桜の花びらが風にのってひらひら舞っている。

そのうちの一枚が、の持つ盃に落ちた。

「綺麗だね」
「あぁ」

刀を見にの店に行ったのに、そのまま梵天丸様とともに連れてこられた。

酒だけでなく、かるい食べ物も用意してる辺り、計算だから何と思って良いものか…

「…とりあえず可愛いじゃない…厄介とかそんな…」
「小十郎?お酒頭からかけられたい…?」
「切なそうに言うなてめえ…」


しかもなかなか美味いから文句があまり言えねえ…


「梵天丸様、お口にあいますか?」
「小十郎それ私が聞く話だろうが。失礼だぞお前」
「うまい!!」

梵天丸はお腹が空いていたのか、桜よりも煮物に夢中だ。

がつくったのか?」
「うん」
「嘘つけ」
「すごいなは!!」

いらん言葉を挟んだ小十郎を、は睨んだ。

「こっちは店の奴等の面倒みてんだ。料理も洗濯も掃除も!!」
「……む」


は小十郎にそう怒鳴ると、梵天丸の頭を撫で回した。


「…悪かったな」
「い、いいよ…!!私も怒鳴って悪かったな…梵、桜も見なよ。綺麗だよ」
「うむ!!」
「ああ、梵、ほっぺにご飯ついてるよ。ゆっくり食べなよ…あ」

が申し訳無さそうな表情を小十郎に向けた。

「…早く、帰らなきゃいけないか?」
「……ほら」
「む…」

小十郎がに徳利を差し出した。

「…小十郎」
「まだまだ付き合って貰うぞ」
「お、おぉ!!」

トポトポと、注いで、一緒に口をつけた。

梵天丸がおれも飲みたいと言い出したが、小十郎とにだめだと言われてしまい、仕方無くお茶を飲んでいた。






と小十郎が互いに酌をしたり、梵天丸にお茶を注いであげたりしているうちに、が小十郎に寄って来た。

?酔ったか?」
「…小十郎…お前ザルか…?」

小十郎はまだまだ余裕といった感じに飲み続けている。


、だいじょうぶか?」
「梵…優しいな…おいで…」
「…おい」

は小十郎に寄り掛かり、梵天丸はに寄り掛かった。

は梵天丸の頭を撫でながら酒を…

「うおあああ…」

飲もうとするが、肝臓が拒絶しているようだ…

、お茶にしとけ」
、おれがついでやる」
「梵天丸様…!!そんな、俺がやりますから…」
「小十郎!!をひとりじめか!?」
「そういうわけでは…!!」
「…こじゅーろーに…まけたくない…」
!!無理するな!!俺も酒やめるから!!」
「情けなどいらぬ…!!」
―!!」


目が空ろになって来たを見兼ねて、小十郎がの手から盃を取り上げた。

「あっ…!!…やだぁ…小十郎…!!」
「……」

あれ、なんか色っぽい声が…

「小十郎!!が泣きそうだ…!!」
「それは酔いのせいかと…」
「こじゅ…ろ…」
!?」
声がちがうぞ、小十郎…どうしよう…」
「いえ…心配せずとも…」
「小十郎…の頬も赤い…!!風邪をひいたかもしれぬ…!!」
「ちがいますよ…梵天丸様…」
「だってよくみろ小十郎…!!」
「う…」

突然梵天丸に頭を捕まれ、無理矢理のすぐ目の前までひっぱられた。

「ちょ…!!」
が具合悪そうなのが判らぬか!?」

との距離が、鼻と鼻がぶつかりそうな距離っ…!!


「小十郎…」

の暖かい息が顔にかかって、小十郎はびくりと小さく震えた。

「梵天丸様!離してください!!」

俺も少しは酔ってるんです!!

「小十郎はもうすこしのことを大切にあつかわぬか!!」
「判りました判りました!!お願いします離してください!!」

梵天丸様がいらっしゃる前で発情するわけにもいかないでしょうが―!!!!


「こじゅうろ…」
!?」

が小十郎の首に腕を回した。

ちょ…

そんな顔で…

ダメだって…!!

こんなところで…!!


!?さむいか!?小十郎…!!を暖めてやらぬか…!!」

やーめーてー!!!!!!

よからぬ事想像しちゃうでしょ梵天丸様ああぁぁぁぁ!!!!



小十郎は落ち着こうと一度目を閉じた。

がぎゅうううと小十郎にしがみついて…

「………!!!!」
「………」
「………?」








を背負って梵天丸と一緒に城下を歩いた。

、だいじょうぶか?」
「酔いつぶれただけです…」
「…小十郎。おれも立派になったら、と小十郎と、一緒にお酒のみたい」
「…そうですね」

小十郎は、自分が梵天丸に酌をする姿を想像した。

…楽しみだ

「そのときは、またの料理が食べたい。」
「作ってくれますよ」
「うん」

すうすうとのん気に小十郎の背で寝るを少し覗いた。

…幸せそうに寝やがって…

「まるで大きい子供だ…」

俺が父で、が母で、梵天丸様が子…なんかに周囲から思われないかなあなどと思ってしまったが、そんなわけない。

「梵天丸様」
「なんだ?」
「来年もお花見しましょうね」

この三人で。

「うむ!!来年になったらお酒のめるか?」
「まだだめです」
「…むう」

眉根を寄せる梵天丸にクスリと笑って

「来年は三人でお茶を飲みましょう。梵天丸様を、待ちますよ。俺も、も」


を片手で背負いなおして、

自由になった手で、梵天丸の手を握った。


次は、とも手を繋げて帰れますよ。

そういうと、梵天丸はにっこり笑って楽しみだと笑った。



…もう絶対に

には酒飲ませねえ…



…………も、もし俺と、そ、そういう関係になったら、二人きりのとき飲ませよう。




色っぽいの顔が頭から離れない小十郎でした。