「鬼ごっこしましょう」

元親の船の上で、が突然そんな事を言い出した。

「暇つぶしにはいいな」
「よいではないか!!本気で行うならば鍛錬にもなろうぞ!!」
政宗と幸村が賛同した。

「…待て待て、、この先の展開がすごくよく見えるんだが」

元親は自分が鬼になる確率があまりに多いと感じていた。

「我がお前から逃げるなど…そんな事はしたくは無いな。逃げ回るなど負けた気分ではないか」
「お、元就…」

元親をフォローするつもりはないのだろうが、元親には嬉しい言葉だった。

一人ではともかく、政宗や幸村まで追いかけるなんて想像しただけで疲れて仕方がない。

、どうせなら我が鬼となろう。元親を追いかけ捕まえて八つ裂きにしてみせようぞ」
ー俺鬼やるわー」
元親は勢いよく挙手した。


「じゃあ、鬼さんはここで10数えようか。範囲は船内でいいよね…その間に逃げて…あ、ねえねえ、捕まった人はどうする?」
「どうとは?」
「鬼になるか、それとも単に捕まった子のままでいるか」
「増えたほうがいいでーす」
「じゃあそうしますか」

元親が懇願するので、そこは元親の意見を尊重することにした。


甲板の柱にもたれかかって、元親は数を数え始めた。

「…ごーぉ、ろーく、しーち…」

…というかここは障害物が多い船上だぜ?
もうこれかくれんぼじゃね?

そう思ったが、かくれんぼは見つければいい。
鬼ごっこは身体に触れないといけない。
…その差は大きい…

「…じゅーう!!…攻撃してこねえだろうなあ…?」

不安になりながらも元親は皆を探し始めた。

「やっぱ、まずはだな」

なら反撃されないし、鬼になってくれれば平和に終わるだろう。

「…ん?」

…ちょっと待てよ…?






なるべく大きな音が出ないように幸村は走っていた。

「どこかに隠れたほうが良いのだろうか…」

狭いところに来てしまい、不安になってきた。

は大丈夫だろうか…捕まってしまっただろうか…」

元親のことだから、乱暴に捕らえるなどということはしないだろうが…

一緒に行こうかと声をかけたが、大丈夫だよーうまく逃げるよ!!と笑顔で返されてしまった。

「む、むう…」

一緒に逃げたかった…
い、いや、下心などなく…その、なんだ…

「…な、何を考えているのだ俺は…!!そうだ、そこの部屋にでも…」

たしか寝室だったはず…
そう思ってドアを開けると

「な…!!」

机の上に、なんとも美味しそうな団子が…!!!

「い、頂いても…よいだろうか…?」

食べたくて仕方がなくて、じりじりと近づいた。

「ここの部屋の方のだろうか…し、しかし、このように放置など、団子に申し訳なかろう…!!!」

目を輝かせて、机の前に立つと

「!!」

ザッッ!!!と

「うわあああ!!!」

足元から網が出現し、幸村は捕らえられてしまった。

「…な…」
「…真田幸村…お前判りやすいな…」
「元親殿!!」

元親が部屋の入り口で呆れながらジタバタもがく幸村を見ていた。

近づいて、軽くタッチした。

「はい、お前も鬼な」
「うううううう〜…」
「悔しそうにしながらも団子を食うあたりお前凄いな…」

幸村はしっかり団子をゲットしていた。




幸村と元親はとりあえず話をしながら船内を歩き回った。
から捕まえるかと考えていた…」
「俺もそう思ったが、もしかしたらお前とかこういうのに引っかかるかな〜ってな。当たりだったなあ…」
「くっ…!!情けない…申し訳ございません…!!お館様…!!」
「はいはい。まァ、政宗と元就は何が好きかわかんねぇから、次はだな。何が好きかね?」
は可愛いものが好きであろう!!」
「可愛いもの…ああ、そうだ」

二人は甲板に向かった。


元親は甲板に着くと、1つの小さな籠に近づいた。
「いたいた、こいつ。」
「…?」
ミャァ
「!!!!!」
元親は小さな白い子猫を抱いていた。

「か、可愛いでござるなああああああ!!!!」
「おう。荷物にまぎれてたみたいでなァ」
「これならも反応してしまうだろう…!!!」
「頑張ってもらうか。さあさ、猫ちゃん、気をつけてうろついてくれよ」
ミャァ−

日差しが暑いのか、猫は降ろされるととことこと日陰を目指していった。

元親と幸村は猫の様子を隠れながら追った。

ミャァミャァ

猫が鳴いた。

コツコツと足音も聞こえてきた。

か?」
「…待て、見えねぇ。確認できたらこっそり…」

「Hey、どうしたお前…cuteだな…どっから来たんだ?」

政宗かい!!!!


