「…大人って怖い…」
「子供って怖い。」

佐助はまたの部屋に連れて来られ、正座させられた。

「もー、調べるんだったらこっそり伺えばいいじゃないの…。無邪気な子供の振りして近づくとか可愛くないー」
「…仕方ないじゃん…。これも作戦だもん…」
「はいはい。失敗だよ。」

いつから気付かれていたんだろう…俺もまだまだだなあ…と佐助は項垂れた。

「懐に、手裏剣」
「へ!?」

突然そういわれ、咄嗟に懐に手を入れてしまった。

「手裏剣って、忍がもつものでしょ。ということはー、佐助って偽名?」
「…ううん。それは本当の名前…。俺様、名前は偽らない。」
「そうなんだ。」

手裏剣を取り出して、床に置いた。

「何で判るの?」
「武器探知機が付いてるの」
「…すっげーや。。」

呼び捨てにされたが、は気にしないことにした。
自分の事を『俺様』というくらいだ。
むしろ呼び捨てのほうが、この子には自然に思える。

「ねえねえ、佐助はもしかして、ここの…武田さんの、忍?」
「ちょっと違う。」
今は真田の若に仕えてるから、少し違うと答えた。

「なんで興味深々なの?、もしかして、どこかの偉い人に仕えてるの?」
佐助はの心を読もうと努力するが、先ほどからずっと穏やかだ。
そういうフリも出来る人間なのかもしれない。

「偉い人と、お友達でね」
「じゃあ情報を漏らすことなんてしないよ。」
「その子に、とっても立派な人間になって欲しいの」
「……。」
どこかの若なのだろう。
「だから、世の中にはこんな立派な人がいるんだよって、教えてあげたいんだ。何か武勇伝みたいなのない?」
「武勇伝ー…」
はそわそわし始めた。
今の落ち着きの無いに、自分を誤魔化すような身振りは出来ないだろうと感じた。

「そうだなあー…」
竹とんぼを手で弄る。
これのお礼と言う事で、少しはいいかな、と思ってしまった。








日が傾いてきた。
室内にはと佐助の笑い声が響いていた。

「なっ、なにそれ…!!!!子供で団子大食い大会優勝とか…!!かっこいいー!!!!」
「若はすごいんだよー!でもちょっと将来が心配だなあ…。でものとこの傅役さんも相当だよっ…!!なにその迷子とかっ…!!」
「そして牛蒡にはうるさいのよ。味付けがなんたらって姑!?みたいな…」
「城でどんな位置にいんのかなっ…その人の小言で侍女逃げ出したり…」
「ありうる…!!」
「ありうるよね…!!」

ひでぇー!!!!とまた笑い出した。

「あはは!!いや、世の中いろんな人がいるなあ…!!」
「武勇伝はしっかり伝えるわ…」
「俺も若に言うよ!!笑ってくれるかな…!!」
「竹とんぼも渡してね。」
「うん!!」
「あ、そうだ…」

は佐助にお勧めのお土産が何か無いか聞いてみようと思った。

「ねえ、何か、いいお土産無いかな…。その人たちに買っていってあげたくて…」
「ん?お土産?」
そうだなあー…と佐助は首を傾げた。

「お守りとか?」
「あ、お守りかあ…!!」
いいかも!!とは嬉しそうに笑った。
佐助もその提案を受け入れてもらえて喜んだ。
そして、手をに向けて差し出した。
。」
「何?」
「情報料。」
「…は?」
少しは仲良くなれたと思ったのに、そういわれては目を丸くした。

「お、お金そんなに持ってないわよ私…!!!」
「ねえ、それ欲しいんだけど、だめ?」
「それ?」
佐助はの荷を指差した。

「どれ?」
が聞くと、佐助は荷を漁りだした。
変なものは入ってないはずなので、は文句言わず佐助を見ていた。
「さっき、ちょっと見えたんだ…これ!!」
「ああ…」

の作ったクナイだった。

「かっこいい。これ欲しい。」
「……」
そんな風に褒められて、喜ばないはずが無い。
荷には他にも刀や包丁など、売りながら旅の資金を得ようと持ってきたものがあった。
その中から忍がよく使うであろうクナイを気に入ってくれるとは、子供だけれど認めてもらえた様で嬉しい。

