「待ってろよ、…何て事は言わねぇよ。」
政宗がゆっくり立ち上がる。
「どこにでも行きやがれ。その度に追い付いてやる。今度は俺がお前に会いに行く。」
小太郎が忍術を使い、二人の姿が黒く覆われる。
「お前は…笑ってりゃいい…」
そして姿を現したのは、甲板だった。
毛利軍は、攻撃をしていいのか一瞬ためらう。
「あいつらは船首か…!!まぁいい、良くやったな、小太郎。」
政宗は、小太郎が今の状態で可能な限りの移動をしてくれたと、悔しそうに歪む口元で察していた。
「気にすんなよ。ここまで来れば十分だ。」
刀に手をかけ、政宗が笑う。
「お前は観客でいいぜ。成り行きを見守っていろよ。」
「……。」
黙って消えた小太郎が次に現れた時、横に小十郎の姿があった。
「行きましょう、政宗様。」
「そうだな…!!」
小太郎が大きく飛び上がり、懐に手を伸ばしながら宙返りをする。
そして投げられた煙幕玉の起爆音が合図となり、政宗と小十郎が刀を抜いて走りだす。
「いい演出しやがるぜ…!!」
「政宗様、今回はこの小十郎も共に前へ進ませて頂きます。だが、あなたの背中は必ず守る。真っ直ぐお進みください。」
「お前もに言いたいことあるよなぁ、いいだろう。遅れるなよ。」
「はい。」
立ちはだかる人間は峰打ちにして進む。
それを黙って見ている元親ではない。
「…、運命って信じるか?」
「運命…?」
「今から俺は当然のことをする。それであいつらがくたばるなら、そこまでだ。だが、あいつらがここに来て、お前を叱るなり罵るなり口説くなり、言葉をもたらすなら…」
―お前はそれを受け入れな
そう言って、の頭に手を置いて、元親が笑う。
そして手を離すと、兵に向けて激を飛ばした。
「んな奴等に好き勝手させんじゃねぇ!!毛利軍の力見せてやりなと元就様がおっしゃってるぜえ!!」
「…貴様…勝手なことを言うな…」
「受け入れる…」
は胸に手を当てて考える。
私は彼らに幸せになって欲しかった。
私はどんな形でも、政宗さんが義姫様と小次郎様と、並んで笑えたらいいと思っていた。
私を憎むことで、そうしてくれればいいと思っていた。
「何しに、来たのかな…」
考えることに疲れてしまった。
流れに身を任せてしまっていいのかな。
「…私のすべきことが正解だったなら…」
私は彼らと言葉を交わすことなく、現代に戻る。
「間違いだったなら…」
ここまで、来てくれる。
それでいい。
「…興ざめだ。」
元就は武器をしまい、近くの壁にもたれかかった。
「。」
幸村は、を気遣うように顔を覗く。
「幸村さん…怪我、なかった?」
「某の心配は無用。大丈夫。」
「…良かった…」
ペコリと、幸村に頭を下げる。
「佐助を、傷つけてしまいました…!!ごめんなさい…」
「佐助は、己で選んだのだ。が気にすることではない。あのくらいの傷ならば、大丈夫だ。それより…風魔殿…」
「小太郎ちゃんにも…幸村さん、伝えていただけませんか?あの…ありがとうって…」
「それはが伝えなされ。」
すぐにそう返され、は目を丸くする。
「悔いを残して帰りなされ。は律義なお方だ。…必ず戻り、己の言葉で伝えるのだ。」
「幸村さん…」
「…某が、に会いたいが為の言い分であるが。」
幸村が優しく微笑んだ瞬間、
「あ…」
の足元が、黒く塗りつぶされた。
「!!」
落ちるに、幸村が咄嗟に手を伸ばす。
「しまっ…!!」
「幸村さん…!!」
一人を連れていくための小さな闇が出来ていた。
一気に胸まで飲み込まれ、腕だけで床にしがみつき抵抗する形になった。
幸村が前腕を掴んで引き上げようとするが、動かない。
「こんな別れ方でごめんね…」
「まだ駄目だ!!まだ…!!政宗殿がまだ…!!」
「真田!!何をしている、の腕に指が食い込んでるぞ!!」
元就も駆け寄り、の脇に手を入れて引き上げようとする。
「と、止めなければ、が行ってしまうのだ!!引いても動かないのだ!!」
「落ち着け真田!!」
「ごめんね…!!ごめんね…!!」
苦しい顔をする幸村を見て、この人にこんな表情をさせているのは自分なんだと思えば、悲しくなって仕方ない。
「ごめ…」
「謝ってばかりいるんじゃねぇ!!」
その言葉に、目を見開いた。
「勝手なこと…しやがって!!」
珍しく息が上がっている。
そして、怒鳴っているのに、悲しそうな声に聞こえた。
「政宗殿!!早く、こちらに…!!」
「お前…!!俺は…」
「政宗さ…!!」
「まだ行くんじゃねぇ!!てめ…!!一発ぶん殴らなきゃ気が済まねぇ!!」
周りの兵には目もくれずに走ってくる。
「お前に、言いたいことがたくさんあるんだ!!近くで、隣で…言いたいことが、だから…!!」
そんな必死な姿を、最後に見たくなかった。
目の前にある階段を駆け上ってくる。
政宗がに向かって手を伸ばした。
も手を必死に伸ばした。
でも
やっぱり
「私を…憎んで…敵にして下さい…」
私のことを利用して、幸せになって欲しかった。
ドッと、火柱のように黒い闇が立ち上がり、を飲み込んだ。
そばにいた幸村と元就を弾き飛ばし、すぐにそれは消えていった。
「っ…!!いたた!!」
床に叩きつけられた幸村が目を開けた時、最初に目に映ったのはうずくまる政宗の姿だった。
「……。」
は、消えてしまった。
遅れてやってきた小十郎は、政宗の姿を見て、背を向けて目をとじた。
「…………。」
声をかけられなかった。
静かに手を震わせたまま、政宗はその場から動こうとしなかった。
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バッドエンドじゃないですよー
すみません続きますー