「慶次…慶次!!!!どこへ行ったのです!?」
「ままままつ姉ちゃん…!!何!?俺何もしてないよ!!別にまた旅に出ようとかしてないよ!!これからはその…散歩だよ散歩!!!!」
「怪しすぎます慶次!!」

慶次がいきなり走り出す。
門に向かっているのにまつが気がつかないはずが無い。

「慶次!!」
「ごめんねまつ姉ちゃん…!!今日は約束が…」
「待ちなさい!!いつまでもフラフラしているんじゃありません!!判りますよ慶次…見合いが嫌なのでしょう!?」
「見合いなんてしたくないよ!!!俺は自分で見つけるの!!…5年後くらいに…!!」

まつが武器を構えた。

「それまでこのような生活を続けるのですか!!!身を固めて武士らしくしなさい!!!!」

びっと慶次に向けて指を差し、五郎丸を呼び寄せる。
一撃お仕置きをしようと思ったのだが…

「出番よ、五郎丸!」
熊が現れるはずだったが
「ぎぃいやああああああ!!!!!」
「え、ええ!!?うわ…!!!」

慶次が慌てて手を伸ばす。

落ちてきたのは、小柄な女性だった。

「何事ですか!?」

これにはまつも驚愕する。
慶次も驚いていたが、両手で受け止め彼女を支える。

「な、何!?何…!!!!」

彼女も驚き、きょろきょろと忙しく頭を動かし、状況把握に努めるがなかなか難しい。

「お、落ち着きましょう、落ち着きましょう…」

ここは自分がしっかりしないといけない、とまつが二人に近づく。
見たことも無い衣類に身を纏う彼女と慶次を連れ、家に戻っていった。









「私めは前田まつと申します。」
「俺は前田慶次!!」

まつは正座をし頭を下げ、慶次はあぐらをしてにこにこしながら元気に挨拶をした。

「これ!!慶次!!」
「この子、俺の見合いの人!?早く言ってよまつ姉ちゃん!!すっごい可愛い!!」
「違います!!大人しくなさい!!」

内心、まつはオロオロしていた。
五郎丸の代わりにこの女性が現れてしまったというなら、どのような理由があろうとも自分に非があると考えていた。
今後はこんな日常で技を出したりは致しませぬ…と反省したいが、それはこの女性を元の場所に戻した後だ。

「五郎丸を召還したばっかりに…!!!」
「え!?まつ姉ちゃん動物あれ召還魔法だったの!?」
「あ、あの、私も自己紹介して宜しいでしょうか…?」

彼女は落ち着き始め、めそめそするまつのフォローがしたいので、とりあえず大まかにここに自分が居るのは事故なんだという流れにしたかった。

「はい…」
「もちろん!!お名前は!?どこ住んでんの?」
「名前は、東京に住んでいます。」
「「東京?」」
「…わかりませんか?」

はがっくりした。
周囲は豊かな緑が茂る山に、澄みすぎている空気と空、着物を着た人々。
もしかして自分は、タイムスリップしてしまったようだと考えていたが、ぴったりのようだ。

「…ここはどこですか…」
「か、加賀でございます。」
「加賀ですか…ええ、私も加賀に居ました。田舎なので…」

そしては、ここに来る前の出来事を話し始めた。

「田舎に帰省した私は、山を散策していました。東京に長く居たので懐かしくて…そしたら悲鳴が聞こえました。」
「悲鳴…!?」
「知らないお婆さんが…熊に襲われていたのです…!!」
「!!」
「いやいやいやいやちょっとまってその熊五郎丸!?そんな設定大丈夫!?五郎丸は召還魔法になっちゃう!!」
「まさか様はその熊に…!!!?」
「これは見逃せないと、私は駆け寄り…」
「ゆ、勇敢だなあんた…!!!!」
「熊を巴投げし、目潰しをして、鼻を殴りました。」
「か、かっこいいなあんた…!!え?いや、これかっこいいのか!?」
「そうしたら、熊が逃げ出し、その瞬間、地面が光り…」
「ああ!!そのときに、まつめが技を使ったばっかりに…!!」
「こんな設定でいいのー!!!?」