「そんなもんでいいなら、持って行っていいよ。」
「本当?ありがと、!!」

佐助はすぐ手裏剣の入っていた革の袋にクナイを入れ、その後に飛びつき、ぎゅううと抱きしめた。

が作ったの?」
「恥ずかしながら…」
「すごいや!!、俺これ気に入った。」
「ありがと…」

これを使い、この子も人を殺すのかと思うと、少しは寂しくなった。
佐助は敏感にの心境の変化を見逃さなかった。

「…若を守るために、使うよ。」
「佐助…」

佐助の気遣いの言葉に、ははっとした。

「そうだね…佐助、いい忍になれるよ…」
の目は誤魔化せなかったけどね。」
へへ、と佐助は笑った。

「また甲斐に来たら会おうね。」
「会えるかな?」
「会えるよ。俺様、それまでに立派な忍になる。いろんな情報いっぱい仕入れられるようになって…部下もいっぱい付いて…」
「…じゃあ、私ももっとすごい武器作れるようになる…」
「約束。」

佐助が小指を出した。
はそれに自分の小指を絡ませた。

素直に、かわいい、と思った。

「あと、いい男になるね。」
「ん?」
「そんで、ももっといい女になってて〜」

小指は絡まったままだ。

の事俺様が貰ってあげよう」
「…お、おーい?」
「よし!!約束した!!」

佐助は小指を離して、照れたように笑った。

「じゃね、俺様もう若のとこ戻らなきゃ!!」
「ちょ、佐助…」
「またね」

佐助がのおでこに唇を寄せた。
少し触れて、佐助は消えた。

「佐助くんー…?」

はおでこに手を当てて、真っ赤になっていた。

「こ、子供のくせに…!!!」

嬉しいような、恥ずかしいような不思議な気持ちだ。

「………は!!」

いきなり小十郎の顔が思い浮かんだ。

「浮気をしてしまった!!」

ちょっと言ってみたかった言葉だったりした。

「…す、すまん、小十郎…」

一瞬だが、この状況を楽しんでしまった自分を反省した。









一人の子供が、屋敷の中で舌足らずな声で大声を出していた。

「さすけ!!さすけはどこだ!!さすけえ!!」
「はいはい、若、如何致しましたか?」
「さすけ!!」

佐助が庭に現れると、若と呼ばれた子供は、佐助の名を呼びながら走り寄ってきた。
そのまま佐助にしがみついた。
「どこへいっていた!?」
「若の竹とんぼ、かっこよくしてきました。」
佐助は抱きついて離れない若の背をぽんぽんと叩いた。

「たけとんぼ…」
「若、見てください。いきますよ。」
「うむ…」

首だけ上に向けて、若は佐助の竹とんぼを飛ばす姿を見た。

高く高く飛び上がる竹とんぼを見て、若―弁丸は嬉しそうに佐助から手を離し、飛び上がった。

「すごいさすけ、たかい!!」
「ええ…」
「おれもやりたい!!さすけ、どうやったのだ?にんじゅつか?」
「違いますよ。ある女性が、若へ…」
「おれのためにか?」
「ええ」
「うれしいぞ、さすけ、そのものにあってみたい」
「若…」

自分が若を外に連れ出せば、叱られるに決まっている。
自分は若以外に居場所を知らない。
ここから追い出されるなんて、絶対嫌だった。

「だめです、若。」
「なぜだ!?」
「そのものは、旅のもので、すぐに旅立たれてしまいました。いまはもう遠くへ…」
「…そうなのか?残念だ…」

しゅんと下を向く弁丸の頭をくしゃりと撫でた。

「…職人にしてはまだまだ若いのですが、優秀です。時が経てばその名は有名になりましょう。若が大きく立派になれば、必ずやお会いできます。」
「ほんとうか?よし、さすけ、おれはがんばるぞ!!ちちうえのようなりっぱなぶしになる!!」

弁丸は落ちてきた竹とんぼを拾いにいき、早速自分で飛ばし始めた。

「…さて…」

佐助は手を腰に当てた。

「前半はともかく……俺を嘘つきにさせないでくれよ…。」














旅立って丁度一月。
は奥州に戻り、また店番をしていた。

「………。」

良い鉱物を仕入れたと、男達は元気よく鉄を打っていた。
しかし、は身を屈めて、大人しくしていた。
小十郎がいない間に尋ねてきたと聞いていたからだった。

「おい姉ちゃん。これ、刃こぼれしたんだが、見てくれねえか。」
「…は、はい…」
「大人しいな。前の元気は旅でどこかに落としてきたのか?」
「…な…なんだよう…!!小十郎!!!!

