幸村は椅子に座って顎を机について、目の前の光景を眺めていた。

…数学の宿題忘れたって…」
「ごめんなさい佐助!!昨日部活で疲れて帰ったらすぐ寝ちゃったの…!!」
「先生に任されたんだしさ、とりあえず次の社会の教材取りに行こうぜ?」
「その次の授業が数学〜!!!ごめん佐助…!!少しだけって先生言ってたし、佐助に任せて良い…?」
「だめ〜。ほら、慌てるから公式間違ってるって。」
「あああもう〜!!!」
「行ってからでも大丈夫でしょ。ほら、行くよ。」

佐助がぐいっとの腕を引く。
軽く引いたつもりだが、は急に立ち上がる形になり、バランスを崩した。

「あっ…いった…」
「あ、ごめん!!」
「大丈夫、少し足捻っただけ。」
「右足…!、そこ先週捻挫したばっかのとこだよな!?悪い、ちょっと見せて。」
「えぇ?いいよいいよ…そこもう習慣になってて…」
「だめだってそういうの!!ちゃんとしっかり治さないと…」
「佐助…」
「え?」

じっと見つめられ、佐助は喋りが止まった。

お節介だった?

それとも、優しいねって、思ってくれているのだろうか?

「お母さんみたいね。」

佐助は露骨に肩を落とし、眉を八の字にしてしまった。







は委員会の集まりで教室には居ない。

佐助は窓辺に寄り掛かってうなだれていた。

「お母さんってなくない?うわ〜ちょっと俺様ショック…」
「…しかし俺から見ていてもそう見えたぞ?」
「旦那までそう言うの!?」

紙パックのいちごみるくを飲みながら、幸村はこくりと頷いた。

「佐助は女子の扱いに慣れているはずなのに、の前ではだめなのか?」
「うーんまぁ…そうなんだよね…」

どうしたらいいかなぁ、と幸村に聞くが、正直あまり返答に期待は持てない。
幸村は自分がに恋心を抱いていることに気がついて無い。

「むぅ…しかし俺は、佐助とのやり取り、見ていて楽しいぞ!!」
「…ありがと」

うなだれようとしたが、その途中で好ましくない光景が視界に入り、首を上げる。


「慶次、ありがとうね。」
「力仕事は俺に任せなよ!!」
「出来る範囲は自分でやるよ〜」
「またまたそんなこと言って…」

が重い物運んでいるのを見た慶次が手伝いをしたんだなと状況は判るよ。

でも、何での肩に手を回してるかなぁ〜!!!!?

「じゃあまた…」
「お礼にお昼おごってくれるっての、忘れないでよ!!購買に集合ね!!」
「そんな事言わずに…食堂のものおごるって。遠慮しないで。」
「違う違う、良い天気だからさぁ、と外で食べたいんだ!!」

「…………。」
「佐助。」
「……何か?」
「目が据わってるでござる。」
「すみませんね…。」
「佐助も慶次殿のように、に接すればよかろう?」
「そうですね…」

それが簡単に出来れば苦労はしない…
その言葉を飲み込んで、佐助は幸村に笑顔を向けた。

「…さっきから温い話が耳に入るんだが?」
「竜の旦那は大人しく寝ててよ…」

幸村より2つ後ろの席で机に突っ伏していた政宗が顔を上げた。

「クソガキじゃねぇんだ。もっと攻めたらいいじゃねぇか。…方法は知ってんだろォ?」

ニヤリと笑う政宗が、気に食わない。
自分にあるのは、と何かしたいとかではなく、が自分を見てくれたら幸せを感じる、そんな柔らかい感情だ。

「童貞君に言われても…」
だっ、だだだだだだだだ誰が童貞だってええええ!!!?
ふざけんな猿飛ィ!!!!政宗様は純粋なお方なんだ!!!だけどちょっと背伸びしたいお年頃なんだ!!!その辺を汲み取りやがれ!!!
「小十郎てめぇは空気を汲み取りやがれ!!何言ってんだ恥ずかしいな!!!!!」

