政宗が外交から帰ってくるということで、小十郎は出迎えの準備をしていた。
最後まで一緒に行けないことに文句を言われたのだ、戻って開口一番も文句を言われるだろうと身構えていたが、遠目にも政宗はどことなく元気がない。
格下の相手だ。何があっても政宗のあの口ならば気落ちするようなことが起こるとは思えず、小十郎も困惑する。

「政宗様、おかえりなさいませ。」
「小十郎…。」

近くで頭を下げると、政宗は勢いよく馬から降り、手綱を部下に預けて小十郎の腕を取った。
そのまま歩みを進め、小十郎と共に城へと入っていった。

何があったのか分からず、小十郎は政宗の言葉を待つ。
先行していた政宗が振り返り、小十郎を見上げる目は憂いに満ちていた。

「お前、俺の為に失ったものを覚えているか。」
「…?」

そう言われて、思い出すものは一つしかない。
政宗と共に生きようと決めたとき、この命は政宗のものだと決めたとき、手放した一人の女。

「懐かしいですな…、ですか。」
彼女の為に生きられないと悟ったとき、別れを告げた。
自分のことを忘れてくれるように、随分と酷い言葉を投げつけた気がする。

「…町で見た。買い物してた。」
「そうでしたか…政宗様、よく覚えてらっしゃって。変わっていませんでしたか?」
政宗が暗い理由が、なんとなく分かってきたのに、それを悟るのを脳が拒否する。

「変わってなかった。見た目は。だから懐かしくて、お前とのことも時効かと思って、声をかけた。」
「それで…。」
握る拳に力がこもる。
今にも殴り掛かられそうだ、と、小十郎は冷静にそれを見つめていた。

「…傷だらけだった。な、結婚してたんだ。子供が出来なくて、旦那と不仲で殴られて、でも自分が悪いんだって、笑ってた。」
「……!!」
「小十郎。」
「っ……はっ。」
「俺の為に失ったというなら、今度は俺の為に取り戻せ。」
「政宗様……。」
「誰にも文句は言わせねえ。」

政宗の眼差しに、小十郎は一度目を閉じる。

「よろしいのですか?」
「もちろんだ。いい女だったろ!覚えてるぞ俺は。」
「どんな手段でも?」

その問への返答は止まる。
色事のやりとりなどしたことがない政宗は、頭を掻く。

「…は強情です。政宗様、連れてこれなかったのでしょう?」

無言になる政宗の姿を見れば一目瞭然。
そんな理不尽、彼は放っていることなど出来ないだろう。
説得して、を連れてこようとして、でも彼女は、小十郎に託そうと政宗に思わせるまで頑なに拒み続けたのだろう。

「お前があいつの為を思ってすることなら、俺は何も口出ししねえ。」

かしこまりました、と頭を下げる。
そしてすぐに振り返り、歩き出す。
その背から放たれる怒気に、政宗はひと安心して見送った。

「忘れられねえ女がそんな仕打ち受けてたんじゃ…無理もねえが。」
良い報告を待とうと、政宗は自室へと歩みを進めた。














入口まであと一歩というところで民家を見上げ、懐かしいな、と呟いた。
付き合っていた頃、手料理を食べに何度か訪ねたことがある、の家。
父親は彼女が幼少の頃に他界したと聞いていた。
女手ひとつでを育て上げた優しい母親に歓迎され、暖かい時間を過ごしていたことを思い出す。
出先であったのなら政宗もの嫁ぎ先を知らないと思い、母親に聞こうと戸に手をかけるが、躊躇いの気持ちがあってそれ以上の行動が出来ない。

自分もを言葉で傷つけたのだ。
傷つけて、捨てたのだ。

「……小十郎?」

背後から聞こえた声に、弾かれたように振り返る。
そこには荷物を抱えて不思議そうにこちらを見るの姿があった。
姿に、声に、小十郎への警戒心が全くなく、ただ驚いているだけだ。
自分への嫌悪が全く無いのが、優しく強い彼女らしいと思えると同時に小十郎へ罪悪感を抱かせる。

……久しぶり。」
「どうしたの?お久しぶり…!先程は政宗様にお会いして、今度は小十郎にまで…!」

心から嬉しそうに微笑むは、旦那から暴力を受けているようには全く思えない。
だが伸びた前髪が顔の左側を隠していて、揺れるたびに青く変色しているの皮膚を覗かせる。

「ああ、政宗様に聞いて、俺も懐かしくなって、会いに来ちまった。」
「そうなの?ありがとう。でも私今結婚していて、ここには住んでないのよ。」
「お前の母親に聞こうと思ってたところだ。今日は母親に会いに?」
「お母さんは、病で昨年亡くなったの。空家になってしまったけど、思い出のいっぱい詰まった場所だから、時々掃除に来るの。」
「…そう、なのか。」
「お茶くらいならあるから入って休んでいかない?小十郎が良ければお話もしたいわ!」

