本丸で、慶次と秀吉は対峙していた。
多くの兵に囲まれながら。

「…慶次…なぜここに居る…」
「久し振りだな秀吉!!何でかなんてどーでもいいだろ?」
「うわぁでけぇさる!!さるだ〜!!慶次こいつとたたかうのか?」

慶次は隣りにいた武蔵の頭にぽんと手を乗せた。
それを伝って、夢吉が武蔵の元へ移動する。

「武蔵、ここからは俺と秀吉で話させてくれ」
「はなし?あばれるのまちがいだろ!?」
「はは、そうともいうな」

一度、うーん…と考えた武蔵だったが、大きく頷いた。

「おれさま、おとな!!がまんできる!!行こうぜ、夢吉!!」
「…ありがとな」

武蔵が慶次に背を向けて歩き出した。
回りにいた兵を睨みつけ、石をぶつけて退けさせ、壁際に立った。

「…我には何も…お前と話す事は無い。」
「…そうか」

秀吉は険しい顔を向ける。
けれど慶次は何故か悲しくはなかった。

「…そうだな、俺達はずっと、そうだった…」

慶次が優しい表情のまま、目を細めた。

「…慶次…」
「気持ちは、拳でぶつけ合う関係だったな。秀吉、…俺はお前に戻って欲しくてとか、そんな考えでここに来たんじゃねえ。」

慶次が刀を大きく振り、切っ先を秀吉に向けた。

「俺の、けじめだ…!!」
「けじめ…だと?」
「俺は、先に進むぜ、秀吉!!」

秀吉の眉がピクリと動く。

「先、だと?」

秀吉が口にしたのは疑問だったが、慶次は返事を返さず一気に襲い掛かった。

「…何を言い出すと思えば…ふざけた事を…」
「!!」

慶次が振り下ろした一撃を、秀吉は片手で受け止めた。
すぐに下がり、慶次は距離を取る。

「ずっと立ち止まってたのはお前だけだ慶次…!!そんなお前が我の先に行くなど…有り得ぬ!!!」
「秀吉…」
「判らぬか慶次!!愚かなのはお前だ!!早々に帰れ…!!」
「……」

慶次は再び構える。
気を溜めて、前方に竜巻を発生させた。
秀吉は咄嗟に真横にステップを踏んで避けた。

「慶次!!」
「お、さっすが。俺の技は見抜けるってか。ま…」
「!!」
すぐに秀吉の懐にもぐりこんだ慶次に向かって、秀吉は手を咄嗟に伸ばした。
しかし、その手は慶次の頭を掴むことなく、宙を掠めた。

「それは俺も同じだな…。」
「…」

秀吉の腕を受け流し、慶次は秀吉の背後に回った。
しかし、回るだけで、慶次は何もしなかった。

「慶次…!!」
「強さを欲して、強くなったつもりか?」

周囲から、秀吉様、と兵が叫び、一歩踏み出す兵が多数いた。
しかし、それは武蔵の投げる石により、援軍に出ることは出来なかった。
秀吉が手のひらを兵に向けて制止するのでなおさらだ。

