今日はに仕えてから丁度1年目だ。
氏政様は仕えて1年目に温泉に連れて行ってくれた。
その時はどうしてそうなるのかよく分からなかったが、『これからも北条家のために働いてくれい』と笑顔で言われた瞬間、心が温かくなっていったのを覚えている。

今度は自分が、にこれからも一緒にいてくれと言いたくて、今日という日をお祝いしたくて、町に来た。

小太郎は買ったばかりの贈り物を抱えて町を歩いていた。
もちろん町人に変装している。

「……。」
「あれっ?小太郎?」

前方から大きな荷物を背負った佐助が歩いてくる。
ついに薬売りに転職か、頑張れよとエールを送り、通り過ぎようとした。

「ちょっと!!違うでしょ俺様もあんたと同じ!!変装して買い物だよ!!」

読心術で小太郎の考えを読み取った佐助は、さっさと進んでいく小太郎の襟首を掴み引き留める。

「今まで通り、甲斐には俺様という優秀な忍がいるからね?変な報告竜の旦那やに言わないでよね。」
「……。」

こくりと、頷いた。

「んでー、俺様は旦那に団子を買ったんだけど…そちらはに?」
「……。」こくり
「…いいよねえ、楽しそうだねえ。俺様も可愛い女の子に贈り物して喜ばれたいよ。」
「…………。」

今の自分は楽しそうに見えるらしい。
確かに喜んでもらえたらいいなという期待で心が満ち溢れている。

「……。」
「えっ?そうなの?」

通り過ぎる人には、佐助が独り言を言っているようにしか見えない。

「そうかあ、もう1年かあ。ねね、となんか、そーいうことはないの?」
「?」
「ええーちょっと、わかんないとかないでしょー?男と女なんだし?そういう感情って芽生えないの?」
「………。」
「どーせ黙って近くにいるだけなんだろう?めでたい日だと思うならさ、自分の気持ち伝えたら?」
「…………。」
みたいな子は、物よりそういうものもらったら、喜ぶって。」
「………………。」
「好きだよー大好きだよー愛してるよーなーんてね!!そんなガラじゃないかあ?」

あはははと佐助がご機嫌に笑う。

「………。」
一度下を見て、ふるふると首を振った。

「そう?まあ、いーんでないの?伝説の忍さん流のお祝いで。」

『女』相手ならともかく、相手は『』だ、と佐助に伝えると、それもそうだ、と佐助がまた笑った。










庭で政宗にもらったマイ盆栽の手入れを真剣にやってるを発見した。

「小太郎ちゃんおかえりー」

もこちらに気づいて、手を止めて振り返った。

「なかなか難しいよー。今日はここまでっ!!お茶一緒に飲もうよ。」
こくりと頷き、の部屋に入る。

「町人の格好した小太郎ちゃん、新鮮だなあ。可愛い。今度その格好で一緒に出かけようよ〜。」
「…………。」

先程は自分には無理だと佐助に言ってしまったが、は自分にかっこいいとか可愛いとか、感じた時に伝えてくれる。

自分はというと、を可愛いと思うことはたくさんあっても伝えたりしない。

…今日くらいは、気持ちを言ってみようかなという気分になった。


座布団に座ったところで、懐から紙を取り出す。

「ん?なになに…“今日で仕えて一年目”…」

見た瞬間は何事か分からずきょとんとしただったが、自分に仕えて、という意味だということに気づく。

「…そっか、小太郎ちゃんがここ来てもう一年か…。というか、仕えて、って表現はやめてよー。」

そしてもう一枚取り出す。

「“これからも、よろしく”…って、こっちのセリフだよ!!」

そして小太郎は、買ってきた贈り物を渡した。

「えっ!!そんな、私なにも用意してないのに…」
そう言いながら、は包みを開ける。

「わ…」

中には、綺麗なガラス細工が入っていた。

「これ、鳥がモチーフだよね…かわいい…」
「…………。」

そして、はいつも可愛い、大好きだ、と耳元で言おうと顔をゆっくり近づける。
いざ言う瞬間は恥ずかしくなってくるが、今の機会を逃したら当分言えないと思った。

近づく小太郎の肩にが手を添える。

「これ…小太郎ちゃんみたいだね。綺麗な翼で自由に飛べて、どこへでも行ける…でもいつも私のところに帰ってきてくれてありがとう。小太郎ちゃん大好き。」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
先に言われてしまった。

これでは二番煎じになる。

俺も大好きだよ、ということになる。

それじゃだめだ

それじゃだめだ!!!!

「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
「あれっ!!!?」

ばしゅっと小太郎が消えてしまい、は手を引っ込める。

「な、なんか…だめなこと言ったかな…」











言い損ねたらもっと言いたくなってしまった。
今度はいつ言う機会があるだろうかと計画を立てようとするが、思いつかない。

に危機が訪れ、助けた時か?

それ以前に、に危機など訪れさせない、自分が守ると決意をしてしまえば、もう何も思いつかなかった。


「こ、小太郎ちゃん…?」
「!!」

物置に入っていた小太郎を、が見事に見つけ出した。
なぜ分かったのか聞く間もなく、その疑問は解決する。

「小十郎さんが、この辺で気配感じたって言ってたから…」
「……。」
確かに、先程まで気配を消さずに思い悩んでいた。
しかし、気づかれるほど出してはいなかったはずだが、通りかかった相手が悪かった。

「なにか…機嫌損ねちゃったかな…?」
「……。」
首を2、3回横に振る。

小太郎は、また紙を取り出し、携帯用の筆と墨を取り出した。

「…“自分の思いを伝えたいときは、どんな時に伝えたらいいか?”」
こくりと頷く。

「いつでも、いいと思うよ。」

そんな風に言われたら、困ってしまう。
具体的な答えを言ってほしかった。

「いつでも、言われたら嬉しいよ。」

そう言い、何かを待つように静かに微笑むを見て気づく。

今言ってほしいということだ。

「〜〜〜〜〜〜〜……」

さっきまでは展開を自分で計算していたから行動に移せたのだ。
今は急すぎて心の準備が出来ていない。

思ったことを口にするだけなのに、ひどく緊張する。


小太郎はに近づいた。

手を引いて抱き締め、屈むようにして耳元に口を寄せた。







だいすき


……だ




それを言うだけで、いっぱいいっぱいだった。



「…小太郎ちゃんが言いたいこと、先に言っちゃってごめんね。」

が抱き締め返してきて、小太郎がびくりと体を震わせた。


好きだと言い合った後の抱擁は、助けるときや元気づけるための抱擁とはあまりに質が違うと感じた。


「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あははっ小太郎ちゃんの照れが移る〜〜恥ずかしい〜〜〜」


お互いにその場に座り込んで、動物がじゃれあうような体勢に変えて、恥ずかしさを誤魔化しあう。


「また…」
「!!」

言葉を発しようとしたの口を手で塞ぐ。

もう先を越されるのは忍としてのプライドが許さない。



来年も、一緒に祝おう



手を離すと、うん、と照れながら頷かれた。


忍の立場でそんな約束はおかしいと思うが、

心からの望みだから必ず叶えようと誓い、をもう一度強く抱き締めた。




















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甘く、小太郎可愛く、たどたどしく小太郎に告白されるというお題を頂きました!!
最近小太郎がマジ天使で困りますなにあの子どこで雇えるの

甘くできたか謎ですみませんですが、リクありがとうございました!!