見つめながらぼろぼろ泣き出した。

「わ、わたしのまわりに…こんなことしてくれる人いなかった…」
「そりゃあ冷たい野郎共に囲まれてたんだなあ…な、泣く事ねえよ。ここにはよ、もう一人雷の」
「政宗様!!!!!」

いきなりの背後からの叫び声に、政宗はびくっとした。

「こ、小十郎…」
「客人を泣かせるとは何事ですか!!全く!!この方は姫様なのでしょう!?こんなところに居ないでちゃんと城で出迎えてくださいって何度言えば判るのですか!!」
「か、堅っくるしいのは苦手だぜ…それに、元親の知り合いだし…」
「だからといって何でもして良いとお思いか!?」

小十郎と呼ばれた男は、政宗に小言を吐きながらずんずんと迫ってきた。

政宗は咄嗟にを背後に隠した。

「小十郎!!お前こそ姫さん泣かせるような顔してるじゃねえか!!眉間の皺を取れ!!」
「現に泣かしているのはあなたでしょう!!」
「ち、違うぜ!!勘違いするな!!!!何とか言ってくれよ!!」
「政宗がー…政宗がぁ…私に…ひ、ひく…う」
「そこで止めないでくれー!!!!!」
「政宗様ぁ!!!!」


小十郎も少しパチパチしてきたところで、元親が復活し、のっそり起き上がった。

「いてて…ああ、片倉さん…あんたも話は聞いてるんだろ?政宗はの手を握ってやっただけだ。は感動したんだよ…」
「…手、ぐらいで?」
「放電してるに触れる奴なんてめったにいねえからよ…」
「そういうことだ小十郎!!俺紳士だろが!!」
「…申し訳ありませーん」
「なんだそのダルそうな謝り方ー!!!!!!!」

小十郎は、普段の行いが悪いから勘違いしましたと言わんばかりに顔を顰めながら謝罪した。

「二人とも、私と同じ属性なのですね…!!嬉しい…!!」
「あ、ああ、名乗ってなかったな。片倉小十郎景綱と申します」
「毛利と申します。」

は小十郎にぺこりと頭を下げると、政宗に向き直った。

「なんだか、いつもの私と元就を見ているようでしたわ」
「あん?」
「私もよく元就に怒られてしまって…」

政宗は、HAHAHA!と大きく笑った。

「姫さんが何言ってんだよ!!まさかあんたみたいな奴が、政務溜め込んで怒られたりしないだろ?」
「政務ではございませんが、力により文を燃やしてしまい、怒られます」
「…姫さんが、城のモン壊して怒られたりしないだろ?」
「……政宗様?何を壊したんですか?」
「盆栽を台無しにしてしまい、怒られる事はよくあります」
「……勝手に、城抜け出して遊びに行ったり」
「俺とよくやるよなあ、姉。ちなみに今日もそうだわ」
「え!?元親!?許可取ったっていったじゃん!?」
「…政宗様?一体何を壊したんで?」

今度は政宗が感動した。

「あんた…俺と気が合いそうだな…!!」
「政宗…!!」
がしい!!と手と手を取り合うと、二人して放電しだした。

元親は巻き込まれないよう警戒して、少し距離を置いた。

「…で、政宗様?何を壊したんですか?」
「ここで話すのもなんだ…!!中に入れよ!!」

政宗は冷や汗をかきながら手を引いて、小十郎から逃げるように行ってしまった。

元親は、二人を追いかけようとする小十郎を止め、姉が嬉しそうだから今は放って置いてやってくれと懇願した。



離れに行き、二人で並んで話を始めた。

「生まれたときからこんなに強いのか?」
「いえ…強くなってきたのは…元就の初陣以降でしょうか…」
「へえ」

政宗は興味深そうな顔をし、元就の話を聞きだそうと思った。

「毛利元就…冷酷だと聞くな。部下を自分の策を遂行するための駒としか見てねえと…」

「ええ。それがあの子のやり方です。」

「……」

そんなことないです!!と否定にかかるかと思ったのだが、は冷静に受け止めた。

「…それが原因とはおもわねえか?あんたのその放電。」
「…え?」
「弟さんのやり方…昨日接した人間が今日死んでる…そんな事、たくさんあるだろう?そりゃあこんな世だから、んな事どこにでもあるかもしれないが、あんたは普通の倍は経験してきてるんじゃねえのか?辛ぇんじゃねえか?精神的に参ってるんじゃねえの?」
「……」

