半兵衛はが落ち着いた後もずっと一緒にいた。

正直、がなぜこんなところに居るのかはどうでもよかった。
政宗がこの子を利用して情報収集をするなどあまり考えられなかった。
駆け引きなど出来そうにない子だからだ。

ならばなぜこんなところに居るのかと考えればいまいち的確な答えは出ないが、今一番知りたいのは伊達政宗のこと。

だからすぐに伊達政宗の名を出したら、この状況。


君…」


君が知っていることは


僕の助けになりそうだ


「ご…ごめんなさい…いきなり…泣き出して…」
「いいんだよ…。でも…君が心配だ。」
「いえ…大丈夫、です。心配して下さりありがとうございます…」
「そういうわけにもいかない。ねぇ…君」
「……?」

また違和感だ。
そうだ。
呼び方。

「僕は君の助けになりたい。」

今まで、さん付じゃなかったっけ…?

「何が起こるんだい?」

「半兵衛、さん…」

優しい、声なのに…

「政宗君に、何が起こるんだい?」


言っちゃだめだ…


「半兵衛さん…ど、どうしたんですか…?」

半兵衛が何を聞きたがってるかなんてもう気付いているのに、そう言うしかなかった。


「…政宗君はね…僕を悪者にしてね…」

まるで子供に教えるような口調だった。

「武田と上杉と…同盟を組む気だよ。いや…もしかしたらすでに話はついてるかもしれないね。判るかな?」

小十郎の言葉が思い出される。

共通の敵がいれば自ずと仲間意識が芽生えると。

共通の、敵…

「ねぇ、君」
「!!」

半兵衛がの腕を強く握った。

「い、痛いです…」
「離さないよ」
「半兵衛…さん…」

笑顔のままで

優しい声のままで

「逃がさないよ」


利用価値のある君に


「…君」


親しみを込めて。














はその夜、手足を縛られたあと布団に入れられた。
夜、ここから逃げてしまわないように。

半兵衛がその隣にもう一組布団を敷くのを身動きできずにただ見ていた。

「半兵衛さん…」
「ごめんね。君のことは嫌いじゃないんだ。」
敷き終ると布団に座り、を見下ろした。

「ただ、君が必要なんだよ…」
「っ…!!」

の首筋を片手でするりと撫でた。

「半兵衛さん…」
「抵抗しないでくれ…君に酷いことはしたくない」
「……」
「政宗君になにが起こるか…それさえ喋ってくれれば…解放してあげるよ?」

…言えるわけがない。

「決まったわけじゃ…ない…」
「ん?」
「ただ…これまでの事から先を推測しているだけ…確かな情報じゃ、ない…」

そうだ。
まだ毒を盛るとは決まってない…

「可能性がわずかにあるなら…何でもいいんだよ。」
「……。」

…起こらぬなら、起こすまで。
推測可能な出来事なら、引き起せる。

半兵衛ならば出来るのだろうと、は感じた。

半兵衛ならば…

「…半兵衛さん…」

は、半兵衛の意見が聞きたくなった。

「なんだい?」
「…もし、秀吉さんが…酷い目に遭うとしたら…」
「そんなこと、させないよ。」

そう言うだろうとは予感していた。

「えぇ…自分が動けば、防げるかもしれない…けど、その出来事が、秀吉さんに必要なものだったら…?」
「……」

半兵衛はしばし考えるように目を泳がせた。

「…さぁ」

返って来た言葉は少しそっけない。
しっかりした答えは見当たらなかったのだろう。

「それより政宗君が…」
「それより!!秀吉さんが、酷い目にあって」
は半兵衛の言葉を遮った。
自分の立場を忘れた訳ではなかったけど。

「でも半兵衛さんは…秀吉さんをそんな目に遭わせたくなくて…」
君…」
「でも…それは、秀吉さんにとって必要なことかもしれなくて…!!!」
手足に力が入り、縄で擦れた皮膚が痛んだ。

君、今日は寝ようか」
「待って…!!」
半兵衛が明りを消した。
月明かりのみに照らされた半兵衛は無表情で、綺麗とも怖いとも思えた。
政宗たちが言っていたのは、この表情なのだろうと感じた。

「ああ、そうだ、君、色々と忙しくてね、文を出せなかった。ごめんね。」
「…いえ…」

「…何をするにしても、とりあえず大阪城に戻らないと。」
「……」

連れて行かれるのだろう。
しかし、大阪城には慶次が居るはずだ。

「……」

慶次に…相談できるだろうか…



布団に入った半兵衛を、はしばらく見つめていた。




























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いやまあその、
半兵衛の人の呼び方はそんなこだわりは無いと思いますよ(←ならばなぜ)
ちょっと、こういう展開もありかなって思っただけだよ!!