空は澄み渡っていて、穏やかな日だった。
連れ立つ家臣は最小限にして、政宗の一行は列を作り山道を進む。

小十郎は政宗のすぐ後方を走っていたが、馬の歩みを緩め、1つの籠に近づいた。

「乗り心地はどうだ?女中さん?」
「なかなか、快適だよ〜」

の元気の良い声が聞こえてくる。
最初、酔ったらどうしようと不安になっていたので、小十郎は度々の様子を伺っていた。

政宗の身の回りの世話をする役にしていれば、政宗とが一緒に並んでいても、怪しむ人間は居ない。

「…良い旅に、なりそうだな…」

生まれ故郷をに見せれる政宗は嬉しそうだ。
は質素な着物で地味な化粧をし、大人しくしているので、何も問題は無いだろう。
政宗が、にべたべたしなければ大丈夫。
そして何も考えずににくっつくような主ではない。

「…義姫様からお褒めの言葉が聞けたら…本当に…」

良い日になるだろうと、小十郎はゆっくり微笑んだ。

「片倉殿ー、にやけすぎにやけすぎ」
「成実殿…」

政宗の横を走っていたはずだが、スピードを緩め、小十郎と併走を始めた。

「良い天気だしねー、なんだか思いっきり速く走りたい。」
そう言うと、僅かに小十郎の前に出る。

「歩調は合わせて頂かないと乱れる…」

呆れたようにため息をつき、少し馬を操り、成実の横に並ぶ。

「楽しむなら、向こうに着いてからお願いします。」
「片倉殿は気づいてる?」
「は?」

目線は前を向いて、笑顔を浮かべながら、成実は言葉を発した。

ちゃんが、動く」

なんのことだか、判らなかった。

「俺もよく判んないけどー」

「は…はあ…」

「何か、起こりそう。」

そう言い終わるとすぐに、手綱を操りさらにスピードを上げる。
政宗の元へ行き、談笑を始めているようだった。

成実は本来、城に残る予定だった。
元々乗り気ではなかったし、成実が青葉城に残るなら、安心して城を任せられると政宗も考えていた。

しかし、昨夜、

やっぱり俺も行くと、言い出した。

笑顔で、懐かしいし、と、いつもの調子で、何も変わりなく。

が…動く?」

良く判らなかったので、後で意味を聞こうと思った。

「小十郎〜、水〜」
「あ、はい。」

主の声にはっとし、腰に下げていた竹筒を手に取る。

「政宗様。」
「Thank you〜」

受け取って、一口含むとすぐ返された。

「ah〜…」

政宗は眉間に皺を寄せて不満そうだ。

「ぬるかったですか?」
「NO...そうじゃねえ、そうじゃねんだよ…」

政宗がちらりと脇道に目を向ける。

「いるんだろ!?小太郎!!」
「あ、ちょ、政宗様!!」

ぱちんと指を鳴らすと、木の茂みが一瞬揺れる。
それと同時に政宗が馬を蹴った。

「待ってください!!」

小十郎の制止の声も虚しく、政宗の馬は全力で走り出し、小太郎はを籠から連れ出し、抱えて、政宗を追った。

「は、早く行きたいのは判りますがあああああ!!!!!」

大人しく進むのに飽きてしまったらしい。
小十郎は予測出来なかった自分が情けなく、頭を掻いた。

「俺が指揮執るからさ、片倉殿は殿達追いなよ!!」
そんな小十郎の視界に、にこっと笑う成実の姿が入る。
任せて任せて、と子供のように笑っているが、こういう時の成実が頼りになるのは十分承知している。

「すまねえ、任せる。」

小十郎も馬を勢い良く走らせる。

「気をつけてねー」

のん気な声が耳に入る。
政宗が暴走し、は巻き込まれ、自分は追いかけ、成実はそこをカバーする。
いつも通りの関係だ。
ずっと続いていくような気がする、日常だった。

















!!見えてきたぜ!!米沢城だ!!」
「うん!!見えたー!!」
「……」

小太郎に脇に抱えられながら、小高い丘から城を見下ろす。

「着いたらすぐ案内してやるからな!!」
「お願いします!!」

嬉しそうな顔をする政宗を見て、も嬉しくなる。
これは本心だ。
ここに来れた事が素直に嬉しい。

「小太郎ちゃんは、着いたらどうしよう?」
「自由に行動してもらって構わねえよ。」

つまり、の後ついて回っても大丈夫だろう、と足した。
そう言った後また馬を走らせようとしたが、ふと何かを思いつき、の方を振り返る。

「邪魔はしねえだろうから、いろいろ見られるかもしれねえがな?」

意味を理解するのに時間がかかる。

そして頭に言葉が思い浮かぶより先に、顔が赤くなり、動揺して口をぱくぱくさせてしまった。

何故だか、手を繋いだり、くっついたり、そんな行為でさえ想像するとどうしたらいいかわからなくなる。

「………。」
そして、小太郎が政宗に無言のプレッシャーをかける。
が抵抗するなら話は別だ、と。

「…お前は何?番犬?」

俺だって無理強いはしねえよ!!と叫ぶとともに馬を走らせ、一気に丘を下っていった。



「政宗さんたら…あんなに飛ばしたら危ないよ…」
「……。」

の表情は柔らかかった。
このような目が、愛おしいと思う人間を見る目なのだろうなと、小太郎が確信できるほど。

「…。」

再確認した。

そうだな、

今この二人は

「小太郎ちゃん、私たちも向かおう…」
「……。」こくり

小太郎は、とん、と軽く地を蹴った。
そして政宗を追って進んでいく。


「ちょ、小太郎ちゃん、速い速い!!!!!」

徐々に勢いをつけ、政宗が見えたら一度、木に足をかけスピードを調節する。


「お?んだよ追いついたのかよ速ェな!!!」

政宗が腕組をしたまま二人を見上げる。

「ちょ、小太郎ちゃ…!!!!」
「………。」
「!!!wait…!!」

そして小太郎は政宗の頭上すれすれを通り過ぎる。
を政宗の元へ落として。

「ぎゃあー!!!!!小太郎ちゃんに落とされたー!!!!!!!!!」
「叫ぶな叫ぶな!!俺が支えてんだろが!!」

政宗は驚いたようだったが、下手に馬を止めようとすればが地に叩きつけられると咄嗟に判断し、小太郎の技術を信じたようだ。
うまくキャッチし、怖がるを必死になだめている。


「…………。」

難しいことは、考えなくて良い。
は今、好きな人と両思いなんだ。

「政宗さんー!!!!もっとしっかり支えてよ不安定だよぎゅっとしててよー!!!!!!!!!!!!!!」
「Hey...そういうのは日が落ちてから言ってくれよ…信用しろよこのやろう落とすぞ。」
「いーやー!!!!!!!!!!落とさないで怖い馬のスピード速すぎいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」


「……。」

あんまり、変化ないし、

ここに居るのが佐助だったら、色気がないねえ、と言うかも知れない。

でも、自分はそんなが好きだから。

これから先がどうなろうとも、

今この時間を、笑って過ごして、良いと思った。






















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短いすいませ…!!
やっと進めた感じが…