「政宗様、しばし休まれては?」
小十郎の声に、政宗はゆっくり振り返る。
「これ終わったらな…」
「政宗様…」
いつもの切れ上がった目は無く、眠くてうとうとしている。
「…頑張る理由が…と遊ぶためとかじゃなかったらかっこいいんですが…。」
「何か言ったか?」
今日の昼間、は、まるで少年の様に小枝をくるくる振り回しながらご機嫌で帰ってきた。
「…なんだ?何ごっこだ?魔女ごっこか?おまえ何歳?」
「ごっこ言うな!!はい!!」
いきなり小枝を差し出される。
よく見れば、枝の先に小さな蕾がある。
「梅か。」
「落ちてたの。可哀想に。」
「わざわざ拾ったのかよ。」
「うん。」
綺麗に咲いた花ならともかく、落ちてた枝を俺に渡してくる奴はくらいだろう。
「生けてあげてほしいんだ。お願いします。」
先日、陶器と剣山を買った。
はそれを見ていたのだろう。
春に花が咲いたらと思っての用意だったが、まさかこんなことに使うことになるとは。
「これだけじゃな…。」
「いいよって言ってくれたら、他にも何か探してくる!!」
何故そんなに楽しそうなのか、想像はつく。
山に行き、沢山発見をしてきたのだろう。
「俺も探す。」
ならば、俺もお前と同じものを見たいと考えたって良いだろう。
「まあ、そう上手くはいかねえよなあ…」
そして、さっさと行こうとしたところで、小十郎に襟を掴まれたのだった。
「…ちなみに政宗様、近場でしたら仕事の合間にと散歩、が可能ですが。」
「もう少し遠くがいい…」
「どーゆーわがままですか。」
結局仕事は終わらず、夜になってしまっていた。
と出かけられると楽しそうにしていたところを止められた政宗の仕事のペースは遅かった。
「うあー…眠い…。小十郎、眠い。この書類は明後日にしよう。」
「明日はどこへ行ったんですか。」
じゃあいつと遊べるんだよおおおおお!!!!と政宗が騒ぎ出した。
先ほど、の部屋の前を通ったとき、政宗にとりあえず借りた陶器と剣山に蕾の梅だけを差して飾っていた。
そして、他はどんな花や葉が合うだろうかと悩む姿は、健気以外の何者にも見えなかった。
…これでは俺が悪い人だな
悪役ならとことん、だ。
物音立てずに政宗の部屋を出て、のところに向かう。
「」
「え?はい。何ですか?」
襖を開くと、布団の上に座り、本を読んでいたようだ。
もう少し読んだら寝ようと思ってたんです、と、彼女の眠そうな顔を見ていると伝わってくる。
「政宗様が寝そうだ。ちゃんと仕事をするか見張っててくれないか。」
「小十郎さんは?」
「用があってな。」
「判りました。行きます。」
真面目な顔で部屋を出たあと、小十郎は口をゴニョゴニョ動かした。
良い子が過ぎるだろ、こんな申し出を素直に受け入れて!!あんなに眠そうなのに…!!
と、口に出したくて仕方なかった。
は政宗の部屋に行く前に、調理場に向かった。
夜の空気はまだまだ冷えているが、体表面が冷えるばかりでぼんやりした脳を覚醒させるまでには至らなかった。
「政宗さんも睡魔と戦ってるんだよね。」
小さな湯飲みを二つ取り、お茶を煎れた。
お盆にのせて運ぶ。
何か口に入れた方が、目が冴えるだろうと考えた。
しかし、廊下の角を曲がる際、足元がふらつき、よろけて一つ湯飲みを倒してしまった。
「あ…」
しかし戻って煎れ直すのも面倒だったので、持っていた布巾でこぼれた茶を拭き、再び歩き始めた。
辿り着いたら、戸を開ける前に声をかける。
「政宗さん」
「なんだ。」
「お茶飲む?」
「飲む。入れ。」
戸を開けると、政宗がゆっくり上体を起こし、体勢を整えていた。
どうやら、机に突っ伏していたらしい。
「お仕事進んでる?」
「まあまあだ。」
「お疲れ様です。はい、どうぞ。」
まだ温かいお茶を机に置けば、政宗はすぐに手に取り飲み始めた。
そして半分程飲んだところで、ん?と疑問の声を上げ、を見る。
「茶を運んだだけか?飲み終わったら部屋に戻るのか?」
「政宗さんが仕事しっかり頑張れるかも見に来た。」
「ならいい。」
そしてまた飲み始めた。
が飲み終わったら部屋に戻るつもりだったなら、ゆっくり飲んだに違いない。
「悪いな…」
「何が?」
「行きたい時に、行けなくて。」
確かに政宗は眠そうにしていて、それはお茶を飲んだ後でも変わらなかった。
そして、頭を仕事にしか向けていない分、への言葉は何も飾らない素直なものだった。
「仕事終わったら一緒に行ってくれるんでしょ?だから大丈夫だよ。」
だからも構えず安心して、素直に思った言葉を発した。
「でもよ…もし次何かあったときにまたこの繰り返しなら、お前だって怒るんじゃねぇのか…」
「それはその時にならないと判らないよー。」
「お前…そんなことないよって言ってくれねぇのかよ…」
その言葉に、がへらっと笑う。
昼間に沢山歩いたら、その疲労も溜まって睡魔が襲う。
口調が甘えたような声になってしまう。
今だけは、勘弁してもらおう。
「政宗さんとねー」
「ん?」
のそのそと横になり、投げ出していた政宗の足に頭を乗せた。
政宗は何も言わず、当たり前の様に自然にの頭を撫でた。
「行きたいなーって、思ってたら待ってるよ。でも早く行きたいなーが先なら小太郎ちゃんと行っちゃうよー」
「じゃあ今回は俺と行きたいんだな。」
「うん、政宗さんと見たいです。木も草もお花も、政宗さんと見るの好きなんだよ。」
「何でだよ。」
「政宗さんの、右側に立って歩くの。小十郎さんみたいな右目にはなれないけど、政宗さんが見落とした綺麗なものは私が見て教えるの。」
ほんのささやかなことだが、には嬉しい事だった。
「少しでも…政宗さんの役に立ちたいな…」
政宗の手の温もりが心地よくて、目を閉じた。
「少しでも多く…政宗さんに笑って欲しいなぁ…」
そのまま眠りに落ちる。
政宗の手は、くしゃりと軽くの髪を握った。
「おい……」
恨めしいような政宗の声は、の脳には届かない。
「……どうしてくれるんだよ…ばっちり目が冴えたじゃねぇか…」
眼光を取り戻した左目は、しか映していない。
「そういうことを言うんじゃねえよ…」
完全に動揺している。
「そんなにお前に思ってもらえるほど、俺はお前に何かを与えられてんのか?」
驚きと嬉しさと疑問がぐるぐる頭を回る。
「アホか…お前…」
もう少し進めたら、布団に潜ろうと思う。
怒ったりはしない。
は俺の意識を覚醒させるような事をするが、眠りを誘うことも出来る。
「…抱き枕にしてやるよ」
寝苦しくなるほどに、強く抱きしめて眠ってやる。
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政宗で、『眠気なんて吹っ飛んでしまう』というお題を頂き
まままままんまやんけえええ…!!な内容光速で土下座です!!
管理人はまたーりした関係が好きみたいです…
リク、ありがとうございました!!