夜が明け、政宗の自室で、は仕事を手伝っていた。

久しぶりの手伝いでミスを連発してしまったが、その度に、ゆっくりでいい、と、政宗はの頭を撫でるのであった。

「…なんで優しいの?」
「労うのが悪いのか?」

ムチでブッ叩いて罰したほうがいいか?と笑う政宗が恐ろしく、ごめんなさいごめんなさいと何度も謝る。

「俺だって鬼じゃねえんだ。」

また頭を撫でる。

手が止まる。

「?」
「鬼じゃねえから、お前の意見だって聞く…」

その顔は不満そうで、悲しそうだった。

「…政宗さん?」
「…俺、どんな顔してる?」
「………変な顔」
「やべえな、それは。」

はは、と笑う。
いつもの政宗ではないことは、十分感じられる。

「…頼みがある。」
「何?」

「米沢城に、来て欲しい。」

それに頷くことは出来なくて、口を結んだ。

「母上に会って欲しいわけじゃない。俺の生まれた場所に、来て欲しいんだ。お前に見てもらいたい。」

素直な感情から出た言葉だと思った。
他意は、絶対に無い。

「政宗さんの、生まれたところ…」
「お前なら荷物として持ち運べる。」

私荷物になるんかいー!!!!!とつっこめば、政宗は今度は楽しそうに笑った。

「会食中は…どこに居ても良い。小太郎が居ればここにも戻ってこれるし、寂しかったら喜多のところにでも行っとけ。」
「うん…そうだね!!楽しそう!!!」

政宗の大きい手を握る。

「政宗さんの、生まれたところかぁ…」

政宗にとって大事なところなら、きっと自分にも大事なところ。

「…政宗さん…」
「女中として連れまわすから、心配は要らない。俺の弟にも会ってくれよ。」
「うん…嬉しい…。」

先を想って、涙が出そうになり、は俯いた。

それをどう捉えたかは判らない。

ただ政宗は、優しくを抱きしめた。

それだけならいいのに、政宗も屈んで顔を覗こうとするから意地悪だ。

「どうした?」
「よかったね、…よかった、ね…」
「まあ…本音はどうなんだか判らないが、今のところはな。」
「うん、政宗さんなら大丈夫。この先何があっても、きっと大丈夫。」
「…なんだよ?急に。」



言っちゃ駄目なんだと判ってる。

なのに止められないのは、自分勝手だからだろうか。


「……き、です」

「ん?」


嘘になってしまうのに。


「好きです…全部、好き…きっと…ずっと前から…」


言葉にした途端に、涙が溢れてきて、驚いた政宗の顔が霞む。


ああ、私は恋をしていたんだと気づいて、胸が痛くなって、呼吸が苦しい。


「…好き?」


もう返事はできなかった。


「俺が、か?」


僅かに、頷いた。


「…そういう、意味で、なんだな?」


そう確証したのは、ぼろぼろとこぼれる大粒の涙を見たからだろう。


「俺が…」


いつも自身満々なのに、『今頃かよ』ぐらい言っても不思議じゃない人なのに。


「お前の…特別?」


信じられないような、口調だ。

今、冗談だよと言えば、撤回できるのか。


「……そう、か」


噛み締めるように言わないで。


「好き…か…」


嬉しそうに、言わないで。


「…泣くなよ。」


力を込めて抱きしめてくれるのが嬉しい。

頭に頬を摺り寄せてくれるのが嬉しい。


「まさむねさん…」


呼ぶ声が届くのが、嬉しい。


「俺が先に言えば良かった…」


今まで見た中で、一番優しい笑顔だった。


「…好きだ…」


私が先に言ったのに


、俺もお前が、大好きだ。」


何でそんなに不安そうな声なんだろう。


「うん…」


ありがとうという言葉は、囁きに近かった。

それでも伝わる距離が、愛おしかった。















それからの政宗は、随分と挙動不審だった。

机に向かったと思えば、頭を抱え、の名を呼んだかと思えば何でもないといい、たまに笑い出し、たまにに抱きつき、たまに真面目に仕事をするのだった。


涙が止まり、落ち着いたは、そんな政宗を冷静に見ていた。

(…喜んで、くれてる。)


もっと早く言えばよかった。

失うと判った瞬間、自分の気持ちに気づくなんて、どこにでもありそうな恋愛話だ。

もっと早く言えば…

もっと一緒に居れて

もっと近くに居れて

もっといっぱい、政宗さんの優しい笑顔が見れたのだろう。


でも


〜〜〜〜」

「政宗さん!!くっつかないでお仕事してよー!!!!」

「今日くらいいいだろが!!!」




それだけ、なんだろう。



















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二人の関係がちょっと進歩。
どどどどうなんだろういやあの二人の微妙な関係が良いというご意見頂いた事が有ってうわお大丈夫かな反応どうかなあと心配ですが
か、書いちゃいますた