は室内をうろうろしていた。

「半兵衛さんいつ来るかな〜…」
「キッ!」
「…え?」

振り向くと、開け放っていた窓から夢吉が顔を出していた。

「夢吉!!」
「キ〜キ〜」
が駆け寄ると、夢吉は胸に飛び付いてきた。

「え…なんで…慶次は来てるの…?」
「キッ!!」
夢吉は嬉しそうなので、とにかく慶次は無事なんだろうと感じ取った。

「そっか…」
はとりあえず一安心した。
夢吉の頭を撫でると目を細めて気持ち良さそうにした。

「…!!」

カチャカチャと鍵を開ける音がした。

「夢吉…ごめんね…隠れてて…」
「キ〜」

夢吉を近くの棚に隠すと、はゴザの上に座った。

「お腹すいたかい?」
「少し」
半兵衛が書類を持って現れた。
背後には一人の女性が膳を持って立っていた。

の近くにそれを置くと、すぐ出ていってしまった。

「…さて」
半兵衛はの近くに小さな机を運び、そこに書類を広げて座った。

「…ご苦労様です」
「とりあえず政宗君には隙ができるんだね…確実にそこを利用しないと」
半兵衛はにっこりと笑った。
「だから…」
「君が止めるかもしれないんだっけ?凄いねぇ。」

明らかに馬鹿にしたような言い方だ。

「…半兵衛さんだったらどうしますか」
「良い情報あげようか?同盟は成立したようだ。」
「……」
「君が何かをしようとしなくても、政宗君には立派な味方がたくさん出来たというわけだ。」
「それは…嬉しいことですよ…」
「君がいなくても、政宗君は立派に大名だ。」
「…当たり前じゃ…ないですかっ…」

政宗は弱い男じゃない。
それは側にいた自分が知ってる。
自分が居なくたって政宗は夢のために天下取りを目指すことくらい知ってる。

「…君にとって…当たり前かな?」
「しっ…知ってる…」
半兵衛がにっと笑った。
きっと自分はひどい顔をしてる。
半兵衛の声が突き刺さってる。
自分がもうこっちに来れなくなっても…政宗は…

「…君」
「!!」

半兵衛がの手を握った。
はびくりと震えてしまった。

「政宗君に起こることを教えてくれたら、僕たちは政宗君のもとに上手く奇襲をしてあげるよ」
「どういう意味…」
「それを知った君は、政宗君に伝えに行く。でも、僕たちに捕まってしまう。けれど君は、それでも伝えようと…抵抗して…傷つきながらも逃げて…豊臣にすでに負けた政宗君の元に行くんだ。美しいだろ?」
「何…それ…」
「君は政宗君にひたすら謝る。間に合わなくてごめんなさい…ってね。優しい政宗君は君は悪くないと言ってくれるよ。そして全てを失った政宗君は、君を愛してくれる…。」
「な…」

これは、手を組もうという話か。

「君は、政宗君が好きだろう?」
「…っ!!」

は半兵衛の手を振り払った。

「そんなこと…するわけないでしょ…!!」
「…何故だい?政宗君に大人しくなってほしくないか?」
「私は今のままの政宗さんが…」
「戦場になんて行って欲しくないんじゃないか?」
「そりゃ…死んでほしくない…!!でも…」
「でも?」
「政宗さんが望まないこと…私はしたくない…絶対…!!それに、私だって…政宗さんの負けなんて望まない…!!」

半兵衛が目を細めた。
微かに笑ったようにも感じられた。

「…僕たちが負けろと…そういう意味かな?君のその言葉は。」
「え…」
「政宗君は僕らが嫌い…まぁ…君もそうなって当たり前、か。」
半兵衛が肩をすくめた。
そして立ち上がり、部屋の扉へ向かってしまった。

「忘れないように。君には人質の価値がある。」
「半兵衛さん…」
「安心してくれ…人質は生かしておかねばならない…。食事はちゃんと食べてくれよ。」

半兵衛が部屋を出て行き、扉がゆっくり閉められた。
また鍵のかかる金属音。

「………。」
は扉を見つめながら固まった。

夢吉は棚から飛び降りての膝に乗って、の顔を見上げた。

「…私…何してんだろ…?」
「…キ?」
「半兵衛さん…優しいから…頭良いから…何か解決策になるような言葉…くれる気がして…」

それは本当に感じたものだった?

「…違ったのかな…」
「キィ…?」

は夢吉を抱えてその場で横になった。

「…ただ…逃げたくて…ついてきちゃっただけだったのかな…」
夢吉が手の中でもぞもぞ動く。
が夢吉を解放すると、の顔のそばに来て、頬をぺちぺちと触る。

「キ、キ…」
「…ねぇ、夢吉…今…私が何考えてるか判る?」
「?」
夢吉が首を傾げた。
本当に頭のいい猿だと思う。
私の気持ちが沈んでいることが感じられるのだろう。

「…政宗さんに…お母さんのこと…もう忘れてって…言ってやりたい…」
「…キ…?」

自分は最悪だ。
心配してくれる夢吉にあたろうとしている。

「もう忘れて…食事なんか行かないで…弟さん…青葉城に呼ぼう…それで…それで…」

ハッピーエンドになるわけがない。

「…私は帰る…もう来ない…ねぇ夢吉、私我儘だね…政宗さんに殴られるかな…?…いっか…?いいよね…むしろ…傷ついたほうが…政宗さんのこと…忘れないかも…」
「……キ…」

「私…もう来れないんだから…残りの日数…ずっと一緒に居てよって…最悪だね私…後のことなんか知らない。自分が望むように…乱して消えて行くの…私…」
「キィ!!!!」
「っ!!!」

夢吉がの頬を引っ掻いた。

「ゆめきち…」
「キッ!!キィ!!」
「…何…夢吉…判んない…怒ってるの?夢吉…」
徐々に頬に腫れが浮き出る。
は痛くて手で抑えた。

「キー!!!!」
「あ…」

一際大きく鳴いた後、夢吉は窓から外に出て行ってしまった。

は心配して窓を覗く、などという行動も取れなかった。


「…夢吉に、嫌われちゃった…」

天井を仰いで、呟いた。








慶次と武蔵は蔵の隅に身を潜めていた。

「ゆめきち、大丈夫かな…?」
「…夢吉は、頭がいい…大丈夫だ…」
「…なあ、慶次、おれはらへった…」
「ああ…」

慶次は元親にもらった食料を取り出した。
中から握り飯を取り出して、武蔵に渡した。

「こぼすなよ」
「わーってるよ!!あと水…って…今、なんか音した?」
「誰か来たか?」
「キ!!」
「わ!!!!」
突然目の前に夢吉が現れた。

「どこに行ってたんだよ…!!」
「キィー…」
「夢吉?」
夢吉は慶次に手を伸ばした。
慶次は夢吉を抱き上げ、優しく頭を撫でた。

「ゆめきち、けがは?めし食うか?」
「怪我は無いみたいだ…どうしたんだ夢吉…怖い目にあったのか?」
「キイ〜…」
「…夢吉…?」














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夢吉がだいすきだ!!
しかし暗い話になってるなあ!!すいませんもう少しお付き合いおねがいします!!