小十郎の横を通り過ぎて家の中に入るを追って、小十郎も家の中に踏み入った。










一緒に過ごした時間を思い出す。
ほとんど変わっていない家の中の光景は昔、彼女が笑顔で招いてくれたときそのままで、小十郎は気が安らぐのを感じていた。
仏壇に増えた位牌に手を合わせ、彼女を守ることを放棄してしまった過去を謝罪する。

「お母さん、急に具合が悪くなってね。あまりのことに私びっくりしてしまったんだけど、苦しまずに逝けたというのは良いことなのかもしれないわね…。」
「…、お前は…辛かっただろう?」
「最初はね。でも生きてるうちに花嫁姿見せれたしね。子供は、だめだったけど、安心してって言ったら、お母さん、笑ってくれたから。」

話しながらは湯呑に茶を注ぎ、台の上に置く。
小十郎は開け放たれていた仏間とを繋ぐ襖を締め、が用意した座布団に座った。

「小十郎の活躍も届いてるよ。大出世ね。」
「俺は政宗様と共にあるだけだ。」
「そうね。昔からそうだったものね。」

が一度瞼を伏せ、茶を口に含む。
思い出話としてしてしまっていいのか思案しているのだろうと、小十郎はすぐに察したが、言葉を待った。

「……だからでしょう?」
「…………。」
「だから、私のことを、振って。」
「……恨んでいるか?」
「恨んでみようと思ったのだけど、恨めなかったから。」

小十郎が手を伸ばす。
顔の半分を隠す前髪に触れ、ゆっくりと掻き分ける。

「こんな結果になるとは思わなかった。」
「優しい人だったのだけど、商売で失敗してね。」

治りかけの痣の上に新しい腫れが重なって痛々しい肌に、小十郎は眉根を寄せる。

「もっと私が協力してればよかったの。子供も出来なくて、旦那に幸せをあげられなくて、自己嫌悪よ。」
「……殴られる理由にならない。」
「いいの。それであの人の気が晴れるなら。」

彼女は、頑固だ。
今の旦那を愛し続けることを、完全に捨てられるまでやめないだろう。

だから今日、俺はに会いに来たんだ。


の細い肩に手を添えると、何かを察して目を大きく開く。
小十郎、と呼ぶ声を最後まで聞くことなく、半ば強引に唇を合わせた。

「っ…!小十郎!!」
小十郎の唇を咄嗟に噛み、首を振って逃げると抗議の声を上げる。
「退かねえよ。」
の睨みつける視線も無視し、両手を抑えて腰に馬乗りになり、適度に体重をかけて組み敷く。

知らねえ仲じゃねえだろう、そう言いたげな見下ろす瞳と、淡々と慣れた動作で着物を脱がせようとする手に、は驚きつつも抵抗を続ける。

「やめて小十郎……。」
「そんな夫への忠義なんざ俺が忘れさせてやる。」
「……誰にでも足を開く女になったら、夫にも顔向けできない。政宗様にだって……。」

出てきた名前にぴたりと手を止める。
続く言葉が予想できすぎて、苦笑いを浮かべる。

「小十郎にも、合わせる顔がなくなってしまう。」
「……真面目すぎる、お前は。」

を犯す本人にまで、汚れた自身は見せられないなどと言うとは。
抵抗叶ってこの場を落ち着かせることが出来なければ、は奥州を離れるどころか母親の後を追ってしまうかもしれない。

「…。」
耳元に唇を寄せ、優しく囁く。
「お前は今から俺に犯されるんだ。」
触れていた肌に鳥肌の立つ感触。
生理的なものか怖がっているのか感じているのか、その問いかけをしてみたくても、今は我慢する。

「お前を旦那さんから引き剥がしに来たんだ。楽しんで忘れちまえよ。お前を、取り戻しに来たんだ。」
「……!!」
「恨むなら俺を恨め。お前を捨てて、でも忘れられなくて。泣かせたくせに、お前の選んだ男が気に食わなくて取り戻しに来ちまった馬鹿な俺を恨めよ。」
「小十郎…。」
冷静に見つめていた彼女の瞳に戸惑いの感情が滲む。
長い付き合いだった。
あれを取ってくれと言えばそれが何かをすぐに察して、まるで熟年夫婦の様だと梵天丸様に笑われたのだ。
だから今、この瞬間も通じ合ってるなんて、俺の行為の意味が、感情が、想いが、にはきっと届いていると、傲慢な祈りにも似た確信を抱いている。
の顎を掴んで強引に口付けをし、考えすぎている自分の思考を無理やり止めた。

