朝起こされて、朝餉は近くの町に着いたら摂るよ、と半兵衛に言われ、顔を洗う暇もなく馬に乗った。
半兵衛はいつもこんなに忙しくしているのだろうか、と疑問に思い、口に出してみると、いつもじゃない、と一言返ってきた。



町に着いて、部下が食料を調達しに行っている間に、は急いで身支度を整えた。
おにぎりなど簡単な食事を人数分購入させ、ゆっくり移動しながらの朝餉となった。

「なんだか意外」
「何がだい?」

馬の上で食事など、振動で気持ち悪くならないだろうかと不安になっていたが、半兵衛は慣れているようで、振動を最小限に抑えるように手綱で馬の歩行を調整していた。

「半兵衛さん、こんなにせっかちだとは思わなかった」
「…僕がせっかち?」
は半兵衛より先に食べ終わると、そう話しかけた。
聞き返してきたので、言い方が悪かったかなとは慌てた。

「食事はゆっくりしそうなイメージ…印象だったので…」
「そうなのかい?でも君、時間は大切だと思わないか?」
「時間…」

それはも十分感じていたものだ。

「そうですね…大切です…」

しかし、今の自分は矛盾している。
それが本音なら、今すぐ奥州に向かおうとするはずだ。
少しでも長く、皆といたいはずだ。

「…でも…たまに…」
「なんだい?」
「長くより…深く誰かと一緒に居たい時があります…」

すぐに奥州に戻るより、何か、自分の気持ちを定めてから帰りたい。
今の自分は中途半端すぎる。
全ての思いに自分の考えがない。
仕方無い、じゃなくて、こうしたいって、強い気持ちが無い。
こんな曖昧な自分が、政宗達と心から笑い合えるはずがない。
そんなの嫌だ。

「…深く…?」
「つ、伝わりませんかね?えっと…」
「…それは…時間の許されたものが考える余裕だよ」
「え…?」
半兵衛の声が低くなった。
怒らせたのだろうかと不安になった。

「気分を害しましたか…?すいません…」
君、飛ばすよ」
「え、はい…!!」
がお握りを食べ終えた半兵衛にしがみつくと、馬が勢いよく走り出した。












日が落ちる頃まで走り続けると、もうすぐだと半兵衛が言った。

「大阪城…」
どんな所なのだろうかと、不安になってきた。
考えてみれば慶次と武蔵が居ても、豊臣秀吉がどんな人かも判らないし、どんな状況になっているかも判らない。
もし捕まって居たら助けないといけない。
大丈夫だったとしても、半兵衛がここに慶次が来てると知ったらどうなるか判らない。

「……」

考えてみれば問題点がたくさんある。


「半兵衛さん…」
「なんだい?」
「お手柔らかに…」
「承知してるよ。」


門が開き、は半兵衛と共に城内に入った。

「君には特別な部屋をあげないとな」
「わぁ〜…特別ウーレシーイ…」
の返事は棒読みだった。







どこまでいくのだろうかと疑問に思うくらい歩いた。
階段もたくさん登り、大量にいた兵もわずかしか見えなくなった。

「半兵衛さん…どこまで…」
「構造を報告されたところで戦に何の不利も無いからね。兵力は圧倒的だから。」
「…え…」

構造をみせてくれると言う意味なら、自分の行き先はもしかして最も奥に構えてるはずの

「…本丸とかいいませんよね?」
「鋭いね、君」

半兵衛は笑ったが、の顔は引きつった。






豊臣秀吉は今は城から出ていて留守だという。

は城の最上階にある狭い一室に入れられた。
小さい窓からは城下が見下ろせる。

「荷は置いておくよ。」
「いいの?」
「地図に刀。それだけだ。まぁ、頓智をきかせてこれを使った脱出方法でも考えてみなよ。」
「う…」

正直いって無理だ。
が悔しそうな顔をすると、半兵衛はふっと笑い、すぐ背を向けた。

「半兵衛さん、行っちゃうの?」
「また寂しい、かい?」
「…違いますもん…」
「仕事を終えたら来てあげる」

そういって部屋から出て行ってしまった。
扉が閉まる音と共に、ガチャンと鍵の閉まる金属音も聞こえた。

「…やっばい…」
慶次と武蔵の心配をしている場合じゃないな…
このままでは長期間ここで過ごさなければならなくなる…

「…半兵衛さん…」

小さく呟く。

「…もし…秀吉さんが…危ない目に…」

質問の仕方が、ストレートなものしか浮かばない。

「………。」












爪先立ちでそろりそろりと歩く二人組は、隠れながら本丸を目指していた。

「けーじ!!なんでこんなに地味に行かなきゃならねぇんだよ!?」
「黙れ武蔵!!二人で正面突破なんざ無理だっつーの!!」

今秀吉は留守だ。
警備が薄いうちに侵入して、秀吉を待つという計画だ。

「いくじなし!!」
「なんだとぉ!?」
「キッ!キキ!!」

見つかっちゃうよと夢吉が慶次の頭をぱしぱし叩いた。

「ゆめきちも、どうどうといきたいよな!?」
「キ!?」
「違ぇ!!見つかるって警告してんの!!」
「かってなこというな!!」
「あー…も―…」

慶次は頭を抱えた。
本丸はもう見えている。
もう少し。

〜…助けて…」
「姉ちゃんがいるのか?」
「いないよ…なんでもない」
「キ…」

夢吉がぴくりと反応し、背筋を伸ばした。

「夢吉?」
「キッ!!」
「あ、ゆめきち〜」

慶次の肩から下りて、夢吉は走って本丸へ向かってしまった。

「夢吉っ…!!」
「ゆめきち、ていさつってやつか?」
「…急ぐぞ!!」

夢吉がいってしまった理由は判らないが、必要以上に不安になる。
自分は夢吉を失う訳にはいかない。






















■■■■■■■■
大阪に来ちゃったよ…
慶次と秀吉の関係をちゃんと書けるか不安ですが突っ走りたいと…!!