城に着いたとき、は少々やつれていた。
政宗が肩に手を回して支えている。

「こ、怖かったし…」
「顔が青いぞ。案内の前に一休みしねえか?」
「いい。案内して欲しい。」
「無理すんな。」

としては、政宗の生まれ故郷を少しでも多く見ておきたいようだったが、問答無用で政宗に手を引かれる。
その対応に少々不貞腐れた様だったが、自分の腕が政宗の手にしっかり握られているのを見ると、自然と笑顔になってしまった。

廊下を歩いていくが、すれ違う人間は政宗に一礼する。
政宗はなぜか、足音を立てないように進んでいた。

「……?」

も足音を立てないように気をつけて歩くことにした。



「ここで、一睡しろよ。」
「この部屋は政宗さんの?」
「俺の部屋はもっと質素だ。ここは…」

その部屋は暗く、あまり生活観を感じなかった。
しかし、所々に精錬された装飾があり、塵ひとつ無い掃除の行き届いた部屋だった。

「…父上の、部屋だ。」

酷く優しい声だった。

「お父様の…。」

独特の、雰囲気がある部屋だと思った。

「……?」

…デジャブ…?

どこかで、

どこかで、この空気に触れたような…?


「お前には、特別だ。」

小十郎達が来るまで、ここでゆっくりしたかったってのもあるんだけどな、と言って、政宗が部屋の隅に移動した。
座り込み、手招きされる。
近くに寄れば、両手を広げるので、躊躇いながらも正面にゆっくり座った。

「誰も来ない。大丈夫だ。」

一度ぎゅっと抱きしめられる。
そして少し離れて、身を反転させられる。

そしてまた、後ろから抱きしめられる。

「…一睡…」
「この体勢じゃ寝られないか?」
「………。」

頭がぼんやりしてくる。
自分は疲れている。
いろいろ考えすぎて…いろいろ動きすぎて…

「ねむい…」
「休め。」
「…うん…」

耳元で、くすりと笑う気配がした。

心地よい。

瞼を閉じると、すぐにでも眠れそうだった。

(…真っ暗…)

真っ暗?

寝るために目を閉じて、

いちいち、真っ暗だ、なんて思ったことあっただろうか?

(…でも…暗い…)

飲み込まれる気がした。

先ほどとは別世界に来たようだ。
でも、怖くは無かった。

(………る)

声?

(……梵天丸…)

優しい優しい、呼び声…

両手が伸びてくる。
何かを包もうとする大きな手。

(輝宗…さま?)

記憶を見ている。
幸せだった、この部屋の過去の記憶。



どうか、どうか

いつまでもこの平穏な日々が続きますように。

1日でも長く、笑い合っていられますように…



切ない気持ちが溢れてくる。

守れなかった。

憎しみが残った。

願うならば

あの時…






(…あなたが…)




私を、呼んだんですね







「………っ…」

気がついたら目を開けていた。

そうだ

こちらに来た時に、包まれた闇は、この空気だった。
何か違和感を感じたのを思い出す。

「………。」

自分で決断したものだと思っていた。
自分が、政宗のために頑張るんだと思っていた。

(必然、だった…?)

私がここに来た目的は、最初から決まっていたというのか?

「…。」

今更、後になど引けないのは判っていた。
嘆く時間は無い。

「…政宗さん…」
「…ん?」

政宗はを抱きしめながら、壁にもたれ掛かっていた。
目を閉じているので、彼も休んでいたのだろう。


「寝てた?ごめんね」
「…少しな。どうしたんだ?」
「どうもしないよ。呼んだだけ。」
「…なんだよ…」

ふっと笑う、二人のタイミングは同じだった。
同じ事を考えたのか、またそれに笑ってしまう。

この人が笑うと、自分も笑顔になる。
それは最初にこっちの世界に来た時だってそうだった。
この関係はずっと続いていたのだろう。

どうしてこんなに想い合える人が、運命の人じゃないんだろう。
どうしていつか別れると知っていて、それでも好きになるんだろう。

これから起こることは決まっていた事だったとしても、一度私は決めたんだ。

絶対泣かない。






「政宗様、こちらですか?」

小十郎が城に着き、慌てた口調だが囁きに近い声が聞こえて来た。

「おう、ここだ。」
政宗がそう言うと、すぐに戸が開いた。
「政宗様…!!先にご挨拶をしませぬと…!!」
「一休みしてからでもいいだろ?」
「そうはいきません!!」
「私が疲れたから配慮してくれて…」
「おまえは気にするな。」

としては、部屋でくっついている政宗と自分のことを小十郎は気にしたほうが良いのではないかと思った。

注意するのは挨拶のことだけで、変なの、と笑いたくなってしまう。

今まで起こったこと全てを理解してしまいそうになる頭を必死で押さえる。

考え始めたらパンクしてしまいそうだ。

怒られる政宗をなだめながら、片手で着物の袖をぎゅっと握り締めた。

















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徐々に色々書いていきたいと思います。
どういうことだこのやろーという管理人への問いかけは
ご勘弁くださ…