「やぁ、君じゃないか。」

城下を歩いていたら、

半兵衛さんに会いました。


「こんにちは、半兵衛さん。偵察ですか?」
「うん、そんな感じだよ。」

政宗が隣りで聞いていたら、会話軽―!!と叫んでいただろう。

君はお買い物かい?」
「は、はい、そうです…」

半兵衛がちらりとの荷物に視線を送ると、はサッと背後に隠した。

「知られちゃいけないのかい?」
「知られたくないものなんです。」
「大事なもの?」
「贈り物です。」

まさか政宗がこの子に、誰かへの献上品を買わせるようなことはしないだろう。
そんな大したものではないだろうと半兵衛は判断した。

「一瞬だけど、渋い色合いの包みだったね。誰に贈るんだい?」
「ひ、秘密です。」

じりっと近付いた半兵衛を必死に警戒する様は、見ていると子猫を思い出す。

「それ、何だい?」
「誰かに言ったり…」
「しないよ。」

そうは言われてもは半兵衛に疑いの目を向けることを止めなかった。
しかし、半兵衛の利になるようなことは何も無いと判断し、隠していたものを見せる。

といっても、箱が絹の織物に包まれていて中身は判らない。

「手拭いが二枚入ってるんです。」
は照れくさそうに笑った。

「何で手拭いを?」
「小十郎さんに贈り物です。畑仕事に使って欲しくて…」
「何かめでたい事でも?」
「あの、今まで必要な時だけお小遣い貰ってて…でもそれが嫌なので、お給料制にしてもらったんです。微力ですが、お仕事手伝わせて頂いて、その分お金もらって…。それが少し貯まったので、小十郎さんと政宗さんに何か贈りたいって…」
「そうなんだ…」

見ていて、純粋に良い子だとは思う。
けれどもそれが半兵衛には理解出来ない。

「あとは政宗さんに何か選びますので、では、半兵衛さん…」
君」

さようなら、と言おうとしたが名前を呼ばれてきょとんとしてしまった。

「僕も同行していいかい?」

さわやかな笑顔を向けられてしまい、は拒否できなかった。






奥州の地、半兵衛がの横を歩く。

その状況が慣れることができず、はいつものように楽しくお買い物が出来ない。

「あ…」

扇子の前で立ち止まる。
鮮やかな青い色に藤の花が白くデザインされたものに目が惹かれた。

(…似合いそうだけど…でも政宗さんは扇子持ってるし…この前高そうなの使ってるの見たし…)

手に取ろうとしたが、そう思い止める。
そして再び歩き出すを、半兵衛は何も言わずに付いて来る。

「……。」

買い物しずらい…としか思えない。

その後も何軒かの店を回り、店員にもおすすめを聞くという行動を繰り返す。
そうしているうちに、早く買わないと日が暮れてしまうという焦りに、心配されて城の門の前で待ち伏せなんてされたらサプライズも何もあったもんじゃない、こっそり部屋に辿り着き、いきなり渡さねばいけないという使命感に燃え始めていた。

「よし、半兵衛さん、ちょっと私さっきのお店に戻ります!!」
「さっきとはどれだい?君、何軒回ったと思ってるんだ…」
「そんな疲れた顔しないで下さいよ〜半兵衛さんが付いてきたんじゃないですかー。茶屋で休んでいて下さっても構いませんよ?」

いつも静かに笑みを浮かべる半兵衛とは違い、眉根を寄せて困ったような疲れた様な顔。
めったに見れないだろう表情に、は申し訳ないような、嬉しいような感覚になる。

「いいよ。一緒に行く。ほら。」
「あっ!!え?」

そう言い、半兵衛はの手から荷物を奪う。

「どの店だい?」
「持ってくれるんですか?」
「歩行が若干乱れているよ。疲れているんだろう?おんぶなんて恥ずかしい真似は出来ないけれど、この位なら。」
「あ、ありがとうございます!!」

長時間の歩行で疲れているのは確かだった。
自分に無関心そうな目の前の男がそれに気付いてくれたのが嬉しい。
「店は?」
「ちっちゃい石がいっぱい置いてあったところです!!」
「政宗君に石をあげるのかい?」
「はい!!穴を開けて、数珠作ります!!」


