事の発端はまさかの毛利元就だった。
滅多に見れない焦りの表情を見せ、急な知らせに廊下をいつもよりやや大股で歩く。

「如何程待たせた?」
「半刻程でございます…」
「…仕方なかろう。この安芸の状況、解らぬ方ではない。」

部屋に辿り着いて一度身だしなみを確認して戸を開ける。

女はやや眠そうな面持ちで書を読んでいた。

「大方殿…急に何用で…」
「うふふ、驚きました。元就、一層逞しくなって。」

元就を焦らせた女は、養母である杉の大方であった。

「連絡を頂ければきちんともてなせたものを…」

やや不機嫌な表情を隠さず、杉の大方の前に座る。
予想外のこのような来客は、あまり良い知らせを持ってきた記憶がない。

「安芸を攻める輩がいたそうですね。」
「…なに、大した力も戦略も無い者共だった。もうすぐ決する…この時期に大方殿は一体何用で…」
「後ろ楯をまず一つ、作るのは如何かと。」
「それは…」

嫌な予感すぎて、元就は目を細めた。

「婚姻するならどちらがお好みかしら?」
「……。」

差し出されたのは人相書きでもない、家系図だった。

「………。」
「そうね、こちらの方が歴史古く領土も広く、大名としての信頼も大きいわね。ただねーちょっと騙されやすいような感じで…毛利家が騙す分にはいいけど…」

元就に影響を与えた義母であったが、そのような観点から嫁を決められるほど、元就は人生捨てていなかった。










「というわけで、我と婚姻しろ。」
「俺の目の前でに告白するとか何考えてるんだてめー!!!」

元就は奥州青葉城へ客人として現れ、小十郎の煎れた茶をすすりながら単刀直入そう言った。
目の前には政宗とが並んで座っていた。

「元就さんも大変ですね…」
「同情などいい。婚姻しろ。」
「無理矢理すぎんだろ!!」
「政宗様、落ち着いて下さい。まずは話を聞きましょう。どこかとの婚姻を断るための理由としてに協力をあおぎたいだけかも知れませぬ。」
「…ふん、察しが良いな。」

なんだ、そういうことか、と政宗は落ち着いた。
腕を組んで元就の言葉を待つ。

「だが、今回のを免れても以後同様のことが起こる可能性は大きい。故に、毛利家に嫁げ。」
「形だけじゃねぇじゃねーか!!!マジじゃねーか!!」

また政宗は身を乗り出して机を手のひらで叩いた。

「…いや、あの…しかしなぜ私…。」
「我が貴様となら婚姻しても良いと考えておるのだ。慎んで受けろ。」
「やめろやめろやめろ!!!ふざけるな!!渡さねぇ!!」

元就が淡々とに申し入れをするのに耐えられなくなり、を横から抱きしめる。
その力が強くて、はオォゥと色気の無い声を上げた。

「毛利元就…そういうことなら厄介なことになるぜ?」
小十郎も声を低くし、元就に威嚇する。

「元より貴様らとの間には血も何も関連性が無く許可を得る必要も無いはずよ。だが我はこうして足を運び話し合いの場を設けた、これに感謝すべきであろう。希望とあれば伊達と同盟関係を結んでも良いと考えておるのだ。」
「残念だがここは利じゃねぇ。お前さんの苦手な人の気持ちの問題だ。」
「ふっ…気持ちとな?そこの二人が恋仲であると?」
「いいや」
「えっ!?」

