…!!今、聞こえたぞ…!!それが、誠だな…!?」

元就の猛攻を防ぎながら、幸村が問う。

「戻ろう、!!協力する!!某がを守る…!!」
「黙れ、真田…!!」
「っ…」

幸村が一瞬、に視線を向けた隙を見逃さずに元就は輪刀を振る。

幸村は槍で受け止めるもバランスを崩し、元就と距離を取った。

は瀬戸内に行く。それが貴様に預けるより安全だと判らぬか。」
「それは…が決めること!!」
「酷な選択を強いるな。目の前のものに執着し、全く周りが見えていないではないか。」
「わ、私っ…は…」

かろうじて絞り出した声に、皆の意識が向かう。

「みんなと、一緒にいるのが、楽しかった…ずっと、ここに居られたらいいなって、思ったことだってある…」

言わなければいけないことが言えず、遠回りになる。
その言葉を聞いて嬉しそうになる幸村を見ていられない。

「私…ね…」

受け入れたはずだったのに、今になって現実を拒む自分が嫌だ。

「もう…もうここには来れないんだよ…!!これが最後だったの!!だから…だからこんなことして…」

発して気付く。
きっと元親に、だから何だと言われるだろう。
最後だろうと何だろうと、皆で笑える選択肢があったのかもしれない。
時間が無いからとこんな形に走った私を、愚かだと思うだろうか。

そう考えたらもう誰のことも見れず、床を見つめ唇を噛んだ。
ごめんなさいと呟こうとした時

「「「何だってぇぇぇぇ!!!!」」」

3人から発せられた叫びが大きすぎて、うぎゃあと女らしくない声を上げながらとっさに耳を塞いでしまった。


「ここって、ここか!?船じゃねえだろ!?未来からここに来れねえってことか!?何があったんだ!!何でそうなる!?説明してくれ!!」
「お願いだから落ち着いてよ元親!!声でかい!!」

騒ぐ元親を、一番早く落ち着きを取り戻した元就がひっぱたく。

「我らには、知る権利があるな。」
「正直に言えば、私の推測の域を出ませんが…」

全ては私の勝手な想像。
けれどその想像を今口にして人に聞かせる機会がある。
ならばこれは必要なこと。
ただの想像じゃない、ただの偶然じゃない出来事なのだと、思う。

「何をしても、私は死ななかった。」

怖いことはあった。
死ぬ機会もあった。

「すぐに、傷が癒えるんです。この私の体は本物じゃない。何かに守られてるような…実物でないような…そんな気がします。」
「守られるとは…北条が?」

元親の疑問に頷いた。

「最初は、北条氏政だった。未来に爺さんの望みがあった。それが、ここに来た理由。過去と未来を繋ぐルートが出来たきっかけ。」
皆の、先を促す視線に笑顔を向けた。

「その理由は、私の頭を撫でるということ…」

それだけの為に、呼ばれて守られていた。
おかしな話だ。

「2回目は…いつきに呼ばれたんだと思います。」

詳しいことは判らない。
でも、あのタイミングであの場所に辿り着いたのは、出来すぎていたと思える。

「農村の危機的状況に救いが欲しかった。本来辿るべき運命は、農村の壊滅、いつきの死だった。未来のどこかに存在したいつきの魂の祈りは、私がここに来るタイミングと一致した…」



―もっとみんなで生きていたかった

 もっとみんなで笑っていたかった

 もう1つの物語を見てみたいな

 おらはどんな大人になってただかな

 おらはどんな人と祝言あげていただかな



「…っ!!!」
そんな声が、耳鳴りとともに脳に響く。
鮮明に思い出すことが出来る、一人静かに新月を見つめるいつきの姿はどこで見たのだろうか。


「…次は、元親。」
「俺が…」
「仲間の死を、止めて欲しかった。」

その結果、私は皆に役に立てた。
本当は役に立てた、嬉しい、と思うことではなかったのかもしれない。
私がしなければいけないことだったのだろう。


「そして今回は、義姫様に呼ばれた。」

偶然、望んだ先に私がいたのではない。

私に止めてくれと叫んでいたのかもしれない。

救いを求めて引きずり込む形になった。
だから現れた微妙な違和感。


「けど…氏政爺さん…止める方法を見つけたみたいで…」

だから終わりなのだ。

「だから…さよなら…」

が空を見上げた。
それを見た幸村達もの視線を追った。




月が顔を出している。

雲ひとつ無い空に、ぽっかりと浮かぶ満月が皆を照らす。

始まりも終わりも、月に向ける感情が憎しみになるなんて。

「いやだ…」

幸村が呟く。
も同じ感情だ。

だがこれはどうにも出来ない。

「こんな、形になってしまって…ごめんなさい。」
「待てよ。わからねえじゃねぇかよ。」

元親の顔を見ると、笑っていた。

「俺たちがそう易々と帰らせるかよ。北条だか義姫だか知らねぇが、妨害してやる。」

自信満々にそう言う。
しかしは、無理だと、あれを防ぐ方法はないと、頭が諦めている。

「ありがとう、元親。連れ出してくれて。こんな会話が出来るなんて思わなかった。元就さんも来てくれてありがとう。幸村さん、追ってくれてありがとう。」
「…やめろよ、俺たちが、お前を守るからよ。」
「だめだよ…きっと、だめ…」
「諦めるな!!」
「諦める諦めないの問題じゃないでしょう!!」

怒鳴った元親の声に負けない勢いで、が叫んだ。

「元の場所に戻らなきゃ…それだけ…これがあるべき形…!!一緒にいたいって…言えただけで、気持ち言えただけで私、嬉しかったから、だからもう…」
は本当に…」

元親とは真逆で、幸村はとても穏やかな声を発した。

「素直でないな。ここにいたいなら、それが本音なら、戦わねば、あの男にぶん殴られるかもしれぬが?」

幸村が海を指差す。

そこを見れば、一隻の舟がこちらに向かっている。

「…え…!?」

偉そうに座る男を見れば、また体が震えてしまう。

もう泣くのは嫌なのに、抑えがきかず溢れてくる。

「……なんで…?」

会いたくなかった。
話したくない。

自分の心はもう、ここに残りたいんだと叫んでいるのだ。

彼にしたことを忘れて、感情のままにすがり付いてしまう。

小太郎もいないのだ。逃げられない。
それ以上、来ないで欲しい。

誰が砲撃をしているんだろう?

早く船を進めてくれないと追いつかれてしまう。

早く進んで、逃げさせてほしい。

早く

早く

















思いとは反対に、その方向へと一歩踏み出したことに、本人が一番驚いていた。


































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いつきちゃんの描写はどこにも伏線ないよ!!(←わー)
気付くことで流れてきた感じ…