「はぁ…全く…」

小十郎は溜め息をつきながら政宗を探していた。

「また仕事放ったらかしで…」

はちょうど元の時代に戻っている。
その寂しさを紛らわすためのものというのは判っているが…。

「なぜ突然…猪狩りに行くなどと…!!」

って猪の肉食ったこと無いんだってよ!、と、政務の合間に政宗が言っていた。
そうなのですか…と自分は言っただけで何も気に止めなかったのを後悔する。

少し目を離したら、武器と愛馬と共に姿を消していた。

「せめて家康と信玄公の文に目を通してからにして下さいよもう…!!」

が喜んだり驚いたりするのを見たいという気持ちは判るのだ。 反応が良く、見ていて楽しい。

「…ん?」

山道を進んでいると、小さな鳥居が見えた。
「こんなとこに神社なんてあったか?」

興味を引かれ、一歩踏み込んでみると

空気が変わった。

「ん…?」
「あれ…」

神社に向かう階段に座っていたのは、やたら軽装で水を飲むだった。

「あれ〜?小十郎さん?何で?こんにちは〜。」
気の抜ける挨拶だった。
「ど…どうなって…」

突然、小十郎の頭に例の南蛮野郎が思い浮かび、オーウアナタの―彼女を想うキモチが―ふ―たり―を引き合わせたのデース!!と派手なジェスチャーで叫ぶので、自分は何を考えてるんだと必死に振り払おうとする。

「ここはの…」
「私の家の近くの神社だよ〜。」

飲んでいたペットボトルのフタを閉め、汗を拭きながら小十郎の元に寄ってきた。

「何してたんだ?は…」
「朝のジョギングだよ!!走り込みの鍛練!何とか5日続いてるんだ〜。体力つけないとと思って!!」
「そうか。偉いな。…なぁ。俺戻れるかな…?」
「最長私と一緒に戻るじゃない?」
「そうだな。」

すぐにに出会えて、偶然に感謝だが、がどこにいてもそこに辿り着いた気がして小十郎は冷静を保っていられた。

「…本当に、なんだこの世界は、だな…」
「でもこの辺りは自然が多い方でしょ。」

くぐった鳥居は高台にあり、町が少し見渡せた。
マンションや住宅、デパートや車、信号機…小十郎の目にはどう映っているのだろうかとは興味が湧く。

「小十郎さん、着物なんですね。」
「あ、あぁ、政宗様が遊びに出かけてしまってな、急いで追って…簡単な装備はしてるんだがな。」
「この時代に着物の強持てのお兄さん、良いですよ〜。あっでも、私のジョギング装備と一緒に歩いてたら、変なカップル〜かな。」
「かぷ…?」
「恋人ってことです。あはは」
「こっ…恋人…!?」
一瞬照れてしまったが
「…には見えんだろ…。最高で親子だ。」
冷静になれば、はただでさえ童顔だし小さいしで、自分の顔を思い出せば自然とそういう結果が出て来た。

