朝、目覚めると半兵衛の部下が朝餉を持って立っていた。
の縄を外す半兵衛を驚いた顔して見ていた。
「…は、半兵衛様、えーこちら、先ほど届いて…」
「そこに置いておきたまえ」
「はい…」
…半兵衛さん、ちゃんと理由言ってないのかな…
そーゆープレイとか思われてないよね…
は少しドキドキしてしまった。
そんな話が広まるのは避けたい。
縄が解かれても、は大人しくしていた。
そのの様子を見た半兵衛は、安心したようにふっと笑った。
すでに届いていたの分の朝餉を並べ、半兵衛は手招きした。
「先に食べてしまおう」
「冷めちゃいますしね…」
「そしたらすぐにここを出るよ。」
「はい…」
はあまり食欲が湧かなかったが、今後のことを考えてとにかく腹に入れておこうと考えた。
それほど多い量でもなかったため、残さず食べた。
半兵衛はの食べる様子を見て、よかった、と一言呟いた。
「食欲はあるね」
「ふぁい」
はもぐもぐと米を咬みながら返事をした。
「助かるよ」
「…暴れて逃げるのは疲れますから」
「最もだね。そして無駄な体力だ。」
半兵衛はの言葉に好感を持った。
しかし、自我が強いとも受け取れ、から政宗の情報を聞き出すのは時間がかかりそうだな…とため息をついた。
(…まあ、それでもいい)
この子は普通の女の子だ。
話させる手段なら、いくらでもある。
それに、が言いたくないなら、言わないだけの価値がある。
(…奥州に忍を向かわせたいが…)
風魔小太郎が政宗に従っているなら、全てやられてしまうかも知れない。
「……」
半兵衛は食べ終えると、膳を運んで廊下に置いた。
もそれを真似して、半兵衛のそれの隣に膳をおいた。
「すぐに着替えてくれ。」
「はい」
は仲居さんがもってきてくれた着物を取った。
洗ってもらった着物はまだ湿っぽかったが、仕方なかった。
(…政宗さんに、もらった着物…)
一度、抱き締めた。
「…」
「……」
「………」
「…………」
「半兵衛さん」
「どうしたんだい?」
「…着替えたいんですが、ちょっと退いててもらっていいですか?」
「僕は気にしないけど」
「私は気にします…」
「そうか」
なら、と半兵衛は廊下に出た。
「…はぁ」
は少し調子が狂った。
「半兵衛さんも少しずれてるなぁ…」
それとも、自分に色気がないからだろうか…と、はしょんぼりした。
しかし、自分より半兵衛のほうが綺麗だと思っているので、仕方ないか、と忘れることにした。
宿を出るときもは大人しく従って、半兵衛の後ろをついていった。
「さて、君は…」
半兵衛はをどうやって連れて行こうか考え出した。
「…もう、縄は、嫌です」
は半兵衛に、痕がついてしまった手首を裾からわずかに出して見せた。
「半兵衛さん、私、痛いの嫌いですから…大人しく、してますから…」
「……」
半兵衛はの腕を優しく掴み、引っ張った。
一頭の馬の元に行くと、半兵衛は先に跨り、に手を差し出した。
はそのまま、半兵衛の馬に乗せてもらった。
「君、飛ばすからしっかりつかまっているんだよ」
「は、はい…」
じゃあ…と、は半兵衛の腰に腕を回してしがみついた。
「…半兵衛さん、細い…」
「感想は言わなくていいからね…」
半兵衛はこれは少し気にしているようだ。
半兵衛が馬を走らせると、は空を仰いだ。
ゆっくり口を動かした。
今のままじゃ奥州には行けないから。
もう少し時間が欲しいから。
(まって)
自分でもなぜかよく判らなかったが、今は
半兵衛の言葉が聞きたかった。
は視線を半兵衛の背に向けた。
「どのくらいで着きそうですか?」
「今夜は野宿を覚悟してくれ」
「う…は、早く着くといいですね…」
「そうだね」
景色を楽しむ余裕も無く、半兵衛は驚くくらいのスピードで馬を走らせた。
「おい、小太郎?小太郎はまだか?」
政宗は左右をきょろきょろ見渡しながら、廊下を歩いていた。
「小太郎はまだ帰っておりませんが…」
小十郎が部屋の障子を開け、政宗に声をかけた。
落ち着かない政宗に、笑顔を向けた。
「だああはまだみつからねえのか!?」
「政宗様、逸る気持ちは判りますが、そう言っていても仕方がないでしょう…」
「だってよ…」
政宗が満面の笑みを浮かべて小十郎の部屋に入り、胡坐をかいた。
「話したいことがたくさんある」
「…そうですね」
「はやく、会いたい」
心から嬉しそうにしている政宗を、小十郎は複雑な心境でみつめていた。
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うわお政宗がアホっぽくてすいません…(いまさら?)