ミャアミャア
「怯えなくていいぜ?なんだ、腹でも減ってるのか?まぎれ込んで来ちまったんだな、可哀想に…元親にお母さんのとこに帰してもらいな…」

「「………」」

こそっと覗くと

政宗が子猫を笑顔で撫で回していた。

「…なんだ擦り寄ってきて…マジ可愛いなあおい」

「「…………………」」

なんだか

見ちゃいけないもの見た気がする…


「…幸村」
「うむ…」
「これもまた、戦だな…」
「そうでござるな…傷つく者が、現れてしまうのだな…」

元親は気配を消して政宗に近づき

ぽんと、肩に手を置いた。

「!!!!!!!」
「はい…お前も鬼な…政宗…」
「み、み、み…」
「見てたぜ…!!お前、可愛いところあるな…!!」

甲板に政宗の屈辱の叫びが響き渡った。



「まあまあ、政宗殿…」
「ふざけんな元親…!!男なら、んな小細工しねぇで…!!」
「はいはい、ごめんなあ、政宗…ってかが引っかかると思ってしたことだぜ?」

ずっと顔を赤くして元親に怒りをぶつける政宗を、幸村がなだめていた。


「次こそはを…」
そう二人に話しかけながら曲がり角を曲がると

「おお…日輪よ…」
「「「…………」」」

礼拝のお時間だったようだ。


「さて、予想外だな…が最後まで残ったか…」

元就の肩にもぽんと手を置いて、これで四人が鬼となった。

「あ、武蔵殿が素振りをしている」
幸村が勢いよく武器を振り回す武蔵を指差した。

「おい!!武蔵!!」
「あん!?なんだよ鬼!!!!」
邪魔されて武蔵は不機嫌になりながらも振り向いた。

見なかったか!?」
「姉ちゃん?いねえよ!!中にいるんじゃねえの!?」
「わーった!!ありがとな!!邪魔して悪かった!!」

船内となると…

「手分けして探すか」
なら狭いところでも隠れられるしな。注意しろよ」
「そうでござるな!!」
「…ふん、我が簡単に見つけてやるわ」

全員が各々の方向に散った。





「…あれーなかなか鬼さんこないなあ…」
は物置の奥に毛布をかぶって隠れていた。

木箱などがたくさんあって、見つかったら逃げ場はないが、むやみやたらに移動するよりは良いと思った。

「…みんな飽きてやめた、とかだったら傷つくわ…」

そう言うと余計不安になってきた…

「…待とう…」

うずくまって、は目を伏せた。

そういえば子供の頃、私が鬼になって

友達をなかなか捕まえられなくて

皆、そんな私を見て笑ってさ

…絶対捕まえてやるからー!!って強気になったけど、本当は心の中凄い悔しくて、仲間はずれにされてるみたいで、泣きたくなって

…まあ、今思い出すと、なかなか心の狭い子でしたけどねえ…


がたがた!!
「!!!」

「……」


元親がのいる部屋の扉に立っていた。
気がつくと毛布がずれて、顔が出ていた。

「元親、遅いんだけど」
「何だよ、寂しかったのか?ならこんな狭いところに隠れるなって…」
「…ごめん」
「?なんだ?へこんでんのか?なんで?」
「別に、へこんでたわけじゃ…」

不安になってただけで…

「…?、意外な事にが一番最後なんだ。皆を探し回ってる。」
元親ががたがたと箱をどかしながら、に近づいてきた。

「ああ〜…たく、よくそんなとこまで行ったなあ…邪魔だこの荷物…。って、?早く出てこいよ。」
「…うーん」
「うーんじゃなくて…早く鬼ごっこはやめて、茶でも飲もうぜ?」

手招きをする元親に、唇を尖らせた。

「鬼ごっこしたかったんだもん。元親が私に触ってくれるまで待ってる」
「は、さ、さわっっ…」

そりゃそういうルールのゲームだが

女の子に『触って』と催促されてそのままの意味で捉えられるほど心は綺麗ではない。

「元親、私からは行かないからね。鬼さんが来てよ。」
「あ、あのなあ……」

止まって頭を掻く元親が何を考えているのか判らないは、元親が来てくれないからただ不安になっていた。

「元親…?」
…触ってとか、そう簡単に言うなよな〜…
「何?聞こえない……も、元親…元親、早く来てよ…」
「あ、あ、あのなあ!!!!!」

ねだるような声にドキリとした。

「判ったって!!大人しく待ってろよ!!」
「あ、うん!!」

ひょいっと木箱に乗って、とんとんと箱に乗り移りながらの元へ。

の頭にぽんと手を乗せ、

「はい、捕まえた」
「捕まった」

毛布をどけて、の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げた。

「鬼ごっこは終わりな…楽しかったか?」
「私ね、鬼ごっこは捕まる瞬間が好き」
「はあ?」
「なんか、好き」
「…はよくわかんねーな…捕まったら、がっかりなんじゃねえの?」

を抱えたまま部屋の入り口まで運び、優しく降ろした。

「だって、鬼は私を捕まえに必死になっておっかけてくれるんでしょう?一種の愛情表現みたいじゃない?」
「馬鹿。鬼に捕まったら喰われるぞ?…みたいな可愛い奴は特にな…」
「む?」

元親が屈んで

の首筋に唇を

「……」

「わ、わあ元親!!くすぐったい!!」

キスマークをつけてやろうかと思ったが、躊躇って舐めるだけに。

「食べられないように気をつけな」
「あははは!!はーい!!気をつけます!!!」
「……」

…なにその…

犬に舐められたような反応は…

「………」
さっきの楽しそうに猫と戯れる政宗を思い出した。

「…

同じ扱いというのは、そりゃねえよ…

「なあに?」
「…ちょっと俺に喰われてもらうわ」
「え?」

俺も男だってえことを、判らせてやらねえとなァ…!!!!

「!!」
がしいっとの肩を掴んで

「元親…!!待った…!!」
「待たねぇ!!大人しくしてな!!なら乱暴にしねぇ!!」
「いや、あの…」

かたんと音がして

「小太郎ちゃんが、怒ってるから…」

がそう言う前に


元親は小太郎に思い切り、頭に踵落しを決められた。












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小太郎を褒められてしまったのでオチに小太郎を持ってくるなんだこの根性すいません…!!
元親がすごいへたれになっててすいません!!

時雨さま、リクありがとうございました!!