いつもよりドス声で、小十郎はを見下ろしていた。

「お前こそ…!!なんだこれ…ぼろぼろになって…」
が小十郎の刀を見ると、刃先は細かく砕け、汚れが付いていた。
「……。」
「嫌がらせだ。」
「…小十郎…他の鍛冶屋、行かなかったのか…?」
「……いーやーがーらーせーだっっ!!!!!!!」

は嬉しくなってしまった。
自分以外に頼まないなんて、何て嬉しい嫌がらせだろう。


「そういうことがあるなら、事前に少しは言ってくれ!!」
「なんでだ…?」
「そりゃっ…心配すんだろ…」
「小十郎…」
「知らなきゃ…言葉もかけられねえ…」
「言葉…?」

小十郎はの疑問攻撃には弱かった。
素直にならざるを得ないからだった。
顔が赤くなる。
「…怪我、しねえように、とか…待ってるぞ…とか…」
「…そっか。」
「…午後、休み貰え」
「へ?」
「いいから!!」
「お、おう…」

は疑問に思いながらも師に休ませてくれないかと聞くと、旅して帰ってきて休み無しだったからいいぞ!!と快く受け入れてくれた。
どこへ行くのかと疑問に思いながらも、は小十郎にそう報告した。







「小十郎、どこ行くんだ?」
手を引かれながら、道を進む。
「本当は日帰り旅行だったが…しばらく休み取れそうにねえからよ…」
「…?」
は良く判らなかったが、自分が黙って旅立ったから小十郎の予定が狂ったのだろうと言う事は理解した。

「すまん、小十郎…」
「もういい。ほら、着いたぞ。」
「え…」

そこは、町外れにある足湯だった。

「…温泉じゃなくて悪いな。それはまあ…もっと時間が取れたときにでも…その…うわあ!!?」
泊まりで…と言おうとしたら、突然が飛びついてきた。

「あ、あ、ありがとな…小十郎!!!!」
「そんな、足湯くらいで…」
「ううん!!嬉しいんだ!!小十郎!!ありがと!!混浴だな!!」
「…混浴…まあ、混浴だな…」

小十郎が疑問に思うくらい喜んでいて、こいつ大丈夫か?と思ってしまった。

(…まあ、可愛いところだよな…)

この程度で満面の笑みを浮かべるなんて。

早速二人並んで、足湯に浸かった。

「うわあー…初めてだ。暖かいな。小十郎、よく来るのか?」
「そうでもない…」
「癒されるなー…あ、そうだ、小十郎」
「?」

はごそごそと懐を探った。

「これ、お土産だ!!」
「土産…」
「こっちが梵でー、こっち小十郎」
小十郎はが取り出したお守りを手にした。
そういえば自分は宮司の出であることは言っていなかった。

「…だめだったかな?」
「いや、ありがたく頂く。」
がくれるものなら不思議と何か効果がありそうだ…と馬鹿なことを考えた。

の事だからまた金属類かと思ったがな」
「はは、そこ会った子に薦められたんだ。」
「ふーん」

佐助の事を思い出し
「……」
は少し罪悪感が芽生えてしまった。
冗談だったとしても、あんな約束してしまった。

「…どうした?」
「…小十郎…抱っこ…」
「……」

甘え方が親に対するもので止まっている。

「…はいはい…」

誰も見ていないからいいか…と、小十郎はを横から抱きしめた。

目を閉じて嬉しそうにするを見て、やっぱり子供だなあと思った。
経験が無いから余計そう見えるのだろう。

「旅は楽しかったか?」
「うん。土産話もある。梵が居るときに話す。」
「たのしみにしている。」
「うん…」

自分から離れて行きそうにない小十郎に、は安心した。

「…私、仕事すんの、好きなんだ…」
「そりゃ、お前、仕事やめたらぶん殴るぞ?」
「だよなー!!うん!!小十郎でよかった!!」
「何がだよ…」
「独り言だ!!」
「…でけえ独り言だ。」

意味は理解したようで、小十郎が照れくさそうにそっぽを向いた。


自分が自分のままで居られる人の隣が、帰りたい場所で良かった。


















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ここまで読んでくださりありがとうございました!!
梵天丸様書けなかった!!ウワァ!!
梵様目当ての方申し訳ありませんでしたー!!