***このお話は前回リクで頂いた元就と元就の双子のお姉ちゃんを使用させて頂きます(リクで頂いた夢はこちら)***  



蝋燭の火が揺れる。
隙間風に気を取られて筆を止めてしまうとは、今日の自分は随分と集中力が散漫だ。
目頭を押さえて一度強く目を瞑り、ゆっくり開けて周囲を見回した。
立ち上がって襖に寄り、開けようとすればわずかに笛の音が聞こえる。

「…………。」

姉上だということは分かっている。
毎日ではないし、周期があるわけでも無い。
ただ吹きたいと思った時に吹くのだ。

それを皆が楽しみにしているのを元就は知っている。
誰も聞きたいとせがむ者はおらず、姉上が思いのまま、自由に吹くことで生まれる音を好み、皆が癒される。

茶会で披露するものとはまた違う、柔らかで優しい、らしい音色が好きなのだ。

「……。」

自然とその方向に足が向く。
元就もまた、の奏でる笛が好きだ。

双子だからわかる。
本当は違いがあることを。

戦の前なら、闘志を湧き立たせるような、強さをもった音色になる。
兵に死者が出れば、悲しみと弔いを込めた音色になる。
何もない平穏な日は、皆を戦を忘れて安らげる心地よいものとなる。

「………?」

徐々に音がしっかりと聞こえるようになると、元就の歩みが早くなる。

今まで聞いたことがないのだ。

こんな音色は今まで聞いたことが無い。



「姉上…」
「………元就。」

多くの人間が音を聞いていることを知っているは、途中で切らずに自然な音で終わらせた。

「まだ寝てないの?」
座ったまま、優しい笑みを向けるはいつもと同じ様子に見える。
駆け寄ってきたまま、じっと見下ろしてくる元就に座布団を差し出した。

「座ったら?雲に隠れていた月も徐々に顔を覗かせて…綺麗。」
「……。」

無言のまま座りこみ、空を見上げる。

「…姉上。」
「二人きりの時はでいいよ?」
…」

そしてまた沈黙の時間が訪れた。

は何も喋らない元就など慣れている。
再び笛を奏でようとすると、急に手が伸びてきての手を抑えた。
パチ、と、元就の手に僅かな痛みが走るが、離されることは無かった。

「…何を思って奏でていた?」
「……何、とは…」
「我に隠し事などできると思っているのか…?」
「…そう。」

笛を床に置くと、元就のすぐ横へと移動した。
こんなに近くでゆっくり話すなど久しぶりで、元就の手はこんなにも大きくなって差ができてしまっていたか、と少し寂しくも感じる。

「随分と、雷の力も制御出来るようになったのだな。」
「ええ、奥州のお二人のお陰です。」

文のやりとりを続けているようだ。
を口説きにかかっているのではと疑ったりもするが、初心ながそんなことをされたらすぐに顔に出るだろう。
あくまでも政に関わる者としての交流を行っているらしい。

だがそれがにとって心強いものになっていることは明らかであった。


「笛の音が…」
「なに?」
「安芸以外にも、向いている。」

一瞬驚いた顔をした後、気づいてくれたことを喜ぶような、申し訳ないような表情を浮かべる。

「小十郎も、笛を…」
「…ふん。」
「今度…一緒に、と…」

元就の様子を伺いながら、はっきりとは言わないだったが怒りは出てこない。
どうせそんなことだろうとは思っていた。

「…。」
「…お友達なの。元就。元親以外に出来た、初めてのお友達。」
「奪うつもりは、ない。だが、」
元就の鋭い目線がを射抜く。
ただ、言葉を待つ以外にすることは思いつかなかった。

「元就…」
「…は、我が最大の駒ぞ…!!自覚せよ。」
「……元就…?」

思いもよらなかった言葉に、首を傾げてしまう。

「私、元就の駒になれてるの?」
「……馬鹿がここまで馬鹿とは思わなかった。」
「そうなのよ?馬鹿なのよ?私は元就の…」
「くどい。」

元就の手が、の手をしっかりと握る。
子供の頃以来だ。

元就から手を差し伸べてくるなど、奇跡に近いものだとすでに諦めていた。

「生まれる前から決まっておろう。母上の胎内にいた頃から、と我は共にあろう。」
「元就…」
「……易々と、離すとは思うな。」

静かに、だが自信をもった元就の言い方に、ずっとそう思っていてくれたのだろうと想像できた。

安芸が滅びるとき、最後に死ぬのは元就と自分なのだろう。

「…私は元就のそばにいるよ…。」

手を握り返す。

そんな経験はあまりないのか、元就が驚いて手を引込めようとしたのを、更に強く握ることで阻止する。


「私の口から、嫁ぎたいだなんて出てくると思って?」
「想像しがたい…だが、だが一応念を押したまで。」

元就が目をそらす。

「傍に、いるよ。」
「わ、分かっておる。」

小十郎と一緒に、笛を奏でる約束はしている。

美しい厳島を背景に、元就と政宗に聞いて貰おうという計画をしている。

「元就を一人にはしないよ…」

くだらぬと一言で返されるには分かっている。
元就が多くを失い、が多くを抱き安芸の地を守っていく。

それが選んだ道なのだ。

「…ふん…。」

そっと、元就がに寄りかかる。

「…元親の馬鹿の相手も程ほどにせよ…。」
「でも、元親のおかげで政宗と小十郎に会えて…」

ゆっくり、元就の髪を撫でる。

嫌がられるかと思ったが、無表情は崩さず大人しくしていた。

「…力の調節方法の助言も頂けて…こうして元就に触れられる。」
「……その程度、恩に値せぬ。」
「そうかなあ…」


嬉しいけどなあ、と空を見上げるの横顔を、上目遣いで伺った。

容姿は似ているのに、中身はあまりに似ていない。

だから求めてしまうのかもしれない。


「…もう少し、力が強い方が良いかもしれぬぞ。」
「え、どうして?あんなに嫌がってたのに…」
「そのほうが…」

傍に居たいという気持ちを抑えられる、と思い、口を紡ぐ。

「元親が面白い。」
「意地悪だなあ、元就は…」














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甘い傾向で、お互いが大事なお話、というリクを頂きました、ありがとうございます!!
…………姉弟じゃないほうが良かったんじゃないのおおおおおお!?と最後に見直して気が付きました!!
甘くない!!甘くないぞおおおお!!!!
しかし甘える元就って想像つかないですねえ…モーリ!!