慶次は自分一人ではどうしようもない設定に、利家の協力を得ようと部屋を後にした。

は、責任を感じ顔を手で覆ってしまったまつの肩に手を置いた。

「まつ様のせいではございませんよ!!どうかお気になさらないで下さい…!!」
「まつめは…まつめは…様を無理やりご家族から引き離してしまったのですね…!!申し訳ございません…!!責任をもって、様を元の場所に送り届けます!!!」
「いえ…それが…」

これで話を進めてしまい、まつがこれ以上自分を責めないようにに適当にここですと自分の家を作ったほうが良いのかとも考えたが、右も左も判らないこの土地で一人ぼっちになってしまうのは避けたい。
は仕方なく事を説明する。

「あの、時間を遡ってここに来てしまったようで…」
「…え?」
「私の住んでた世界って、多分ここより、何百年も先の時代だと思うんです…」

まつは気絶し、のきゃああという悲鳴が屋敷に響き渡った。







「…ん…」
「あ、まつ様…大丈夫ですか?」
様…」

まつは布団に寝ていた。
それをが隣で正座をして様子を伺っていた。

様…!!申し訳ございません!!私…」
「も、もう謝らないで下さいよ…!!」

気絶したからといっても何かを忘れることはなく、まつはすぐに思い出して謝罪する。
起き上がって、正座をしようとするのでは必死に止める。

「あの、まつ様…」

まつが気絶し、家の者が駆けつけてきた。
その時、まつという人物がどのような人間なのかを聞くことができた。
は全くまつを恨んでない。
むしろ、元気になって欲しい。
まつがにっこり笑ったら、絶対に美しくて、憧れてしまうだろう。

「あの、そんなに嘆かれてしまっては、私本当に居場所が無いみたいで…」
「そ、そのようなことは…」
「ここに来てしまったことは仕方の無い、まつ様のせいではございません。よかったら、あの…」

まつは静かに次の言葉を待ってくれた。

「私を、歓迎してはくれませんかね。あの、お腹すいちゃったし、出来たら、着替えとお風呂を貸していただきたいです。」
「まあ…!!!」

もちろんでございます!!!と、大きな声を上げ、の両手をがしりと掴んだ。

さま…!!今すぐご用意致します!!ぜひ、ぜひここを、自分の家と思って下さいませ!!」
「ありがとうございます!!」

ここでやっと、まつもも自然な笑顔になれた。





まつが食事を作っている間は、散歩でもしようかと外に出る。

!!ありがとね!!」
「え?」

いきなり後ろからそう声を掛けられる。
木に寄りかかって、にこにこ笑う、慶次がいた。

「えっと、慶次さん、でしたよね。」
「慶次でいいよ。それより、まつ姉ちゃん、元気にしてくれてありがとね。」
「いえ、そんな…」
「でさあ、でさあ、って強いの?熊と戦えるんだろ?」
「あ、あの…」

