涼しい風が吹く夕方。
政宗はを連れて、馬を走らせた。
「どこいくの?」
は当然の如く政宗の前に乗り、楽しそうにしていた。
「もう少しだ」
しばし走ると、広い草原に来た。
「ここは?」
「俺が乗馬訓練した場所だ」
「…政宗さん…訓練したんだ…」
「お前人をなんだと思ってんだ…」
広い草原を、円を描くように政宗は馬を歩かせた。
「小十郎がこれまたスパルタでな」
「あはは!!想像つくわ!!」
「ま、俺はすぐマスターできたが…やり始めの頃は今ぐらいの時刻までやってたなぁ…」
「へえ…頑張るねえ…。ところで突然なんで?」
「…一向に乗馬が上手くならないお前を見てたら、懐かしくなってな」
「……え―…嫌味か…」
の髪が、風に吹かれてなびいた。
「政宗さん。もっと話聞きたい」
少し顔を後方に向けて、が笑った。
「そうだな…」
「出来ない時はもどかしかった?」
「まぁな…」
政宗は後方に伸びる影を見た。
夕日に照らされた二人と馬の、長く伸びた影。
「こんなにでかい馬じゃなかったが…悔しくてな」
「何が?」
「小さかったからな。影を見ると、でかい馬に小さい俺がちょこんと乗ってて」
「可愛いじゃん」
「迫力も何もあったもんじゃない」
がクスクス笑った。
視線を影へ。
「私より小さかった時からやってた?」
「…お前より小さかった時なんかあったかな?」
「あるだろうがあああ!!!私よりでかい赤子はいねぇぇぇぇ!!」
今度は政宗がククッと笑った。
「そうだな」
政宗が少し手綱を引いた。
馬が一歩一歩、今までよりさらにゆっくり歩いた。
ゆっくりゆっくり、影が前方に向かう。
「たまに小十郎が一緒に乗ってくれて、飽きないようにしてくれた」
「え?今の状態ミニ政宗アンド若小十郎さん?」
「ああ」
「うわ―!!すっごい立ち会いたいんですけど!!絶対可愛い!!」
「可愛い可愛いって、嬉しくねえよ!!」
の頭をペシンと軽く叩いた。
「こら!落馬したらどうすんだ!!」
「この程度で落馬すんなら死んだほうがいいぞ」
「すいません調子にのりました」
が前を向いたまま、ぺこりと頭を下げた。
「……」
「…?」
が黙った。
「?」
「何か今日の政宗さん優しい雰囲気してる…」
「ha〜?いつもだろ?」
「…いつもより」
「……」
調子にのんな!!とは突っ込んで来るかと思ったんだが…
「んだよ。調子狂うな」
「どういう意味だ」
「そうそう、そういう反応してこそお前だ」
「…あのねぇ」
たまにはいいじゃんか…とが呟いた。
「なんでたまにが今なんだよ」
「…連れて来てくれて、嬉しかったから」
「……」
昔
幼かった頃は
背後にいた小十郎がでかくて安心できて
小十郎は飽きないように状況を変えてくれたんだろうが
俺は気分転換というより
ただ安心してた。
寄り掛かっても、ただ受け止めてくれる存在に。
「」
「ん?」
俺は
あの時の小十郎みてぇになれてっかな…
「寄り掛かってもいいぞ」
「え…?」
少し驚いたようだったが
ぽすっ
「へへ…」
迷う事無く、政宗に身体を預けた。
「…何、にやにやしてんだよ」
「さあ?」
「馬鹿野郎」
の体に片手を回して抱え込めば、の影は、政宗の体に隠されてしまった。
一人分の影の中に二人の体温。
何故だか、顔が綻んだ。
「……」
あれ…
「ん?政宗さんどうしたの?」
「何でもねぇよ」
「そっか?寒かったら言ってよ?風邪引いたら大変」
「んだよ。寒いって言ったら暖めてくれんのかよ?てめぇの体で」
「帰るんだよエロ政宗!!」
安心すんのって
どっちもだったんだな…
「……」
俺も馬鹿野郎だ。
ただこれしきの事判ったくらいで、何喜んでんだ。
「」
「ん?」
「、寒い」
「寒い?」
馬を止めた。
「寒い」
「政宗さん?」
両腕で抱き締めた。
「もう戻ろうか?」
「もう少し」
「…はーい」
の頭に頬を当て、目を閉じた。
腹部に回されてた政宗の腕に、が自分の手を添えた。
「……」
会話はなかった。
ただ二人のこの空間が居心地良い。
このままで
もう少しだけこのままで
「…」
「ん?」
「ここにいろよ」
お前が
お前が俺に教えたんだから
この暖かさを
「…ウース」
「ぶん殴るぞてめぇ…」
そうは言っても
耳まで真っ赤にされちゃ
…本気で怒れねぇんだがな。
ぎゅっと強く抱き締めて
が、小十郎さんが心配するよと言い出すまで
伸びる影は、二人分。
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お題初体験でした…!!
なんのひねりもなくまんまじゃねえかあああ!!と思った方、すいません…!!
夏目様、ありがとうございましたー!!