はベッドの上で、ただ保健室の天井を見上げていた。
「貧血ですか…そうですか…」
先生もいないので、ぶつぶつ独り言を呟いていた。
「レバー…食えってことですか…豚肉も…?」
頭がよく回らない…
体育の時間に倒れたようで
倒れる瞬間に、殿おおおおおお!!!という雄叫びとともに腕が伸びてきたのを覚えている。
「…幸村が…」
支えてくれて…運んでくれたのかな…?
「……」
顔が真っ赤になった。
とりあえず、休み時間まで寝たら、教室行こう。
それで、ありがとうって、言おう。
それで…放課後、空いてたら、お礼に…幸村の好きな甘いもの奢るから、一緒にって…
「〜〜〜!!!!」
デートの誘いみたいだよ…!!!
で、出来るかな…!!
すでにの心臓はその光景を想像してばくばくいっている。
幸村は…休み時間になると政宗とか佐助と一緒に居るけど…そのときは無理だけど…
隣の席だし…
授業始まる直前教室行って、すぐに、軽い調子で言えば…
き、きっと、大丈夫…!!
頭の中で、何度も何度もシュミレーションした。
幸村とはそこそこ仲が良いけど、あくまで友人としてしか見ていなかったが
だって…倒れるのにすぐ気づいて、駆け寄ってくれて…
これは…嬉しい…!!
恋に落ちたって良いでしょう…!!
キーンコーンカーンコーン…
「!!」
授業が終わった。
落ち着いて、タイミングを見計らって教室に行こう…!!
そう思いながら、が深呼吸していると
ダダダダダダダダダダと廊下を走る音と
「殿おおおおおおおおお!!!!!!!」
「!!」
幸村っっ…!!
そんな…そんなに私のこと心配してくれて…
起き上がって、髪を手櫛で整えて、もう一度深呼吸した。
ガチャっと保健室の扉が開いた。
遠慮も躊躇いもなく、カーテンが開けられた。
「幸村…」
「殿…!!大丈夫でござるか…!?」
幸村の必死な顔…
ど、どうしよう…
幸村って、こんなにかっこよかったっけ…!?
幸村がベッドに手をつくと、ギシリと音がした。
の緊張もピークに達した。
何…
この青春っぽいのは…!!
幸村…もしかして私のこと…!!
「良かった…!!」
「幸村、心配かけて、ごめんね…」
「いいのでござる…!!殿、授業には出れるか…?」
「う、うん…!!次から…出るから…」
「そうか…!!」
幸村…そんなに嬉しそうにして…私…
はもうたまらなくなって
今、告白してしまおうと思った。
「幸村…」
「本当に、良かった…一時はどうなるかと…」
「私ね…」
「実は、次の数学の宿題の解答、某が黒板に書かねばならず…」
「幸村のこと…」
「やってくるの忘れたので、見せてくだされ」
「殴りたい」
「え!?」
今までの私の気持ちを返せええええええ!!!!!!!
「あはははは!!そんなことがねえ!!」
「笑い事じゃない!!笑うな佐助!!」
「まあまあ、勘弁してあげてよー」
昼休みに佐助を呼び出して、幸村のことを愚痴った。
「結局見せてあげちゃって。も甘いねえ…」
「し、仕方ないじゃん…。頼むーって土下座しやがって…」
「まあねえ…」
はふてくされていたが、佐助はどうしたもんかなあ、と窓の外を眺めた。
「俺が見せてやっても良かったんだけどね」
「?あ、ああ、そうだよ。佐助のほうが私より頭良いじゃん」
「何でだろうね」
「隣の席だから返すの楽なんだろうね」
「…君も相当あれだな…」
「…?何?」
佐助はため息を吐いた。
どっちもどっちだよこれ…
「のノートがいいんだって」
「は?」
「の字が、好きなんだって」
「…幸村が?」
「のノートじゃなきゃ、嫌なんだって」
「……」
が複雑な顔をした。
「だ、だからって…あれは無い…」
「そうだけどー…ー…もっと自惚れても、大丈夫だって」
「…どういうことよ?」
「あの純情な旦那が、何の口実も無く女の子の寝てるところに踏み込めるかね?」
「…心配なら、踏み込めよ」
「あのねー…」
…まあ、気持ちはわかる。
旦那…すっげえ慌てちゃったんだろうな…
「ノートの話のほうがついで。お見舞いが本命の用事」
「……」
本当は、旦那の口からばらした方がいいんだけどなー…
「…幸村、どこ行ったのかな」
「お、行くの?さっき購買行ったよ」
「ありがとう、佐助」
「いえいえ」
購買に行くと、幸村が購買のおばちゃんに詰め寄っていた。
「栄養になるようなものは置いてござらぬか…!?生肉とか」
「生肉は置いてないねえ…」
…生肉って
「そんなもん食う気か幸村」
ひょっこり幸村のすぐ近くに顔を寄せると
「ぎゃ!!そ、某ではござらぬ…!!これは…」
「…生肉を誰に食わす気だよ…」
「い、いや、あの…」
「栄養の前にあぶねえだろうが…」
「そ、そうか…」
「……」
「殿?」
とりあえず腕を引っ張って廊下に出た。
「…幸村。ありがとうね、その、体育のときと、あと、一応心配してくれて」
「う、うう、でも、某、かける言葉を間違えて、逆に傷つけて…」
…うん、間違えすぎだったけどね…
「もういいよ…それより、今日、放課後空いてる?」
「え、う、うむ…?」
あああちくしょう…もう少し恋するヲトメモードで、照れて下向きながら言ったりとかしたかったんですけどね…
「お礼に、どっかいこうよ。軽いものなら奢るから」
「え、そ、それは」
幸村が目をきらきらさせて
「デートでござるか!?」
「……」
デートに対しての目のきらきらか、奢るに対してか…
…まー、どっちでもいいか
「幸村がそう思うならそうかもね…」
「う、嬉しいでござる!!」
「……」
何この子え、ちょっとこの子私のことどんな風に思ってくれてんのよおいおい佐助…
…マジ自惚れるぞこれ…
「あ、じゃ、じゃあ、そのときに、某、」
「?」
「殿に告白せねば!!」
「……は?」
「き、緊張してきてしまった!!折角殿と二人きりになれるのだし…!!いいな!?」
「え、ああ、えーと、」
「じゃ、じゃあ、放課後に!!今から言葉を考えておかねばならぬので!!」
そういうと、幸村は廊下を走って行ってしまった。
「…これはー…天然ですか」
呆気にとられましたよ…
「…席隣なんですけど…」
もうこれだめだろ…
午後の授業、集中できねーよ…