夏休み最終日。

全員宿題を終え、夏休みの思い出を作ろうと集まった。

「ya―――!!!」
「ちょっ…危ない飛び込まないでよ!!」

岩場から海に飛び込んだ際の水しぶきを浴び、佐助は鬱陶しそうに目を細めた。
水面に顔を上げて少々荒く呼吸する政宗は、構わず楽しそうに笑っていた。

「いーじゃねぇか!!折角の海だ。楽しまなきゃ損だろうが、違うか?」
「程々にねぇ…」
「某も飛び込むぞー!!」
上を見上げれば幸村が笑顔で手を振っている。
旦那まで!?と驚愕する言葉と同時に、幸村は勢いよくジャンプをした。



佐助と政宗の悲鳴は海岸まで響き、を驚かせるには十分だった。


「なに…?」
「おーおー、やんちゃだねぇ。飛び込みに失敗でもしたか?」

元親はと棒倒しをしてまったりと遊んでいた。
しかし叫び声が気になってしまい、は海の方を向いたまま固まっていた。

「んで、。あいつらが心配なのは分かるが、それより手元だ。」
「え…あ!!」

丁度が棒近くぎりぎりの砂を退けていたところであったため、意識が他に向いてしまった時に呆気なく棒は倒れてしまっていた。

「うっしゃ!!ラムネ奢ってくれよ!!」
「うわーもう少しだったのに…約束は守ります…。」

がくりと項垂れたの頭に、砂を払った元親の手が乗る。

「ま、原因は他にあるからな。そろそろこの協調性なさすぎるメンバーなんとかするか!!」

そう言うと立ち上がり、大きな声で皆に呼びかける。

「おーい、ビーチバレーやんぞ!!集まれよー!!」

すると、海に来るなりやりたいことを好き放題やっていた皆が自然と集まる。
は元親に感謝した。
こうでもしてくれないと、なかなか意中の人との思い出作りは難しい。

「すぐそこによ、ネットが立ってて自由に使っていいって言われたんだよ。二手に分かれてやろうぜ!!」
「何か賭けるか?だったら俺と幸村は別チームにしてくれよ?」
政宗は腕を組んで口元を上げ、幸村に好戦的な視線を向ける。
「うおおおおお!!望むところでござる!!」
幸村も闘志をむき出しにして、政宗を睨みつける。

「だったら我と長曾我部は別にせよ。」
海の家で涼んでいた元就も現れ、目を細める。

「俺はなんでもいいよー。でもやかすがちゃんと一緒のチームの方がやる気出るかな!!」
「前田慶次…調子の良いことを言うな…」

そのやりとりを一歩下がって微笑みながら見ていたの肩に急に手が置かれたので驚いて振り返る。

「あーあ、何本気になってるんだろうねえ…居るのは男だけじゃないのに。、文句言っていいと思うよ?」
「佐助…」

何気ない会話なのにの動悸が激しくなる。

「私、バレー部!!」
「あー、そっか、じゃあ俺様と一緒がいいな。」
「え…まさか佐助…私に任せて自分は楽を…?」
「あはは!!違う違う。俺となら良いパートナーっぽくない?が上げて、俺が打つ。」
「…それが、楽してる、なのではないか…?」

近くにいた幸村が静かに突っ込みを入れる。
佐助はいやあ…とつぶやき頭を掻いた。

三人に向かい、ビーチボールを持ってネットに寄りかかった元親が声を掛けた。
「おーい、さっさと始めるぞ!!おめえらこっちだ。」

コートを見ると、元親のいるコートには一人しかいなかった。
どうやら政宗も慶次も、元親とも対戦してみたいという気持ちがあるようでいつもよりも眼差しがギラギラしている。

政宗・元就・慶次・かすがと、元親・幸村・佐助・のチーム分けとなった。

「かすが何でそっちなのー?」
ネット越しに、なんとなく声を掛けてみるとかすがが口元を緩めながら足早に近づいてくる。
が首を傾げていると、手を口に添えてそっとに耳打ちした。

「佐助と一緒がいいのだろう?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

驚いて目を見開くに笑顔を向けて、かすがはまたポジションに戻って行った。

「なんだー?あんまりこっちのお姫様からかうなよ?、チーム分けは適当だぜ?」
「あ、ああ、うん、わかった。うん、均等だね、力差ね…」

屈伸をしたり手首を回して準備運動しながら、は動揺してしまっているのを落ちつけようとした。

「始めていーい?」

サーブ位置に立った佐助が手を振る。

「おう、審判はいねえから判定はフェアにな?特に元就。」
「言われるまでもないわ。不正でなく智略で勝ってみせよう。」
「はいはーい。ほい。」

佐助がふわりと弧を描くサーブを相手コートに入れる。

慶次がレシーブし、かすががトスを上げる。

そして政宗の左目がギラリと輝く。
踏み込んで、お遊びとは思えないくらいのジャンプを披露した。
「yaーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!ha!!!!!!!!!!!!!!」
「む…!!!?」

