若はいつも引きこもっている。

内気で、人見知りで、軟弱で…

そのような事を、家臣から影で言われているのは本人も知っている。

"姫若子"と呼ばれていることも

「弥三郎や…」
「父上、なんですか…?」
「お前は、将来、この国を背負わねばならぬ」
「…戦など、しとうございません…」
「お前は賢い子。今はそれでよい。いつか、気づくであろう」
「…父上?」

ある日、弥三郎が部屋でぬいぐるみで遊んでいると、侍女が娘を連れてきた。

弥三郎と同い年くらいの、おどおどした娘だった。

「…この子も人形遊びが大好きなのですよ。」
「……」

女のすることなのだと、遠まわしに言っているの…?

「若が宜しければ、一緒に遊んでやっては下さいませんか?」
「それは、父上が…?」
「…あ、あの、ええ、まあ…」
「……」
「……」
娘がびくびくしながらも、弥三郎に近づいた。

「あ、あの」
「……」
弥三郎は何を話したらいいのか判らないので黙っていた。

「一緒にあそんでください…」
「……」
あまりに必死なので、頷くしかなかった。

娘はぱああと顔を明るくし、心底嬉しそうだった。

「これ、先に名乗らないと」
「あ、ご、ごめんなさい…わたし、と申します!!」
「…
「はい!!若さまは、えと、姫若子さま?」
「!!これ!!」
侍女はを怒鳴りつけた。

「ご、ごめんなさい…?」
「…構わないよ…怒らないであげて」
「は、はい、しかし…」

弥三郎は怯えるに優しく微笑みかけた。

「何て呼んでもいいよ」
「じゃあ、姫でもいい?とっても可愛い」
「うん。私もそう思う」
「……」

侍女は自分はいないほうがいいだろうと思い、部屋から出て行った。


「姫様はどのようなお人形をもってるのですか?」
「これ…父上が買ってくれたの…ぬいぐるみ…」
「くまさん?」
「…えと、五郎丸というらしい。加賀の土産物なんだって」
根は優しい弥三郎なので、への口調は優しい。

ただ人形遊びの相手をしてくれるよとだけ言われて来たのだろうから。

まさか若のただの暇つぶしの相手になってるとは思っていないだろうと、目を輝かせるを見て思った。

は、人形かぬいぐるみは…?」
ごそごそと、が懐から巾着を出した。
中身を慎重に取り出して
「これ」
「…なにそれ」
「本多忠勝フィギュア」
「……」
ち、父上ー?

「これすごいよ関節すごい動くの」
「えーと」
はフィギュアの腕をあげたり下ろしたり曲げたりしていた。

「……」
「かっこよくない?」
「…かっこいい…」
弥三郎は最初は引いてたものの、さすがは男の子。
目が釘づけです。

「…触っていい?」
「いいよ!!」

足の関節もスムーズに動き、武器も取り外しができた。

「す、すごい…」
「他にもねー五本槍もあるんだけどねー」
「ごほんやり…?」
「危ないからもってっちゃだめって」
「…?」

人形が危ない?

「どうして危ないの?」
「合体させると爆発するんだー」
「……」

弥三郎は、製造元を調べ、回収するよう命じなければならないと思った。

「……!!」
そうか

これは父上が考えたのだろう…
この子にこんなやり取りを自分とさせ、少しは上に立ちたいと思うように…

「本当はもう一回り大きいのが欲しかったんだけど、がまんしたの。すごく人気なんだよ。」
「…ね、ねえ」
「なあに?」
「これ、本当にの?」
「うん!!これは姫様でもあげないよ!!」

…あれ

この子、本物なのかな…

「こういうの好きなの?」
「うん!!眺めてるだけでも楽しいよ!!こんどはチビザビーがほしいなあ」

あ、この子本物だ…

語る目が生き生きしてるよ…


「で、でもこういうのって…戦場で活躍するものでしょ?なんで女の子が…」
「だってとっても強いんだよ?」
「強いってことは、たくさん人殺しするんだよ!?」
「…?たくさん…違うよ…」

