「う〜…信じられない〜…」
「現実を受け止めろよ」

政宗がのおでこにぽんぽんと手をおいた。

「まだまだ熱あるな。」
「だるい、です…」

顔をしかめるに政宗は笑顔を向けた。

今朝からは風邪をひいて寝込んでいた。

「今日…私の鷹狩りデビューになるはずだったのに…」
「また後でいいだろ。それにお前いざとなったら可哀相とか言い出しそうだしな。」
「言わない…」
「この子には大自然のほうが似合うわ!!とか言って。あ〜想像できる。」
「言わない!!」

がばっと頭まで布団を被った。

政宗の今の仕事が終わったら、小十郎と成実も連れて鷹狩りに行こうと約束していたのだった。

「また約束し直せばいいだろ。」
「う゛ぅ〜」
「風邪が治ったら行こうぜ。」
「……ん。」

政宗が優しくそう言ってくれるので、布団から顔を出し、政宗の顔を見上げた。

(弱ってるときにそばに誰かいてくれるのって…いいなぁ…)

そんなことを思ってしまう。
こんなときぐらいは甘えてもいいだろうかと考える。

のどが渇いたとか、そのぐらいの頼みごとならきっと許してくれる。
「政宗さん…あの…」
「なんだ?」

「のど渇いちゃっ…て…」
言いながらはっとした。
持って来てもらうなら、政宗がこの部屋から居なくなる。

「判った。待ってろ。」
「あ…ありがとう…」

しかし水を持ってきてもらう程度のこと。
それすら嫌だなんて、自分はなんて甘えん坊なのだろう。

「他に何かいるか?」
「あ…水だけで大丈夫…」
頬をひと撫でした後に政宗は立ち上がって去っていった。

そして、部屋の中に一人きりになってしまった。

「…我侭も選ばないとな…」

しかしそう考えると何を甘えたら良いのかわからない。

「甘えるってのも…難しいのね…」

瞼が重くなり、無意識に目を閉じた。







いつからだか全く判らないけど頭にひんやりとした感覚がある。

「……?」

何だろうと目を覚ましたところで、自分がいつのまにか眠っていた事に気がついた。

「邪魔したか?」
「…ううん。あれ…わたし…」

冷たくなってる手を頭に当てながら、政宗が自分を見下ろしていた。

「…ごめ…お水頼んどいて寝て…」
「水くらい汲みなおせばいい。体調はどうだ?」
「うーん…ちょっとは、楽になった、かなあ…」

正直先ほどより体が回復したかどうかもよく判らなかったが、心配そうに見つめられるのでそう返すしかなかった。

「よかったな。ま、無理すんな?半刻ぐれえしか経ってねえぞ?」
「…半刻…」

その間政宗はずっと自分の側に居てくれたのだろうか。

「ほら、一口飲めよ。」
「ありがと…」

起き上がって受け取った水は冷たかった。
すでに汲みなおしてくれていたようだ。
「……。」

一口飲むと喉が潤う感覚が気持ちよく、一気に飲み干した。

「やっぱり…」
「ん?」
「まだ、だるい…」
「だろうな。もっと要るか?」
「いい…」
「大丈夫か?」

風邪のせいだ、と思いながら、政宗をじっとみつめる。
わがままが言いたくて仕方ないんだ。

「政宗さんには…側に居て欲しいから…」
「…!」
「政宗さん近くに居てくれなきゃ、治んないから…」
「…そうか。」
「…今は…政宗さんの背中見たくないから…」
「…ん。」

