若君に餓鬼発言をするとはっっ…!!

小十郎は怒りに震え出した。

!!貴様なんだその態度は…!!」

今にも斬りかかりそうなまでに頭に血がのぼった。

「そんなに心狭くないんだよ〜伊達に成長してないんだよ〜」

は小十郎の事を気にせず梵天丸に話しかけた。

「…そなたには、おれがただのがきに見えるか」
「う〜ん…ひねくれてそうだけど大人しくて可愛いガキに見える」
「…そうなのか…」
!!それ以上その方に話しかけるな!!」
「よい、小十郎、さがれ」

梵天丸は、自分との間に立った小十郎に強く言った。

「しかし…」
「いいのだ…」
「…はっ!」

小十郎が梵天丸の表情を見ると、怒るわけでも悲しむわけでもなく、じっとを見つめていた。

は梵天丸の頬に触れて、優しく撫でた。

「疱瘡か…?幼い頃、私の友達が患った…」
「…そうか。おれのようなのをみるのは二度目か?」
「いいや、初めてだ。友達は死んだ」
「……」

は何も言葉を飾らず、そのままを言った。

目の前の子はその病気にかかって苦しんだのだ。

言葉を濁すことを知らないのか…!?

「…君は、生きてて良かった」

が梵天丸の頭を撫でた。

「本当によかった…」

そして、優しく抱き締めた。
梵天丸は肩を強張らせたが、すぐににもたれ掛かった。

…若君は大名となる身…

隻眼であることがこれから若君にどんな事をもたらすか判ってない…

……


文句を言いながらも、小十郎は泣きたい気持ちになった。

そうなんだ。

生きててよかった、なんだ。

隻眼だろうが、若は若で…

のように接してくれるのが、普通なのでは無いですか…?


は梵天丸を少しだけ離し、まっすぐ見つめた。
梵天丸はその視線から逃れるように下を向いた。

「どうした?」
「…の目に、おれの顔がうつる…」
「いや?」
「…い、いま、おれのへやには、かがみがないのだ…なれぬ…」
「じゃあいま慣れろ。自分の顔が敵なのか?それより大きな敵なんて世の中にたくさんいるぞ?」
「……」

梵天丸がきょとんとした。
は梵天丸を子どもといいながら、子どもの扱いはしない。
普通の子どもなら想像できず、戸惑うような事を平然と言う。

「おかしな女じゃ…小十郎のしりあいなだけはあるな」
「はは!!仲良いって言ったのに君には知合いに見えたか!!観察眼の鋭いお方だ!!若は!!」
「え」

の発言に、今度は小十郎がきょとんとしてしまった。

…今…若って…」
「え、何小十郎、ばれてないと思ったの?」
「小十郎はのまえだとあほじゃ」

なんだか若とが意気投合してるし。


「な!?じゃああの無礼な振る舞いは…」
「若である以前に私には子供なんだよ」
「度胸あるなお前!!」
「若、名前は梵天丸だったかな?」
「うむ」
「良い名だ…神のやどった子…梵と呼んでもよろしいか」
「図々しいぞお前!!」
「よいぞ」
「何だとおおおお!?羨ましい!!」

小十郎ははっと口を手で覆った。

今のはつい本音が…!!

梵天丸はそんな小十郎を見て少しだけ笑った。


「ん?」

梵天丸はの耳に口を寄せた。

「な、若!!こそこそと何を…」

一言二言に何か話すと、はにんまりというか、にやあと邪悪に笑った。

「え…何だ!?俺か!?俺のこと何か言ってるのか!?」
「なんでもないよ!ねえ、梵!!」
「うむ、なんでもない!!、またここにきてよいか?」
「だ、だめですよ、は森に住んでて…」
「んなわけねえだろ。ここに住み込んでるよ。うん!!またおいで!!お菓子用意して待ってるね」
「ちょ、ちょっとまてええええ!?分かるように説明しろ!!!」
「たのしみだ!!」

はガシガシと梵天丸の頭を撫でると、梵天丸はにっこり子どもらしい笑顔を向けた。

の手が離れると、梵天丸はとことこと小十郎の隣にやってきた。

小十郎はに聞きたいことがいっぱいあった。

「森のあの小屋は、両親が死んだところだ。時々供養に行くんだよ。両親も職人で…工房は、私が作った。墓石代わりだ」
「…そ、そうだったのか」
「……小十郎」
「!!」

は小十郎の胸倉を掴んで、耳元に口を寄せた。

「……梵の右目…あれは邪魔だろう」
「…!!お前はつくづく…」
「…お前もそう思ってんじゃねえの?」
「……」

ばっと離れると、二人は少し見つめあった。

「……なんじゃ?」
梵天丸はいきなりのことに目をぱちぱちさせていた。


「なんでもございませぬ。さ、帰りましょう、若」
「??うむ」
「またね〜、梵、小十郎!!」

がひらひらと手を振った。

お辞儀しやがれ!!と小十郎が叫んだ。


「…はは!!」
は外に出て、二人の背中を見送りながら笑った。

「私のおかげで小十郎の面白いところが見れて楽しかった、だってよ、小十郎」

梵天丸はに、嬉しそうにそう言った。

「悩み解決じゃないの?…次はすっきりした梵に会えますかねえ」

にこにこ笑いながら店の中に入った。




「…若、に何を言ったのですか?」
「…小十郎こそ、と何を話していた?」
「「……」」

だんまり。

解決にはまだ時間がかかりそうでした。










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本当に突発夢だ…
お付き合い有難うございました