「そんなことないです。格好いいですよ、小十郎さんは。」
「ありがとうな。」
「ひとまず私の家に行きましょうか。」
「助かるよ。」

に腕を引かれて歩き出す。
舗装された道路を歩きながら、歩きやすいが、こんな道で落馬したらただじゃ済まねぇだろうな…なんでこんな道にしたんだ?と疑問に思っていた。





「ここでーす。」
「さすが。やはり城主だったか。」
「あっ違っ…すいません期待しないで下さいここの一室です。狭いです。」

のマンションに着き、玄関ホールでそう言ったら勘違いさせてしまった。



あまり驚かせないよう配慮し、エレベーターではなく階段で部屋へ向かう。
小十郎は落ち着いた様子だったので、玄関先で草履を脱ぐ様教える以外は特に問題は無かった。

「狭いでしょ?」
「広さはまぁ…しかし綺麗にしているじゃないか。」
「ありがとうございます。」

座るように促した後、クローゼットを開ける。

「……。」
ちらりと、小十郎の体格を見る。

「小十郎さん、少しここで待っててね。」
「用事か?」
「はい。お茶飲んで待っててください。」

ワンピースにすぐ着替え、手で髪を整える。
ペットボトルのお茶をコップに移して、城のお茶のが美味しいと思いますが、と一言行って外へ向かう。

小十郎に笑顔で手を振りドアを閉めたら、猛ダッシュでエレベーターに向かう。

「小十郎さん着れるのなんて無いからー!ユ○クロ!!!ユニク○!!!」


バタン、とドアが閉まる。
の背中を見送った後、部屋を改めて見回し、茶をすする。

「……………。」
ベッドの上に乗っているぬいぐるみに手を伸ばす。

「ネコか?」
ふわふわして気持ちよい。

机の上にはクマのぬいぐるみがあったり、棚の上にはパンダのぬいぐるみがある。

「可愛らしいな…女の子らしい…」
そしてほのかに良い香りがする。
香とは違う自然な香り。

外からばたばたばたと騒がしい音が聞こえてきた。
そしてドアが開く。

「ただいま小十郎さん!!!服買ってきたよ!!」
大きな袋を持って、息を切らしながら入ってきた。

「お帰り、。」
「ぬ、ぬいぐるみ、気になったの?」
「ああ、まあ…そうだな」

ぬいぐるみを抱っこした小十郎を、不思議そうな顔で見つめた。

「…まあ、いっか…はい、これ、多分履けると思うよ。」
「これを着ればいいんだな?」
「はい。」

デニムにシャツとラフな格好に着替えさせた後、は一息ついてベッドに腰掛けた。

「まあ、ゆっくりしていってください…よ…」

語尾が小さくなっていった。
躊躇いなく、隣に小十郎が座ったからだった。

「小十郎さん…」
「何だ?」
ここ、女性のベッドなんですが…と言おうとしたが、意味が伝わらないだろうし、ただでさえ狭い部屋で変に意識させて行動範囲を狭めてしまうのは避けたいので口を一度閉じる。

「ふ、ふわふわでしょう?この布団。」
「布団…?ああ、よく見たらこれが布団か…」

手に体重を乗せて柔らかさを確認する。

「本当だ。…しかし、ここが寝床で、目の前の机が食卓か?」
そう言ったのは、先ほどお茶をそこで飲んでいた事もあるし、お菓子が乗っていたりしたからだった。

「うん。」
はいつも、ここに一人で…?」
「たまに友達が遊びに来るけど、まあ、一人暮らしだから大体…」
「そうか。普段は何してるんだ?」
「ええと、本読んだり、お勉強したり…政宗さんみたいに偉い人じゃないし、学生で…教育受けてる側の人間だし、気ままに過ごしてるよ。慶次みたいな。自由奔放。」
が風来坊みたいな?想像出来んな。」
「褒め言葉?」
「そうだ。」
「有難うございます。」

ベッドに並んで座ってるなんて、恋人同士の様だなどと思い緊張してしまったが、いつもの小十郎の態度に和んでくる。

「急に来ちゃって、政宗さん心配してるかな…大丈夫?何か、用事あったとか…」
「用事なら、政宗様を捕まえて政務に戻らせるってのがあったな。」
「あらら。またお出かけですか。」
「困ったもんだ。」

想像して、クスリと笑う。

「いつも賑やかですね。いいなあ、楽しそう。」
「…そうだな。」

小十郎がを見つめる。
そして、太股に乗せていた手を突然握られる。

「…え」
どこかで立ち読みした少女マンガのひとコマを思い出す。

は、こんなところに一人で…寂しくないのか?」
「あ、あの、いやぁ…誰かが遊びに来てくれて騒いで帰ったら、その後は静かさ際立って寂しいけど…」

小十郎が身を乗り出してきて、は少し仰け反った。

その少女マンガの先の展開はどうなってたかを思い出そうとしても思い出せない。
(あ…確かケータイ鳴って…本屋出てっちゃったんだっけ…)

