空をぼーっと眺めていたら、黒い影が見えた。

「…佐助だったりして〜。」

は縁側で寝転びながら、そんなことをボソリと呟いた。

「あ、バレた?」

返事が聞こえてそちらに視線を向けるも、に動揺した気配はない。

「あれ、びっくりしないの?」
「びっくりする元気が無いの…」

に柴犬のような耳が付いていたら、頭にぺったり伏せているだろう。
ひどく落ち込んでいる。

「何?喧嘩した?」
「…大事な書状に、墨を零して、一部読めなくなりました…」
「そうなんだー。」

怒られたのが悲しいというより、自分の不注意でそのような事態を招いてしまい、悔しい、といった顔。
佐助はそれ以上何かを問うことはしなかった。
政宗も小十郎も、自分も、のこの性格を判っていて、
気をつけろ!などと言わなくても、もう二度とこんな失敗をしないように努めるだろうことは想像するまでもない。

落ち込んで落ち込んで、よし、と起き上がって、政宗さーん、と、走っていくまで、周りの人間達は待っているのだろう。

「可愛い。」
「なによー日向ぼっこしてるわけじゃないよー。」

日に当たって、ほのかに温まっている髪を撫でる。
指の間を通り抜ける感触が気持ちよい。

「こっちおいでよ、。」
「え?」

おいで、とは言ったが、横向きに寝ているの背に手を回し、引き寄せる。

「よかったら、枕に。」

にっと笑い、自分の大腿を指差す。

「佐助のフトモモはごつごつしてそうなんですが。」
「おーいおーい〜、空気読んで〜照れなさい!!」
「う、うん。」

そうは言っても、の感情は佐助に伝わっていた。

今は素直になれず、恥ずかしくてそのような言葉を言ってしまうのだ。

は力が弱いから…」

大腿に頭を乗せたを上から覗き込みながら、甲冑を外した。
「何…」
「いざというときは、竜の旦那や片倉サンに頼るしかなくって」

そして、後方に手をついてそれに体重をかけ、足首を組んでの頭を撫でる。
リラックスした体勢で、落ち着いた声で話す。
それはの表に出さない感情。

「だから、せめて、こういうときは甘えたくない。精神なら、少しは自分も強いんだって、主張したい。」

けれど、皆は気づいてる感情。

「だけど、自分が少しでも落ち込むと、片倉サンは黙ってに甘味を差し入れ、竜の旦那はいつもより多く頭を撫でる。」
「ちょ、ちょっと…!!」
「もどかしい、強くなりたい、強くなれない、しっかりしたい、気を抜いちゃ駄目、頑張りたい…」
「そ、そんなこと…!!」
「思ってるんだよ、は。」

穏やかな佐助と、慌てる

どちらがどちらの空気に呑まれるかは、明白だった。

「…そうかな?」
「俺様がそう言うんだから、そう。」
「私、めんどくさい?」
「そんなことはないよ。」

今までいじけていた瞳がぱちりと開き、何かを考えているようにきょろきょろ動く。

「甘えてくれたら嬉しいなあって、思うわけだ。俺様は。」
「…甘える、かあ…」

ごろりと仰向けになり、へらっと笑って佐助を見上げる。
俺様、のこの表情めちゃめちゃ好きなんだよなあ…と思い、照れそうになるがそれはこらえてただ優しい笑みを浮かべる。

「佐助は、どんな感じに甘えられるのが好きなの?」
「そういうこと意識しちゃうのがだめだって…」
「違うの。私、良く判らない。だから教えて欲しいの、甘え方。」
確かには見た目も性格も、男心を掴むテクニックに長けてるとも言えず、学ぼうとするような様子もない。
それが良いか悪いかは相手次第。

(俺様は…)

良い、と思う。
計算高い女を賞賛する趣味は無く、駆け引きはただ疲労になるばかり。

「甘え方ね…」
「うん。悶々して、街に行きたい!!って、誰かを付き合わせるってのは、やった事あるよ。」
「それは我儘とか、うっ憤晴らしとかも言うよね。」
「そうか、難しいのね。」
「そんな事無いよ。」
「!!」