ころころと話題が変わる慶次。
はとにかく質問に答えることにした。

「武道には少々自信がございます。」
「へえ、そうだよね〜、歩き方から判るよ!!」
「そ、そうですか?」
「そうそう、ほらこの」

慶次がすぐ目の前まで迫る。
近くに寄られると、見上げないと顔を見ることが出来ない。

「背筋、いい感じに鍛えてるよね〜」
「!!!!」

突然、両手を回され背中に触れられる。
抱きしめられているような格好になっている。

「ちょ、ちょ〜〜〜〜〜!!!!!!」
「ん?」
「だめです私こういうの苦手なんです!!!!」
「どういうの?」
「は…!?」

慶次は女性に対してこういうことを平気でやってしまう人なのか?と、若干引いてしまった。

「恋してないの?」
「え?あ…は、はい。特に好きな人は…」

どうやらそういう事ではなく、慶次は慶次での性格を探っているようだ。

「ごめんごめん、いきなり女の子にこんなこと、失礼だよね。でも、初心な反応可愛い。」

ぱっと手を離されるが、動悸はなかなか穏やかにならない。

「そういうの…本当に止めてください!!」

初心?
当たり前です。
男性にそんなことめったに言われない。
言われたって、信用しないようにしてるんです。

「…。」

高校生の時、空手に夢中だった。

ある日、クラスメイトの女の子から、ある男の子が私に興味を持っているみたいだよという話を聞いた。
戸惑ったけど、嬉しかった。

でも、現実は違っていて

忘れ物を取りに戻った教室で、彼が仲間と一緒に話していた会話を聞いた。


に興味?あぁ、違うって、一回組み手したことあって、馬鹿力でさ…何食ってんだろってそういう興味。
あいつを女としてなんて見れねぇよ―…


「……。」
こんなことを引きずる私は、馬鹿だと思う。


「恋したほうが、もっと可愛くなって、もーっと綺麗になると思うよ!!」
俯くの顔を覗き込むように前屈みになる。

「ここに居るなら、俺と一緒に旅しない?」
「旅…?」
「刀とか振れそうだし、賑やかになりそう!!」
「か、刀振れなきゃ旅出来ないのですか!?」

慶次と並んで歩く自分を想像する。
恋人でもない。釣り合わない。

「わ…私なんかと旅しても…」

これは、慶次の為を思っての拒否だ。
申し出に素直に嬉しいと感じる自分を押さえ付ける。

「…ちょっと待ってて」
「あっ…」

慶次がくるりと背を向けて走り出す。
気分を害してしまっただろうか?

「…すみません…」
根暗な性格が嫌だとは感じてる。

「おい!どこへ行くんだ慶次!!!」
いきなり背後から叫び声が聞こえ、はビクリと肩をすくめた。

「おーい、慶次はどこへ行った?何か言ってなかったか?」
「あの、私判りませ…」

くるりと振り向いた瞬間、ぎゃっ!と声を上げそうになる。
上半身に衣類を全く身に着けていない男が立っていたからだ。

「ん?何か某に付いてるか?」

何も着いてないから驚いているなどとは言えない。

「いえ…」
「…見慣れない顔だな…。ん…その着物はまつの……あぁ!そなたもしやまつが呼び寄せたという娘か!!さっき聞いたぞ!」

某は、まつの夫の前田利家だ、とにこりと笑う。
も自己紹介をすると、利家は姿勢を正した。

「まつの失態は某の失態!!!某からもあやまろう、すまん!!」

思い切り頭を下げ、腰を45°以上、大袈裟に曲げている。
自分よりも明らかに年上で強そうな男性にそんなことをされて慌てない方がおかしいと思う。

「気にしてませんから…!!」
「まぁなんだ、ここに来たということは帰る手段も必ずある!!某達が必ず見つけるから安心してくれ!!」
すぐに頭を上げると、満面の笑みでの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
その変わり身の早さにしばし唖然とする。

しかし、なぜだか嬉しくなる。

まつも慶次も利家も、本気でそう思ってくれてると言うのが、雰囲気で判るからだろう。

「しかし、まつはそなたが良い子で安心していたぞ。帰る方法を探している間、某は度々戦で留守にするときがあろう。その時はまつの相手をしてくれぬか?そなたならまつの心も安らごう。某は安心だ!!」
「そんな、まだ会ってわずかな時間しか経っていない人間をそんなに信用するなど…」
「まつが言うからには大丈夫!!某、まつを信用している!!」
「……。」

いいなぁと、思った。
まつ様はこんな旦那さんがいて幸せだ。

「それに、某自身の目からみても、そなたは信用できそうだ!!」

信じている大切な人がいる。
にはひどく羨ましく見えた。

「…夫婦…か…。」

自分は恋を

…してみたい、かな?