標的となった幸村はすぐに構えるが

「ぬおおおおお!!!!!!!!?」

本気で打ち込まれたボールに反応しきれず、幸村の足もとに落ちてしまった。

「…ぬおおおお!!!!!!申し訳ござらぬ!!!某、油断しておりました!!!!!!!!!」
「いやいやいやいや!!!なんで本気なのさ竜の旦那!!!女の子もいるってこと忘れてない!?」
「ざけんな猿飛ィ!!!!!!!!!!!本気じゃねえ戦いなんてしねえんだよ!!なんだあてめえのあのだっせえサーブ!!!」
「ラリーが続くようにしたんじゃないの!!!!!!」
「佐助、あの、いいよ?何か賭けてるんでしょ?私本気ビーチボールバレー付き合うよー」

女の子もいる、という言葉には反応した。
自分を気遣ってるだけで、それさえなければ本気でプレイしても問題ないのだろう。

「そうだそうだ、賭けるもん決めてなかったなあ…」
「高額なもんとかやめろよ?俺ら高校生なんだからな?」

悩み出す政宗に元親が声を掛ける。
元就がボールを幸村から受け取ったのちに案を出した。

「帰りの荷物持ちで良いではないか。嘲笑ってやろうぞ。」
「…なんで元就てめえがもう勝った気でいるのかが分からねえが…まいいだろ、分かりやすい。」
「…くらえ…」

と佐助が後方で構える。

「…ちょ…本気サーブ!?俺様狙えよ!?」
「大丈夫だよ佐助ー」
「くらうがいい!!!!!」

ジャンプサーブを思い切り、と佐助の間に落ちるように打ち込んできた。

「はいはい、任せて任せて」

すぐに着地点にが移動し、元親にボールを上げる。

「なに…!?」
「いやそんなに驚かれても…ボール柔らかいからね?」
「ほれ、幸村。借り返せ〜。」
「かたじけない!!!」

今度は幸村が高く飛び腕を思い切り振り、政宗に向かって打つ。
拾いきれずに、ボールが落ちるのを確認した後、幸村が手を挙げて皆とハイタッチをした。

…やるじゃねえか…」
腕に付いた砂を払い、政宗が挑戦的に笑う。

「ありがとう政宗。でもまだまだこれから!!」
「うわー!!頼りになる!!!」
「!!」

佐助が嬉しそうにの頭をわしわしと撫でる。

「さ…佐助…?」
「実はの事、大人しい子ってイメージだったんだけど違ったね!!ごめん!!」
「それは…?」
「ん?明るくて元気だ。俺様そういう子好きだよ?」
「!!」

かすがが呟く。
それを慶次が聞いていた。

が…本気になるぞ…」
「え?なんで?」









「これでトドメな!!!」
「うお…!!」

元親がアタックを決め、勝敗が決まった。

「わーい元親かっこいい〜」
のトスのおかげな!!」

荷物持ちが決定した政宗と元就は頭を抱えていたが、慶次が二人を慰める。

、俺達ともほら」
幸村と佐助が拳をに向けてきたので、も手を握りちょんとタッチする。

「二人もかっこよかった!!」
「ありがと。感心するわ、ちゃんと最後元親に決めさせてさ、なんかメンツの立ち位置も考慮してる感じ。」
「うむ、それに予想以上に身体能力が優れていて驚いたぞ!!」
「そ、そんなに褒めてくれなくていいから…」

恥ずかしそうに俯くが、心の中はこんなに佐助と話せるとは思わなかったから嬉しくてたまらない。

「あーくそ!!誤算だった!!」
「やめろ、男なら潔く諦めろ。それより日が落ちてきたぞ。」
砂を蹴る政宗をかすがが窘め、元親に視線を向ける。

「まだやることあるだろぉ?」
岩の上に置いておいた上着を羽織って、元親がにやりと笑う。

「花火だ!!全員着替えてパラソルんとこ集合!!」
「やった!!行こう!!かすが!!」
「ああ。」

かすがの手を引いてシャワーを浴びに行くを佐助が目で追う。

「佐助、俺達も行こう。」
「…うん〜」

幸村の呼びかけに微妙な返事をして、佐助も歩き出した。











「わあー!!!」

ススキ花火を持って、は綺麗な火花を楽しそうに見つめていた。

「夏らしいな。火が消える瞬間、明日から学校ということを思い出させてくれるが…」
「まあまあ、かすが、今だけ忘れて…」

かすがはしゃがみ込んで線香花火を楽しんでいた。

「女の子が花火で遊んでるの見るのはいいねえ。」
「元親〜焼きそばばっかり食べてないで…」
「はいはい、そろそろロケット花火やるか!?」

勢いよく立ち上がった元親に続いて隣にいた政宗も立ち上がる。

「ド派手なのやろうぜ!!」
「…おい、パラシュートがなぜある?もう暗くなってきたぞ、見えぬだろう…」
パラシュート花火を持って不思議そうに見つめる元就の隣に幸村が座る。
「使わぬなら欲しいでござる!!鍛錬になる故!!」
「こんなものでか?全部取れるのか?」
「分からぬが、すべてキャッチ出来たら凄い気がする!!」
「…まあ、出来なくはないかもしれぬな…」
「かすがちゃんかすがちゃん、ねずみ花火〜どう?」
「どう?の意味が分からないが…おまえも華やかな花火の方が好きだろう。ほら。」
「うわ!!ありがとう!!」

