小太郎に1枚の紙を渡された。
政宗はそれを首を傾げながら目を通したあと、声に出して読み始める。
「…我が儘とは、何だ?って何だコレ?」
小太郎の顔を見ると、困ったように口をへの字に曲げている。
「我が儘がどういうもんか知りてえってか?そうだな…」
記憶を巡らすというよりも、空想する方が早いと思い、天井に目線を移す。
「…例えばだ、に、食事を口移しで寄越せって言ったり」
「……。」
小太郎は早くも人選を間違えたと思った。
「で、恥ずかしながらしてきたところをまずは素直に受け止め、もういっこでせがんだら次は焦らして口が食物に付くか付かないかって距離で、髪を撫でてくれって言ったり、kissしろっていったり…」
そこまで聞いて、小太郎は政宗に背を向ける。
懐から新たな紙を出し、何かを記し始めた。
背後から近づき、覗き見ると、『我が儘とは、普段通りで大丈夫…』と書いているので政宗は小太郎の髪をぐいっと引っ張る。
「どこがだよ!!まぁ、つまり、要望が多いのが我が儘なんじゃねえの?」
「……。」
なんとなく分かったのか、政宗に頭を下げて消えていってしまった。
詳細を聞かずとも、が何か言ったのだろうとは察しがつく。
立ち上がり、の部屋に向かった。
「小太郎ちゃんに、我が儘期間を設定致しました。」
髪の手入れをするの背後にあぐらをかいて座り、その意味のわからなさにハァ?っと声を出す。
「What?」
「小太郎ちゃんは私に尽くしたがりやです。なのでたまには逆にね?今日から3日間1日1回、小太郎ちゃんが我が儘言うの。」
毛先をチェックすると、政宗に向き直る。
手入れ中に問答無用で政宗がの部屋に入ってきたのだが、は失礼しましたと頭を下げた。
「フーン。じゃあその後は俺の我が儘期間でもやってくれよ。」
「えっ!!やだよ。」
「即答かよ!!」
そんなやり取りをしていると、の背後に小太郎が現れた。
今日の我が儘は決まったのだろうか。
が振り向くと、じっとその顔を凝視したあとで、また紙を取り出し文字を書く。
終わると、の目前にばっと差し出した。
「…髪を撫でさせて下さい、か…うーん簡単すぎるけどいいか…」
「……あのなあ…」
男の心理として、女の髪に触るのは結構ハードルが高い。
は何もわかってねえなと不安になりもする。
「どーぞ!!お手入れしたばっかりだよ!!むしろ触られるの嬉しいな!!」
「!!」
小太郎が嬉しそうな雰囲気を発し、直ぐに膝立ちになっての髪に触れようとする。
しかし手袋をしたままなのに気付き、口で中指部分を噛んで外す。
素手での髪に指を通した。
「さらさらでしょう?」
こくこくと小太郎が頷き、毛先まで堪能するように指で何度も梳く。
その光景を見て、政宗はついていけねえpureさだな…と呟いた。
「我が儘だって?」
我が儘期間2日目。
武田領に来ると、佐助が川で洗濯をしていたが小太郎は何も気にせずに問いかけた。
「俺様だったら給料上げて一択だけどなあ。」
「…………。」
小太郎がにそんな要求をするはずないとは思いつつの提案だったが、意外なことに、名案とばかりにこくこくと2回頷かれた。
「えっ…やべ、まじ?」
驚くのすら遅く、すでに小太郎は消えていた。
「……なら直感で気付いて文でも寄越してくるかなあ…。」
佐助の心配は無用のものだった。
「なんのつもりだ…」
「……。」
小太郎が訪ねたのは政宗だった。
無言で翳す紙には『報酬をちょっと豪華にしてくれ』と書いてあった。
「…ハァ…。」
政宗は瞬時に理解した。
は、ただ我が儘を言えと言っただけなのだろう。
彼女は自分と小太郎間の取り決めのつもりだろうが、告げるときに主語が無く、小太郎には誰でもいいから我が儘を言えばいいと解釈されている。
「…仕事によるぞ…。何が欲しいんだ?」
「……。」
小太郎は少し照れたように口を窄め、紙の空白部分に筆を走らせる。
『が喜ぶもの』
そう書かれるのは予想できたのに、露骨に顔に不快感を露わにしてしまった。
「…やらねえ。」
「!?」
「なんでお前とがいちゃいちゃする手伝いしなきゃならねえんだよ!!」
「…?」
小太郎は首を傾げる。
が喜ぶのが下心なく嬉しくて、それを見たいだけだという様子なのが、政宗の眉間にさらに皺を寄せさせる。
そして一通り苛立ったあと、はあ、とため息をついた。
「…手柄立てろよ…」
こくりこくりと嬉しそうに頷いた。
この忍が本気を出してくれるなら、伊達軍としても喜ばしいことだが、理由があまり歓迎できるものではない。
小太郎が消えていく様を見送ったあと、机に広げた布陣に筆を走らせる。
「oh…一気に有利じゃねえの。」
陣の一角をほぼ小太郎に任せることになるが、彼ならばこなせるだろう。
と一緒に楽しく過ごす時間が後にあるのだから少し位は苦労しろという政宗のメッセージも含まれていたが。
「政宗さーん。小太郎ちゃん見なかった?」