の肩にそっと手が添えられ、ゆっくり押し倒される。
そして政宗がの顔の横に手をつき、覆いかぶさるように顔を近付けた。

額と額を合わせたり、頬をすり寄せてきてくれる。

「そんなこと言うと、俺はずっと側にいるぞ?」
「…嬉しい…」
「素直だな…」

はは、と政宗が笑う。

「政宗さん…手握りたい…」
「ガキみてぇだな…」
「…頭ぼーっとして…」
「言い訳すんなよ。」

政宗が寝転び、と目線を合わせた。

「俺の前では、そうでいい。」
「…え?」
「お前の我儘は、可愛いんだよ。」

手を伸ばし、の手をギュッと握る。

「…もっと聞かせろ。」
「…そ、そう言われたら…」

言うのが恥ずかしくなる。
おろおろするを見て、政宗はククッと笑った。
馬鹿にされているというより、照れたような笑いだ。

「あんまり弱ってるといじめたくなる気が起きねぇよ。早く、治せよ。」
「……。」

いじめたくならないということは、からかわれているのではなく、政宗は本心を口にしているということか。

「…嬉しいな…」
「何がだ?」
「政宗さんに、甘えるの好きなの…」
「…そうか…」
「でも…拒絶されるのは怖いの…」
「しねぇよ…」

徐々に言葉を発するのもだるくなる。
症状のピークはこれからなのだろう。

「…ちょっと…寝ます…」
「…あぁ」

政宗がそっとの両目を片手で覆った。

「おやすみ、
「…おやすみなさい…」

政宗の手がひんやりとして、にはとても心地よく感じた。



「……。」

から寝息が聞こえてくると、政宗は手を退けた。

そして寝顔をずっと見つめる。


「…側に…か。」

自然と口元も目元も笑ってしまう。

小十郎には、政宗にうつっては困るから、のことは小太郎や女中に任せて大人しくしていてくださいと言われたが、無理を言って来てしまった。

「俺でよければ、いつでも…ってな…」

布団から出ているの小さい手に触れる。
柔らかくて、かわいい、と思う。

「俺が看病してやるからな…」

使命感に燃えてしまう。

この役は誰にも任せたくなかった。

「元気になったら鷹狩り…治らなきゃ…大人しく一緒に部屋…」

自分は退屈なのは好きじゃないと思っていたが、そうでもないようだ。
どちらも嫌じゃない。

「…お前の世話、だからな…」

弱っているを見ると、支えたくなって仕方ない。
もうこれは、慈善よりの我儘より、自分の我儘。

「…いいよな…?」

甘やかしたいと思う自分と、甘えたいと思うが居てくれて

こんな些細な事でも、気持ちが通じ合えて、幸せを感じてしまう。

「…どうしようもねえな…」

頭を抱えてそう呟いたが、頭の中はが起きたらこんどは何をしてあげようかなと考えていた。










「やだよー!!やだよー!!政宗さん出てってよー!!!!!」
「だめだ!!お前の世話は俺がするんだ!!」
「何でよ!!!いいってー!!仕事しなよー!!」

日が落ちる頃になると、の部屋からそんな声が聞こえてきた。

「きっ…着替えぐらいできるから!!」
「だから、体拭いてやるって!!背中は無理だろ?」
「女の人呼んでよー!!」
「だから、お前の世話は俺がするんだって。」
「嬉しいけど…!!けど着替えはやだってー!!!!」

政宗はの襟を握り、寝汗が染み込んだ着物を脱がそうとしていたが、は必死に抵抗していた。

「…何でだよ?」
「恥ずかしいから!!!っ…げほげほ!!」

顔を真っ赤にして咳き込んでしまったを見て、政宗は手を離した。
しかし顔は残念そうで、唇を尖らせていた。

「…じゃあ…」
「な、何…もう無理な事は言わないで…」

は疲れてしまい、ばたりと横になって、あぐらをかいて大人しくする政宗を見上げた。

「…夕餉は…」
「…ん〜…おかゆ…頂きたいなあ…」
「……俺が…」
「え、作ってくれるの?」
「………ふーふーして、食わせていいか?」

………………………。

が沈黙してしまい、政宗はしまったと思った。

「これもダメかよー!!!!じゃあ何ならいいんだ!?」
「…あの…政宗さん…」
「あ!?」

を見ると、顔を両手で押さえてふるふると震えている。

「どうした!?寒気か!?」
「…いえ…あの…」

を心配し、政宗が急いで布団を掛ける。
しかし、の顔には笑みが浮かんでいた。

「ふーふーは…嬉しいです…」
「っ…!!そうか!!」

ぱああと嬉しそうにする政宗が可愛らしくて、は声を出して笑った。

これではどちらが甘えてるのか判らないなと思いながら。














■■■■■■■■
『政宗しか出ない、純粋に甘いお話』というリクで書かせていただきました!!
じゅ…純粋かなこれ…ちょっと遊んじゃった感が…
途中何回か小十郎出してしまい、慌てて軌道修正したりでした…!!
話がまとまってるか不明ですすいませ…!!
けど久々に政宗書けてすごく嬉しかったです!!
リク下さった方、ありがとうございました!!