、楽しいかね?」
「はい!!」

は笑顔で松永の問いに答えた。
松永の一歩後ろで、小走りで後をついて行く。

今日は庶民のものを見てみたいという松永のわがままの付き添いが仕事だった。
急な話で対応できる兵がおらず、松永との二人きりだ。

(三人衆がいないのよなんて幸せウフフフ…)

今にもスキップしたい気分で舞い上がっていた。


「さて…これといって目に止まるものは見当たらないな…」
「松永様の目利きは素晴らしいですから!!」
「ふむ…そういえば
「はい」

松永がちらりとを振り返った。

「何か?」
「その着物、自分で注文したものかね?」
「こちらは以前濃姫様が私に贈って下さったものです。」

松永とのお出かけはどうしても華やかな着物を着たかったは、昨夜懸命に選んだのだった。
そして引っ張り出したのは綺麗だが派手すぎて着れないと思いしまいこんでいた濃姫からのおさがりだった。

「…あの…似合いませんか?」
「そんなことはない。似合っているよ。」
「ありがとうございます!!」
「だが…」
「?」

松永の歩みが止まった。
そしてに向き合った。

「道行く男が…卿に視線を向けるのが気になってね…」
「えっ…」

濃姫のおさがりといっても胸がはだけているわけでもなく、スリットが入っているわけでもない。

(まさか…まさか…松永様…嫉妬して…!?)

の頭にタンポポが咲き誇った。
春だ。

「松永様私は…!!」
「連れている者として誇らしい限りだ。まぁそのような事を自慢する趣味は持たぬがね。」
「…っですよね!!」

残念な気持ちを隠しては返事をした。
松永は素直に褒めてくれただけだった。

「さて、そろそろ休むかね…」
「はい。どこがよろしいですか?手続きして参ります。」
「その必要はない。庶民と同様に入ろう。」
「あ、はい!!」

一般大衆の気持ちを理解しようとするなんてなんて立派な領主だろう…!!と、は松永に尊敬の眼差しを向けた。

「あ、松永様」
「何かね?」
松永は蕎麦屋が気になったらしく、そこへ足を向けた。
敏感にそれを察知したは、すぐに呼び止めた。

「そちらの店…列が出来ておりますので待ち時間がございますよ。」
「卿は時間を大切にするほうかね?」
「手続きして参ります。」

は、松永様前言撤回早っっ!!とつっこむべきだったが、松永を待たせるわけにはいかないという気持ちでいっぱいでそんなことは考えられなかった。








店にすぐに入れてもらい、個室に通された。
入口でははっとした。

(み…密会みたい…!!)

松永の隣に座って、はいあーん、とかやりたいと、はうずうずした。
しかし突如そんなことをすれば、頭を打ったのかね?と言われるに違いない。

(ああ…なんたること…)

邪魔が入らない松永と二人きりの狭い部屋で何も出来ないなんて拷問だと
は思春期男子のような気持ちになった。

、私と同じものでいいかね?」
「はいもちろんです!!」

声をかけられてはすぐに松永の向かいに座った。
そして、注文を終えると松永はをじっと見つめた。

「松永様?」
「このような環境での二人きりは、なかなか新鮮だな。」
「っ!!」

二人きりだ、ということを意識してくれていたことには感動した。
そうですね二人きりですねだから松永様、私に何をしても大丈夫ですよ!!と、心の中で叫んだ。

(あぁ…松永様のお食事にご一緒出来るなんて…!!)

食事中の松永の脳には何かを奪いたいという欲求は生まれない。
抗うことの出来ない本能を楽しんでいるようにも見える。

は意地の悪い笑みを浮かべる松永も好きだが、真面目な表情で一つのものに視線を向ける松永も大好きだった。

(…蕎麦になりたい…)

は無理な願いを想った。


「はい!!」
「いつもおさがりというのも気分が悪かろう。」
「え…いえ…?」

着物の話だということはわかったが、その先の言葉はには想像がつかなかった。

「新調しよう。私の隣に居て映える色がいい。」
「っっっ!!!」

嬉しくて叫びだしたくなり、は口を手で覆った。

「と…隣…ですか…」
「必要だろう?」
「はい!!一生必要です…!!」

にこりとが笑うと、松永も穏やかに笑みを浮かべた。
そして見つめ合い、の顔はみるみる赤くなっていった。

「何か…私に言いたい事があるのかね?」
「よ…宜しいのですか?」
「…もちろんだ。」
「あ…の…」

どきどきどきどきと鼓動がうるさく鳴る。
それに負けまいと懸命に口を動かそうとした。

「私…松永様のこと…本当に…本当にッ…「「「蕎麦お待ちしました」」」

素晴らしいタイミングで店員が入ってきたため、はテーブルにデコを思い切りぶつけた。

「おや。」
「これはこれは、松永様。」
「え…?」

聞いたことがある声に視線を上げれば、不自然にも2人分の蕎麦を三人が共同作業で運んでいる。

「三好三人衆…なんでここに…」
「仕事だ。」
「潜入調査など頼んだかね?」

松永が首を傾げたので、は三人が自分達の邪魔をするため後をつけて来て、店員になりすましたのだろうと咄嗟に判断した。

「あんたらね…!!」
「松永様が以前火薬を桁間違いで注文してしまったためウチは金欠でしょう。」
「ですから少しでも資金集めの足しになればと。」
「帰宅時には蕎麦粉を盗んで行きますね。」
「なるほど、それは助かる。」
「そうだったの!?」

初耳なことだらけでは驚いて目を丸くした。

「貴様も身売りでもしたらどうだ。」
「あっ!!痛っ!!やめなさいよ!!そして蕎麦粉盗むんじゃないわよ!!」

蹴られては三人衆を睨みつけた。

「うむ。先ほど民の生活を覗いてね…皆楽しそうなのだが、私にはあのような生活は退屈すぎる。早々に金欠から脱しなければ…」
「そういった目的があったのですか!?大名として生活できないくらいの金欠なのですか!?」

早速蕎麦をすすりながら、松永は恐ろしい事を言った。

「近々…爆薬と鉄砲のみで戦を仕掛けようか…」
「今川もしくは本願寺ならば容易かと。」
「本願寺で金を巻き上げるか。信長公に援軍要請可能だろう。」
「あのう…松永様…」
「何かね?」
「着物の、話は…ずっと後でしょうかね…」

今この話題を出して、松永に呆れられてしまうかもしれないが、忘れて欲しくなかったため、口に出してしまった。
本当に嬉しかったから、いつになっても構わないから松永が見立ててくれる着物が欲しい。

。」
「はい…」
「注文してから、着物が出来るまではしばらく時間があるな…」
「はい…?」
「今日早速、反物をいくつか注文しよう。」
「よ、宜しいのですか!?」
「出来上がった後に支払えばよかろう。それまでに金を集めるよ。」
「やったああああ〜!!!やったあああああ〜!!!!」

万歳して喜ぶを見て、三人衆は、この二人…親子化してるなあ…と思っていた。






















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デートとか、お出かけして欲しい、というリクを頂いたので、ほんのり外出です。
松永様はふら〜っと出て行きふら〜っと戻ってきそうですね…

リクありがとうございました!!