「Christmasだぁ?」
「そう!クリスマス!」

政宗さんは眉間に皺を寄せ、書き物をする手を止めた。
この時代の日本にそんなイベントがないのは分かってるけど、やっぱり12月って言ったらクリスマスでしょ?




師走の愛逢月





「却下」
「なんでっ」

大まかにクリスマスを説明すると、返ってきたのはたった一言。
宴会好きの政宗さんなら絶対OKしてくれると思ったのに。

ツリーを飾って、あらゆる物を装飾して、みんなで集まってプレゼント交換したり、ご馳走食べたり…


「そんなもんしょっちゅうやってんだろ。特にうちの兵は年中派手だぜ?」


いや、派手な事がクリスマスじゃなくてね…


「止めとけ。飾りだ何だやるだけ無駄だ」
「む、無駄って……い、いいもん!勝手に1人でやるから!」


もう話をするだけそれこそ無駄だと見切りをつけたあたしは、半ばヤケになりながら部屋を出た。





とは言え一人で一体どうしたものか…
縁側で足をぶらつかせながら、寒空をぼんやり眺めていたら、突如小太郎ちゃんが現れた。


「小太郎ちゃん!」


そしてあたしの脳裏にグッドアイデアが閃く。


「?」


小首を傾げてどうしたのかと聞いてきたので、あたしはかくかくしかじか事を話した。
快く了解してくれた小太郎ちゃんは、来たときと同じく一瞬にして姿をくらました。

















「ふんふんふ〜ん♪」


お城の庭先にある、形の整った大きな木。
その木によじ登り枝に腰を落ち着けたあたしは、クリスマスソングを鼻歌に、飾り付けをしていく。
流石にもみの木ではないけれど、葉のしっかりついた針葉樹。
遠目からはクリスマスツリーに見えなくもない。

因みに飾っているのは小太郎ちゃんに頼んで集めてもらった赤や黄の鮮やかな大小の木の実やら何やら。
その小太郎ちゃんは、危ないからって木の上の方を飾ってくれていた。


?」
「あっ、小十朗さんっ」


いつの間にかやって来ていた小十朗さんが、下からあたしを不思議そうに呼んだ。


「何をしているんだ?」
「クリスマスツリーですよ。木を飾ってお祝いするんです」
「ほう、七夕みたいだな」


う〜ん…まぁ似てるような似てないような…
かなり掻い摘んだ説明にも関わらず、小十朗さんは独自に解釈してくれたらしい。


「ならばいいものを持ってきてやろう」
「いいもの?」


小十朗さんは、ちょっと待ってろとだけ言って、どこかへ行ってしまった。
いいものって…何だろう?






「ほらよ」
「うわぁ、凄い!」



小十朗さんが持ってきてくれたのは色とりどりの短冊。


………短冊?



「七夕と言えば短冊だろ」
「えぇっと……ハイ」

ま、まぁいいか。
好意でやってくれてるんだし、断るのも悪い。飾ればきっとこの木も華やぐはず。

小十朗さんは、丁度手が空いているからとそのまま飾り付けを手伝ってくれる事になった。
赤はこっちだ、黄はこっちだなんて指示を受けながら進めていると


「あー!ちゃん何やってんの?」


今度は成実さんがやって来た。

飾り付けられた木を見上げ、新しい遊びか何か?なんて言い出す。
失礼なっ!


「クリスマスって言ってね…」
「冬の七夕だそうだ」


いや、だからそれは違…


「へぇ〜だから短冊付けてんだ」


付けられた短冊を一枚摘んでみる成実さん。


「あれ、願い事書いてないじゃん」


だってクリスマスツリーに願い事なんて下げないし。
そう説明するより早く、成実さんは短冊を一枚むしり取った。
ま、まさか…


「んじゃ、俺が書いてあげるよ。どうせなら城のやつらみんなに短冊配ってさ」
「ちょ、ちょっと成実さん待っ…!」


呼び止め虚しく、成実さんは残りの短冊を抱えてお城へと行ってしまった…
ああ…クリスマスツリーなのに。
あたしがやりたいのはこんなのじゃなくてね…

内心涙を流しながら、出来上がりつつクリスマスツリー(と言い張る)を見上げると


「って、何じゃこりゃあっ!!」


目に付いた1つの短冊。
『 豊作 ― 片倉小十郎 』


「短冊と言ったら願い事だろ。も書くか?」


片倉さぁん!成実さんと同じお考えですか!
差し出された筆と短冊を、あたしは仕方なく受け取った。














装飾を始めて早2時間。

見慣れた城の庭は、七夕飾りの混ざった木を中心に、竹に雀の旗、戦で掲げている大漁旗…
果てには小十郎さんの畑の案山子まで並んで(え、何これジャパニーズスノーマン?)
クリスマスツリーとは流石に言い張れない代物へとなっていた。
成実さんが回収した短冊には『喧嘩上等!』『夜露死苦』『筆頭命』…
もう、ワケが分からない。


「こんなはずじゃなかったのに…」


あたしは縁側でそれを眺め、がっくりと肩を落とした。


「だから言ったじゃねぇか。無駄だって」
「政宗さん…」


いつの間にか政宗さんが居て、それ見た事かと言いたげにどっかりと隣に腰を下ろす。
勝手にやると言い放っただけに、この結果が無残すぎて何も言い返せない。


「あたしは…もっとこうキラキラしてみんなでワクワクして、プレゼント交換とか、ご馳走とか…」

はぁ…


深々と溜息を吐く。
みんなでクリスマスなんて、伊達軍においては所詮夢でしかなかったようだ。


は何て書いたんだ?」
「何をです?」
「願い事だ」
「それはまぁ、色々と…」


結局あたしも一緒に書かされてしまった願い事。
一応小太郎ちゃんに頼んで飾ってもらった。
いや、ほらあの場の勢いで書かないなんて事出来ず…付き合いというか何と言うか…

願い事を良く見てもらえるようにという小十郎さんのアドバイスにより、あたしの短冊は木のてっぺんで揺れている。


「んじゃ、俺も飾ってくっかな」
「ま、政宗さんも書いたの!?」
「んだよその言い方。悪ぃのかよ?」
「いえ、別に」


政宗さんの願い事…き、気になる…!
あ、でもきっと『天下』とか、そんな感じなのかなぁ…

政宗さんがクリスマスツリー…いや、理解不能の美的感覚で彩られた木に、青い短冊を付けに行ったので
あたしもついて行ってみる。
器用にくくり付けられ、政宗さんの手から短冊が放れる。


「…っ何じゃこりゃあっ!!」
「Ahn?良心的な願いだろ?」
「ふざけんなっ!」


ヒラヒラとすぐさま風に拾われた短冊には

『 の胸がBigになるように ― 伊達政宗』

なんて事がムカつくぐらい達筆で書かれていた。


もう、どうでもいいです…
12月24日はクリスマスはじゃなく、いつもと変わらない日常でしかないんだ。









だけどその翌朝、
あたしの枕元に一つの包みが置かれている事になる。
置いたのは誰よりもクリスマスを無駄と言った人だけど、
それはまた別の話。



















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MERRY CHRISTMAS and HAPPY NEW YEAR!!
HANILOCOの和希ヒロトさんに贈ります。




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うわーうわーうわー!!!
REIさんに頂いてしまいました…!!
し、しかもうちの主人公で書いてくださり…!!
ほ、本当にありがとうございます…!!
素敵なクリスマスプレゼント…!!
政宗がかっこよすぎる…!!
ありがとうございました!!
宝にします…!!