「所詮兵など駒に過ぎん…!!」

今日も元就は絶好調だった。

「恐れるな!!我に続け!!」

危険が伴う策も堂々と成し遂げる彼の頭には、戦に勝利することしか無かった。

「元就様!!お待ちください…!!」
「何だ。」







は元就の目の前に正座をしてちょこんと座っていた。

「な、な、何事でしょう?」
、この書簡を包め。」
「問答無用!?」

青葉城の部屋でくつろいでいると、小太郎が現れ、ごめんねと手を合わすとを連れて移動した。

「………。」
「小太郎ちゃん!!何事なの!!いくら貰ったの!?買収されたらだめ!!」
「………………。」
「え、え…そのお金があれば私に着物を買ってあげる余裕がある?」
「………………………。」
「こ、小太郎ちゃんたら…」
「貴様ら自分達の世界に入るな。」

元就の強い口調にはびくりとふるえ、小太郎は唇を僅かに尖らせた。

「それで、えと、元就さん、私に何用ですか?」
「我の仕事を手伝ってもらおうか。」
「へ?」
「日々の暑さに、兵がやられおって現在我が軍は人手不足だ。これ以上理由が要るか?」
「なんで私…元親のほうが政に詳しいし、近いし…」

はうっかり、元親も元就と同じ大名でしかも敵対していることを忘れていた。

「余計な知恵は無いほうが扱いやすい。」
「扱うってえ〜…」

元就もの、元親に手伝わせればいいじゃん、という意味が含まれる発言につっこみはしなかった。

「…元就さん、」
「何だ。文句か?」

は一度腕を組み、大袈裟にうーん、と唸った。

「命令じゃなく、お願いします、なら手伝うよ?」
「なら帰れ。」
「あっ、あっ、調子に乗ってすいません〜!!手伝いますよ!!そんな怖い顔しないで下さいよ〜!!」

は駆け寄って先ほど指示された仕事を始めた。

「忍、貴様は帰れ。」
「………。」
「…早くに着物を買えばよかろう。仕事終わりの褒美は無しか?」
「!!」

小太郎は単純に嬉しがり、姿を消してしまった。

「えっと、確かこれはこうして…」
、それが終わったらこっちを確認しろ。我の印が押してあるのを確認すればよい。」
「はい〜!!」

慌てながら元就から書類を受け取る。
そのとき、元就との手がそっと触れてしまった。

「…!!!」
「大量じゃないですか元就さん〜!!時間かかっても怒らないでください〜!!」
「………。」

元就はバッと手を引っ込め、乙女のような反応をしたが、は何も気にせず仕事の多さに顔をしかめた。

「…
「はいっ……むぎゃ!?」

元就は突然に向けて薄い本を投げつけた。
一人で照れて一人で恥ずかしかったようだ。

「なんですか〜!?」
「黙って仕事せぬか。」
「ええ!?私うるさかったですか?」

軽く頬を膨らませ、ため息をついて黙々と仕事を再開した。








猫の手も借りたい、という状況だったが、普段政宗の仕事を手伝っているようで、の協力で仕事が随分と進んだ。
予想以上に働いた、ということで、元就は自ら別室で茶を入れていた。

「…ふん。のことだ。この程度で大喜びするであろう。」

そう呟いた元就だったが、廊下には家臣が集まり、元就が人のためにあのような事をするなんてもうこの国は終わりだとざわめいていた。


そして再び部屋へと戻った。
「………。」
襖を開ける前に、コホンと咳をする。

、ご苦労…」
あくまで上から目線でいようと目を細め、無表情で部屋に入った。

「………。」
「…ふぐぅ…」

しかし元就の考え通りに事は進まず、は机に突っ伏して眠っていた。

「…………我が茶を持ってきたのだぞ…?」
「…んう…?」
声に反応して、のそりと起き上がった。

「あ、ありがとうございま〜す」
目をこすりながらそう言うと、手を伸ばしてきた。

…」
「はぁい」
「頭を畳みに擦りつけて感謝せよ。」
「そんなに!?」

元就は、は嬉しくなり飛び上がるくらいのリアクションをするだろうと期待していたらしい。
としてはお茶くれたくらいでなぜそんなに感謝を体を張って表現せねばならないのか疑問だ。

「あ、こ、これ、高級なお茶ですか?」
「そうでもない」
「元就さん、仕事放って私にお茶を?…」
「そんなわけなかろう」
「あー、うー、そうなんだ…」

頭を下げても良いような状況を作りたいが、なかなか難しい。

「うーーん…と、とりあえず頂きます…」
飲んで美味しかったら頭を下げよう、と考えた。
にもプライドがあるらしく、テキトーにはいはいと頭を下げるようなマネはしたくないようだ。

「……ん?」
「……………。」
「あ、元就さん!!これ茶柱立ってますよ!!ほんのりだけど…」
「……………………。」
「…あれ。」
元就は無言で自分用に持ってきた茶を飲み始めた。

「無反応…ってことは知ってたの?」
「!!」
無視しようと思ってた反応をそう捕えられてしまった。
真実であったわけだが。

「元就さんこういうの好きそうなのに、私にくれたの?」
「う、うるさい…」
「ありがとう、元就さん。」

にこりと笑えば、元就は目をぱちくりさせたあと、顔を勢いよく逸らしてしまった。

「元就さん?」
「自分に都合の良いように考えおって…!!能天気な!!」
「………。」

イライラしているというよりは、照れてるような声だった。

「元就さんの愛情表現って、判りづらいですよね〜…」
「な…!!愛情など表現した事は無いわ!!!!」
「だからお友達少ないんですよ〜」
「貴様頭が沸いているのか!?」
「もっと素直になったら、元就さん美人だしモテモテなのに〜」
「〜〜〜〜……!!!!!」

元就の話を聞かず、ぺらぺらと話すをなんとか止めねばと、元就は動いた。

「黙れ!!!!!!」
「わぷ!!」

覆いかぶさるように、ぎゅっと抱きしめる。

「何が愛情表現か…!!!」
「これなら判りやすいよ〜」

眉間に皺を寄せる元就とは対照的に、はへらへらと目尻を下げる。

「こ、これは抱擁ではないわ!!締め技よ!!!!!」
「むぎゅぎゅぎゅぎゅ!!!!!」

恥ずかしさを隠すように腕に力を込め始めた。
が、やめてください、と言うのを待つ。

「もーとーなーりーさ〜ん」
「苦しいか!?」
「あのですね〜」

抵抗するどころか、は元就の背に手を回した。

「強く抱きしめられた分だけ、愛情感じちゃうんですけど?」

「…………。」

バッと、元就が離れる。
そして背を向けてしまった。

、仕事ご苦労。帰れ。」
「ええ!?それは無いでしょ…」
「帰れ!!!」
「ん〜…」

僅かに見える頬は、ほんのりと染まっている。

「また来ますね!!」
「…そうか。」
「小太郎ちゃ〜ん!!」

叫ぶと庭から小太郎が飛び出してきた。
をすぐに抱えて消えてしまう。

「い…いつから居た…!?」
そしては知っていてあのような事を言ったのだ。
明らかにからかわれた。

「……。」

ぼーっと一点を見つめた後、ボソリと呟く。

「次来た時は…縛り付けて吊るしてやるわ…!!!」


元就様に春が来た、と思い聞き耳を立てていた家臣達は、それはもう拷問ではなくプレイじゃないか…と思っていた。















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元就様ほのぼの夢をリクして頂きました!!
本当にのんびりしちゃいました…!!

色然さま、本当にありがとうございました!!!!