「小太郎、お前ずっとそれやってるが、何の薬なんだ?」
かすががすり鉢で様々な薬草を潰し、調合している小太郎に話しかけた。
「………。」
小太郎はもちろん声を発する事は無かった。
「かすがは薬は詳しくないの?」
素直に何の薬か質問したかすがに疑問を持ち、今度はが質問をした。
すると、かすがは口を結んで下を向いてしまった。
「…見たこと無いものだからだ。」
「な、なら仕方ないよ〜、かすがぁ〜」
はかすがにぎゅうと抱きついた。
自分が小太郎より劣っているような気持ちになり、いじけてしまったようだ。
が居ると聞き、今日かすがが青葉城を訪れていた。
忍としてではないからと謙信に言われたらしく、町娘のような着物を着ていた。
男ばかりに囲まれているにはとても嬉しいことだった。
そして、本当に同盟を組んだのだなぁと実感することも出来た。
「しかし、今まで旅をしていたと聞いたが、何か目的があったのか?」
「ううん。慶次みたいにうろうろしてみた!!」
「あのような男を見本にしてはいけない!!」
「うえ〜」
かすががぎゅっとの頬をつねる。
思いの外伸びたらしく、かすがはぷっと笑った。
「あらら〜、のんきだね皆さん…」
「お前か…」
「佐助!!」
だるそうな足取りで廊下から部屋を覗いたのは、いつもの忍装束ではなく、薄手の着物を来た佐助だった。
「忍としての訪問だけどさ〜、と遊んで来てもいいからって大将に言われて。」
「幸村さんのお世話は今日はいいの?」
「旦那も今馬でこっち向かってるよ。」
「…なんだか久し振り?」
「そうだね、久し振り!」
佐助がにこりとに笑いかけて部屋に一歩踏み込んだ。
「久しぶりだねえ、。ちょっと痩せた?」
「そ、そうかな?」
「なんか余計ほっそりしてるよ。旦那に心配されるよ?」
「これは大変!!某と団子を食べるでござるよ!!!!…ってえ、おやつの口実にされちゃう?」
「かもね。」
容易に想像できる幸村の反応に、その場にいた全員がふっと笑った。
「!!久し振りでござる!!」
バンッと戸が開けられ、真っ赤な鎧に負けないくらい頬を染めた幸村が現われた。
「幸村さん!!」
「…旦那…そんな真っ赤になって息切らすほど急がなくても…」
「に会いたかったのだ!!仕方なかろう!!」
素直ににこっと笑う幸村に、武将の雰囲気は全く無かった。
「…全く…」
戦で見た姿と比べ、なんと無防備なことかとかすがはため息をついた。
それと同時に居心地の良さも感じるとは、口が裂けても言えないが。
「は恐ろしいな…」
「ん?何か言った?かすが。」
「…いや…」
「幸村!!てめぇまず俺に挨拶しろっつーんだよ!!」
「やや、かたじけない!!つい!!」
呆れた顔で近付く政宗の後ろには、穏やかな笑みを浮かべる小十郎が居た。
「ただ遊びに来ただけでござる、とか言ったらぶん殴るぞ!!んなことさせたくて同盟組んだわけじゃねぇ!!」
「そっ、某は届け物があり参上した!!」
「ならさっさと出せ!!」
「お館様の顔を形作ったお館様まんじゅう…」
「何作ってんだ!?ウチの同盟国は!!」
「お館様を食べちゃっていいの?」
「が卑猥な発言を!!生産中止を呼び掛ける!!」
「変わり身早いな旦那〜。先日まで名物にしようって張り切ってたのに〜。」
幸村は政宗に挨拶をするとすぐにの近くに座った。
そして満面の笑みで話始める。
「これまでいろいろありましたが、は城内の安全な場所にいると聞いていたため身の心配はそれほどなかったが…某達の戦に心痛めているのではないかと、それが気掛かりでござった。」
はちらっと政宗を見た。
合わせろ、と口が動いたようだったので、大丈夫だよと幸村に言った。
きっと、自分がまだ見つからないなんて幸村が知ったらそっちに意識がいってしまうだろうと政宗が判断し、流した話だろう。
「会えぬのは寂しかったが、今このように奥州の地で共に笑い合えること、とても喜ばしく感じる。」
「私もだよ、幸村さん。」
政宗も幸村も、互いをライバル視することをやめることはないだろう。
けれど、敵国ではないという事実だけでも、を幸せにするには十分だった。
「…でも、なんでだろ…」
「どうなさった?」
「なんか、切ない…」
「…こうなった口実が戦、だからだろ。」
政宗がの隣りに座り、顔を覗きこんだ。
「お前も腹括れ。大切なもんを一つにしろ。」
「政宗さんの大切なものは…」
「当然…奥州。」
領土のことを指しているように聞こえない。
奥州にあるもの全てを言っているのだろう。
家臣や民、全て。
「俺は戦うぜ。」
「うん」
「切ね〜とか言うな。」
「うん」
頷いたけれど、胸に蟠りが残る。
切ない…
切ないのは…
「…あぁ…そっか…」
小さく呟く。
私はこれから、すべてを失うからだろう。
久しぶりに愛しい人に会えて、笑みを浮かべながら馬を進める。
「楽しかったねえ、旦那。」
「うむ!!政宗殿は何もおっしゃらなかったが、頂いた食事は政宗殿の手料理ではなかろうか?」
「かもねえ。がむすっとした竜の旦那見ながら、笑い堪えてたからねえ。」
己のポリシーとして堂々と言えばいいのに、照れくさいのか無愛想に食事を出す素直じゃない政宗が可愛くて仕方なかったのだろう。
「…ねえ、旦那」
「何だ?」
「、ちょっと暗くなかった?」
「最初は疲れているのか?と某は思ったが、そうではないようだ。」
「…!!」
顔を緩ませたまま、しっかりとした男らしい口調で、幸村はそういった。
に何かあったと、確信している。
「…恋は盲目、ってわけでもないんだね。」
「某の目が映すのはありのままのであり、某が想うのはの存在そのものだ。」
早く仕事を終わらせないとな、と、馬のスピードを上げる。
起こるかもしれない何かに備え、いつでも動ける環境を作るために。
夜空を見上げる。
歩みを進める音が、酷く大きく聞こえる。
「小太郎ちゃん、どこに行ってたの?」
言葉に反応することはなく、に1つの包みを差し出した。
「…武蔵君、元気?」
包みを開けながら問えば、こくりと小さく頷かれた。
「…っ!!!」
冷たい金属。
ずっしりとした黒い重量感。
「………。」
刑事ドラマで見たように手に握ってみる。
「こんなの…どこで…」
問おうとして、言葉を止め、頭を振った。
きっと、必要になるんだろう。
小太郎がそう判断したのなら、そうだろう。
弾丸を込めて、近くの木に向ける。
回りの景色を黒い影が覆う。
パン、という音が闇に吸い込まれ、
は震えながら、小さく笑った。
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幸村たち久々ですお好きな方すいませんでした…!!