「松寿丸様、姫…弥三郎様がいらっしゃいましたよ?」
「われはいま、書をまなんでいるのだ。おいかえすのだ。」
「…姫…弥三郎様、可愛いですよ?」
「お、おぬしがあそびたいだけであろう!!!!」
松寿丸はぐるんと勢いよく振り返り、ニマニマした表情のに向かって怒鳴った。
「われのいうことがきけぬのか!!」
「いえ、もちろん松寿丸様も可愛らしく…でも抱っこさせてくれないので…」
世話役の一人であっただったが、齢9つ程しか離れていないため、二人は可愛い弟のような存在だった。
そして弥三郎は毛利軍で最も優しいを気に入っていて、よく松寿丸との仲介を頼むのであった。
「…松寿丸さま。」
「なんだ。」
「…昨晩、おねしょ「弥三郎はまだか。われをまたすな。」
松寿丸もまた、もっとも優しいに困りごとを相談していたのだった。
「誰にも言いませんよ。いやだなあ。」
「そのたんごをきくのもいやなのだ!!!!」
うわああああと机に伏す松寿丸を笑顔で見つめながら、は立ち上がった。
弥三郎を待たせていた部屋を訪ねると、可愛らしい足音を立てて駆け寄ってきた。
「、松寿丸はあそんでくれるって?」
「姫若子様!!ええ、松寿丸様も喜んでおられました!!」
大きな瞳に長い睫毛、白く柔らかな肌に美しい髪で、最初に男と聞いた時の衝撃は今も忘れていない。
「うれしい!松寿丸ものいうことはちゃんときくのだな!!」
「うふふ、お二方とも大切でございます故、お気持ちが通じたものと思いまする!!」
弥三郎が手を伸ばすので、は脇に腕を回し抱き上げた。
「さあ、一緒に参りましょう!!」
弥三郎の供も慣れた様子で、に宜しくお願い致しますると声をかけた。
「松寿丸様〜、お待たせいたしました。」
「松寿丸!!げんき?」
「ふん…まってなどおらぬ…」
持っていた筆を置き、松寿丸はと弥三郎を向き座りなおす。
抱っこされていた弥三郎も下してもらって座り、互いにお辞儀をする。
「お上手です!!完璧でございます!!頭の下げ方もなんて美しい!!!」
「ありがとう、。」
「とうぜんであろう。このていどでよろこぶでない。で、きょうはなんなのだ。」
弥三郎は可愛らしい巾着から慎重になにかを取り出した。
「これは…」
「かすてら、でございますね?」
「父上がかってくださったの。いっしょにたべたいとおもったの。」
はうわあああああ可愛いいいいいいいいいいい!!!!!と絶叫してその場で倒れ込んだ。
「それだけのようけんで、われをたずねたのか?」
「うん。」
「くだらぬ…」
「松寿丸様はお餅が好きですものねえ!!今お茶とお餅を運んできます!!かすてらと一緒に和・洋の菓子を楽しみましょう!!」
松寿丸、おもちがすきなの? 余計なことをいうなあああああ!!!!という二人の言葉を背に受けながら、はスキップして台所に向かった。
二人きりになり、松寿丸は居心地が悪く感じられた。
「ようがすんだらすぐかえれ。」
「まだ、みせたいものあるよ。」
弥三郎は一言一言話すたびに花が舞うような可愛さがあったが、松寿丸はそんなものを一切気にしなかった。
この時すでにいずれは敵になる男という意識があったのかもしれない。
「ならばさっさと…」
「松寿丸はいいなあ。みないなおともだちがいて…」
悲しそうに俯く弥三郎を、二度見して驚いてしまった。
「なにがおともだちだ!!は、ぶかだ!!」
「でも、すきでしょ?わたしはのことだいすきだよ!!」
にこお!!と笑って話す弥三郎にため息をつく。
「わかっていないようだな!!われらはそのうち、このくにのあるじになるのだぞ!!そのようなへいわでどうする!!」
「あるじ…」
「いまのように、にあまやかされてばかりではいけないのだ!!」
そしてたまにひどく優しく、悲しそうに自分を見るを思い出すと、きっとも覚悟しているのだろうと思う。
いつか自分はに命令するようになるのだろう。
今のような穏やかな関係はそう長く続かない。
せめて、この地を守り、食べるものに困らず平穏に暮らせるようにすることで、が自分の知らないところで幸せになってくれればいい。
「…松寿丸、わたし、いくさ、すきじゃない…」
「ほんとうに女のようだな。たよりない。」
「…でも、もしがおよめさんになってくれるなら、つよくなりたいかなあ…」
手を頬に当て、目を輝かせながらそんなことを言う弥三郎に急に怒りがこみ上げる。
「なぜ敵のおまえのよめにがなるのだ!!」
「だめなの?」