躊躇うことなく否定した小十郎に、政宗は驚きを隠せなかった。

のことを想ってるのはお前さんと政宗様だけじゃねぇってことだ。」
「…貴様もか…」
「えぇっ!?」

当然のように話が進むが、政宗は初耳だった。

「俺にとっても大事な人だ。お前に取られるくらいなら俺が貰う。…そして、なぁ…小太郎…」

いつの間にやら襖が開き、小太郎がもたれ掛かって腕を組んでいた。
小十郎の言葉に素直に頷く。
元就は湯飲みを静かに置いて立ち上がる。

「なるほど…これは面倒なことであるな。」

しかし大人しく立ち去る気配がない。

「しかし…なぜだか、諦める気にならぬ。我が正室にはが相応しい。譲れぬぞ。」
「毛利元就…てめぇ…本気でを…!?」

小太郎が天井を見上げる。
はいはい…と堪忍したような声が聞こえ、板が一枚剥がされた。

「聞いちゃったよ。」
現れたのは佐助だった。
「そういうことなら我が武田軍も黙ってないけど?」
挑発的に元就を指差し、見下したような視線を向ける。

「猿飛…」
「貴様一人で何ができる。忍の分際で割って入るか。」
「真田の旦那もこっちに向かってるよ。詳細は伝言したからもう血眼になってるね。」
「真田幸村もを想う一人…」
「あと…多分大将も来るかもしれない。」
「信玄公だと!?なぜだ!?」
「大丈夫か武田軍!?」






幸村と信玄は馬で駆けながら激しく叫んでいた。

はっ某が嫁にしたいでござるうぅぅぅぅ!!!」
「その意気であるぞ幸村ぁぁぁぁぁ!!!!お主が駄目であったらワシの嫁とするぞぉぉぉぉ!!!!」
「やめてくだされお館様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「嫌ならば何としてでも娶るのだ幸村ぁぁぁぁぁ!!!!」

幸村はが信玄の嫁になることを想像し、本気で泣きたくなっていた。







そして来客は止まらない。
佐助の背後に美しい忍が舞い降りた。
クナイを片手に、戦闘態勢に入る。

「話は聞いた…貴様ら、武士が揃って愚かな問答を繰り返して…」
「かすが!!」

佐助は飛び退き、まさかかすががここに来るとは思わず目を見開いて驚愕する。

「な、なんだと!?なぜお前が…まさか謙信公がを…!?いや…しかしお前が引き受けるわけが…」

かすがが謙信に惚れていることなど一目瞭然だったため、何があろうとこの話題にかすがが入ってくることなど想像していなかった小十郎が困惑を口にする。

「…謙信様は、心優しいの平穏をお望みだ。故に貴様らのような野蛮に渡してなるものか。」

ああそういうことか、の友人として参戦か、と皆とりあえず納得したが

「上杉軍からは直江兼続を候補としよう。」

ドヤ顔を決めてそう続けた言葉に皆絶叫する。

「誰向けだよそれ需要ないよ!!」
「なっ、何…佐助貴様…そのようなこと言える立場か…」
「立場ですよ!?」
「な…直江か…直江なぁ…バサラの直江はなぁ…」
「竜の右目ぇ!!なんだその真剣に悩む様は!!」

かすがは皆の呆れた視線に耐えられずに肩を落とす。
小太郎はポンポンと背を叩いて慰めた。


「おうおう、誰か大事な奴を忘れちゃいねぇかい!?」

皆が庭に視線を移すと元親が碇槍を担いで歩いてくる。

「俺もいるよー!!」

その後方から慶次が手を降りながらやってくる。

の嫁ぎ先ってんならウチしかねぇだろ。俺はここにいる誰よりを愛してるぜ?」
「元親ずるぅ!!俺の方がを好きだよー!!!ずーっと好きだ!!何歳になってもだけを好きな自信あるよ!!」

その二人の言葉に、全員ピクリと反応する。
最初に反論したのは佐助だった。

「お二人さん?後からきてなにそれ。そんなの当然じゃないの?俺様だったら、結婚した後でも家事を分担してだけに押し付けないとか、具体的に結婚生活想像させることできるし…」
「佐助!?いつの間にやらお前も立候補か!?」
「………。」
「おおっと…」

