自分が松永の為にすることで一番気を使うものといえば食事だ。
旬のものを揃え、松永好みの味に仕上げれば必ず褒めてくれる。
体のことを考えて健康的な食事を日々考えているのだが、たまに下心が出て、褒められたいがための高級食材を仕入れたくなるから煩悩を抑えるのが大変だ。

そんな考えを鎮めようと、は山菜取りに山へと来ていた。

「最近は商人の行き来が多くて…便利だけど困るわ…。遠い土地の美味しそうな食材いっぱい紹介して…」
頼ってばかりでは金がなくなる。
原点に戻り、自分で食材を確保しようと考えた。

「農村の収穫量も最近は悪くないけど…私が自分で山菜を採って前菜を作ったらどうなりますか?」

褒められちゃうからね―!!!!、と、にやにや笑いながら地面に向かい叫ぶ。
はすっかり不審者になっていた。

「…ん?」

わらびを見つけ、採取してるときに、何かの気配を感じ、木の影に隠れた。
そしてその方向を見つめていると、ガサガサと何かが移動している音が聞こえ始める。

「………きのこ…」
ボソリと呟いた声がわずかに聞こえた。

女の声だった。







「これはきっと…食べられるだろう。」
そう呟いて、毒々しい色をしたきのこをむしる。

「謙信様…私が手料理を振る舞ったらどのような反応をして下さるだろう…。」

褒められてしまう!!!!と地面に向かって叫んだ。

「あぁ…素敵なお言葉も頂けたら最高に幸せ…」
頬に手を当て、くるくる回り出した。

「その気持ち…判ります…」
「!!!!」
は堪らなくなって話し掛けた。

かすがは見られて居たということに対して赤い頬をさらに赤らめた。

「片思い中ですか…?」
「かっ…片思い!?いやそんな私は…!!」
「隠さなくてもいいじゃないですか!!私達は同志です!!私も片思いをしていて…その方にお声をかけて頂くだけで幸せになれて…」

かすがには十分過ぎるほどその気持ちが判ってしまった。
互いに普通の着物を来ていて敵意もないため、緊張感もそれほど無かった。

「お…お前が好きな男はどんな奴なんだ?」
「えと…とっても子供っぽくてわがままだったりするんだけど…鋭いまなざしで雰囲気があってとっても素敵なの…」

性格の大半を占める『残虐』という言葉はの頭に全く浮かばなかった。

「私の思い人は…お美しくて華麗でお優しくて…非の打ち所がないんだ…!!」

かすがも『戦好き』という言葉は思い浮かばなかった。

恋は盲目だった。

「お互いに大変な人に恋してるのね…。」
「まあな…。」

片思いの辛い思いを同じ状況の者と分かち合うのはなかなか楽しいかもしれない…とかすがは思い始めた。
しかし、

「天下とかさ、そういうのはどうでもいい人なんだけど…高価な物好きで見る目がありすぎで、隣に並ぶにはすっごい努力が要る人なのよ…本当に素敵な方…」

の発言に対し、謙信様のほうが上だ、絶対上だと思ってしまった。
そう思ってしまったら止まれず、天下、という単語にはいまいち反応出来なかった。

「…私の思い人はお美しいだけでなく滅法強くてな…」

そして対抗心を燃やしてしまった。

「神速の技の数々は、どのような血生臭い戦の中に居ても輝く…」
「…へ、へえー…戦する人なんだ?う、うん、私の好きな人もすっごい強いよ?力強いし技も多彩で、瞬歩なんかびびるんだから…」

徐々に自慢対決になってきてしまった。

「あの方は天下を取るお人だ。…お前、僕になりたかったら今のうちだが…?」
「な、なんで私がその人の僕に!!!興味無いんだから!!!!」
「そうか?一目お目通り願えればお前ごとき簡単に頭を下げそうだが…」
「ちょ、あ、あなたこそあの方にお会い出来たとしたら、跪くんだからー!!!!」
「なに!!私はそんなに安くない!!」
「私だって安く…わ!!!!」

が掴みかかろうとしたところで、風が吹いた。
小太郎のお迎えだった。

「この勝負はお預けよー!!!!!」
「こ、小太郎!?」
「………。」
ひょい、とを抱えて、すぐに消えてしまった。








、随分遅いお帰りだね?」
城に戻れば、やけににこにこして恐ろしい松永が待っていた。

「申し訳ございません…」
「山菜は美味しそうだから許そう。すぐに調理にかかりたまえ。」
「はい…」

当初の予定と随分ズレた結果だな…と瞼を伏せた。
一体誰だったのかは判らなかったけど、さっきの女も同じ状況だろうかと気になった。

「…そういえば。」
「はい…」

「上杉の忍と話していて、得することはあったかね?」
「え…」

一瞬何の事だか判らなかった。
しかし思い当たることが1つしかなく、目を丸くしてしまった。

「あの女…!!!上杉の忍!?」
「私にはあるのだよ。君と忍が仲睦まじくなれば、何を考えているかわからないあの男の事が少し見えてきそうで、ね…」
「え、ま、まさかまさか、私に任務を…!?」
「仕掛けるかどうか決める重要な情報になる。心してかかるように。」
「え…な…仲良くしろと…?友達になれと?腹の探りあいをしろと!?」

ささいな偶然を、フル活用して戦に繋げようとし、松永はにやりと笑った。

「うええええ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
は泣きたくなるのを我慢した。

「…私を…」

変な声を出して嫌がるに近づいて、顎に触れた。

「ま、松永様…!!!!」
「思い人だの素敵だの強いだの…そんな価値で私を見た、罰だ。」
「…っっ!!!」
一体どうして知ってるのか、そう思ったのは一瞬だった。
嬉しく感じた。

自分の全てを見通してくれている。

「申し訳ありません…」
「それ以外に言う事があるだろう?」

恋なんかじゃなかったのを、忘れていた。


「…松永様は私の、命…そのものです…」

よろしい、と、松永は満足そうに目を細めた。














「かすが、このようなやすみのひぐらい、ゆっくりやすめばいいものを…」

かすがが茸料理を作っていると、謙信が廊下を通りかかり顔を出した。
かすがとしてはこっそり作って渡したかったが、自分が女の子らしい事に頑張っている姿を見られて悪い気はしなかった。

「そ、そういうわけにはいきません!!!」
「しかし、いくさのよていはないのですし…」
「戦は関係なく…!!」
「そのようなどくぶつ、いまはひつようないでしょう…」

かすがは膝から崩れ落ちた。

「ど…毒茸…」
「まあむりにはとめません。しょうじんしなさい、わたくしのつるぎ。」

かすがは謙信の声が今は遠く聞こえていた。





















■■■■■■■■
蛍様、リクありがとうございました!!
お相手松永様なのに出番が…!!!
正面対決も面白そうですが、互いに気づかずに、ってのもありかなと…
温かいお言葉も、本当にありがとうございました!!