店に着くと、半兵衛と並んで選び始める。

「黒水晶カッコいい…」
君、予算は?」
「超えてます。」

計画的にね、と呟くので、は金融会社のCMを思い出した。

「うーん…日常で付けて欲しいな…何色ベースにしよう…」

青かな〜着物何色が多かったかな〜と、ぶつぶつ呟きながら物色する。
半兵衛は半兵衛で、秀吉にお土産にしようかなと選び出す。

真剣に話しながら選ぶ二人の姿を見て、店の人間が、数珠に加工してあげるよ、と声をかけて来た。
その言葉に甘えて、選んだ石を渡し、加工が終わる時間まで近くの茶屋で待つことにした。

「たのしみですねえ半兵衛さん!!!!」
「そうだね…」
「?」

先ほどまで仲良くお買い物が出来ていると感じられたが、今の半兵衛は落ち着いてを見つめてくる。

「…君、僕はね、君はもっと出来る子だと思っていたんだよ?」
「へ?」
唐突過ぎて、は目を丸くし、口を半開きにしてしまった。

「あ、あの、もしや私…石選ぶ趣味、悪かった…?」
今日の出来事では、それかもしくは半兵衛を長時間連れまわして優柔不断な店選びをしたことしか心当たりが無かった。

「いや、政宗君に似合いそうな色だったし、石の大きさもよかったと思うよ?君は一所懸命選んでいた。だからこそ僕には理解しがたい…」
「??」
「こんなにも頑張っている姿…政宗君に見せればいいじゃないか…! 君の頭なら出来るよ…家臣を使って政宗君をここに連れてこさせ、偶然、一部始終を見てしまうという方向にもって行けば…政宗君は…ああ、はなんて可愛い奴なんだとか思うよ!?」
「え」

突如熱の入った半兵衛に圧されてしまい、食べようと口に運んでいた団子が皿に落ちる。

「ちなみにほら、この状況。僕と仲良くしてるのを見て嫉妬させておいて実は政宗君の為とかほら」
「いや、ほらじゃなくて…」

半兵衛はいろいろな本を読んでいるのだろうなあとはぼんやり思っていた。
けれども一応、そういう状況を想像してみる。

「うーん…」
「今からでも遅くは無いよ?」
「…い、いや、いいです」

フルフルと首を振る。
半兵衛は首を右に傾けた。

「どうしてだい?」


恋人でも無いのにこういう表現はおかしいだろうけど、政宗さんとの関係がマンネリ化してたらそういうのもいいのかな?

でもそうじゃないから判らない。

「個人的には…」

今日町に出て、何がしたかったのかって

「早く数珠が出来て、早く帰って、二人に渡したいです。」

それだけしか頭に無い。
欲しい物を聞いて来たわけじゃないし勝手に選んでしまったから、あんまり喜ばれなくてもいい。
ただ、言葉では恥ずかしいので、贈り物をした人間の気持ちの根本が少しでも伝われば良い。
いつも感謝しているという気持ちが。

けど二人は優しいから、喜んでくれるんだろうな…

「半兵衛さんだって、秀吉さんに喜んでもらえたらそれで良いと思いますでしょう?」
「いや僕は、秀吉に情報という素晴らしいお土産があるから、いまのはついでだよ。」
「あ、そ、そうなんですか…」
「それに君と僕の状況はあまりに違うだろう?秀吉は僕の無事も喜んでくれる。でも君は、目的はあくまで政宗君への恋心を…」
ちょー!!!!!!!!!ちょ、ちょ…」
「ん?違うのかい?成就させたくないのかい?まさか君、君は負け戦でも良いとか考えているんじゃないだろうね見損なったよ。」
「か、勝手に見損なわないで下さい!!」

一体何を聞いていたのだろう半兵衛は、と思ったが逆だろう。
話をがっつり聞いていて、そして情報を頭でまとめ、その結果になったのだろう。

「えーと、そうじゃなくて…私はあくまで感謝の気持ちを伝えたくてですね…」
世界の情勢に関係なくても、目の前の策士の頭に私が政宗に惚れているという話が有るのが何だか嫌だ。
誰かにそんな話を漏らしてややこしい事になるのはごめんだ。