かすがは忍分際で!という気持ちを込め、小太郎はは渡さないということで佐助に手裏剣を投げるが、丸太を身代りにし佐助は避ける。

「立候補しちゃいけない掟は無いしね?」
「猿飛の立候補はともかく…意見は賛成だ。そんなもの前提だ。を大事にしない奴の嫁とするわけにはいかねえ。」

小十郎の冷静な言葉には元就が詰め寄る。

「…の理想を叶える結婚生活というものは少々違う気もするが。戦の世よ。多少妥協してもらう場面はあるがそこまで咎めることなど誰も出来まい?」
「難しく考えるこたァねえだろう!!てめえらの言いたいことも分かるが、誰のどんな告白がの心を打つかだろ?だったら俺らしくてめえららしく言葉伝えるしかねえだろうが。」
「賛成さんせーい!!!の決定を非難する権利も無いはずだ!!えっと、俺はなんて言おうかな…利とまつ姉ちゃんみたいな仲良し夫婦になろうよ、とか俺らしいかな…」

そこに息を切らせて走る幸村が到着する。

「思った以上に皆話を聞きつけてらっしゃる…!!!まさかこの幸村無しの状況での夫が決まってなどいないであろうな!?」
「幸村よさらに精進せい!!このような状態ではと婚姻などまだまだ先ぞ!!!」
「申し訳ございませんお館様あああああああ!!!!!」

そして着くや否や庭で殴り合いを始めてしまった。

「…む?」
そこで小十郎は違和感を感じる。

「旦那来ちゃったかー。まあ俺様は俺様で告白させてもらおうかな。小太郎は?花でも渡すの?」
「………。」
「しま…出遅れる!!直江に知らせねば…!!」

えっ本気なの!?という佐助の言葉と同時にかすがが消え、元就はあぐらをかいて自分らしい告白というものを考え出す。

「…我の…我の…捨てご…飛車となれ…」
「多分は何が何だか分からないと思うがなァ…つうか俺でも分かんねえし…」

苦悩する元就が珍しいので元親はその様子を観察しながら声を掛けた。

「我の…我の…はっ…我が貴様の日輪となりの未来を照らそうぞ!?」
「名案っぽく言ってるけど多分それもよく分からねえと思うけど!?」

違和感の正体に気付いた小十郎は叫ぶ。
「なっ…先程から政宗様の突っ込みがないと思ったら政宗様とがいないぞ!?」

政宗に絶対の忠誠を誓う右目が、主の不在を突っ込みがないことで気付いた小十郎に皆が困惑の視線を向けるが、政宗がとどこかに行ってしまった確率が高くて慌てだす。

「うわっ竜の旦那抜け駆け…」
「…………。」
「独眼竜…そんなに我が恐ろしいかっ」
「野郎共にを連れて帰ると約束しちまったぜ!!何としてでも俺が…」
「恋の話なら独眼竜に負ける気しないんだけどなー。強行手段は無いよねー。」
「某もを探さねばぁぁぁぁ!!」

各々が散らばり、政宗と捜索に向かった。








政宗とは離れの部屋に座していた。
途中からこっそり連れ出し、政宗は政務の続きを、は書を読んでいた。

「どいつもこいつも阿呆らしいな…。」
「一応お客さんなのに放っておいていいの?」
「いい。」

悩むことなくそう言い放つ政宗だったが、彼も伊達家当主だ。
元就の事態を完全に他人事とは思えないのではないだろうかと疑問になる。

「…政宗さんだって婚姻の話来るんじゃないの…?」
「いつするか、とは言われるかもしれねぇが、誰とするんだ、は聞かれねぇと思うぞ。」
「そうなの…?」

なんだ、政宗には家中にも認められた決まった人が既にいるのかとうつ向く。
その様なの態度は視界に入るが気に止めずに次の言葉を発する。

「それで相談だが。」

書類を重ねて持ち上げ、机にトントンと打ち付けて揃える。

「はい。」
「いつにする?」

ばさりと本を畳に落とす。

遠くから幸村の叫ぶ声が聞こえてきて、政宗はそちらに視線を移す。
立ち上がり、の横を通る際にぽんと頭に手を乗せて撫でてから部屋を出ていく。


「も…モテ期ですかな…?」

狼狽するの疑問に答えてくれる人は居なかった。

庭から、政宗と幸村の怒鳴り合う声が聞こえてきた。
























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「ヒロインが誰の嫁になるかで告白合戦」というリクを頂きました!!
ところで管理人は政宗様はちゃんと告白してくださるとおもいます←
リクありがとうございましたー!!!