「こらこら、松寿丸様、なにをそんなに怒鳴ってらっしゃるのです?」
穏やかな顔をして、が膳を持って現れた。
「お茶をどうぞ。」
「ありがとう、。」
「熱いのでお気を付け下さいませ。」
「ねえ、わたし、のことおよめさんにしたいけど、むりなのかなあ?」
「え?」
単刀直入に告白するので松寿丸は慌ててと弥三郎の間に入った。
「はわれのぞ!!!!!!!!」
「松寿丸のおよめさんになるの…?」
「そうではない!!」
「お二人とも…?」
は取っ組み合いのけんかになりそうな二人を見て穏やかに笑う。
「お二人にこのように思われ、は幸せでございます!!!!」
「む!!」
「わあ!!」
松寿丸と弥三郎、二人を両手でぎゅうううと抱きしめた。
「よーお元就!!元気か?」
「…うるさいだまれ何しに来た。」
顔を合わせるなり不機嫌そうにした元就はふいっと背を向けた。
「はいるか?」
「おらぬ。」
「またまた…いるんだろう?」
「貴様に合わせるはおらぬ。」
「くっそ…俺はもう小せえころからが好きだったんだぜ?少しは気遣ってくれても…」
後頭部をがしがしと掻いて、元親はつまらなさそうにそっぽを向く。
するとたまたま遠方にいたの姿を視界がとらえた。
「おーう!!!!!!!!」
「弥…元親様!!」
「あの…馬鹿…出るなと言ったろうに…」
元就が止める間もなく元親はに駆け寄っていく。
「お久しぶりです。」
「久しぶり…、相変わらず良い女だなあ…!!」
「そんなことございません…元親様はさらに逞しい国主に…」
元服後もちょくちょく会いに来てはいるが、やはり昔のようには対応してくれない。
「元親貴様…他国の女中に馴れ馴れしいのもいい加減にせよ!!」
「うっせえなあ、てめえの女でもねえだろうが。」
「こ、言葉遣いも…なんて男らしく…!!!」
「ふん、ならば元親、に抱き着いてみよ。」
「お。」
全く表情を変えずに元就が促すので、一度目を丸くした後、にやあと笑った。
「てめえ、俺が女慣れしてねえとおもってんだろう。いくつだと思ってんだよ、大好きなに手が出せねえわけねえだろ。」
そういっての腰に手を回して引き寄せると、は小さく驚きの声を出して元親の胸にもたれかかった。
「なあ、、俺立派になったろう?お前を娶りたいんだが…」
の頬に手を添え上を向かせると、動揺しきった表情で元親を見上げていた。
「…可愛い…可愛い姫ちゃんが…」
「へ…」
「あの…守ってあげたくなっちゃう系姫若子ちゃんがこんなに成長するなんて…」
「…それ…あれ?悲しんでる系?」
「嬉しいわ、嬉しいけど…姫若子様…」
「ぶっっ!!!」
「吹いてんじゃねー!!!元就!!!!お前だってすっかり悪になってんだろうが!!」
元就が歩み寄るので元親はから手を離すと、と元親の間に割って入った。
「我は幼少より変わっておらぬ。」
そんなことを口元を引き上げて相手を馬鹿にしたような顔で言うので今度は元親が吹く番だった。
「んなわけねえだろう!!!!」
「そうか?、我はどうだ?」
「元就様ですか?ふふ、相も変わらず姉のように慕って下さり嬉しい限りでございます。」
「そうであろう…」
「!?なんで騙されてんの!?」
じりっと後ずさり、の(弟のような)愛情を受ける元就が憎らしくて顔が引きつる。
「去れ。元親。敗北は見えておる。」
「元就おめえ…まさかの事…」
挫けそうになるのを必死にこらえ、歯ぎしりをして元就を睨んだ。
「くそ…予定変更だ!は奪う!!絶対にだ!!」
「ふ…よかろう。迎え撃つ。」
そして元親は弩弓を発動させて自分の領地目指して去って行った。
「元親様…どうしましょう、気分を害して…」
「構わぬ。奴も失礼であろう。」
「元就様…」
の背を押し、部屋に促す。
「何か御所望で?」
「茶を。」
「かしこまりました。」
が部屋を出たところで、元就はため息をついた。
「騙してなどおらぬ…。」
頬杖をついて、書簡に向かう。
「…にくらい素直に甘えても日輪の加護が廃れるわけでもなかろう。」
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松寿丸・弥三郎時代、ギャグ風味とのリク、ありがとうございました!!
大人でオチー!!!
というか完成にどれだけ…うう…すみません土下座…
子供台詞がひらがなたまに漢字の読みにくさすみませーん
全部平仮名にしたかったんですがちょう読みにくくなりましたのでたまに漢字にしますた…