小十郎先生はどこからともなく走って来て教室のドアのところで急停止し、真剣な顔で叫んだ。
政宗の顔が真っ赤になっていった。

「お、なんだなんだ、政宗、童貞なのか?」
「元親まで来るんじゃねえ!!!!話脱線してんだよ!!!猿飛の話が主題だろ!!!!!」

元親は元就に借りたであろうノートを小脇に抱えながら政宗の背後に回り、肩に手を置く。
それを瞬時に政宗が振り払い、睨みつける。

それを気にすることなく笑顔のまま、元親は佐助に向き直る。
「どうしたんだよ?猿飛」
「ん〜…にさあ、お母さんみたいって言われた。ちょっとショック。」

佐助は元親に視線を合わせず、女の子同士で話をしているに視線を送る。

「お母さんかよ。逆にすげえって。」
ククッと喉で笑われる。
「そういえば、元親殿はとよく一緒に居るでござるな。」
「まあな。」

元親は、と小学校から一緒で、お互いに気を許している間柄というのは知っている。
たまに嫉妬していたりしたが、ある日の帰り道、たまたま元親とすれ違った時に話しかけられた。

『お前、の事好きなんだろ?』

その瞬間、この男とは、そういう関係ではないんだと感じられて、

『まあね』

いつもの自分なら適当に誤魔化すところを、即答してしまった。


って、母親と仲良いんだぜ?」
「何の情報さ…」
「良かったじゃねえか。」
「是非お会いしたいや。」

たまに相談していたが、途中から、俺がに相応しい男かどうか見定めるような目をする様になったのが居心地悪くて、直接元親にこの話をするのは避けるようになった。

がふと、佐助の視線に気付き、何かを考え、はっとし、鞄の中を物色し何かを取り出した後、てくてくと近づいてきた。

…俺様別に呼んでないよ〜可愛いなあって、見てただけだよ〜

そんなセリフが軽く言えたら、照れたが見れるのかね?

「佐助ぇ。」
「何?」
「あげるー。」

チョコレートやらグミやら、の好きな可愛らしいお菓子を渡される。

「美味しいんだよ。」
「何で俺だけ?」
「さっき結局、数学のノート見せてもらっちゃったから。」

ありがとう、とにっこり笑ってくれる。
それだけで嬉しくなるなんて、思春期の男としてはどうなのだろう。

はいつもそんなにお菓子持ち歩いてるのかよ…」
「いつもじゃないよ!!」
「本当かよ…太るぞ?」
「いつもじゃないって!!!!!!」

元親がからかい始めてしまい、は元親のほうを向いてしまった。









「えーと、で、これ何なんだい?」

佐助と元親と慶次が、昼ご飯を持って裏庭のベンチに座っている。
回りからの、奇妙な組み合わせだなぁと向けられる視線は無視する。

は来れなくなったんで。」
「そうなの?で、代わりにあんたらが俺とメシ?」

佐助はキャラに合わずそわそわしてしまった。
慶次への用は1つ。
それをさっさと聞いて解散したい。

「なあ、あんたさ…とどうなのさ?」
「友達だよ。は可愛いよ。」

へらっと無邪気に笑って慶次が答える。

「友達ィ?異性の友達と学校であんなくっつくんだ!?」
「おいおい慶次ィ、俺の可愛い妹分に何馴れ馴れしくしてんだよ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、そんな付き合っても無いんだ、友達って言うしか無いだろう?」

二人に掌を向けて詰め寄ってくるのを止め、慶次は一度、うーんと悩んだ。

「じゃ、じゃーあの、俺の、片思いー。いいでしょ?元親ー」

今度は頬を微かに染め、恥ずかしそうに言う。
それに元親はイラっとし、佐助は眉根を寄せた。

「て、てめえ!!!!一昨日一緒に帰ってた女はなんだあ!!!?」
元親は慶次の胸倉を掴みあげた。
「え、ええ?一昨日…は、あれ、部活の先輩だよ!!一緒に帰ってないよ!!!ちょっと話してただけだよ!!」
「マックに入ってったの見たぜ!?」
「だからマックで話してたんだよ!!!後輩指導で悩んでたんだよー!!!」