なにが、なにが違うのか

「たくさんの人を守ってくれるんだよ」

「………」

なんて、単純な答え







「いやー、なんっか今日すげえ懐かしい夢見てよォ」
「おーい、これカンナでちょっと削って!!」
、ちょっと聞いてる?」
「あれ!?ここ錆びてるよ!?落として!!」

元親はため息をついて座り込んだ。

「元親…判ってますか、戦前の点検中ですよ、そういう関係ない話は控えてよね」
「いいじゃねえかよ…言いてえことがあるんだからよ」

は真っ黒になった軍手を外して、元親の隣に座り込んだ。

「お」
「休憩」
「そうこなくっちゃなあ」

元親は水を渡し、一気飲みをするを頼もしそうに見つめた。

「んで?…夢?」
「ああ、初めてと会ったときの夢」
「お前が女々しい姫様だった頃ね」
「おまえがただのフィギュアオタクだった頃な!!」

お互い過去の傷を抉ってちょっと傷心した。

「…今じゃ立派なお殿様ですがね」
「お前も今じゃ立派な整備士様ってか。頼りにしてんゼ」
「そりゃどうも。…本当は技術士がよかった…」
「どっちも俺達には欠かせねぇ役職よ」
「…まあね」

あの日以降も、時々城に来ては元親と親交を深めた。

ある日突然は、機械を作ってみたいなと言い出した。

そんな細い腕じゃ無理だろうと言ったが、もし本当にそう思うなら俺は応援するとも言った。

そしたらその後、ぱたりと城に来なくなり

嫌われてしまったのかと思ったら

俺の初陣前にひょっこり現れ

これ作ったから持って行ってよ、と大量の手榴弾を持ってきた。

「…まさかマジで勉強してたとは思わなくてよ…」
「私はいつでも本気ですー」
「本当に嫌われたんだと思ったんだぜ?」
「何よ、だったら探しに来ればよかったじゃんよ。引きこもりめ」
「馬鹿野郎。そんな度胸無かったぜ。なんせ初恋の相手でよ、恋の仕方なんか右も左も判らなかったんだからな」

さらりと初恋と言った元親だったが

「ふーん」

もさらりと流した。

「ちょ…おい!!少しはドキッっとかしろよ!!」
「初恋は叶わないんだよ」
「どこの伝説だよ!!判らねぇだろがそんなもん!!」
「私の初恋は本多忠勝ですー」
「うっわ…そりゃ叶わねえし痛ェ…」
「黙れ」

は立ち上がって、軍手をはめながら滅騎の方へ歩いていってしまった。

「待てよ」

元親は諦めずに追いかけた。


「何」
「俺はまだ姫か?頼りないかよ?」
「…初恋なんでしょ」
「関係ねえよ。そんな迷信、信じてんのかよ」
「し、信じてんだよ。だから初恋本多忠勝だって言ってるでしょ」
「……?」

が俯いてしまった。

「なのにお前はノリが悪いよなあ…元親は二番目だよってこと言ってんだよ」
「……」
って
手先器用なのにこういうの不器用…

「判りにくい…」
「うるさいな」
「…あ、違った、俺の初恋、五郎丸だ」
「……」
は二番目だ」
「…ならいいんじゃないの」

元親は嬉しくなったので

抱きしめようと思ったのだが

「暑苦しい!!!!」
「うおお!?」
はスパナを振った。

「危ねえな!!」
「殿、油を発注しといてくださいな。今回随分使ったんでね」
「お、おい…仕方ねえな」

顔を赤くはしているが、この態度ということは

外ではただの整備士として仕事していたいのだろう。

国を守るために作られた兵器たちに集中していたいのだろう。

それが判らずくっついていたいと思う元親ではない。

「…ま、くっつくのは室内だけで良いか…」

らしいと思い、ここで抱きしめるのは諦めた。

すると

さん!!木騎の点検終わりました!!」
「ご苦労様ー。異常なかった?」
「はい!!」

若い男が嬉しそうに報告をしにきて、早速嫉妬してしまった。

「今回は気合はいりますよー!!」
「いつも入れてくれると嬉しいんだけど」
「はは、すいません!!なんせ徳川との戦いでしょ?」
「…え」

「……」
には次の戦がどことやるのかまでの話はあまりしていなかった。

「徳川……本多さま…」
様!?

「…?」
「お、お会いできる…?」
もしや本多忠勝のことマジで好きだったな!?」
「いいの…!!叶わないって知ってるの…!!でも一目だけでも…!!」
「ムカつく!!俺に対してより乙女になってるのがムカつく!!!」
「恋と憧れは違うの!!」
「何だそれ!!」

元親は、戦中はを城に監禁しとこうと思った。



「元親!!」
「!!」

が元親の腕にしがみついた。

「な…」
「元親も本多様欲しくない!?勝ってね元親…!!私、応援してるから…!!」
「……」

の…応援…

「…が、頑張るぜ…」
「うん!!」

俺、完全に

こいつには甘ぇな…