「これはこれは、本当だったね。元就君と元親君が揃ってるとは。」
半兵衛が穏やかな口調で秀吉に話しかける。
「風魔君の情報…。何がしたいのか分からなかったけど。今日、元親君と元就君が同じ船でここを通過する、奇襲には丁度いいだろう…なんて情報を持ってくるとは…」
実際に動くかどうかは、詳しく調べてからと考えていた。
「届かなかったか…距離を読み間違えたね。まあ、全く無傷ではないだろう。」
「…半兵衛。」
「何だい?」
「もし届いていたら、あの忍はどうしていただろうな。」
秀吉がそう半兵衛に聞くのは、があの船に乗っているという情報がすでに届いていたからだった。
「どうせ、君のその情報を漏らしたのも風魔君だ。…砲弾を切るくらいの芸当でもできるんじゃないか?」
なぜ、乗っているのかは分からない。
「…秀吉は何も気にせず城に戻ってくれ。というか、秀吉が来るまでもなかったろう…」
「興味がある。」
何のことか判らず、半兵衛は秀吉の横顔を見つめる。
「戦乱の世で、こんなにも人を動かしている。は、不思議な人間だ。」
毛利も長曾我部も風魔も、のために動いている。
それだけは分かっている。
息を切らした様子もなく、幸村は堂々と槍を構える。
「某は、に用があって参った!!話をさせて欲しい!!」
「ご丁寧に、我が兵を倒しながら此方に来てまですることか。」
「それは詫びようぞ…!!某も穏便に進めたかったが…」
「…我が兵が、聞き分けなく襲ってきたと言いたいか?」
「そうではござらぬ…!!!」
コツ、コツと、音を立てながらゆっくり幸村に近づく。
「ならば我を倒し、成し遂げてみせよ。」
「っ…!!」
ちらりと、に視線を送る。
もう、姿も表情も見える場所にいるのにもどかしい。
隣にいる元親も碇槍を手に持っている。
「く…!!何故でござるか…!!」
「黙れ。」
「何故…某達に相談せず…!!」
伊達政宗に銃を向けた。
一夜にして反逆者になってしまった。
奥州とは同盟を組んだばかり。
誤解でも何でもなく、の意思での行動であることを知れば、伊達政宗はそれを尊重して本当に敵としてしまうかもしれない。
もう今までのように一緒に笑えないかもしれない。
「っ…!!!!」
元就が地を蹴り、幸村に向けて攻撃を開始する。
幸村はそれを流し、続いて頭上から振り下ろされた輪刀を槍で受け止め、弾く。
一歩下がり、今度は身を屈め幸村の足元を狙い武器を振る。
飛び上がった幸村を追撃するが、攻撃を読まれ、避けられる。
幸村の意識は元就で、しかし言葉はに向けられる。
「戻ってきては、くれぬのか!?」
「…!!」
「伊達政宗とは、同盟を組んでいる…しかしっ…」
「真田幸村!!!相手は我ぞ!!!!」
「某は!!!一緒に、いたいのだ!!と一緒にいたい!!!」
元親が、こちらを見つめているのが視界の隅に映る。
けれど、は幸村から目が離せなかった。
「何、言ってるんですか…」
元親にしか聞こえない、か細い声だった。
私だって、
私の方が
「一緒に…」
言ったら、だめだ。
「元親…私…ね、」
「おう。」
「弱くって、みんなが守ってくれるのが、嬉しかったけど、悔しく感じることもあって…」
「……。」
「だから、気持ちだけはみんなと肩を並べられるくらい、強くなりたかった。もしかしたら、ずっと背伸びしてたのかもしれない。」
元親の手が頬に触れる。
黙って、涙を拭ってくれた。
「貫きたかったな…」
肩が震えてきた。
きっと自分は酷い顔をしている。
「自分で、決めたことくらい…貫いて…」
「いいんだよ、。」
元親がしゃがみ込み、の手を握った。
「"素直に生きる"…この言葉、俺は好きだ。」
情けないんじゃ、ないかな。
嫌われてしまうんじゃないかな。
「生きてる限り、もう遅い、なんてねえと思うぜ…。」
気持ちが溢れて、もう限界だった。
座り込み俯いて発した言葉は、自分でも驚くくらい強い声だった。
「…みんなと一緒に…いたい…です…」
「っつーかこれ、俺が用意した舟なんですけど!!!」
「俺様怪我人だからさー、頑張ってね風来坊。」
「………。」
縁に寄りかかり、のんびりくつろぐポーズの佐助だったが、異様に汗が滲んでいる。
慶次は舟を漕ぎながら、無理やり乗ってきて定員オーバーにしておきながら、人任せにする男達に文句を言うが、佐助の様子には気付いているためあんたも漕いでくれとは言わない。
「………。」
小太郎は、佐助の肩口に持っていた薬を塗り、様子を伺う。
「おれさまは、舟こぐの嫌いじゃないぞ!!おりゃああああ!!!」
「武蔵!!!お前は俺と呼吸合わせねえと…揺れるから!!!ちょっと!!!」
「ねえちゃんに、早く追いつくんだよ!!!!」
武蔵は自分の武器をオールにし、慶次と反対をひたすら漕ぐ。
「…あんた達は?」
慶次はくすくす笑いながら、一番焦りを感じているくせに、一番どっかりと座って偉そうにしている二人に話しかけた。
「漕ぐものがねえじゃねえか。あるならもちろん手伝うぞ。」
「じゃあ俺の貸すから…」
「お前が用意した舟なんだからそれはお前のものだ。申し訳なくて使えねえな。」
「て、手伝う気ないでしょ!!片倉さん!!!!」
小十郎は前方いる人間の様子を伺う。
顔はずっと進行方向を向いているため、表情は窺えない。
「さて、どうしましょうね。…政宗様。」
腕を組み、静かにしている政宗からは、どのような気持ちでいるのか感じ取れない。
「…すまねえが、小太郎、船に近づいたら、運んでくれ。」
俺達を、とは付けなかった。
小十郎は何があってもと話がしたかった。
ここまでは来たが、もし政宗がと会うことを拒むならば強要はしない。
舟に残るというなら、それでいいと考えていた。
最も
「何言ってやがる。近づかなくても、俺を抱えて船に乗れる距離だと感じた時点で運べ。」
自分が使える主はその程度の器量の持ち主ではないと知っていたが。
「…この独眼竜に銃向ければ、逃げれると思ってる馬鹿にお仕置きしなきゃなんねえからなァ…」
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政宗のセリフで切るというなんたる…すいませ…続きます…