元親としては、女にだらしない奴にが狙われようものなら相手を病院送りにして停学になろうが退学になろうが望むところだろう。

「俺、本当…だけだって!!会ったときから気になってて…」
「あ…あんたが…あんたが恋敵かよ…!!!!!」
「ん?あれ?佐助ー?」

佐助は壁にオデコを当てて、がっくりと暗い影を背負っていた。

「お…俺はあんたみたいに出来ないんだよ…!!止めてくれない本当もう…」
「さ、佐助?」
「そ、そうだ、もうこの際お母さんになろう。そうすりゃに毎日お弁当持ってきて、ジャージとかも洗ってあげて、部屋を掃除しにお宅に伺ったり、送り迎えしたりできるんじゃ…」
「佐助正気!?お前すんごいキモい発言してるよ!!!?」

頭を抱えてうずくまる佐助を見れば、慶次は状況が理解できる。

「佐助…もが好きなの?お母さんて何?」
「あー、佐助なあ、と今日話してたら、お母さんみたいだって、言われたんだと。」
「お母さん…」

ばっと佐助が勢いよく立ち上がり、慶次に振り向く。

「笑いたきゃあ笑いなよ!でも俺様は負けないっての!!」
「佐助…お母さん…」
「と、とりあえず今後はに甘えて、佐助って弟みたい、に昇格し、その次はなんか…男らしいことして異性として意識してもらって…」
「佐助ェ!!慶次に宣戦布告なんだよな!?弱弱しい言葉の数々なんだが!?」

元親が、落ち着けと佐助の肩に手を置くと同時に、今度は慶次が勢いよく立ち上がる。

「慶次?」
「お、俺だって…」

ぎゅうっと拳を握り、くるりと背を向ける。

「ま、負けないからね!!!!!!」

そしてダッシュで校内に入っていってしまった。

「なんだ?」
「風来坊…俺様のお母さん計画にビビったみたいだ…」
「いやそれは無いだろう…」









慶次が廊下を走っていたら、長政に注意された。
しかし構わずに、が居そうな図書室に向かう。

と交わした言葉を思い出す。


って、どういう男が好きなの?』
『好みって、好きになった人が好み。』
『そうじゃなくてさあ、ちょっとくらい、理想ってあるでしょ?』
『そういうのって、年齢によって変わるんだって。』
『今は?』
『…うーん…』


今思い出せば、言いたくなかったのだろう。
恥ずかしかったのだろう。
バレたら嫌だと、思っていたのかもしれない。


『…やっぱ、大人っぽいのに魅かれたりしちゃう。』
『へえー』


俺は能天気に、教えてくれた、嬉しいなあ、なんて。


『お母さんみたいに、優しく見守ってくれる人。』


「俺だって!!!お母さんになれるよー!!!ー!!!!!!!」


もはや意味不明の言葉を叫んで慶次は走る。

通り過ぎる姿を、市は教室で机に座りながら目で追った。


「これも…市のせいね…」
「市〜、この音楽良いねえ。バンド名何?」

市はにイヤホンを付け、慶次に見つからないようを隠していた。

…」
「にしても市って見かけによらず大音量でipod聞くんだね〜」
「もう少し…気をつけたほうが…いいわ…」
「何が?」










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なんだか市が書きたかった…
麗舞蝶さまより、佐助がヒロインにおかんみたいとか言われてショック受けて、どうしたら好きって言われるかとみんなに相談する〜みたいな、ギャグをとリク頂きました!!
遅れて本当に申し訳ないです…!!
楽しく書かせていただきました…!!学園慣れてなくていろいろ懺悔なんですが…こんなもので宜しければ読んでやってください…!!
ではでは、リク参加本当にありがとうございましたー!!!