今はそんなこと考えてても何にもならないことは頭では判っていた。

「でも私一人の時間も好きだし…!!」
「もちろん、自分自身と向き合い、精神を高める事も大切だ。だが…寂しさはあるだろう…!!」
「は、はあ…まあ…」

小十郎が真剣な顔でさらに迫ってくる。
はベッドに倒れそうになるが、このまま倒れればワンピースが捲れて太腿が恥ずかしいレベルで露出してしまう。
はなんとか耐えていた。

、見栄を張らず…」

こういうときの慰め方ってなんだろう。
ぐるぐる思考が巡るが、良い答えが出ない。

「俺が慰めてやる…!!」
「ちょ、ちょっと待って…ぅあ!!」

ついに耐え切れず、はベッドに倒れる。
小十郎は自然な流れでに覆い被さる。

「俺は、お前に呼ばれてここに来た…そんな気がする。そう考えてもいいだろう?」
「わ…私が、小十郎さんを望んだ…?」

確かには走り込みをしながら少し小十郎の事を考えていた。
しかしそれは、小十郎の筋肉を思い出し、家に帰ったら腹筋と腕立てをしよう、と考えていたのだ。
けれど、何気ないときに思い出すというのは、彼を意識しているという事なのか?

(どうしよう…)

すごく恥ずかしくて困惑している。
しかし、嫌ではないのだ。

「小十郎さん…どうしよう、私…」
「俺に…甘えて良いんだぞ…」
「小十郎さん…!!」

名を呼ぶの声を、小十郎は承諾と受け取った。

そして、ころん、との横に転がった。

「よしよし。」

片手での体を包み込み、もう一方の手は頭を撫で始める。

「………ん?」

は目を点にした。

は一人じゃないぞ…大丈夫だ…」
「………。」

ここで小十郎お父さん発動ですか!!!!

は容姿も整っているし、優しい子だ…。器量もある。側に居れば安らぎをくれる。だから俺も喜んで守りたいと思うんだぞ…!!」
「ほ…褒めすぎですよー…」

褒めてはくれているが、この状況は女として見てくれていないという事ではないのか!?
そう考えたから、小十郎は不満の感情を敏感に感じ取った。

「やはり俺では力不足かっ…!!」
「なっ、何の!?」
「俺では、を慰められないのか…!?」
「いっ、いえいえいえいえ!!!すんごい嬉しいです!!!!」
「本当なのか!?それは本心か!?」
「えっと…」

完全に疑われている。
これは、本心です本心ですと言ってもきかないだろう。

「甘えるなんて、私も子供じゃないので…恥ずかしくなってしまって…」
「そうだったのか…!!!の気持ちも考えず、すまない…」
「いいですよ。小十郎さんの気持ちが嬉しいです。」

そう、その気持ちが嬉しいのだ。
嬉しいのだ、と必死に思う。

「もっと頭撫でて頂けます?」
「もちろんだ。」

ごつごつした手が優しく動く感触が良い。

「眠っても良いぞ。」
「はい。小十郎さんも、ゆっくりしてくれると嬉しいです。」

ああ、という返事を聞いた後、は目を閉じ、小十郎にすり寄った。
ぬくもりは素直に気持ちよい。

これは本当に眠ってしまうかもしれないなと考える。

「………?」

しかし、途中、撫でていた手が止まる。
気になって目を開けると、すやすやと眠る小十郎の顔が目の前にあった。

「……。」

笑ってしまった。
真面目なこの人のことだ。
戻ることだけ考えていれば良いのに、ここでの自分の存在価値を探して一所懸命私の役に立つ事を考えていたに違いない。

「…少しは、安心してくれたみたい。」

今度はが小十郎の髪を撫でる。

「この世界では、私が小十郎さんを守ります。」

言って、自己満足。

この人の役に立てるんだと思うと心がとても穏やかになる。

も再び目を閉じ、眠りに落ちる。

次に目を開けた時、小十郎が優しい笑顔で、起きたか、と囁くことなど予想できずに。
























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小十郎の逆トリップということでリク頂きました!!
小十郎の逆トリップって…スーツ着て欲しいですねと思いましたでもスーツネタ思いつかなかったどんまい…

リクありがとうございましたー!!