政宗さんの部屋に溜まっていた書類が一段落したので、次の書類の山の前にお掃除タイムです。

「…やなこと言うな…山とか言うな…」
「ちょっとあなた!!もー休みだからってゴロゴロしないでよね!!な―んて」

はどこかの奥様ごっこだ。

大の字で寝転ぶ政宗の頬を指でつついた。

「oh…随分可愛らしいことする…なぁ!!」
「ぎゃああああ!!」

政宗はの腕を取り、思い切り引いてを抱き留めた。

「うわ―!!やだやだ離せ―!!」
「何が嫌なんだァ?何想像してるんだえぇ?言って見ろよ?」
「脱がされて触られる―!!」
「どんな風に?」
「触るか触らないかのギリギリのところを撫で回されるとか!?」
「普通に言いやがった!!てめぇは噂のS殺しだな!?」
「ふははは!!今頃気付いたか伊達政宗ぇ!!」

「…何してんですか…」

小十郎はもの凄く目を細めて二人を見ていた。

「…小十郎…昨夜は寝て無くてなぁ…」
「…私もずっと政務に付き合わされました…」

睡眠不足でテンションのおかしい二人だった。

「…まぁ、ならば急かした小十郎にも責任がございますね…」

小十郎は仕方ないなあと溜息をついて

「今からお茶を持ってきますからゆっくりしましょうか」
その嬉しい提案に、と政宗は舞い上がった。

「じゃあ、お掃除すぐ済ませる!!」
「頼んだぞ」
は棚の掃除を始めた。

「あー、そっちやるならこれそこにしまってくれ」
「了解ですー」

本を受け取り、引き出しを開けると

「ごちゃごちゃしてんすけど…」
「あんまりいじんなよ。判んなくなる」
「はいはい…」

すでに入っていた紙を取り出してとんとんと揃えると

「ん?」
はらりと折りたたまれた紙が落ちてしまった。

裏面から書かれたものが透ける見える。

なんだか政宗のものにしては雑に文字が書かれているようで、気になってしまい、開いて見てしまった。

「……」
「どうした、ぎゃあああああああ!!!!!!!!!!!!!
「ベリーキュートですぜ政宗様」

何が書かれてたかというと

父上という文字と

「似顔絵?上手いね政宗さーん」
「返せ!!それは返せー!!!!!」
「ぎゃあああ!!返すから圧し掛からないで!!破れるー!!!!」
政宗がの手から奪い、自分の目で確かめた。

「うっわ…なんだこりゃ…いつのだよ…」
「小さい頃でしょ?」
「だろうな…俺、父上に見せたりしたのか…?思い出せねえ…うっわ…こんなものを…」
「…政宗さん」

の声が静かなものになり、政宗はに視線を向けた。

「見ていい?見たい」
「……」

政宗はそっぽを向きながら、紙を畳の上に置いた。

「政宗さんの、お父さん…」

は手に取り、じっと見つめた。

「勘違いすんな?それは似てねえ。父上はもっと…」
「優しい人」

を見ると、政宗に笑いかけていて

「伝わってくるよ」
「…ああそうかよ。言っとくが俺はもっと偉大な人だったと言おうとしたんだぜ?」

「そんなの知ってる」
「…そうか」

小十郎が来る前に片付けようと、政宗が紙を折りたたんだ。

「…ん?何ですかそれは」
「あ、小十郎さん」
「……」
政宗が片付ける前に小十郎が茶を持って来てしまった。

「見せねえからな」
「それは残念だ」
「梵天丸様が描いた政宗お父さんの似顔絵だよー」
「み、見せねえからな!!!」
「それは俺の記憶にねえなあ…いつの話だ…?」
「見せねえ!!小十郎!!早く茶!!」
「はいはい」