「…そうなのかい?よくその程度の男にここまで頑張るね。」
「いっ、言い方悪い!!政宗さんは"その程度"なんかじゃないです!!立派な方です!!わ、私あの、好きなのは好きですから!!う、うん!!政宗さんのこと、好きなのは好きですから!!」

顔を真っ赤にし、何を言ってるんだろう…と思う。
そして半兵衛に何を伝えたかったのか完全に忘れてしまった。

「まあ、つまり…」
「うう…」

肩を落として半兵衛の言葉を待つ。
これでは結局、自分は政宗が好き、ということで終わりになる。

「政宗君は君の大事な人間だけど、恋心でどうにかしたいものではなく…」
「!!」

無礼極まりないが、半兵衛やるじゃん!!という気持ちになり、がばっと背を伸ばし笑顔になった。

「僕が君に求婚を迫る権利はあるわけだ?」
「はい?」

そして笑顔が引きつる。

「いや、君はなかなか頭が回るし、気がきくしね。僕はどうせ側に置くなら、夫を支えよと影に徹する女性よりも、君のように少々男とは違った視点からの理の通った意見を言ってくる女性がいいかなあと思っていてね。」
「と、突然何…」
「ははは君、思っていたんだってば。突然じゃないよ。あ、そろそろ店に戻らないと。」
「え、ちょ…は、はい…!!」

半兵衛が席を立つ。
先ほどの話は、ただそのことを思い出していってみただけだ、半兵衛なりの冗談だろうと、そう思うことにした。





店に着けば、店主が包装した商品を二人に渡してくれた。

「では半兵衛さん、私は城に戻りますので、道中お気をつけて…」
君、君。ちょっと目を閉じてもらっていいかい?」
「え!?目を!?」
「そう、ちょっとだけ。大丈夫、攫ったりはしないよ。」

にこにこする半兵衛からは、そうしてくれないと帰らないよ?というオーラが迸っている。
大人しく目を閉じると、手をとられた。

「…へ?」
そして半兵衛が何をしたのかは、見えていなくても明白だった。

「やはり、君の細い指にはこういう繊細な石が似合うね。」
「……。」

目を開けると、左手の小指にうっすらとした桃色の小さな石の指輪がはめられていた。

「これ…」
「ついでついで。次はその隣に立派なものを渡そう。ああ、意味が判らなかったら政宗君に聞くと良いよ。」

じゃあ、とマントを翻し、半兵衛は去っていく。

「………。」

展開がわからなすぎて、の脳に返さなきゃ、という言葉が浮かんだ頃には、既に半兵衛は見えなくなっていた。







「小十郎さんにはこれ…」
「ありがとう、。明日から早速使う…あ、いや、汚れちまうから…飾る。」
「か、飾らなくて良いですよ!!!!」

小十郎に渡すと嬉しそうに笑ってくれた。
その傍らで政宗はそわそわとしていた。

「んだよ、折角金貯まったんなら着物とか化粧品とか買えばいいだろうが…」
「いいじゃないのよー。はい、政宗さん。」
「お、おう…」

政宗はすぐに包装を解き、数珠を手にした。
「…な、なんだよ。結構、COOLな…」
「政宗様、素直に喜ばれては?」
「喜んでるっての…、ありがとうな…」
「いいえ、こちらこそ、いつもお世話になって…ありがとうございます。」

ゆったりした空気で、今日はこのまま部屋に戻って眠りたいところだ。
しかし先ほどから昼間の事がぽんぽん断続的に思い出され、夢に出るのではないかと思ってくる。

少しでも何か助言を頂いて、安心しようと二人に質問をしてみようと考えた。

「あの…いきなりですが…もし私が、誰かに求婚とかされたら…どうなる?」
「殺す。」
「私!?」


「………。」

そこで、私!?と聞くのがらしいなあと小十郎は思った。












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書きやすい設定で良いという寛大な心をお持ちの方から半兵衛夢のリク頂きました!!
ラブが…ラブが無くて申し訳ございません!!
そして更新遅くてすいませ…!!!
ああああありがたい感想もありがとうございます!!

リク、本当に有難うございました!!!!