「俺に我が儘言って行ったぞ。」
「え?政宗さんに?ごめんなさい!!私に言ってもらうはずだったのに!!」
「そういうことだと思った。まあいい。こちらとしても良い条件だ。多分な…。」
「あ、さすが政宗さんだー。交換条件出したの?」
「成り行きでな。」
明日の最後の我が儘は一体なんなのか。
小太郎のことだからどうせが喜ぶ我儘なのだろうと考え、ちらりと視線を向けると首を傾げられた。
「愛されてるねえ。」
「何が?」
は一礼し、視線を政宗から逸らす。
小太郎を探しに行こうと歩き出したその背に声をかける。
「やっぱり俺にも我が儘期間設定しろ!」
「なんで!やだよ!!」
「迷惑料だ!!」
「設定しなくても政宗さんは我が儘言えるじゃん!!」
すぐにの姿が見えなくなる。
政宗は机に向かい、また布陣を見直し始めた。
「いつでも我が儘言っていいって意味だと受け取ったぜ?」
満足げに笑いながら。
「わ、我が儘、だと?」
今日は越後との国境に来て質問をする。
木にもたれ掛かったかすがは何を想像しているのか、顔を赤くしている。
「どんな我が儘を言いたいかというのは、その、やはり、好いた方に…何をされたいかということで…?」
そして挙動不審にもじもじしはじめ、顔も赤くなる。
小太郎はどうしたのか解らず首を傾げた。
「そ、そうだな…」
瞼を伏せがちにし、迷いながら、ゆっくりと言葉を発し始める。
「け、謙信様に、その、く…」
そこまで言うと、小太郎も驚く程の高速で顔に手を当て、だめだ!!!!!!と叫ぶ。
「???????」
「取り乱してすまない!!しかし今のは無しだ!!!!!」
「……。」こくり
呼吸を整えたあとでも顔は赤かったが、今度は少し冷静な態度で小太郎に視線を向けた。
「言ってみたいのは、その、謙信様に…」
「……。」
分かったとばかりに頷いて、小太郎は高く飛び上がった。
それをかすがは目を丸くして見つめた。
「〜〜〜〜〜〜!!考えを勝手に読むなあああああ!!!」
奥州への道を移動しながら今日の我が儘を考える。
かすがは越後の軍神と口付けをしたり抱き合ったりしたいらしい。
自分がそんなことを言ったらは喜んでくれるのだろうか?
「………。」
小太郎としては、してくれたら嬉しいのだが。
青葉城に到着すると、が縁側に座って茶を飲んでいた。
傍らには政宗が座って、こちらを見て目を細めて不快な感情を露にしていた。
「小太郎ちゃん!!どこ行ってたの!ずっと探したんだよ!?城内だけだけど!!いや、それより昨日は政宗さんに我が儘言ったんだって?だめだよ私にだよ!他の人にはだめ!」
「……。」
他の人には迷惑になってしまうから、という意味なのは政宗も十分分かっているが、今の言葉を簡潔に表現すると、私以外の人に我が儘言っちゃ嫌!のようで羨ましさにさらに小太郎は睨まれる。
「Lastの我が儘は決まったのか、小太郎。」
俺が居る時でよかったぜと言わんばかりの声色だ。
「……。」
さすがの小太郎も政宗の前で口付けたいなどと言えば六爪を持ち出し襲ってくるだろうことは予想できる。
「私に言ってね?」
「………。」
そして、紙と筆を取り出して何か書き始めた。
すぐにばっと二人の目の前に差し出される。
「な…!!」
「え?」
紙には
『と二人きりでお茶したい。』
と書かれていた。
「そんなのでいいの?」
小太郎がこくりと首を下げるのを確認すると、は分かったと微笑んだ。
そこまではいい。
二人きりということは、政宗に退いてもらうということだ。
もしくは政宗のいないところに二人で行くということだ。
「じゃあ政宗さん、またあとで…っと!!」
小太郎がいつもより乱暴にの腕を引いて立ち上がらせる。
「小太郎ちゃん?」
そして肩を抱き寄せ、一瞬政宗に顔を向けたあと、さっさと歩き出す。
「あ、あいつ…!!!」
政宗の悔しそうな顔に満足げな口元だ。
はよくわからないといった表情だが、分からなくていい。
「小太郎ちゃん、何茶がいい?」
分からないが、一瞬の二人の不穏な空気は感じているだろうに、この様子ではあとで政宗のご機嫌取りに行くつもりだろう。
気が回りすぎて、男同士の喧嘩をなかなかさせてくれない。
「……。」
「何か、言いたいことありそうだね?」
「………。」
の耳元に口を近づける。
期間が終わったあとも、我が儘を言ってもいいのだろうか、と問うと、は嬉しそうに微笑んだ。
くせになってしまったら、のせいだ。
そう考えるとまた嬉しくなって、早くお茶を飲もうと手を引いた。
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「小太郎のわがまま」というリクを頂きましたので我が儘を全面に押し出すネタになりましたありがとうございます!!
小太郎に わがまま 言われたいですなあ…
リクありがとうございました!!!