帯を解いて着物を乱せば、頬を赤らめ眉根を寄せる。
付き合ったばかりの頃のようだと苦笑する。
反応に他の男の影がチラついて、自身の心も傷ついていくのかと思ったのにこれじゃ滾るだけではないか。

「……生娘じゃねえんだから、人妻の余裕くらい見せろよ。」
「だ、だって……!や、な、何言ってるの小十郎!こんな、突然…!!」
「旦那とやってねえのか?」
「!!!!」

まさにその通りだといわんばかりの反応をされ、小十郎も一瞬戸惑う。
本当に相手にされていないのことが悲しいような、嬉しいような。

「あの人は……外に女がいるから……私のことはもう……。」
「こんなに良い体なのにもったいねえ。」
「!!」

胸から腰にかけて、形を確かめるように撫でると、はびくりと反応を示した。

……。」
「小十郎…本当に…?」
「……ああ。」
それを聞いて、はもう一度抵抗を始める。
小十郎の胸を押して、押し倒された状況から抜け出そうとするのを見て、小十郎はため息をついた。

「あまり手荒にしたくねえんだが……。」
「犯すって言ってて今更……。」
「それもそうだな。」
「!!」
の股を掴み、左右に広げて体を入れる。
「えっ…ちょ…!!」
もちろんいきなり挿れるわけではない。
小十郎のものもまだ半勃ちだ。
しかし仮にも強姦なのだから、と、小十郎も心を鬼にする。

着物を強引に剥がし、少し濡れた秘所に指を這わす。
羞恥と不安に混乱しているのことをチラリと見た後、人差し指を中に入れる。

「あっ…!?えっ…!!」

肉壁の抵抗も構わず中へ指を進め、第二関節まで埋もれたところで動かし始めた。

「本当に…久々な感じだな…。」
窮屈で、痛がっているような感覚すらする。
足を閉じたいと力が込められる膝に片手を置いて、小十郎は指の動きを早める。

「ふぁ……!?あ、うあ…やっ…こじゅうろ……!やめ…!!」
が両手を口に当てて、嬌声が漏れるのを止めようとする。
きつく閉じられた目尻に薄く涙が見えるが、その姿はあまりに艶やかで、ただの興奮剤にしかならない。
「ああ……ここがイイのは変わってねえんだな?」
「!!!だ、だめ、や…!!!」
強く刺激すると腰がびくりと震える。
それには自身も驚いて、目を見開いた。

「ふあ、あ、あ…ああ、あ…!!!」
足から完全に力が抜け、小十郎は手を離す。
今度はの胸に手を置き、揉みしだき始めた。

「こじゅうろう…こじゅうろう……!!」
乳首を強く摘むと、痛い、と悲鳴にも似た声を上げる。
そして更に強ばった体が抵抗する力を無くしていった。

……。」
屈んで、痛くしてしまった胸に優しく舌を這わせる。
震える細い体が愛おしい。
濡れてきた下腹部へ指を増やすと、今度はすんなりと入っていった。

「あ、あ……。」
甘い声が漏れてくる。
も少しは感じ始めているのだろうか。

「……。」
小十郎自身も耐え難くなってくる。
とする行為は肉体的な快楽だけでなく、心から満たされたものだと覚えている。
早く挿れたくてたまらない。

「あ…!?」
指を引き抜いて、の秘部に自身のものをあてがって、擦り付ける。
体液が交じり合う感覚が気持ち良い。

「もう……大丈夫そうだな?」
「小十郎…まって……!!」

惚け始めていたかと思ったが、制止する余裕がまだあったのか。
そんなことを考えながら、一気にを貫くと、首を反らせて苦しそうな息が漏れた。

「あ、あ、うっ……!!」
耐えてくれ、と心で呟き、腰を動かし始めた。
ドロドロの内壁にぎゅうぎゅうに締め付けられ、思い切り打ち付けてしまいたい衝動に駆られる。

「小十郎……!!」
「気持ちいいか?」
「い、痛い……はげし……!やっ……!!」
「そうか、俺は気持ちいいぞ?もっと付き合ってくれ。」
「つらい…つらい…!!早く終わらせて……!」
「そうはいかねえ…強姦だからな…。」

