部屋をもらい、暖かいスープを頂いた。
は壁にもたれ掛かって床に座り、毛布を被っていた。
小太郎は部屋の扉の横に座っていた。
元親は椅子に座り、テーブルに地図を広げる。

「おいしい…」
「暖まったか?無理させて悪かったな。」
「ううん。ありがとう、元親。」

元親も小太郎も同室で、移動の疲れを癒す。

「っつーか、人の船に乗るってのはなんか落ち着かねえ…」

そわそわする元親を見て笑ってしまう。
それに気付いた元親は、の隣に座る。

「笑う元気は出てきたか。」
「大丈夫だよ…」
「その顔色でそう言われてもな…。」

ポン、と手を頭に添え、大きな手で優しく撫でてくれる。

「…お前がしたことは、簡単に言えば、裏切りだ…」
「……。」

そんなことは判っている。
けれど、改めて言われると手が震えてしまう。

「俺は信頼してくれた奴を簡単に切り捨てられる奴を船には乗せねぇ。」
「わ、判ってる…」

覚悟はしていたのだ。
最後の1日、本来なら小太郎と2人で逃げるはずだった。
追って来いと言わんばかりに痕跡を残しながら。

そして何年経ってもどこを探しても見つからず、自分はどこかで死んだ事になるはずだった。

元親にどんなに罵倒されようとも、想定の範囲内のはずだ。

だから

「…お前は、頑張ったな。」

優しい言葉は涙が溢れるから、止めてほしい。

「政宗の為にって気持ちがあったから、だから…だったのかもしれねぇが…」
「ち…違う…私のワガママだからっ…」
「それはどうでもいいって。…お前の根性、見直した。っつーか惚れ直した。」

ぐい、と引かれ、元親に体を預ける形になる。

「俺のとこに来い。」
「っ…!!」
「望むなら、全部忘れさせてやる。」
「わ…私…!!」

もう二度とここには来れない。


そう言おうとした瞬間、声が聞こえた。

いち早く、小太郎が反応する。

「何だ…!?」
「甲板…から?」

元親と小太郎が武器を取る。
小太郎が外へ飛び出し、元親はの手を引き後を追った。









こっちが安全だからと、元親が船首に案内してくれた。
そこには元就もいて、一段高いところから起こった騒動を見下ろしていた。

「どこに潜んでいたのか…」
「まぁ、向こうにも忍がいるからなぁ。何でもありなんだろうよ。」

甲板では戦闘が起こっている。
声を上げながら、こちらに向かってくる赤い炎と、軽やかに敵を倒す影。

うぉぉぉぉ!!を返してもらいに来た!!成し遂げるまで、一歩も引かぬ!!!!

「旦那、飛ばしすぎ。止めはしないけどね〜。」


「幸村さんと…佐助…!?」

ぺたりと、座り込んでしまう。

「何で…!?」
「元就、兵は大丈夫なのかよ?」
「船を動かす者と戦闘用くらい分けておったわ。奴らに太刀打ちできるのかは知らんがな。」

やっぱり来たな、といった雰囲気で話す二人についていけない。

「どこで情報つかんだかは知らねぇが…」

の驚きと困惑が入り乱れた様子を放っておけなかった元親がぼそりと呟いた。

「…お前と一緒だろ。」

それだけじゃ、

意味が判らない。

「あいつらには、この方法しか、思い付かなかったんだ。」

どうして?

が遠くに行くのは嫌だって、…我が儘だよ。」

我慢していた涙が、ぽろぽろと零れ出した。









「佐助!!判っておるな!?」
「はいはい、この戦闘では誰も殺しちゃいけない、ね。大丈夫、全員峰打ちだよ〜。」

を取り戻すために血が流れれば、は罪悪感で心を痛める。
それに配慮した幸村の提案だった。

「しっかし、そろそろ来そうなんだよねっ…」

佐助の予感は的中する。
前方から凄まじいスピードで、迫る影。

「来たな、小太郎!!」

手裏剣で1撃目を受け止める。

「うわっ!!マジかよ1発で手が痛ェって!!」

苦笑いで後ずさる。

「お前本気かよ!!」
「……。」
「本気でこのままは西に行ったほうがいいって考えてるのか…!?」

佐助の問いに反応はなく、攻撃を開始する。

「ちくしょっ…俺だけ狙えよ…!!」

せめて小太郎を足止めし、幸村だけでもと対面して欲しい。
戦うことを決めた佐助が小太郎の攻撃を流す。
そして間髪入れずに繰り出された蹴りを受け止め、反撃に転じようとする。

「…へ!?」

佐助が目を見開く。

「小太郎っ…!?」








異変を感じて頭上を見上げると、佐助が防戦一方となっていた。

「やはり伝説の忍っ…!」

幸村は目の前にいた兵の腹に蹴りを入れて倒した後、大声で叫ぶ。

「佐助!!引け!!ここでは絶対に死んではならぬ…!!」

返ってきた慌てた佐助の叫びは、幸村に向けたものではなかった。

「やめろ…!!やめろって!!」

その言葉は、の耳にも届く。


んな中途半端な攻撃してくるんじゃねぇっ!!殺しちまう!!


が顔を上げる。

「…え…?」

対峙する佐助にしか判らない。
攻撃の中にわずかな隙がある。
ある、というよりも、わざと作っている。
佐助はそこをついて攻撃をしようとしてしまう。

その攻撃が辿り着く先は、急所だ。


「くそっ…!!」

佐助が飛び退き、小太郎と距離をとる。

その時、小太郎が口を動かす。
読み取れたのは、1つの物語。




―首謀者は、俺だ。

北条家を攻め落とされ、俺は、復讐を誓った。
に近づき利用し、伊達政宗を殺そうとした。

ただ殺すのでは面白くない。

愛する者に憎まれ殺される地獄を見せてやろうと考えた。

だが、失敗した。





「なに、言っちゃってんのさ…!!」

幸村と佐助は真実を知っていた。
が政宗を助けたくて事を起こしたことを。
毛利の船が迎えに来る事も、場所も、調べたらすぐに判った。

「あんただろ…!!俺たちに情報流したのは!!」

真実を知った上で、それに嘘を被せろと要求している。

「俺、そういう風に利用されんの嫌いなんだよね!!」

ふざけるなと、佐助が手裏剣で攻撃を繰り出す。

しかし小太郎は宙に舞い、避けてしまう。


「あくまで自然に殺されるつもり?」



―俺を殺してを奥州に戻してくれ。



「だからっ…!」




は利用されただけと伝えてくれ。




が!!んなこと望むはずないだろ!!」

虚しい言葉だと、言った本人が感じていた。
そんなことは小太郎も判っているのだろう。
けれどももう決めたのだろう。

に命を捧げる事を決めているのだろう。

小太郎が死ねばは泣いてしまう。

泣いてしまうが、いつかは立ち直り、その死を堂々と背負い強く生きていく。
それを感じる小太郎は、こんなに幸せな死はないと思う。

影に生き影に死ぬべき忍が、死に場所を見つけてしまった。


「こたろ、ちゃん…?」

は小太郎がそんなことを考えているとは想像できない。
けれども感じる。
伊達に小太郎と行動を共にしていない。


良くないことが、起こる。





















■■■■■■■■
一番可哀想なの佐助だなあと思いつつ書く
愛ゆえにだよ佐助!!