は俯いてしまった。

「ああ、その、なんだ、マジでその体質、変えたいんなら、ここに滞在してもいいぜ?俺も小十郎も感電する事はないしよ。少しは落ち着けるんじゃねえか?」
「そ、それは、できません…」
「Why?何故だ?」
「あ、あの子が、心配です」

まっすぐ政宗を見つめるが、とても意外だった。
喜んで!!と言うかと思ったのだが…

「私は、嫌われていても、元就のそばで元就には出来ない事をやってあげねばなりません」
…」
「兵の方を労ったり、お花を生けたり、旬の食材を揃えてあげたり、笛の音を聞かせてあげたり…そ、そうしないと、あの子も国も、戦馬鹿になってしまいそうで…!!」

両手で顔を覆って、ああ…と嘆くので、どうやら戦馬鹿になった元就を想像しているようだ。


「…そうだな」

譲れないモンがあるのは、良い事だと思う。

その点だって、俺と気が合う。


「元就、あんたの事、嫌いじゃないと思うぜ?」
「え?」
「俺だったら、あんたみたいに強い属性持つ奴、戦で絶対使う。訓練させてよ。」
「…」
「元就、あんたを守りたいんだろうよ」
「……えへへ、帰りたくなった」
「そうか」

の頭をぽんぽんと叩いて、政宗は立ち上がった。

「さっき、旬のものとか言ってたな?料理すんのか?」
「ええ、料理はたまに。私は食材の手配の方を主にしてるんですが。」
「働いてまあ立派な姫さんだ!!うちの野菜、持ってくか?小十郎が作ったものだ。美味いぞ?」
「あ、ありがとう!!政宗!!」
「あと、元就に文渡してくれるか?」
「??はい!!あ、あの、政宗…」

が立ち上がり、政宗の袖を掴んだ。

「私も、戻ったら政宗に文を書いてもいいでしょうか?」

聞かなくても良い申し出に、政宗はちょっと可愛いと思った。

「もちろんだぜ?楽しみにしてる。俺も書く。」
「ありがとう…!!」






小十郎の野菜を貰って、帰路に着いた。

城に戻ると、元就は非常に怒っていて、と元親はひたすら謝った。

「全く…!!姉上も姉上だ…!!元親の言葉をいつも鵜呑みに…!!」
「元就…あの、これ、伊達政宗から預かったの…文…」

終わりそうに無い説教にうんざりしたは、タイミングを伺い、元就に文を渡した。

「…独眼竜の…」

興味はそちらに移ったらしく、二人はほっとした。

「……」


『毛利元就

姉ちゃん可愛いじゃねえの。
厄介払いしたいんならいつでも歓迎するぜ。

       伊達政宗』

それだけ。

「あの…小僧…!!!!」

元就はくしゃりと文を握り締めた。

「姉上は…渡さぬ…!!」
「…え?」
「っ!!なんでもない!!姉上!!もうこのようなことは勘弁願いたい!!外出時はせめて家中の者に言伝を!!」
「う、うん…」

聞き返しはしたが、元就の言葉はしっかりに届いていた。

「えへへ…」

体質が変わるかどうかは判らないけど、弟に愛されてると思うと、自然と心にゆとりが持てました。

「元親、ありがとうね」
「いいえ、何だよ姉…良い顔しちゃってよ…」


なんだか良い方向に向かってるみたいだから

近々、政宗に良い知らせを届けられそうです。