慶次に花火をおすそ分けするためかすがが行ってしまった。

タイミングを見計らったようにの隣に佐助が来る。

、楽しい?」
「うん、佐助もやろう?」

持っていた花火が終わり、次は変色花火を2本取り出した。

「はい!!」
「ありがと。火ィつけてあげるからこっち向けて?」
「うん、よろしく…」

頭にバンダナ、服装はシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルとラフな恰好が佐助にやけに似合う。
はというと彼の好みの服装など分からないから、無難にキャミソールにホットパンツだ。
髪が乱れてないかも気になるし、恋する女の脳内は忙しくて佐助にだけ集中できない。

「あ、あの…佐助…」
「ん?」

それでも少しでも印象付けたくて必死になってしまう。

「今日…あの、楽しかった…本当に…」
「うん、俺も楽しかった。の新たな一面見えたし。」
「あ…ありがとう、佐助といっぱい喋れたのも嬉しかったというか…」

火が付き、佐助が1歩退いた。

「佐助、火、おすそ分け…」
「うん、もらうね。」

佐助も自分の花火の先を火花に近づけ点火する。

「夏の海で花火っていいねえ〜、来年もこれるかな。」
「来年も?うん、皆で来たいね…!!」
「なあ、

佐助がの隣に座る。
服を軽く引っ張られ、も座り込んだ。

「俺様に嘘って通じないんだよ?知ってた?」
「え…?嘘?」
「そう。」

距離が近くて、少しの小声でも花火の音にかき消されずに聞こえていた。

、俺様のこと意識しすぎというか…」
「え」
「俺といっぱい喋れたの“が”嬉しいんだ?」
「…え?」
「来年も、“俺と”来たい感じだね?」
「…………。」

的確に当たりすぎていて、は何も言えなくなってしまった。
そしてクスリと笑われると、顔が真っ赤になるのを感じた。

「えっ!?え、え!?」
「はは、ごめんごめん、俺様どうやら可愛い子は苛めたくなるみたい。だからモテないんだよねえ〜」

佐助は十分女性からモテているが、そのあたりをフォローする余裕はなかった。

「…ごめんね、からかって。謝るから誰かのとこに逃げるとかはやめて?」

ロケット花火が大きな音を立てる。
テンションが上がった元親と政宗は手当たり次第着火し始めた。

「ねえ、。」
「は…はい…」

近くを幸村が通った。

会話を聞かれていたのでは無いかと不安になってしまう。

「…緊張しすぎ。俺にうつるでしょ…こっちまで恥ずかしくなってきた。」
「だって、何言われるか…」
「皆が居るとこで変なこと言わせる趣味はないよ。」

2人の花火の火が静かに消えていく。

しかし周囲から皆の遊ぶ声や火花の音で賑やかだった。

「…なんて言ってほしい?」
「っ…」

完全に主導権を握られてしまったと感じた。
しかし何と言っていいか分からない。
穏やかな佐助の様子から、が好意を抱いていることに不快感は無いのだろう。

「…あの…」

チャンスではあるが、別に告白する必要はないのだ。
無難なことでいいのだ。

「…学校でも、もっとお話ししよう、とか…」
「ふんふん、それと?」
「……家の方向同じだから…たまには、一緒に帰ろうとか…」
「ははっ、可愛い。青春っぽい。」

無邪気に笑う佐助にからかわれているような気がしてならない。
少々ムッとしたは、勢いに任せて告白して困らせてやろうかと考えた。

口を僅かに開けた瞬間、佐助が手の甲をそっとの唇に当てた。

「…そういうのは俺が言うから安心して?」
「…!!!」
佐助の柔らかい笑顔と予想以上にごつごつした男の手の感触に思考が止まる。

「俺ものこと気になってはいたんだ。小動物みたいだから守ってあげたい系のもんかと思ってたんだけど、ちょっと違うみたい。」

の手から花火を取り、ひゅっと2本同時に投げる。
見事にどちらもバケツの水の中に入っていった。

「そ、そこまで言って…その、言ってくれないの…?」
「俺様、ムードを大事にする系だから」
「そ、う、なんだあ…」
「そうなの。だから楽しみにしてて。」

もしかしたら、もうすぐ佐助の手を握って歩く時が来るのだろうかと考えてしまう。
考えただけで心が温かくなって、笑ってしまうのを止められなかった。

「女を磨いて楽しみにしてる。」
「そのままでも、十分素敵だよ。」

立ち上がった佐助がに手を差し伸べた。

「とりあえず今日は、“皆との思い出作り”で」

素直に微笑んで頷き、佐助の手をとり立ち上がった。



















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海月水母さまより、「皆で海、に行って最終的に佐助落ち。花火とか、ビーチバレーなどの場面もあると嬉しい」とのリクを頂きました!!
甘々がたりない!!佐助と二人きりにできなかった!!くおおおお!!!!
暖かいお言葉にも感謝です!!

ありがとうございました!!!