「小十郎は女っ気がないわねぇ」
「え」
部屋で本を読んでいると、突然姉にそんなことを言われた。
「いきなりですね…」
「さっき、町に行ったら祝言をあげてる家があってね。綺麗な花嫁さんいいわねって友達と話してたの。」
「はぁ…」
自分も嫁に行きたい、ではなく、小十郎、はやくお嫁さん取らないかしら…の方を先に考えるのですね…姉上…
「小十郎も意識しなさいよ?」
「え?」
「最近は学ぶか買い物かじゃないの」
買い物…はのところに行くことか…。
俺は普通に刀好きに見られてるのか。
「でも行き過ぎよね…町に好きな子がいるの?」
「そんなことは!!」
梵天丸さまの傅役になって日も浅いのに、色事にうつつを抜かしていると思われたくなく、懸命に否定した。
「俺は今勉学でいっぱいいっぱいなので!!」
「そうなの?寂しいわねぇ…。梵天丸様は家臣を見つけては刀を見せろとせがんでるそうよ…?そういう興味ばかりもどうかと…」
「……」
の影響が。
しかし悪い事ではないだろうと、小十郎は気にしないことにした。
良い品を見る目を養うことはためになるだろう。
ちなみにこの時小十郎は梵天丸が六爪流になるとは想像してなかった。
「女の子とお出かけしたり…今のうちに経験しといた方がいいと思うけど…」
「……」
お出かけ…したいです。
「小十郎はそういったことは…」
「温泉とかいいわよね〜」
小十郎はピクリと反応した。
「…姉上…女性は…温泉に誘うとか…嬉しいのでしょうか?」
「嬉しいわよ」
「…そうですか…」
策士、片倉小十郎。
一瞬にしてとの日帰り温泉旅行のプランを思いついた。
小十郎は鍛冶屋ののれんをくぐった。
「……」
中には珍しく誰もいない。
「すいません!!」
声をかければ、中年で筋肉質の男がでてきた。
確かこの人は、ここの一番弟子の…
「なんだ?」
ギロリと睨まれた。
「えーと…さん…いらっしゃいます?」
「?」
「えぇ…」
男が眉根を寄せ、俯いた。
「…あんた…何も聞いてないのか…」
「…え?」
「は、居ねえ」
「なんで…」
「帰ってくれ」
尋常じゃなく店内も男も暗い。
いつも聞こえる刀を勢いよく打つ音も、今日はしない。
「……」
姉の言葉が思い出される。
―さっき、町に行ったら祝言をあげてる家があって…
「まさか…」
…が?
「なんで…」
武家の子でもない。
親に決められた婚約など、受けなくてもいいじゃないか。
「仕方なかったんだ…」
何か、あったのか…?
最後に会ったのはいつだった?
二週間前くらいだった気がする。
その間に…?
「ウチだって…良質な鉱物が要るんだ…」
「そんな…」
仕入れの流通経路を確保するために、が、そこの地主のもとにでも行ったというのか…!?
「…何で…相談してくれなかったんだ…」
にとって、俺は何だったんだ?
「……」
俺は、お前が人のものになるなんて、嫌だ。
「……は、どこに…」
行かなければ。
奪い返しに行かなければ。
「どこに行ったんだ!?」
小十郎は目の前の男に掴み掛かった。
「今どこなのかなんて、知らねえ…。まだ…道中だろ…」
ならまだ間に合うかもしれない。
「教えろ!!どこに向かった…!!」
「聞いてどうする…」
「追いかける!!」
小十郎の言葉に、男は怒りを顕にした。
「が…どんな気持ちで行ったと思う…!?俺たちのために…!!」
「お前らはそれでいいのか!?他に方法があるはずだ!!なのに…!!寂しいとかねぇのか!?」
「寂しいに決まってんだろ!?がっ…が…」
「なら…」
「一月も居ないなんて!!!」
小十郎はぴたりと止まった。
「ひとつき?」
「一月も…うぅ……」
「ひとつき?」
「でも仕方ねぇんだ…は見る目があるし…鉱山が発掘されたって聞きゃ、は行きたがって駄々こねるし…」
「…ひとつき…」
小十郎は力が抜けた。
「なんだ…」
戻ってくるのか…
「……あ!?」
すっかり安心してしまったが、小十郎ははっとした。
「そ、それでも…居なくなるなら居なくなるで…言っとけ…馬鹿…!!」
小十郎は次会ったらどうしてやろうか考え始めた。
顔を赤くしながら。
「何でだちくしょう…!!」
…何で俺はこんなにが好きなんだ…!?
誤解とはいえ、先ほど一瞬でも爆発した自分のへの想いに、自身が一番驚いていた。
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そんなわけで旅に出ています。