「なんだなんだ、やっぱ一対一が好きってか?」
「…埒があかん…ここから立ち去るか、我に倒されるか、選べ。」
「…秀吉…俺を倒してみろ。」
「…慶次…」

慶次の迷いの無い瞳を見て、秀吉は拳を握り締めた。

「覚悟はいいな。」
「ああ。」

慶次も大刀を握りなおす。

「お前を殴る覚悟は出来てる。」

構えて、口元を上げた。

「もう俺のせいだって、思わねえって決めたんだ」
「…なに…?」

二人の脳に共通の記憶が呼び起こされる。
力に屈した、あの日のことを。

「我は…」
「お前が魅入られたのは、強さじゃない…ただの狂気だ」
「……」
「教えてもらったんだ、俺。世の中にはいろんな強い奴がいてさ…」

皆、強い思いを持ってた。
信念を貫こうとしていた。
その点では秀吉も一緒なのかも知れない。
けど、違うと思うことが1つ。

「…優しくていいんだよ、秀吉…」
「優しさ、だと?」
「どんなに強い人間になろうと目指してても、優しい気持ちは忘れなくていいんだ…」

そう、強く思えた。
本当に優しい人間に会ったから。
それは明らかに、“強さ”だった。

「お前には判るまい…!!我の思いも…半兵衛の思いも…!!そんなお前が…そのような事言う資格などない!!!」
「あるさ。俺、これでも勉強したから?」

そう言って、にっと笑った慶次に向かって、秀吉は突進した。














は半兵衛と一緒にゆっくり本丸に向かっていた。

「半兵衛さん、落ち着いた?」
「僕はこれでもいつだって落ち着いてるつもりだったけどねえ…」
少し不機嫌な半兵衛を見て、は笑った。
に弱いところを見られてしまったからだろう。

「半兵衛さん、秀吉さんのこと、信じてるのね。」
「何を…」
「だから今ゆっくり向かってるのよね?」

発作の後だが、今の半兵衛にこれといった異常は見られない。
走りたければ走れるはずだ。

「信じてる。信じてるけど…僕が信じてるのは、僕が知ってる秀吉だ。」
「慶次と仲直りした秀吉さんも、きっと半兵衛さんが知ってる秀吉さんだよ。秀吉さんはいつも、演技なんてしてないでしょう?」

何も根拠は無いから、君が秀吉の何を知ってるんだと怒られても仕方なかったのだが、半兵衛はふっと笑うだけだった。

「…なんで、君がそういうとそうなんだろうなと思ってしまうんだろうね…。」
「………。」

素直に笑った半兵衛が綺麗で、は目を泳がせた。

本音と本音で語り合っているなら、いつかその本音が変わってしまっても、それは嘘ではない。
変わることというのは、そんなに恐ろしいものではないと、は思う。
別人になるなんて、そんな簡単に出来ないから。
根本的なものは、きっと変えられないから。

「えと…あの、秀吉さんとお話してるときね、何度も何度も半兵衛さんの話をするのよ?すっごい誇らしげに。…半兵衛さん、大丈夫だよ。」
「…変わらず、天下を目指してくれるのか、が問題だ。慶次君のあの何も考えてないような頭が伝染しては困る。」
「あははは!!」

笑ったを見て、半兵衛は恥ずかしそうにしていたが、一度天井を仰ぎ見ながら無言になった。

「半兵衛さん?」
「……。」

すっと、の手を握る。

「…へ?」
「こういう戦略もあるよね?僕と仲良く登場した君を見て、動揺した慶次君が隙を見せて…秀吉の勝ち。」
「あら、わかんないですよ?半兵衛に女ができた!?ってびっくりして秀吉さんが隙を見せて慶次の勝ち。」

の切返しが半兵衛には予想外で目をぱちくりした。

しかし、らしい、と感じて、笑みがこぼれる。

「…君。」
「はい…」

優しい口調で、半兵衛はの心に言葉が届く事を願って、ゆっくり言葉を紡いだ。

「僕の答えを聞いて、君が何を考え出したのかは判らないし、君は教えてくれないね。」
「…はい…。」

「僕は秀吉に天下を取ってもらいたい。けどそれには政宗君が邪魔だ。今だって、それは僕の本心だよ。」
「は、い…」

「けれどね…」

も、半兵衛の言葉を忘れないように、聞き逃さないように真剣に半兵衛を見つめた。

「…秀吉の天下の元で…君がいて、政宗君がいて…片倉君もいて…穏やかに笑っていられるなら、それは最高に素晴らしい事だと思う。」
「半兵衛さん…」

「君が…政宗君のことを大切に思っているのは判った。だから…今回は見逃すから…」
「……」

「…君は…笑っていたほうがいい…。」
「……ありがとうございます…」

少し俯きかげんのを見て、半兵衛はなんともいえない、寂しい気持ちになった。


























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半兵衛良い子になってすいません
なんか松永さまが登場したらほかの方が可愛くてよい子にみえて仕方ない。
路線ねねさんの話より松永様のほうに寄ってみた…