激しい行為で、俺のことしか考えられなくなればいいのに。
そんな安っぽい物語を妄想してしまい笑うしかなかった。
人間は、特には、そんなにもろくない。
終わったらそそくさと身支度を整えて何もなかったかのように去っていってしまうかもしれない。

「ふあ、あ、あ、あ、あっ……。」
突く度に声を上げるようになり、口を押さえていた手からも力が抜けて畳にただ横たわっている。

「ああ、あっ…!」
「っ…!」

抉るように突き上げたあと、静止して中へ射精する。
びくびくと震えるの体を抱き起こして太股に座らせた。
蕩けた顔をして、不安そうな目を小十郎に向けるに優しく笑うと、は気が抜けたように肩におでこを押し付けて体を預けた。

「……ん…。」

髪を指で梳きながら、またゆっくりと腰を動かし始める。
いったばかりでもまたすぐに中で硬くなっていて、溢れる体液をかき回す水音がいやらしい。
ブチュ、と音が響くと、脱力しきっていた体も反応して、小十郎の肩を掴んだ指が肌に食い込んだ。

「は……。」
小十郎の首元に顔を寄せる。
擦り寄っているように優しくて、愛らしくて、小十郎はの体を強く抱きしめた。

「小十郎……小十郎……。」
うわ言のように名前を呼ばれる。
……。」
それに応えるように、小十郎もひたすら彼女の名前を囁く。








行為が終わったあと、は気絶するように眠りに落ちた。
家にあったものを借りて事後の処理を済ませると、布団を敷いてを移動させた。
隣に小十郎も横になり、彼女の目覚めを待とうと思った。
そうして、今度は話をしようと思った。
それで駄目ならば、抱き合ったことをネタに脅迫してでも、無理やり攫ってでも、自分のそばに置こうと考えた。

だが久しぶりに何度もしたせいか、可愛らしい寝顔でいるを見ていたら、小十郎も眠ってしまった。


もぞもぞとすぐそばで何かが動く気配に気がついて目を覚ますと、すっかり日が落ちていた。
が逃げようとしてる、と思った小十郎は咄嗟に腕を伸ばすと、すんなりと彼女を捕まえることができた。

「小十郎?」
……ああ、その…すまん…。」

は小十郎が寝かせた時と変わらず裸だった。
着せようとも思ったが、裸の方が逃げるにも抵抗するにもやりづらいと考えたからだった。

「……逃げなかったんだな。」
明らかに小十郎より先に起きたであろうその様子に、いらない考えだったかなと感じつつ。

「……腰が、痛くて。」
「そうか……。」
真意かどうかも分からず微妙な空気が流れる。

「小十郎は…こうすれば私が罪悪感で旦那と別れると思ったの?」
「不器用ですまねえな。」
「言い訳しないとか本当に不器用ね。」

布団の上から回していた腕を、布団に潜り込ませて直接肌に触れる。

「俺のことを思い出して欲しかったってのもあるけどな。」
「小十郎……。」
「戻らねえか……?俺は、戻りてえ。今度はそばで守る。幸せにするとは言えねえとこが辛いところだが。」
「……。」

沈黙したは、小十郎に体を寄せる。
表情は見えないが、ただ抱きしめて言葉を待った。

「……恨めなくて、悲しかったの。」
ああ、と相槌をうって、また続きを待つ。

「でも、頑張ろうと思って、いつか小十郎に再会できたら、私今こんなに幸せなの!って胸張って見返したいと思って……。」
抱きしめる腕に力が込もる。

「……結局は、小十郎と一緒にいるとき以上に幸せな時なんて無かったの…。」
語尾が泣き声と混じる。

決まりだな、と耳元で囁けば、こくこくとが首を縦に振る。

「後は俺に任せろ。……もう、辛い思いはさせねえから……。」

今度は互いに求めあう口付けを交わす。

政宗様にも感謝をせねばと思い、何かを贈りたいとに声かけた。

「政宗様に贈るような品……?私にはあまり心当たりがないけれど……?」
「いいんだ。町にあるありふれた物でもいい。一緒に選ぶぞ。手を繋いで、一緒に歩こう。」

何だか普通の恋人と順番が違いすぎるわね、とが笑った。





















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片倉小十郎で「捨てた女が惜しくなってヨリを戻そうと無理やり裏」というリク頂きました!
リク頂いたときこれは黒小十郎ですなへっへっへってなってましたがKONOZAMA
幸せな夢が好きみたいです;;;サーセン;;;
相変わらずの裏要素少ないですけど;;

リクありがとうございました!!!