佐助は体を丸めた。
を覆うように前かがみになり、顔と顔が近づいて、は動揺してしまった。

「俺が、をぎゅーって抱きしめたら、俺がに甘えてるって事になるよ。」
「……。」
だって、抱きつかれたら、甘えられてるって思うだろ?」
「あ…ああ、そうか…」

政宗や小太郎にしがみ付かれて、そう思ったことがある。
けど、それはあくまで政宗と小太郎がする行為で、自分に置き換えて思ったことが無かった。
自分がそのような行動を取れば、相手に同じくそう思われるという意識が無かった。

「そうか〜…」
ごろんと横向きになる。
顔は佐助のお腹の方向。

「とう!!」
「掛け声可愛くない〜」

苦笑いしながら、佐助は上体を起こす。
掛け声とともに、は佐助の腰に腕を回した。

「ぎゅっとするのは好きだよ。人の体温は温かくて気持ちいい。」
「うーん…ねえ、こういうことするのは俺様だけにしない?」
「あはは、なあに、佐助、そういうこと良く言えるよねえ〜」
「冗談に聞こえるわけ?やだなあ、俺様遊び人じゃないし…」

心外だなあ、とぼそりと呟き、佐助の手がの背を撫でる。

「じゃあ、本気になってみます?」
「え?」

佐助が何か簡単な術を使ったのは判ったが、の視界が一瞬暗転し、戻ったときにはその体勢だ。
拒むほうが無理だった。

「佐助!?」

縁側に二人して寝そべって、は佐助の腕に抱きしめられている。
互いの顔は、鼻が触れるか触れないかの距離。

「俺、に甘えて貰いたいなあ」

少しの違いなのだ。
佐助の表情は変わらないし、声色もあまり変わってはいない。
この顔の距離だって、先ほども同じくらいの位置まで近づけられた。

抱きしめられるのは緊張する。

けれど、それ以上に

「俺、だけに」

俺様、と言っていたのが、俺、になっただけ。
それに過剰に反応する。

「あ、う」
「あはは、動揺具合が可愛い。」
「だって、あの…」
「俺、のこと好きだし。」
「ど、どうも…」
「どうもって何さ〜。馬乗りになっちゃうぞ?」
「じょ、冗談が過ぎる!!!!!」

さすがにも佐助の胸に手を当てて押し、抵抗を始める。

、騒いで竜の旦那に見つかったら俺何されるか…」
「じゃ、じゃあ離れて…」
「それは譲れないかな。」
「な、何故ー!!!?」
「だから、」

急な囁き声にはびくりと震えた。

大人しく、俺に甘えていなよ。

「……。」
「どう?」

の今の感情は、既に一言の言葉でまとめられていた。
あとはその一言を言って

「負けました…」

佐助の服を掴んで、顔を埋めれば、穏やかな時間の始まりだ。

「…佐助…」

髪をゆっくり撫でながら、間を置いて返事をされる。

「なに?」

傍から見たら、飼い主とご主人のように見えるだろうか?
昼寝をする親と子のようにみえるだろうか?

…恋人の様には?


「私ちゃんと、甘えられてます〜?」
「…甘えられてるよ。」


甘えて欲しいと言ってくれる人がいるのが嬉しい。

佐助が帰ったら、また、自分は気丈に振舞うだろう。

こんなまったりした空気は、たまにで良いから。


「…また来てね〜…佐助。」
「また、遊びに来るよ。」


次は、佐助に甘えて欲しいなあなどと思ってるの、

何でもお見通しな佐助に、気づかれてるといいな。
















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「とにかく可愛がられたい!! あま〜い感じで。」
というリクを頂きました!!
あま…
甘いでしょうか!?どうだろう先に謝ろうすいません!!

ちょっと本気佐助が出せたらいいな〜と思ったんですがこれレベルとははわわ

リク下さった方、本当にありがとうございましたー!!