遠くからまつの叫ぶ声がする。

そちらを向けば、手を振りながら、ごはんが炊けましたよとまつが屋敷から顔を出していた。

「まつのごはんは旨いぞ!!さぁ、早く行こう!!」
「はい!!」

利家が走り出すのを追う様に、も走る。

「あっ、慶次さんは…」

いなくなったのは自分のせいかもしれないと申し訳ない気持ちになりながら、利家の背に話し掛ける。

「慶次はすぐ戻るから大丈夫!!あいつは可愛い女の子とまつのメシが大好きだからな!!」
肩越しに振り返り、にっこり笑う。
「可愛い…?」

そう首を傾げると、利家は僅かに頬を赤らめた。

「ああ〜慣れない事は言うものではないなあ!!まつにならいつでも褒め言葉を言えるのだが…!!」

自分の事だと知り、恥ずかしくなる。

屋敷に近づくにつれ、おいしそうな白米と煮物の香りが鼻をくすぐる。
唾液が増える感覚と、お腹が鳴りそうになるのに先ほどとはまた違った恥ずかしさがこみ上げる。

「さあさ、先に食べましょうか。」

大き目のちゃぶ台を3人で囲んで、手を合わせようとしたときに、思い切り襖が開き、息切れをしながら慶次が入ってくる。

「冗談冗談!!俺も今戻ったって!!ただいま!!頂きます!!」
「こら、手は洗いましたか!?はしたないですよ、慶次!!」
「洗ったよ!!大丈夫だって!!えーと、あのさ、はい、!!」
「え…?」

慶次がの隣に座り、可愛らしい巾着を渡す。

「これは?」
「前に、町に出かけたときに見つけてね〜」

中のものを取り出すと、綺麗な髪飾りだった。
慶次らしい、と感じられる、桜を大きくあしらい、金色のリボンや小さな宝石が程よく装飾されキラキラと輝いて、派手なものだった。

「わ、わたし…」

化粧すらろくにしないのに、髪飾りなんてそれ自体したことがない。

「可愛いって、絶対!!」
「慶次さん!!食卓なのに…」

ご飯が冷めてしうとか、食事の前に髪をいじるなんて、など怒られるかと思ったが、まつと利家はにこにこしたままだ。
慶次はが拒否しようとするのも構わず、に髪飾りを付け始める。

「折角、女の子なんだ。楽しまなきゃ損じゃない?」

はい、と手鏡も渡される。

「に…似合いますか?」

覗けば、顔が赤くなり、眉が下がる自分の顔。
自分を褒めるなら…
綺麗な髪飾りのおかげで、いつもの地味さがどこかにいった、ぐらい?

「似合う!!可愛い!!ねえ、トシ、まつ姉ちゃん!!」
「ええ、食後に、それに合った着物を出しましょう。食後はそれでお出かけになって下さい。慶次に町を案内させましょう。」
「おお、いいなあ!!こんな別嬪さんが一緒なら慶次に女は寄って来なくなるだろうな!!」
「そうです!!なんなら婚儀でも」
「ちょ、ちょっとおおお!!!!二人とも!!話が進みすぎてるって!!」
「そ、そうですよ!!だって私達まだ会ったばかりで…あ、いえ、嫌なわけでなく慶次さんはとても素晴らしいお方だと…で、でも…」
「えっ!?、嫌なわけじゃないの!?」

ぐるん!と慶次がそれまでまつと利家に向けていた顔をに近づけ、がびくりと肩を震わせたとき


ぐううううううううううううううううううううううううう

「……すまぬ、某、まつの飯を前に我慢は続かない…」
「まあ、犬千代様ったら」

盛大に利家の腹が鳴り、まつが笑った。

「お話はあとでゆっくりするとして…さあ、遠慮なく召し上がってください。」
「…は、はい」
「そ、そうだなー、じゃ、とりあえず今は…」


慶次との関係がどうなるのかは二人の問題として、今は


両手を合わせて、いただきます。
















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緑さまより、「一人一人と時間を一緒にした後、みんなでご飯!」というなんてほのぼのとした可愛いリクを頂きました!!
連載夢主でないネガティブ地味っ子設定…にしたかったんですが中途半端に…!!!
前田家いいですね可愛すぎる大好き…!!

緑さま、素敵なリクをありがとうございました!!