小十郎が政宗とに茶を配りながら呟いた。
「…輝宗様ですか…」
「……」

沈黙した政宗と小十郎の顔を見て、は今のこの二人の間には入れないと思った。

「…なあ、小十郎」
「俺の主君は政宗様だけですがどうしました?」
「…っぷ!!」

政宗の質問を先読みしたのか、普通の口調で余計な言葉を入れた小十郎に、は笑ってしまった。

政宗といえば、そのような答えが聞きたかった質問をしようとしたのかどうか判らないが、小十郎の言葉に面食らっていた。

「い、今言う言葉じゃねえだろうが…」
「すいません、言いたかったもので」
「あっそ」

湯呑に口をつけ、政宗がお茶を飲み始めた。

「……」
「…?」

小十郎がをじっと見た。

「何ですか?」

はこの場での発言は控えようと考えていたのだが、気になってしまっては仕方がない。

「…代弁してやるよ。、お前は俺の父上に会ったことがあるか?」
「…政宗様…俺は、そのような…」
「え?無いよ?」
は当然だろうときょとんとしてしまったが、政宗はそうじゃねえと言った。

「お前の、世界でだ」

この世に

ずっと留まってるんじゃないかと

「ああ…うーん、会った事はないと思う…けど、見かけたとしても判んない、かな」
「そうか…」
「…そうだろうな」

も、何と返答したらいいか判らず、困惑しながらも言葉を選んでいるようだった。

気休めの言葉で政宗は救われなどしないだろうが、小十郎はむず痒い気持ちになった。

「…政宗様、何を考えてらっしゃいますか?…そのような思案など無用です。輝宗様は政宗様の中でもう笑ってはいませんか?」
「…忘れてねえ。何も忘れてねえよ。俺は平気だ」

平気だという政宗の声はいつもより低い。

今の政宗に何と声をかければいいだろう?

「ま、政宗さん、そんな顔しないで!!ああーそうだね…!!政宗さんの天下を生きて見る事が出来なくて残念だったーって悔いているかもしれないね!!会ったら挨拶しなきゃ!!」

は話の路線を少しずらして天然っぽい発言をしてみた。

「政宗様、どうか前を見てお進みください…!!この小十郎が御傍にいますから…!!」

小十郎は政宗に今まで何度も言ってきた言葉をかけ、いつもの様な返事してもらおうと思った。
そうすればいつもの政宗に戻る気がして。

「政宗さんは今でも絵を描くの?私も筆でお絵かきしてみたいなー今度教えてよー」

は話の方向を完全にずらしていく作戦をとった。

「貴方はこの国を統べるお方なのです。強くお在りください…」

小十郎はやはりいつもの言葉を口にした。

「…そ、そしたら筆借りなきゃいけないのか…ええと、何て言っておねだりしようかな…」

はおねだりという言葉を発して、政宗がいつものS化することを願った。

「…そのためにも早く政務をこなして頂かないといけませんな」

小十郎は小言を言ってみた。
こんな時にまで小言かよ!!という政宗の言葉を待った。

二人の言葉を静かに聞いていた政宗は

「…はは!!」

突然大きく口をあけて笑い出した。

「政宗様?」
「政宗さん?」
「てめーらそれで俺を慰めようとしてんのかぁ?ぶあはは!!!!」

「「……」」
駄目だったかと、と小十郎は肩を落としてしまった。

「お、おいおい、何しょぼくれてんだよ!!俺はなあ…俺は…」

政宗が紙を置き、と小十郎の頭にそれぞれ手を置いて

「言葉の内容なんてどうでもいいってんだ!!気遣うお前らの気持ちとか、態度が嬉しいんだよ!!」

言葉選んでる顔が本当に困っててマジ笑えんだけど、と、政宗が二人に微笑みかけた。

「政宗様…」
「父上の事を思い出してもよ、悲しい思い出のほうが少ねえよ。そうじゃなきゃ、父上にも申し訳ねえだろうが…。俺を導いてくれた人に対して…な。」
「政宗さん…!!」

政宗が再び寝転び、小十郎に顔を向けた。

「あーあ、ちいと湿っぽくなったじゃねえか…よし小十郎、何かモノマネしろ」
「俺が!?」

小十郎を茶化し始めた。

「……」

はもう一度、政宗の書いた似顔絵を見た。

目つきは優しく、口元も綻んでいて

…政宗さんには似てないな、と思った。

「…会えるかな。いつか…」

は覚え始めた。

政宗の絵から感じとれるもの全て。

伝わってくるもの全てを。

「…居たら、判るかな。」

判りたいなと、必死で覚えて

「居たら…会ったら…」

ちらりと、小十郎で遊ぶ政宗を見て



政宗さんは元気です、って、言おう。